さあ、冬季五輪です。今年はイタリア。
ミラノとコルティナダンペッツォ(長い!)で
2月6日から2月22日まで開催されます。
かつては膨大な量のメールを
狂気じみた長さで翌日に掲載していた
「観たぞオリンピック」シリーズですが、
東京オリンピックでその形式は終わり、
その後に開催されたオリンピックからは、
ぼくが1日に1本、原稿を書く
というスタイルでひっそり続けています。
あ、ぼくというのは、ほぼ日の永田です。
さて、今回のオリンピックでは、
さらにのんびりと、書けたら書きます、
というくらいの感じで行きたいと思います。
そしてリアルタイムの観戦実況的な発信は、
Xの「#mitazo」をご覧ください。
さあ、はじまったらはじまっちゃうよ?
開会式から閉会式まで、よろしくお願いします!

 

永田のX(旧Twitter)アカウントはこちらです。
>@1101_nagata

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#12

自然の要素を含む競技

 
このまま技術がどんどん進んでね、と、
話しかけるところからはじめよう。
このまま技術がどんどん進んでね、
文化もどんどん洗練されてね、
不平等なことが起こらないように徹底されて、
どんな偏りもないように工夫が凝らされていくと、
たとえば、競技場はすべてドームになると思うんですね。
芝生は剥がれたりしないよう、人工芝に。
温度や湿度も世界中の競技場で統一されて。
もちろん建設される場所の高度にも
基準があったほうがいいですね。
体重別ももっと細かく分けましょう。
いや、身長別にしないと不公平じゃないですか?
あと肺活量もランク分けしたほうがいい。
ていうか、筋肉の量も一定にすべきでは?
もちろんジャッジはすべてロボットで、
さまざまな角度からビデオでチェックします。
ドーピング? ありえません。
出場する選手が摂取する食事は
1年前から完全支給して管理しています。
いや、後半はちょっと
『藤子・F・不二雄SF短編集』
みたいになっちゃいましたけど、
あながち、でしょう? あながち、ですよね?
大きな方向性でいえば、
そっちの方向にスポーツは進んでいく。
スポーツに限らず私たちの世界は‥‥と広げてもいいけど、
いや、ここはスポーツのことを話す場所だ。
そういう未来からしたら、
青空の下で円盤を投げたり槍を放ったりするのって、
もう、意味わかんなくて大笑いだと思う。
大きなソリに4人で乗り込んで猛スピードで走ったり、
エントリーした選手のうちの
半数がリタイアするような雪のコースを
すばやくくねくね滑ったり。
もう、例を挙げないけど、そういうことを、
どういうわけか4年に一度、
世界中の人が集まってやっておりまして。
こりゃもう地球規模の
野蛮な奇祭といえるのかもしれないけど、
どえらい興奮や感動を味わえるって評判なんです。
オリンピックっていうんですけどね。
ジャンプ男子スーパーチームという
かっこいい名前の競技は、
ふたりのジャンパーがペアになって出場し、
それぞれが3回ずつ飛んで合計ポイントを競うもので、
いってみればジャンプのあたらしい団体戦である。
日本代表は二階堂蓮選手と小林陵侑選手。
これ以上ない組み合わせだが、
他国も欧州勢を中心に精鋭がそろう。
3回のジャンプのうち2回を終えて、
日本は全体の6位に位置していた。
しかし、1位のオーストリアはやや抜けているものの、
2位から6位までは約12ポイント差。
1回のジャンプで十分に逆転が可能だ。
上位8チームによる最後の3回目のジャンプ。
まずは二階堂蓮選手が飛ぶ。
138mを超える大ジャンプ!
3回目のひとり目としては最高ポイントとなり、
オーストリアについで2位となった。
最後に小林陵侑選手が飛んで順位を維持し、
銀メダルを手にできるか‥‥!
というところで雪が激しくなった。
暫定順位の低いペアからジャンプするため、
8人のうち、小林陵侑選手は7番目。
ひとり、ふたり、と飛ぶが、
雪はどんどん強くなっていく。
そして、5人目が飛んだところで競技が止まった。
残りは3人。小林陵侑選手は、つぎのつぎ。
しかし、雪はどんどんコースに降り積もっていく。
ジャンプ台で待っている選手のヘルメットにも雪が積もる。
運営側のスタッフが、ジャンプ台の横に並んで
ブロワーでコースに風を送り、雪を吹き飛ばしている。
しかし、雪はさらに強まり、視界は真っ白になる。
ああ、あと3人なのになあ‥‥。
最初、競技が中止と聞いたとき、
ぼくはこのまま日本が銀メダルなのかと思った。
しかし、運営の判断は3回目のジャンプそのものが中止。
2回目終了時点の順位が最終順位となる。
つまり、138.50mを飛んだ
二階堂蓮選手のジャンプは幻となり、
日本の6位が確定。
えええ、そりゃないだろう、
と思ったよ、ぼくも。
正直、いまもちょっと、
なんとかならなかったのかなとは思う。
二階堂蓮選手は中止決定直後のインタビューで、
「まあ、これがオリンピックですね」と言った。
残念さをにじませながらも、どこか淡々としていた。
そう、これがオリンピック。これがスポーツ。
とりわけ、冬季オリンピックは、
自然の影響を受けやすい競技が多いと思う。
ジャンプ競技はその最たるもので、
雪はもちろん、風の影響が飛距離に大きく影響する。
もちろんそれを補正するシステムはあるものの、
すべてのチームがまったく同じ条件で飛べるわけではない。
ジャンプって、そういうものだ。
自然の影響を受けるのもスポーツだ。
わかってはいるけれど、それでも、
やっぱり、もやもやすることはあると思う。
ぼくだってはいそうですかとすぐに割り切れるわけではない。
せめて8チーム全員が飛び終えている
一人目のジャンプはカウントしてもいいんじゃないの?
中止じゃなくて、中断して後日という選択はないの?
とか、なんとか、いろいろ、そりゃあね。
こういうとき、
ぼくは心がけていることがある。
それは、反対側の立場にたっても同じことが言えるか、
ということを自分問いかけてみることである。
たとえば今回、ぼくが日本の立場から、
「一人目のジャンプをカウントするべきだ!」
と主張するとする。
ある意味、筋が通ってるともいえる。
しかし、日本がもしもポーランドと同じ立場でも
同じようにぼくは、
「一人目のジャンプをカウントするべきだ!」
といえるだろうか?
おそらくそうは言わないと思う。
もしも日本が2回目のジャンプを終えて2位で、
3回目のジャンプの一本目で逆転されたけれども
雪の影響で3回目がまるごとナシになったとしたら、
「やった、銀メダルだ!」「雪の影響だからしかたない!」
てな感じで、その幸運をよろこんだと思う。
だとすると、ぼくはたんに
日本の側からものを観ているだけで、
いってみれば自分の都合のよいことを
正当化しているだけなんだなとわかる。
スポーツを観ていると、
そういうもやもやを感じることはどうしてもある。
なんならこのオリンピックは少ないくらいかなと思う。
そして、こういうグレーな感じになったとき、
当事者である選手のコメントや表情はとても大切だ。
ぼくがある程度割り切れたのは、二階堂蓮選手が
「これがオリンピックですね」と言ったことはとても大きい。
そうだよな、オリンピックだよな、とぼくも思ったから。
あと、実際に観ていた画面上の雪がすごかったことと、
運営側のスタッフがジャンプ台の雪を積もらせないために
懸命に作業していたのを観ていたのも大きい。
それから、別の競技ではあるけれども、
りくりゅうのすばらしい金メダルに感動して、
いろいろ吹き飛んでしまった。
そう、どんどん違う結果が舞い込んできて、
悔しい結果を上書きしてしまうのも、
オリンピックというお祭りのいいところだ。

(つづきます)

2026-02-17-TUE

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