──

今回の取材前、
筋金の入った「アンテナ好き」の女性が
いらっしゃると聞いてたんですが、
それが領木さん‥‥ってことでしょうか。

深田

すごいんですよ。アンテナへの「愛」が。

なにせ「アンテナが好きです」と言って、
JAXAに入ってきた人なので。

領木

まあ‥‥そうですね（笑）。

深田

彼女の入社前、部署のまわりの人たちも、
何かヤバい新入社員が来るらしいぞ‥‥と。

──

深田さんを持ってしても「ヤバい」レベル。

深田

いやいやいや、ぼくなんかぜんぜんですよ。

もともとアンテナなんか「道具」だとしか
思ってなかったですから、ぼくは。
そこへ、
すごい「アンテナ愛」を持った新入社員が
目の前の席に座るからよろしくねって。

──

ざわつかせたわけですか。
JAXAのオフィスを。

安部

ほとんどの人は、
宇宙へ行くものがやりたいんですよ。

──

ああー、そっかそっか。JAXAにくる人は。

深田

ロケットとか人工衛星に関わりたい‥‥と、
そういう人が大半の中、
「わたしは、アンテナが大好きです」って。

安部

極めてレアケースです。

領木

あの‥‥わたし、JAXAの面接のときに、
「臼田の64メートルにあこがれて」
という話をしたんですが‥‥
面接官のみなさんが、
誰ひとり乗ってくださらなかったんです。

──

ははは、巨大アンテナの話に（笑）。

領木

「あ、そうですか」「へえー」とか‥‥。

──

でも、アンテナに配属されたんですよね。

思いは通じてたってことじゃないですか。
その、並み居る面接官のみなさんに。

領木

はい、うれしかったです。

臼田の64メートルの、
日本最大のパラボラアンテナが大好きで、
JAXAに入社して‥‥。
最初の配属が、
そのアンテナの維持管理をする部署でした。
いきなり
64メートルの担当になれたんです！

臼田宇宙空間観測所、日本最大64メートルのアンテナ。領木さん撮影＆提供

──

よかったですね！

領木

もう、「夢みたい！」って感激しました。
入社１年目から、64メートルって！

深田

彼女がJAXAに入ってきてくれたら、
アンテナに対する
ぼくらの目線も変わったんです。

それまで道具としか思ってなかったのに、
アンテナカードをつくりはじめたりとか。

──

アンテナカード‥‥というと、
何ですか、プロ野球カードみたいな？

深田

そうですね。広報をしはじめたんですよ。
アンテナのグッズもつくったりして。

はい。これです。これが、アンテナカード。

領木

人工衛星のカードは前からあったんですが。

──

アンテナのカードもつくろうという機運が。
領木さんのご入社によって。

深田

当時の広報担当の人が乗り気になって
「アンテナカードつくってみない？」って。

はじめはドン引きしたんですけどね（笑）。
ウソでしょ～って思ったんだけど、
結果として、めちゃくちゃつくりましたね。

──

どこで買えるんですか。

深田

買えないんです、これは。

領木

観測所の一般公開へ来ていただいたときに、
お配りしているものなんです。

最近はコロナ禍で一般公開をしてないので、
あまり手に入らなくなってますが。

安部

傍から見ていても、
「えっ、アンテナを広報するんだ‥‥！？」
と思ってました、正直。

──

それもこれも、
アンテナ大好き領木さんがご入社して。

深田

まずは、目の前の席のぼくが、
急激に領木さん色に染められていきました。

領木

いやいや、そんなことないです。
深田さんだって最初からノリノリでしたよ。

──

「その気（け）」はあったと（笑）。

安部

アンテナの人気投票を
やったりとかもしてましたよね。

あれ、ふつうの人からしたら、
どれも見た目はみんな同じなんだけど。

領木

そんなことないです、ぜんぶ違います！

深田

違います！

安部

すみません（笑）。

──

ありとあらゆるジャンルに、
熱心なファンがいらっしゃいますよね。

鉄道なんかはもちろんですが、
団地なんかも、いまや写真集が出たり。
そういった感じで、
アンテナ大好き愛好家みたいな人々も。

領木

いらっしゃいます。多くはないですが。

トップレベルの人なんか、自費出版で、
アンテナの写真集を出したりされたり。

──

ひゃー。すごい熱量。

深田

で、買っているのがわれわれ（笑）。

──

プロに買わしめるクオリティですか！

領木

千葉県の勝浦だとか沖縄、種子島など、
コロナ前は、
年に一回、各地の観測所で
一般公開をやっていたんですけど、
そのときに、
すごいカメラ機材を持っていらして、
写真を撮って、職員を捕まえて
これは何ですかとかあれは何ですかと。

──

そんな「猛者」が。

領木

まあ、そこまでたくさんはいませんが。

安部

人工衛星を擬人化した同人誌なんかも、
あったりするんですよ。

──

いわゆる「艦これ」みたいな‥‥？

深田

そうです。お好きな方々にとっては、
このアンテナは男子、
このアンテナは女子、
みたいな区別もあるらしいんですよ。

──

はあーっ‥‥深い。

で、領木さんも、
元々はそっち側の人だったわけですか。
非常にざっくりジャンル分けすれば。

領木

まあ、そうっすね（笑）。ざっくりは。

安部

入社する前から見に行ってたんでしょ。

領木

もちろん行ってました。

64メートルの臼田はもちろんですけど、
JAXA以外の局のアンテナにも。
国立天文台とか、
あと、NTTなんかの通信業者さんも
アンテナを持っていて、
自分のとこの展示館なんかもあるので。

安部

まさか、アルマも行ってる‥‥！？

領木

いやいや、アルマには行ってないです。

安部

さすがに無理か。

──

チリの標高5000メートルの高地で
66台もの
巨大パラボラアンテナを組み合わせた
電波望遠鏡群、アルマ。

そこへ行くだけで高山病になるという。
ズバリ、行きたいですか？

領木

行きたいですよ！

──

領木さんは、行きたいでしょうね‥‥。
ぼくだって行きたいくらいだし。

ちなみに、アンテナを見に行く活動は、
同好の士と一緒に？
それとも、領木さんのソロ活動ですか。

領木

ソロです。乗ってくれる人がいません。
愛好家の方にも
現地でなかなか会わないくらいです。

ダムなんかにくらべても、
まだまだ、メジャーじゃないので‥‥。

──

ちなみにこのあたりが、その写真集？

領木

はい、自宅から蔵書を持ってきました。
この写真集は初任給で買いました。

──

JAXAさんからもらった初任給で、
アンテナの写真集を買う！
なんという、いい話。

たしかにいいお値段、してますもんね。
7000円。

領木

はい、けっこう高かったです。
でも、すっごくいい写真集なんですよ！

各地のアンテナが載ってます。
プロの方が撮った写真集なんですけど、
このへんが同人誌になります。

──

パラボラアンテナガイドブック‥‥と。
質実剛健なタイトルですね。

領木

もう、北は北海道から南は沖縄まで、
日本のほぼすべての
パラボラアンテナを掲載しています。

このガイドブックを眺めながら
次のお休みは
どのアンテナを見に行こうかなって、
ワクワクしたりしてます。

──

ほぼ、すべて。

領木

大半のアンテナは載っているはずです。
防衛用のアンテナとか、
そもそも見られないもの以外は、ほぼ。

アンテナが建設されていくプロセスを、
定点観測みたいに撮ってたりもします。

安部

えっ、それ、個人で？

領木

そう。

──

個人が定点観測してるんですか‥‥好きで。
何年もかけて‥‥そんな人がいるんですか。

領木

いますよ。わたしも通ってますし（笑）。

深田

ぼくが途中から担当になったアンテナの
建設の過程が載ってたんですが、
前半のようすを知らなかったんですね。

なので、この本を見るとすごくよくわかる。
この土地はもともとこうだったのか、
ここの山を伐採してこうしたのね‥‥とか。

──

役に立ってる‥‥プロの役に。

領木

そういうマニアな方が、いるんです。