ゆーないと

珠洲（すず）との出会いから教えていただけますか？

ひびの

2016年に初めて行ったんです。

2017年に「奥能登国際芸術祭」を
はじめるというので、声をかけていただいて。

奥能登芸術祭って、
いろんなところに展示された作品を、
お客さんが見て回るんですけど、
私の場合は「衣装を展示するだけで面白いのかな？」
というのが気になっていました。
それまで、奥能登に行ったこともなかったんです。

それで悩んでいたら「下見しませんか」と
声をかけていただき、
行ってみたら、まあすばらしいところで。
「ちゃんとなにかやろう」というのは
珠洲に行ってから決めたことですね。

スタッフと一緒に泊まって、夕方歩いたり、
あちこち見たりするなかで
「パフォーマンスやるか！」
とアイデアがふくらみ、そこからです。

そのとき周ったなかに、木ノ浦の海岸
（珠洲の日本海側にある木ノ浦海域公園）があって、
その海を見た瞬間に
「こんな透き通ってる海があるんだ！」と思って。

木ノ浦海域公園の海。（写真提供／ひびのこづえ）

ひびの

海はけっこういろんなところに行ってるんですけど、
能登の海ってちょっと独特なんですよ。
岩があって、水があって、
「日本ならでは」みたいな風景が広がってる。
似た景色は伊豆にもあるんですけど、
珠洲は珠洲で、ここにしかない感じがあって。

それで
「これは１回海に潜らないとダメだ。夏に来よう」
と思って、夏のワークショップを企画して、
ふたたび訪れたんです。

ゆーないと

へえー。

ひびの

ただ、そのときはとにかく
「海に潜ろう！」がいちばんの興味。

潜ってみたら、もう本当に透明度が半端なくて、
小さいお魚がいっぱいいるんです。すごいきれいで。

スタッフと２人だけだったから、
近場の浅い場所で潜るんですけど、
これまで見たことのない海の風景が
広がっていたんです。

海藻の群れが絨毯みたいになってて、
そこに横たわると、自分の周りに
ふわーっと海藻があって、
その中で寝てるみたいな感じになるんです。
海藻があんなふうに生い茂ってるところは
沖縄とかにはないので、すごいなと思って。
『（崖の上の）ポニョ』みたいな世界で。

もっと沖まで行くとすごい魚の群れもあるんですけど、
怖いからわたしたちは近場だけ。

あまりに感動したから
「この海藻を衣装にできないかな」と作ったのが、
「WONDER WATER」という作品ですね。
ヘリウム入りの小さいバルーンをいっぱい身につけると、
本当にあの海藻の森みたいになるんです。
それを作ってから、
すっかり珠洲にハマった感じです。

ゆーないと

もともとよく潜られてたんですか？

ひびの

出身が静岡県で、私が生まれた当時の沼津の海は
きれいじゃなかったから潜らなかったけど、
海自体は好きでしたね。

でもあるとき、自然保護協会の人たちによる
「アーティストと自然保護を結びつける」
というプロジェクトがあって、
それで初めて屋久島や石垣島に行ったんです。

当時、石垣島に大きな飛行場を作るのを、
自然保護の人たちが反対してて。
現地を見てほしいということで、十何人で行ったんです。

そのとき自然保護協会の人に
「海の本当の美しさは上から見てもわからないんです。
潜らないとわからないから」って言われて。

ゆーないと

ああ、潜らないとわからない。

ひびの

その言葉がもうずっと忘れられなくて、
そこからシュノーケリングをやるようになりました。

以来、海のあるところに行くときには、
必ず足ひれとシュノーケルを持って行くんです。

たなかま

へええー。

ひびの

車に道具を積んで周って、潜ります。
だけど、いいスポットってなかなかないんですよ。
いい岩場がないとダメで、砂浜だとダメ。
もちろん沖縄とかだと、魚が砂浜でも見れるけれど、
私たちは海の中で生息している姿を見たいんですよね。
沖縄だと、珊瑚礁が見たいんです。

だから海に潜ったら、ずーっと漂っているんです。
そうすると自然にいろんなものに会えますから。
岩のつくりとか、海の中の構造を見るのが
好きなんですね。

それで珠洲の海に潜ったとき、
こんな海の風景を見れたことがなかったので、
感動しちゃって。
「とにかくこの海を伝えなきゃ！」
みたいな感じになって、そこからハマりました。

こちらも木ノ浦海域公園。（写真提供／ひびのこづえ）

たなかま

それが2016年の夏というか。

ひびの

はい。で、最初にパフォーマンスをやったのが
2017年の「奥能登国際芸術祭」のときですね。
約２か月の期間中に３本とか上演したので、
そのあいだに３回ぐらい行ったんです。

ただ最初は珠洲の人たちも
「ダンスパフォーマンスってなんだ？」
という反応で、
チケットも売れなくて。

でも、いろいろ呼びかけもしたら満員になって、
ぎゅうぎゅう詰めのなか、最初の
「WONDER WATER」を上演したんですね。

そしたら次の日から、歩いてると
「パフォーマンス見ましたよ！」とか、
ものすごい反応があったんです。
小さな町だけど、みんなが同じものを
共有してた感じがあって。
お客さまは金沢や東京からも来てくださってた
と思うんですけど、
「この町はすごくいいかもしれない」と思って。

それで「芸術祭の３年に１回だけだと
みんなこの感覚を忘れるから、
毎年行かせてくれ」とお願いして、
毎年パフォーマンスをやるようになったんです。
17、18、19年とか。

ゆーないと

そのあとが‥‥コロナ？

ひびの

そう。コロナ禍のときは
パフォーマンスをできないから
「じゃあ映像を作ろう」と決めて。

大所帯では行きにくいから、ちょっと大変だけど、
うちのスタッフと私と、
パフォーマー兼カメラマンだけで出かけて。
あとは珠洲の人に手伝っていただいたんです。

「珠洲とつながる」みたいなテーマのもと、
珠洲のいい場所で、短い時間ですけど
パフォーマンスの映像を撮って。
実際の芸術祭では
「QRコードを読み込むと、その風景の中で
人が踊るのが見える」
という仕掛けにしたんです。

「とにかく毎年行かなきゃ」みたいな気持ちで、
そんなことをやってましたね。

やすな

ほんとにずっと通われてるんですね。

ひびの

そうなんです。やっぱり大好きで。

で、いちばん最近の芸術祭が2023年の秋ですけど、
その前の５月、能登で大きな地震があったんです。
その頃、少しずつ地震が増えてて、
なかでも特に大きかったものですね。
珠洲で最大震度６強とか。

地震の日、私はちょうど輪島（珠洲の隣の町）で、
『にほんごであそぼ』という番組の
コンサートをやってたんです。

１日に２回コンサートがあったんですけど、
２回目の最中に地震で揺れて。
その日は珠洲の市役所の人も来てたんだけど、
いそいで帰っていって。
その地震では住宅被害や土砂災害も
けっこうあったんです。

やすな

けっこう被害も大きかったんですよね。

ひびの

そう。だけど2023年の芸術祭自体は
「でもやりましょう」となって、
期間を短くして１か月だけやったんです。
ただ開催したことには
地域では賛否両論あったそうです。
「こんな時期にやるなんて」って。

だけどあのままやらなかったら、
どうだったのかなあ‥‥。

中央がひびのさん。こんなふうにお話をうかがいました。