たなかま

そして2024年１月１日16時10分、
能登半島地震が起きたわけですけど。
震源が石川県能登地方で、深さは16キロ、
マグニチュードは7.6という。
（詳しくはこちら）

ひびの

元旦のニュースに「ああ‥‥」と思いました。
そのあと、本当は早く行きたかったけれど、
なかなか難しくて。
ただ４月に日比野（夫の克彦さん）が
日帰りで珠洲に行くことが決まり、
便乗することにしたんです。

金沢の南西にある小松空港から入って、
車で能登に向かったんですけど、
地震で道が壊れてるから、すごかったですよ。
別に飛ばしてるとかじゃないのに、
走りながら車がバーン！とか跳ねるんです。
すごくいいお天気の日だったんですけど。

で、何時間もかけて珠洲までたどり着いたら、
見附島（みつけじま）のすぐそばに、
私の常宿があるんですけど、
そこもやっぱり大きな被害を受けていて。
食堂と宿泊場所が２棟に分かれてるんですけど、
宿泊の家の２階が全部落ちていて。
「２軒先まで津波が来た」と伺いました。

※見附島‥‥「軍艦島」とも呼ばれる能登の無人島。
能登地方のシンボル的存在で、石川県の天然記念物。
ただし震災で南東側が大きく崩落、姿も変わってしまった。

見附島。（2025年６月撮影　写真提供／ひびのこづえ）

たなかま

ああ。

ひびの

偶然にもそのとき、宿の方にもお会いできたんです。
金沢に避難されてたんですけど、
ちょうど片づけで戻ってこられてて。
ただ、まだ、どこまで話を
聞いていいかもわからない感じで。
お元気そうだったのだけはよかったんですけど。

そのとき、いろんな人に会ったんですよ。
市長にも会ったし、知り合いにも次々と会って。
会うとちょっと涙を見せたりもするけど、
こっちも現状をちょっと聞くぐらいだったんです。

やすな

４月だと、余震もまだ全然ありましたよね。

ひびの

そうですね。
でもね、すっごい天気は良かったし、
会う人会う人がみんな笑顔なんですよ。
そこがね、すごく不思議な感じでした。

たなかま

そのあとは、どういう流れですか？

ひびの

「とにかくパフォーマンスをやろう」と思って、
３ヶ月後の2024年７月に、珠洲に出かけて、
「RYU」という演目をやったんです。

2024年７月、そのときの「RYU」。（写真提供／ひびのこづえ）

ひびの

なぜ７月にしたかというと、
地震後の海が見たかったのがあって。
海に潜ろうと思って、道具も持っていってたんです。

だけど木ノ浦の海岸まで行ったら、
地面がすごく隆起してて。
普段だったらすぐ入れるところが、
岩を越えて行かないと、海まで到達しないんです。
それはやっぱりすごいショックで。

やすな

あちこち地形が変わってますもんね。

ひびの

あと、その７月のときは暑すぎて。
熱中症になりそうなくらいの日で、
海も見ずに、そのまんま帰ってきちゃったんです。

だからそのとき「RYU」のパフォーマンスも
２回やったんですけど、ダンサーもヘトヘトで。

ゆーないと

ああ。

ひびの

でもこの前の珠洲でのワークショップに
参加してくれた人が、
この2024年７月の「RYU」に
来てくれてたんですよね。
それで「２回とも見た。すごい良かった」
と言ってくれてて、すごく嬉しかったんですけど。
「あ、２回も見るほどよかったんだ。
やってよかった」って。

あのときは、ゆーないとさんも
お子さんと来てくれましたよね。

ゆーないと

そうなんです。
能登には2024年４月に会社のみんなと
行ったのが最初ですけど、
「またすぐ来なきゃな」と思ってて。

そのタイミングでひびのさんが
「なんとか７月にパフォーマンスを
できることになった」とおっしゃってたので、
「これは見なきゃ！」と思って、
バッと行かせていただいたんです。

ひびの

あのときはそういう方が大阪や東京から
何組も来てくれてて。けっこうみんな家族連れで。

みんなやっぱり
「子どもにもいまの能登を伝えたいな」とか、
そういう気持ちもあったと思うんですよね。

ゆーないと

そうだと思います。

ひびの

そのあと、ほぼ日のみなさんに
「珠洲でなにかできませんか」と相談させてもらって、
それが「すずなり食堂」を編み物で飾る
ワークショップにつながっていったんですけど。

やすな

そうですね。
2024年９月に「道の駅すずなり」の隣に、
地域のみなさんのちからで
「すずなり食堂」がオープンして。

仮設の店舗をデコレーションする方法はないかと、
「すずなり食堂」の坂本信子さんからほぼ日に、
ご相談いただいたのと
まさに同じ時期に、ひびのさんから
「その場限りじゃない表現をなにかやりませんか」
と言っていただいて。
すぐに打ち合わせしましたね。

ひびのさんが考えてくださった、最初の装飾プラン。 （写真提供／ひびのこづえ）

ひびの

そうでしたね。
仮設の建物をどうにかできないかなという思いが
私の中でもずっとあったんです。

2024年４月にさきほどの常宿の場所を訪れたとき、
向かいに仮設住宅を建設中だったんです。
でもそれはきれいな木造２階建てで、
みんなが「あそこに入れたらいいね」と話してて。
やっぱり見た目が違うと、気分も全然変わるので。

やすな

実はそういうことって大きいですよね。

ひびの

そうだと思うんです。

それで仮設店舗のグレーのさみしい壁を
どうにかする方法として、
「カラフルなテープを編んだモチーフで、
建物を包むのはどうだろう？」と思いついて。

建物を編み物でくるめたら面白いし、
パーツをいっぱい編んでつなげるんだったら、
いろんな人とみんなでやれるのかなって。
芸術祭のひとつの建物みたいになったらいいし。

こんなテープを編むことに（写真２枚目は編む前の準備中）。

ゆーないと

スズランテープを編む、というアイデアも斬新でした。
体育祭とかでポンポンをつくるテープですよね。

ひびの

以前見た、畑の防鳥テープの様子が
なんとなく頭にあって、それもヒントになったんです。

最初は荷造り用テープでやろうとしてたんです。
だけどすごく紫外線に弱いことがわかったので、
スズランテープにしたんです。

スズランテープも材料として完璧ではないけれど、
それでも多少もつから、という判断で。

たなかま

パーツが丸い形なのも面白いですよね。
集まるとお花畑とか、海の泡のようにも見えて。

ひびの

最初は四角で考えてたんです。
でも、うちのスタッフのお母さんが
編み物が得意な人で
「サンプルを編んでもらえない？」
とお願いしたら、丸で編んできてくれて。

丸い編みものパーツ。いろんなバリエーションがあります。

ゆーないと

ああいうパーツなら、
編み物経験がある人はみんな編めるし。
遠くに暮らす人が
「編んだものを送る」という方法でも参加できますね、
って話してたんですよね。

ひびの

そう。それで最初は、珠洲の人たちにも
編んでもらう予定だったんですよ。
仮設住宅で暮らしている人にも参加してもらって、
「すずなり食堂」に集まって
みんなで編めたらいいね、とか。

それでスケジュールも組み始めてたけど、
そのタイミングで大雨があって。

やすな

そうなんですよね。
2024年９月、能登半島豪雨が起きて。

河川が氾濫して、大規模な浸水被害が起きたり、
土砂災害が発生したり、
どうしてこんなことがいま‥‥と思うような災害で。
（詳しくはこちら）

ひびの

それで「いま、現地ではみんなちょっともう
人のために何かをやれる状況じゃない」
ということで、
「じゃあ、東京で編み物ワークショップをやって、
そこで作ったものを持っていきましょう」
という話にシフトしたんです。

ゆーないと

それで第１回が、2024年11月。
東京のほぼ日の事務所に30人くらいの方が来て、
１日がかりで飾りのパーツを編んでくださって。
家に持って帰って宿題のように
編んでくださった人もけっこういましたね。

第１回のワークショップより。こんなにできた！

ゆーないと

実際に現地でどうなるかは不安でしたけど、
なんとかなって。

ひびの

なんとかね。

やすな

取りつけてたら、地域の仮設住宅に住む
編み物の先生が通りかかられて、
さらに編んでくださったり。

ひびの

反応もどうだろうと思ってましたけど、
みんな、SNSなどでけっこう投稿してくれて。

そういうのもすぐには伝わってこないのね。
あとからポツポツと聞こえてきて、ほっとして。

現地でつなげていたときの様子。なんとかなりました！

ゆーないと

紀子さまも、その前で写真を撮ってくださったり。

ひびの

紀子さま、影響力ありましたね。
そこから能登に思いを馳せてくれた人が、
たくさんいた感じがあって、
本当にありがたいなと思いました。