なにせ創刊から22年ですから、
ほぼ日刊イトイ新聞の
アーカイブはほんとうに膨大です。
年末年始の休みに読み直す、といっても、
いったい何から読んでいいのやら?
そこで、ほぼ日刊イトイ新聞を
むかしから読んでいる人たちに、
おすすめの読みものを
音楽のプレイリストをつくるみたいに
ユニークな切り口から
ピックアップしていただきました。
(ありがとうございます!)
ピンと来たらぜひ読んでみてください。

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1.古賀史健さんのプレイリスト

後輩、もしくは門前の小僧としての
糸井重里。

 >古賀史健さんプロフィール

ほぼ日の、おすすめコンテンツを紹介する。
なんとうれしい、なんとありがたい依頼だろう。
いっそ、これを本業にしたいくらいだ。
たとえば毎週1本、
ほぼ日のおすすめコンテンツを紹介する。
好きな理由や、読んだ当時の思い出を語りまくる。
なんなら関係者に、追加インタビューしていく。
そんな連載を2年や3年続けたところで、
ネタに困ることはないだろう。
なんといってもほぼ日にはもう、
22年ぶんのコンテンツが眠っているのだ。
これがどれほどの長さなのか、
みなさんは考えたことがあるだろうか。
人間でいえば22歳。
22歳といえば谷村新司。
1983年のヒットソング、「22歳」である。
歌詞を検索してもらえばわかるように、
あんなに物悲しい女性がひとり、
恋と人生に疲れきってしまうに足るだけの長さなのだ、
22年という歳月は。

一方、ぼくは現在47歳である。
そして糸井さんが「ほぼ日」をつくったのが、
たしか49歳のときだったはずだ。
どちらも22歳の倍以上、生きている。
谷村新司の歌った女性の疲れから類推するなら、
ぼろぼろに朽ち果てていてもおかしくない年齢だ。
けれど、あのころの糸井さんと
ほぼ同年代といえる年齢になったいま、
確信をもって言えることがひとつある。

ほぼ日をつくった当時の糸井さんは、
とんでもない若造だったのだ。

年齢の話ではない。
49歳の数字だけで言えば、さすがに若くはない。
しかし、49歳にとっての世界とは、
まだまだ「先輩だらけ」の場所なのだ。
右を見ても左を見ても尊敬する先輩ばかりで、
先輩たちがそこにいてくれるかぎり、
自分なんて若造も若造、
ぜんぜん鼻ったれの小僧っ子なのである。
若さとは「尊敬する先輩の数」で決まるとさえ、
最近のぼくは思っている。

さて。
糸井さんが登場する対談コンテンツは、
基本的にぜんぶ、おもしろい。
こういう言い方はきっと、
ご本人から嫌がられるだろうけれど、
日本を代表する対談の名手だ。

けれども対談者・糸井重里は、
みずからが「後輩」の立場になったとき、
あるいは「門前の小僧」の立場になったとき、
つまりは人生の諸先輩たちと向き合ったときにこそ、
その真価を発揮する。
あこがれ、敬意、好奇心。
そして恐縮しすぎることのない愛嬌と後輩力。
後輩・糸井重里を前にした先輩たちは、
さぞかしたのしい時間を過ごしただろうな、と想像する。

イントロが長くなってしまった。
今回ぼくが設定したテーマは、
「後輩、もしくは門前の小僧としての糸井重里。」
糸井さんが人生の諸先輩方と向き合うコンテンツだ。
とくにおすすめは、以下の6つである。


吉本隆明「ほんとうの考え」

いつ、どんな状況で読み返しても、
その都度あたらしい発見のある対談です。
とくに今回、
このコメントを書くにあたって
ひさしぶりに読み返してみたのですが、
混乱に包まれた2020年のいまこそ、
唸らされることばがたくさんありました。
各回冒頭に添えられた糸井さんのことばも、
煽らず、言いすぎず、
しかも興味を掻き立ててくれて、
リード文のお手本としてすばらしいです。


自分からやりたいことだから。
日野原重明に聞く

糸井さんが、つとめて静かに、
誠実な聴き手であろうとされている対談です。
構造としてはほとんどインタビューなんですが、
読後の印象はやはり対談なんですよね。
それは、聴きながらその都度糸井さんが
懸命に「わかろう」としているから、
なのだと思います。


タモリ先生の午後。
こんな職員室があればいい。

糸井さんの「先輩」としてここに並べるには、
ちょっとだけお友だちすぎる関係のタモリさん。
この延々と気持ちよく続く対談で際立つのは、
糸井さんの「つまり」です。
タモリさんの発言を受けて、
「つまり、○○ということですよね」
というふうに返すときの、的確な要約力。
下手な聴き手がこれを多用すると、
自分勝手でピント外れな決めつけになって、
話が噛み合わなくなったり、
相手の心証を害したりすることもしばしばなのですが、
糸井さんの決める「つまり」は、ほんとうにすごいです。
外さないし、おもしろい。
しかも次の話題に、ばっちり接続されていく。
個人的に、糸井さんが対談の名手とされる所以は、
この「つまり力」にあると思っています。
またタモリさんとの対談、やってくれないかなあ。


湯村輝彦×糸井重里
ごぶさた、ペンギン!

漫画雑誌「ガロ」の『ペンギンごはん』シリーズで
コンビを組んでいた、湯村輝彦さんとの対談です。
30年ぶりに再会する照れもあり、
糸井さんがいちばん「後輩」の顔を
見せているコンテンツではないでしょうか。
読んでいてつくづく実感するのは、
思い出話って、
基本的に「後輩のもの」なんですよね。
先輩が忘れちゃった当時のあれこれを、
後輩はちゃんと憶えてる。
ディティールまでぜんぶ、憶えてる。
話を聴いてる先輩は「そうだっけ?」の連続で、
思い出話の語り部は、いつだって後輩なんです。
これがみうらじゅんさんや林真理子さんなど、
対談相手が「じぶんの後輩」になったら、
糸井さんのほうが律儀に当時を忘れていますしね。
先輩と後輩の対談って、
お互いに「言えないこと」のラインを守りながら
おしゃべりするところも含めて、
ほんとにおもしろいです。


横尾忠則、細野晴臣、糸井重里、
3人が集まった日。

横尾忠則さんと糸井さんの対談は、
どれも毎回確実におもしろいのですが、
ひとつだけ挙げるとすればこれ。
細野晴臣さんを交えての鼎談です。
鼎談の冒頭、横尾さんは、
「耳を悪くして話が聞こえづらい」という、
登壇者としてはややむつかしいお立場で登場し、
それをボヤき、周囲をハラハラさせます。
ところが鼎談の中盤にも差しかかると、
聞こえづらかった自分を忘れたかのように
身を乗り出して語りはじめ、
後半にはもう完全な
「ぜんぶ聞こえてるじゃん!」状態に(笑)。
いや、すみません。
横尾さんはほんとうに聞こえづらいのでしょうし、
大変だったのだとは思いますが、
この流れがあまりにもおかしくって。
語られる内容の深さ、ユーモア、
場の時間経過さえ描かれる展開も含め、
この3人の組み合わせだからこそたどり着いた、
鼎談原稿のお手本みたいなコンテンツです。


体温のある指導者。藤田元司。
悪ガキから、慕われるリーダーに。

最後に紹介するのは、
巨人軍の元監督、藤田元司さんとの対談です。
プロ野球論としても、
リーダーシップ論としても、
マネジメント論としても、
人材育成論としてもすばらしいのですが、
読んでいてぼくが感動するのは、
糸井さんの聴く姿勢です。
なんというか、
「もっと好きになりたい」と思いながら、
話を全身で聴いてる感じが伝わるんですよね。
ただでさえ大好きなのに、
もっともっと好きになりたくて、
たくさんの質問をぶつけていくんですよ、糸井さんは。
好きにさせてくれる、と信じているから。
こんな聴き手になりたいなあ、と
こころから思わされるコンテンツです。

2020-12-26-SAT

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