さまざまなミュージアムが所蔵する作品や
常設展示を観に行く連載・第3弾は
「トライアローグ」展を開催中の
横浜美術館さんに、おじゃましました。
「トライアローグ」展は、
横浜美術館・富山県美術館・愛知県美術館
という日本の公立美術館を代表する3館が、
それぞれのコレクションを組み合わせて
20世紀の西洋美術の歴史を振り返る試み。
「所蔵作品を活用した企画展」なので、
常設展じゃないけど、行ってきました!
ピカソ、デュシャン、マティスから、
シュルレアリスムを経て、
ウォーホルやリヒターなど現代美術まで。
作品の解説をしてくださったのは、
学芸員の大澤紗蓉子さん。
担当は、ほぼ日奥野です。どうぞ!

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第4回 マグリットの絵、マン・レイの写真。

──
このマグリットの絵って有名ですよね。
大澤
うちの「代表作」かもしれません。

ルネ・マグリット《王様の美術館》1966年 横浜美術館蔵 ルネ・マグリット《王様の美術館》1966年 横浜美術館蔵

──
どういった作品なんですか。
大澤
マグリットがやっていた
さまざまなイメージの実験の中の1点。
「王様の美術館」というタイトルは
マグリットではなく、
彼の友人がつけているんです。
──
そうなんですか。
大澤
この「山高帽の男性」のイメージって
ある時期以降に頻出する
マグリットのトレードマークですよね。
──
収蔵されたのは‥‥。
大澤
開館の前年にあたる、1988年です。
──
ひとつの美術館の開館へ向けて
世界から美術作品を集めていく作業も、
大変だったですよね、きっと。
大澤
と、思います。
わたしたちは
世代的に関わってはいないんですけど、
いま、横浜美術館には
「約1万3000点」のコレクションが
ありますので。
──
わあ、すごい数。
大澤
冒頭のピカソをはじめ、
主要な作品は、
開館する前の時期に収集されています。
ちなみに、そのうちの
約3分の1にあたる「約4300点」が、
写真作品になります。
──
作品を買いに行くっていう担当の人が
おられたわけですよね、つまり。
大澤
はい、開館後の話ですが、
学芸員が行ったり、
美術評論家の方と学芸員で
作家のアトリエに行ったり、
横浜市の方も含めて
多くの関係者が担当しています。
──
そのころのお話、聞いてみたいな‥‥
っていうか、
こんど改修されるとうかがいましたが。
大澤
はい、大規模改修工事のために、
今年2021年3月1日から、
2年を超える長期休館に入るんです。
──
いま、松方コレクションで有名な
国立西洋美術館も休館中ですけど、
そんなに長く休むのって、
ちょっと、すごいことじゃないですか。
第2の開館、みたいな。
大澤
そうなんです。
──
どのあたりを、改修をするんですか?
大澤
建物自体、
丹下健三さん設計による建築ですから、
歴史的な意味合いや重要性が
年々、高まっていますので、
外観は大きく変わらないんですけれど。
──
ええ。

撮影:笠木靖之 撮影:笠木靖之

大澤
主な修繕箇所のひとつに、
空調設備の整備があります。
美術館というのは「空調」が命、心臓。
ここが破綻すると
大切な作品にカビが生えてしまったり、
美術館としての機能が、
本当に停止してしまうことになります。
──
前回の東京都現代美術館さんにも
過去や現在の美術作品を管理保存して
未来へつなぐことを、
使命のように語ってらっしゃいました。
大澤
はい、本当に。
この横浜美術館は
開館から「30年」以上の年月が経過して
老朽化してきているので、
空調設備の更新が、大きな目的のひとつですね。
──
なるほど。
大澤
くわえて、収蔵庫の拡張もすすめます。
収蔵品は「増える一方」ですから。
あとは美術館の前にある広場に向けて、
より美術館を「開いて」いくために
ギャラリーを新設したり、
美術情報センターつまり図書館を移設するのも
大きなポイントです。
──
すごい。でも。2年もの改修期間のあいだって、
一体、どんなことになるんでしょうね。
大澤
ひとまず、その「約1万3000点」を
外に出します、ぜんぶ。
──
ひゃー‥‥それは、すごいことだ。
大澤
日本の美術館の多くが
地下に収蔵庫を設けているんですけど、
ここは
海がすぐそこという立地のこともあり、
上層階が収蔵庫。
今日も裏側では
引っ越しするために作品を梱包して、
がんばって運搬しているところです。
──
そういった作業を、2年もかけて。
大澤
2年で終わるだろうか‥‥という話も
あるくらいです(笑)。
予定通りに進めば、2023年度中の
リニューアルオープンになります。
──
じゃあ、いまのところ、
再開日も調整中‥‥ということですか。
大澤
はい。
──
その間みなさん、別のお仕事もあって。
大澤
そうですね。
作品の記録写真も古くなっているので、
それらを撮り直したり、
作品データを見通して
作品名や技法表記を多言語化したり、
地道な作業もたくさんあるんですけど。
──
ええ。
大澤
いちばんは、やっぱり、
リニューアル後の展覧会のこと。
その準備をがんばってやらないと‥‥。
──
間に合わなかったじゃ済まないですものね。
大澤
はい(笑)。
──
がんばってください!
大澤
はい、ありがとうございます(笑)。
では、次にまいりましょう。
──
お願いします。
大澤
この部屋からは、第二次世界大戦中に
シュルレアリストたちが
アメリカに亡命したことを契機に、
アメリカの美術が変わっていく時代を
表現しています。
たとえば、このジョージア・オキーフ、
直接的にシュルレアリスムに
影響を受けてるわけではないんですが、
20世紀アメリカを代表する女性画家。

左:ジョージア・オキーフ《抽象 No. 6》1928年 愛知県美術館蔵、右:バルテュス《白馬の上の女性曲馬師》1941年(1945加筆) 愛知県美術館蔵 左:ジョージア・オキーフ《抽象 No. 6》1928年 愛知県美術館蔵、右:バルテュス《白馬の上の女性曲馬師》1941年(1945加筆) 愛知県美術館蔵

──
こちらにある写真‥‥マン・レイさん。
大澤
はい、アメリカの芸術家ですけど、
ブルトンに会いに行き、
その後は
シュルレアリスムの中核的人物として
活躍した人ですね。
──
写真でシュルレアリスムっていうのは、
どういうことなんですか。
大澤
この《ガラスの涙》などがまさにそうなんですが、
ひとつの特徴としていえるのは、
極端なクローズアップということです。
誰が写っているのかわからないですし、
目玉だけ、手だけ‥‥とか、
ある一部分や断片に対して
偏愛的にこだわる表現をよく見ますね。
ややギョッとする手法ではあります。

右から:マン・レイ《ガラスの涙》1932頃 《メレット・オッペンハイム(ソラリゼーション)》1933年 横浜美術館蔵 右から:マン・レイ《ガラスの涙》1932頃 《メレット・オッペンハイム(ソラリゼーション)》1933年 横浜美術館蔵

──
インパクトがありますよね。
大澤
あるいは、こちらの作品には
ソラリゼーション、という写真技術が
使われているんです。
ふつうに写真を暗室で焼いただけでは、
絶対に生まれないイメージです。
──
なるほど。
大澤
マン・レイが
アンドレ・ブルトンのポートレートを
撮っているんですけど、
その作品にも、
ソラリゼーションが使われていますね。
もともとは、失敗プリントと言われていて。
マン・レイ自身も、
偶然の失敗を逆手にとって、
新たな写真の芸術表現としたようですね。
──
相当、挑戦的‥‥だったんでしょうね。
当時の人たちにしてみたら。
大澤
このモニターで再生されている映像が、
マヤ・デレンという
アメリカ人の女性映画監督による
《午後の網目》という作品。
女性がうたた寝をはじめると、
夢の中で「カオナシ」のような人物が
窓の外を歩いていて、
気になって追いかけるんです。
──
ええ。

マヤ・デレン&アレクサンダー・ハミッド《午後の網目》1943年 横浜美術館蔵 マヤ・デレン&アレクサンダー・ハミッド《午後の網目》1943年 横浜美術館蔵

大澤
その人を追って家に入って、
また窓の外を見ると‥‥という、
タイムループものの先駆けのような映画です。
入口と出口のつながっている世界を、
ずっと行き来してるんです。
映画史において、
シュルレアリスムの影響を受けた
初のアメリカ映画といわれています。
──
昔の映画や写真を見ていると、
何とも言えない気持ちになりますね。
大澤
あ、どういう気持ちですか?
──
そうですね、説明が難しいんですが。
たとえば、50年前とかのカラー写真を
眺めることっていうのは、
その50年前、
カメラのシャッターを切った瞬間に
地球に届いた光で照らされた
人間や物体を、
今のこの瞬間の光で見ているってことで、
その不思議さ‥‥ですかね。
大澤
ああ。なるほど。とてもわかります。
それは、古い映像にも感じますか。
──
感じますけど、
被写体の動かない「写真」のほうに、
より感じるかもしれないです。
果てしない気持ちになるんですよね。
なんだか。
大澤
たとえば、私も、今日も冒頭でお話に出た
石内都さんの
《絶唱、横須賀ストーリー》を見ていると、
同じような思いを抱きます。
おっしゃるように、「そのときの光」や
作者の思いみたいなものに対して
不思議な気持ちになって、
いつまでも、ずっと見てしまうんですよ。
──
古い写真に写ってる人物や物体が
いま一切この世の中に存在しないという
不思議さというか、切なさもあるし。
何なんでしょう、無性にドキドキします。
大澤
ああ、素晴らしい。
本当に、写真は「光の芸術」ですものね。
この話、もっとしていたい‥‥。
──
ははは、でもまだ先がありますね(笑)。
大澤
はい‥‥閉館時間も迫ってまいりました。
先に進みましょう。

(つづきます)

2021-02-25-THU

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  • この連載で取材させていただいている
    「トライアローグ」展は
    2021年2月28日(日)まで開催。
    愛知県美術館・富山県美術館と共同で、
    3館それぞれが所蔵する
    20世紀西洋美術の名品がせいぞろい。
    みごたえばつぐんです。ぜひ!
    その後、展覧会は、
    愛知県美術館・富山県美術館に巡回。
    横浜美術館は、この展覧会をもって
    2年を超える長期休館に入りますので、
    その意味でもぜひこのタイミングで。
    来館する場合は、
    日時指定予約制になっていますので
    公式サイトでご確認を。