ほぼ日刊イトイ新聞の膨大なアーカイブから、
「音楽のプレイリスト」をつくるみたいに、
ぜひ読んでほしいコンテンツを選んで紹介する、
冬休みのほぼ日恒例企画!
いつもがアーティスト別のアルバムなら、
今回はコンピレーション・アルバム風。
毎日、さまざまなテーマに合わせて
ミックスした読みもの集をお届けします。
セレクト&解説は、ほぼ日編集部の面々が担当。
冬休みのおともに、ポチポチ読んでみてください。

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第6回 2023年のインタビューから

こんにちは、ほぼ日の奥野です。
2023年も、たくさんインタビューをしました。
今年は本を3冊、出したこともあって
数自体は例年より少ないのですが、
どれもみんな、それぞれ心に残っています。
たぶん、人生が何回あっても
インタビューし続けられるような気がします。
かっこいいな、すごいなあ、
お話を聞いてみたいなあ‥‥と思う人が、
まだまだ、たくさんいるからです。
一生の長さ(短さ)に照らせば、
その数は事実上「無限」です。幸せなことに。
それでは、今年のインタビューのなかから、
7本を選んでみましたので、紹介しますね。



特集 色物さん。
009 ナイツ篇

2022年の後半にやっていた特集「色物さん。」の
「大トリ」として、
今年のお正月にご出演いただきました。
いま読み返してみたんですけど、おもしろいなあ。
いまや漫才協会を牽引するおふたりですが、
寄席に対する姿勢は、
他の色物さんとはちょっとちがう感じがしました。
でも、愛とリスペクトは、
同じように、ドバドバあふれています。
塙さんのボケがおもしろいのはもちろんですけど、
土屋さんが、漫才や寄席について、
論理的に考えてらっしゃったのが印象的でした。
全5回、30分あれば読めると思いますので、ぜひ。

「少ない日には50人、
それくらいのお客さんのまえでやって
ウケる快感って、
ちょっと他では味わえないんです」(塙さん)

「寄席に出続けていれば
『間違えない』んじゃないかな」(土屋さん)

こちらも2022年から続けてきた不定期連載で、
JAXAさんの「地球観測衛星」という、
JAXAさんいわく
「いかにも地味〜な人工衛星」について
「とことん聞く」という特集のなかの一編。
たしかに、地球のまわりをクルクル回って
地球の身体測定をしている地球観測衛星には、
深宇宙を旅した「はやぶさ」みたいな、
映画になっちゃうような
ドラマティックな物語はないかもしれません。
でも、それを支える人たちの話が、
とてもいい意味で、ヘンでおもしろいのです。
なかでも人工衛星と情報をやり取りする
パラボラアンテナ担当者さんの
「パラボラアンテナ愛」には感じ入りました。
巨大アンテナの「推しの姿勢」や
「推しの角度」があったりとかするんですよ。
何かのことを尋常じゃなく好きな人たちが、
そのものについてノーブレーキで語っている。
巨大パラボラアンテナに何の興味がなくても、
おもしろく読めると思います。
ちなみに、この連載は、地球観測衛星の
「開発篇」「運用篇」からはじまって
途中、『機動戦士ガンダム』のプロデューサー、
小形尚弘さんとJAXAさんの座談会を経たあと、
「周波数調整篇」「軌道力学篇」と
そのマニアックの度をどんどん深めていく、
ちょっと他では見られない特集となりました。

偏愛‥‥といえば、さらば青春の光・森田さん。
大好きな古着の話を、
心から楽しそうに語ってくださいました。
自分は森田さんと同世代で
若いころは、同じように古着が大好きで、
読んでいた雑誌とかも似ていたので、
インタビューというより、
本当に、ただのおしゃべりになってしまった。
でも、その時間がとっても心地よくて、
いま思い返しても
「ああ、もっとこういう話すればよかった!」
とか反省したりしています。
タイトルが「古着とコント」なので、
本業の「コント」のほうのお話もたっぷりと。
以前、美術家・森村泰昌さんに
デュシャンの《泉》のすごさを聞いたとき、
さらば青春の光の「オカリナ」ってコントに
ヒントがあるんです‥‥と言ってたんですが、
これ、そろそろ森村さんのところへ
くわしい取材に行ってこようと思っています。

日本のコマ撮り界をひっぱるドワーフさん。
今年、めでたく20周年を迎えましたが、
その記念の展覧会を
渋谷PARCO8階の「ほぼ日曜日」で
開催させてもらったんです。
そのとき、あらためて、
どーもくんの生みの親・合田経郎さんと
プロデューサーの松本紀子さんに
ドワーフさんのあゆみをうかがいました。
『こまねこ』とか『リラックマ』とか
有名な作品はもちろんですが、
ドワーフさんのうみだしてきたもので
個人的に好きなのは、
震災後、世界の有名キャラクターが、
権利とかお金とかの大人の事情を超えて
てをつないだ
「てをつなごう」プロジェクトだったり、
SHADEの楽曲バックのコマ撮り作品
『By Your Side』とかなんです。
関わっている人たちの気持ちが
伝わってきて、感情がゆさぶられます。
インタビュー中にも出てきますので、
ぜひぜひ、ごらんになってみてください。

お笑い芸人の又吉直樹さんに「本」について
インタビューさせていただきました。
ずっとおもしろくて、
いまちょっとだけ読み返そうかなと思ったら、
結局最後まで読んじゃったのですが、
そのなかから、もっとも心に残った部分、
「物語って、人間にとって『必要』なのか、
必要だとしたらなぜなのか」
と質問をしたときのやりとりを抜粋します。
今年は、
お笑い芸人さんに教えていただいたことが、
たくさんあった1年でした。

又吉:
そうですね‥‥たとえば民族紛争とか、
戦争だとか、
世代による分断があったりしますよね。
そのことに関して、
おたがいに自らの立場を主張しあって
「議論の余地はない」
「わかりあうなんて不可能だ」
みたいな状況って、あると思うんです。

──:
ええ。

又吉
子どもだったら、
「そんなん、仲直りしたらええのにな」
って思うかもしれないけど、
オトナは
「いや、そんな簡単な話じゃないねん」
とか言ってね。

──:
はい。

又吉:
でも、その対立し合ってる人どうしが、
同じ小説を読んで、
泣いたり笑ったり、
同じことを思ったりしている可能性も、
あるわけじゃないですか。

──:
ああ‥‥。

又吉:
つまり、そうであるならば、
和解だとか平和をもたらす可能性って、
ゼロじゃないと思うんです。
それは、子どもの幻想なんかじゃない。

──:
つまり、どんなに「対立」していても、
ある1点でわかりあえるかもしれない。
同じギャグで笑うことができたら、
価値観を共有してるってことだから、
そこに、突破口があるかもしれないと。

又吉:
その可能性を
担保し続けてるのが物語だと思います。

写真家の奥山由之さんが
コロナ禍で撮っていたのが、「東京の窓」。
それも「10万枚」(!)もの数。
東京の全市町村区をまわったそうです。
で、そのなかから「724枚」を選り抜いて
ぶあつい写真集をつくった‥‥と聞き、
とんでもないことだと思って、
さっそくインタビューさせてもらいました。
で、その「窓」の写真の話も
もちろんおもしろかったんですけど、
白眉は第5回ですね。
若い人にも、ぜひ読んでほしい箇所です。
奥山さんほど実力と人気がある人でも、
毎朝、自分に「幻滅」している‥‥らしい。
写真の世界だけにいれば、
やりたいことはだいたいやれる人なのに、
あえて、わざわざ、
新しいフィールドに突っ込んでいって、
つらい思いをしたり、
イヤな気持ちになったりしている。
でも、そうしないと
「新しい感情に出会えないから」‥‥って。
さらなる高みに挑み続ける
登山家みたいな人だなあと思いました。
自分自身を振り返っても、
いろいろと触発されたインタビューでした。

ANREALAGEの森永邦彦さんって、
おもしろそうな人だなあと思ってたんです。
案の定、ビヨンセのツアー衣装を
手掛けたときの、
本人からメールをもらったのに
しばらく本人と気づいてなかった話だとか、
はじめてパリコレ参加したときに、
絶体絶命のヤバい窮地を救ってくれたのが
酒に酔った(笑)恩人だったりとか、
なにしろ、誰もやったことのないことを
やろうとしているからか、
まあ、いろんなトラブルに見舞われていて、
とにかく読みでのあるインタビューですが。
最終回を、ぜひ、読んでください。
「服」というものに対する、
森永さんの、静かで、真摯で、強い思いが、
滔々と語られていきます。
何か、祈りの言葉を聞いているような感じ。
毎回じゃないけど、こういうところまで
行き着くことができるから、
インタビューって、
人の言葉を伝える方法・残す手段としては、
最強なんじゃないかな‥‥と思うのです。

(つづきます)

2023-12-30-SAT

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