さあ、冬季五輪です。今年はイタリア。
ミラノとコルティナダンペッツォ(長い!)で
2月6日から2月22日まで開催されます。
かつては膨大な量のメールを
狂気じみた長さで翌日に掲載していた
「観たぞオリンピック」シリーズですが、
東京オリンピックでその形式は終わり、
その後に開催されたオリンピックからは、
ぼくが1日に1本、原稿を書く
というスタイルでひっそり続けています。
あ、ぼくというのは、ほぼ日の永田です。
さて、今回のオリンピックでは、
さらにのんびりと、書けたら書きます、
というくらいの感じで行きたいと思います。
そしてリアルタイムの観戦実況的な発信は、
Xの「#mitazo」をご覧ください。
さあ、はじまったらはじまっちゃうよ?
開会式から閉会式まで、よろしくお願いします!

 

永田のX(旧Twitter)アカウントはこちらです。
>@1101_nagata

感想のメールはこちらからどうぞ。
>メールを送る

前へ目次ページへ次へ

#17

スキークロスで初の決勝進出

 
スキークロスとスノーボードクロスという競技がある。
つかってる道具がスキーかスノボかというだけで、
基本は同じような競技だ。
どちらも4人の選手が同時にスタートし、
起伏のあるコースをすべってゴールした順位を競う。
上位のふたりが勝ち抜けでつぎのトーナメントに進む。
これ、色分けしたビブスを着た4人の選手が、
わかりやすく競争をして、
短いコースなのにけっこう順位が入れ替わるし、
大逆転の展開もあったりするので、
にわかファンのあいだでけっこう人気なのだ。
もちろん、ぼくも両方のクロスが大好きである。
しかし、惜しむらくは、
スキークロスもスノーボードクロスも、
日本人選手があまり活躍しない競技なのである。
この、いかにも応援しやすい、
「行けー!」と叫ぶのに最適な競技に、
本気で声援を送る相手がいないのだ。
スノーボードクロスは2006年のトリノオリンピックから、
スキークロスは2010年のバンクーバーオリンピックから
採用された競技なのだが、調べてみると、
これまで日本はメダルを獲得したことがないだけでなく、
決勝に選手が残ったことすらなかった。
しかし、ああ、しかし。
ついにガラスの天井は砕かれた。
古野慧選手、にわかオリンピックファン待望の、
スキークロス決勝進出である。
古野慧選手は組分けのもととなるタイムトライアルで
全体の2位を記録すると、1回戦を順調に勝ち抜き、
勝利に慣れてないにわかファンが、
まあ、このくらいまでは行くんだよな、くらいの
少々冷めた目で見守るなかで、
見事なすべりで準々決勝を突破した。
準々決勝を勝ったということはつぎは準決勝である。
当たり前のことをしっかり書くほど
突然の日本人選手快進撃にぼくらはうろたえた。
なにしろ、準決勝を勝つとつぎは決勝なのだ。
これまではある意味、日本人選手のいないきらくさで、
このクロスというおもしろい競技を
ファンはただただたのしんでいたのだが、
そこに「日本の古野慧選手」という、
観たぞ的にいえば「うちの子」が登場したことで、
画面の向こうに展開される競技の性質は著しく変化した。
いきなりぼくが痛感したのは、
試合と試合のインターバルのみじかさである。
いやぁ、この競技はテンポがよくていいなあ、じゃねえよ俺。
毎試合、毎試合、ゴール後にへたり込む選手たち。
しかし、順位が確定すると、
トラックに運ばれる野菜のように、
車でスタート位置に運ばれてしまう。
え、もう? 決勝、2時間後とかでいいんじゃない?
強くなる雪、コースは白く煙る。
大丈夫? 危なくない? もうちょい待たない?
ほんと、人というのは勝手なものだ。
これまでゴール後にへたり込む他国の選手たちを観ても、
はっはっはっ、クロス最高、がんばれがんばれー、
くらいにぼくは思っていた。
こんなに過酷なことをしていたのか、クロスの選手たちは。
「いちばん大事なのは共感できるかどうか」だ、
と言ったのは任天堂の宮本茂さんだが、
どのようなことも、共感のスイッチが入ると、
その世界の見え方ががらりと変わってしまう。
よく言われることだが、子どもができると、
公園で遊んでいる子どもたちや
それを取り巻く環境が気になりはじめる。
ペットを飼うと散歩しているご機嫌なわんこさんや
窓際で寝転んでいるねこさんが目に入るようになる。
古野慧選手の決勝進出により、
ぼくにとってただただたのしかったクロス競技は、
幾分ひりひりとした厳しいスポーツの側面を持った。
アスリートたちが記者会見などでしばしば口にする、
「競技を知ってもらいたい」
「興味を持ってもらいたい」
「やってみたいと思ってもらえたらうれしい」
というのは、そういうことなのだろうなと思う。
そして、惜しくも、ああ、惜しくも、
古野慧選手は4位となり、
日本のクロス競技に
はじめてのメダルをもたらすことは叶わなかった。
けれども、このミラノ・コルティナオリンピックで、
将来のクロス競技の母数は
きっと増えたのではないかとぼくは思う。
応援するだけの立場から
勝手な要望を言うようだけれど、
スキークロスとスノボードクロスのほかに、
スノボのパラレル大回転も
たいへん応援がしやすい競技なので
もっと競技人口が増えるといいなあ。
あ、『キャプテン翼』や『スラムダンク』といった
人気スポーツ漫画はそのスポーツの競技人口を
かなり具体的に増やしたそうだから、
クロス競技の漫画連載とかどうだろう。
ええとね、主人公は三兄弟の末っ子で、
長男はスノーボードの日本代表(モデル平野歩夢)で、
次男はスケートボードの日本代表(モデル堀米雄斗)なの。
で、末っ子は身体能力が兄ほど高くなくて、
どちらの道にも進めないんだけど、
持ち前の戦略的思考でスノーボードクロスの
大会を勝ち抜いていく、というのはどう?
狡猾な隣町のライバルとか、
巨漢で主人公を弾き飛ばす後輩とか、
連携して戦う双子選手とかとの対決もあるよ?
妄想はさておき、古野慧選手のおかげで、
「自分が真髄を知らない競技」が
オリンピックにはまだまだあることがわかった。
ぼくらがまだよく知らない競技は、
これからたのしくなる競技である。
いやあ、オリンピックのこと、
長く観てるからいろいろわかったつもりでいるけど、
まだまだぜんぜんわかってないな。
俺たちのオリンピック道はこれからだ(未完)。
※原稿のなかで「古野慧」さんの名前を間違っていました。
また、見出しで競技名も間違っていたので、修正しました。
たいへん失礼いたしました!

(つづきます)

2026-02-22-SUN

前へ目次ページへ次へ