
日本全国に散らばるミュージアムを訪ねて、
学芸員さんたちに
所蔵コレクションをご紹介いただく連載、
第16弾は、満を持して!
原美術館ARCへおじゃましてきました。
はやくから、日本に
世界の現代アートを紹介してきた美術館。
コレクションにまつわるエピソードにも、
その作品収蔵の経緯にも、
この美術館ならではの物語がありました。
全12回の連載、お話くださったのは
青野和子館長と学芸員の山川恵里菜さん。
この年末、ゆっくりとおたのしみください。
そしてぜひ、
原美術館ARCへ遊びに行ってみてください。
担当は「ほぼ日」奥野です。
- ──
- あ、ここは知ってます! 森村さんのトイレ。
- 青野
- そうです、どうぞ。
森村泰昌《輪舞(双子)》1994/2021年 ミクストメディア ©Yasumasa Morimura 撮影:木暮伸也
- ──
- このピアノの曲は‥‥。
- 青野
- ウェーバーの「舞踏への誘い」です。
品川の原美術館の最後の展覧会のときに、
サンルームにピアノが置いてあったのを
覚えていらっしゃいますか。 - あのピアノで、プロのピアニストの方に
弾いていただいた曲を録音したんです。
- ──
- トイレの扉を開けると流れてくるのが、
そのとき録った曲。
- 青野
- かすかに、品川の庭を渡っていく風の音や
鳥の声が、聴こえるかもしれませんよ。
- ──
- 実際に見に来ていただきたいんですけど、
扉を開けてしばらくすると、
目の前に、パッと
めくるめくピンク色の世界が出現します。
- 青野
- この「パッと出てくるタイミング」を
何秒にするかについて、
森村さん、何度も現場で
実験を繰り返して決めていらっしゃいました。
- ──
- おお、なるほど。
さすがは絶妙なタイミングで出ますね。
- 青野
- 森村さんには、東京の原美術館で
三度も個展を開催していただいたんですよ。
はじめての個展は1994年
「森村泰昌 レンブラントの部屋」展でした。 - 原理事長と作家の間で、
「常設作品を」という話になりましたが、
いかんせん場所がない。
苦肉の策で出て来たのがトイレ案(笑)。
「トイレ! ぜひ作品にしたいです」
と森村さんがおっしゃって、
階段下の小さなトイレが、
その機能を維持した状態で作品になったのです。
当初「御使い始め」のセレモニーで
シャンパンを流したりもしたのですが、
排水能力面での限界もあって、
見せる、魅せるトイレになったわけです。
当時、キャストは一人だったのですが。
- ──
- キャストというのは「輪舞ちゃん」、
つまり、いま目の前で
ひっくり返ってらっしゃる方々ですね。 - 森村さんにそっくりのお顔をした‥‥。
- 青野
- そうです。が、じつは、
キャストの「万が一」に備えて、
こちら群馬の収蔵庫でじっと
「出番」を待っていた、
予備の「輪舞ちゃん」がいたんですよ。 - こちらへの移設の際に、
そのことを森村さんにお伝えしたら
「ふたりの輪舞ちゃん、27年ぶりに
出会ってもらわなきゃならないですね」
とおっしゃって、
このように、双子のキャストが
ダンスを踊っている作品となりました。
- ──
- 27年!
- 青野
- 鏡面と光と色と音楽の効果で、
まさに舞踏会のようだと思いませんか。
- ──
- はい、本当に。森村さんの
唯一無二の世界観も伝わってきますし、
となりのドアを開けると
本物のトイレだというのもいいですね。
- 青野
- ありがとうございます(笑)。
この《輪舞(双子)》も、
ちゃんとトイレとしての機能も備えているんですよ。
毎朝、ウチのスタッフが
水を流してお掃除しています。
- ──
- えっ、それは知りませんでした!
そうだったのかあ、本物だったんだ‥‥。 - そして、お次のこちらの作品については
いつも思うんですけど、
もしかして座ってもいいんでしょうか。
鈴木康広《日本列島のベンチ》2014/2021年 ©Yasuhiro Suzuki 撮影:木暮伸也
- 青野
- はい。もちろんです。ベンチなので。
どなたでも
ふつうに座っていただけるんですよ。
- ──
- そうだったんだ。日本列島のベンチ。
- 座面っていうのか、
日本列島が
なだらかにカーブしてますけれども。
- 青野
- これは地球の丸みだそうです。
- ──
- えっ、そうなんですか!
- 青野
- 30万分の1の縮尺で、
日本列島を正確に再現してるんです。
- ──
- けっこう傾斜があるんですね。
地球は丸いというのが、よくわかる。
- 青野
- 2021年の春先、
品川と渋川の両館を統合するために、
こちらの大リニューアル工事をしていたころ、
鈴木さんから
「ぼくのベンチの作品を、
庭に置いてもらえないですか」
というお話をいただいたんです。
- ──
- おお。
- 青野
- 当初、鈴木さんは緑の芝生に‥‥
というイメージだったようですが、
「もし置かせていただくとしたら、
この中庭がよいのでは?」と
こちらから逆提案し、
サイズを測ったら、ピッタリで。
- ──
- なんと。
- 青野
- この中庭は、
ちょうど当館の真ん中に位置しており、
さらに、ここ群馬県渋川市は
「日本のへそ」を自認する町なんです。 - 北海道の宗谷岬と
鹿児島の佐多岬を円で結んだ中央に
位置しているので。
- ──
- いろんな「真ん中」に重なった場所に、
日本列島のベンチが置かれた、と。
- 青野
- そうなんです。
東西南北も正しく配置しているんです。 - ですから、このベンチに座ると、
自分がいま、
どちらの方角を向いているのか‥‥が、
簡単にわかるんです。
- ──
- なるほど、富士山はこっちか‥‥とか。
ちなみに、
この床の「輪っか」にも何かの意味が。
- 青野
- これは「波紋」のようにも見えますが、
じつは「木の年輪」が表現されているんです。 - 当館の敷地内に立っていた
直径30センチほどのもみの木の切り株の年輪を、
中庭全体を覆い尽くすサイズに拡大して、
ステンシルを使って丁寧に転写しています。
- ──
- 年輪。
- 青野
- その年輪を数えると、
ちょうど、ここの美術館ができたころに
植えられた木だったことがわかり、
「この場にぴったりなんじゃないか」と。 - ベンチ同様、こちらの年輪も
木が生えていたころの方角にキチンと合わせてます。
- ──
- なるほど。
- 青野
- 鈴木さんがベンチの相談へいらしたときに、
たまたま駐車場の脇で、
環境整備のために
古いモミの木を伐採していたんです。
鈴木さんがそのようすをごらんになって、
後日、
「あの切り株の年輪を床に使いたい」
っておっしゃって。 - 色は周囲の壁に合わせたシャープな黒、
年輪の線は白抜きされています。
あの切り株が
こんなかたちに展開していくんだなあと、
びっくりした記憶があります。
- ──
- で、年輪の中心が、ここ渋川‥‥?
- 青野
- そうなんです。この作品のお披露目の日に、
渋川市長がご来館、
ベンチにお座りになったんですよ。 - 「日本のへそサミット」でも
PRしていただけると良いのですが(笑)、
今年は、当館の展覧会のテーマが、
年間を通して「真ん中」でしたから、
そのアイコンにもなった作品です。
(つづきます)
2024-12-28-SAT
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この連載でもたっぷり紹介していますが、
ウォーホル、オトニエル、三島喜美代、エリアソンなど
お庭に展示している作品から、
草間彌生、奈良美智、宮島達男など日本の現代美術家、
さらには狩野探幽や円山応挙など古い時代の美術まで、
原美術館さんがひとつひとつ収集してきた
素晴らしいコレクションを味わうことができる展覧会。
年末年始も2025年1月1日以外は
12月31日も1月2日も開館しているそうです!
年末独特の内省的な雰囲気、
お正月の晴れやかな雰囲気のなかで作品に触れたら
またちがった感覚を覚えそうな気がします。
今期展示は1月13日まで、ぜひ訪れてみてください。
さらに!
2025年1月9日から新宿住友ビル三角広場で開催される
「生活のたのしみ展2025」には、
この「常設展へ行こう!」に出てくる美術館の
ミュージアムショップが大集合するお店ができます。
原美術館ARCの素敵なグッズも、たくさん並びます。
ぜひぜひ、遊びに来てくださいね!
生活のたのしみ展2025について、詳しくはこちら。

本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
第12回「国立西洋美術館篇」までの
12館ぶんの内容を一冊にまとめた
書籍版『常設展へ行こう!』が、
左右社さんから、ただいま絶賛発売中です。
紹介されているのは、
東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
横浜美術館、アーティゾン美術館、
東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
大原美術館、DIC川村記念美術館、
青森県立美術館、富山県美術館、
ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
本という形になったとき読みやすいよう、
大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
各館に、ぜひ連れ出してあげてください。
この本を読みながら作品を鑑賞すれば、
常設展が、ますます楽しくなると思います!
Amazonでのおもとめは、こちらです。
















