シャンソンって、フランスのふるい歌ですよね?
なーんて思い込んでいたら、もったいない。
それは、日本の歌謡曲の中にも流れ込んでいて、
いまもたまらない魅力を放っています。
たとえば、中森明菜さんの「難破船」の中で。
なかにし礼さんのつくった多くの歌の中で。
シャンソンのDNAみたいな何かが、
ぼくらの大好きな歌の中で、生きているんです。
そのあたりの尽きせぬテーマについて、
「神野美伽さんが歌う はじめてのシャンソン」
をやろうと言い出した画家の笹尾光彦さんと
糸井重里を囲んで、おしゃべりしました。
担当は「はじめてのシャンソン」係の奥野です。

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第5回  自由なシャンソンの会にしよう

──
今回の構成・演出を手がけてくださっている
女優で演出家の高泉淳子さんや、
アコーディオン桑山哲也さんのお話を聞くと、
シャンソンって、まず「歌詞」があり、
次にそれを「誰がどう歌うか」が大切なんだ、
ということがわかってきたんです。
糸井
うん。
──
今回、歌ってくださる神野さんは
演歌歌手ですけど、演歌だけじゃなくて、
ジャズのコンサートもやれば
ロックフェスにも出る、
笠置シヅ子さんのブギの舞台も主演してます。
だから、こんどは
神野さんのシャンソンを聴いてみたいなあ、
という気持ちに、どんどんなってます。
糸井
いいねえ。
──
神野さんは、コロナ禍にご病気を経験して、
何度も手術を受け、
一時は、HCU(高度治療室)にも
入っていたそうなんです。
だから、コロナ禍と大病を乗り越えた人の
シャンソンになるのかなとも思います。
笹尾
神野さん、若いころからシャンソンが好きで、
当時の銀巴里にも通っていて、
パリへシャンソニエをめぐる旅に出たことも
あったらしいです。
ずーっと「挑戦」を続けてきた人生だけど、
いま、シャンソンも
自分の歌として表現できると思ったからこそ、
今回も、
チャレンジすると決めたんだと思います。

糸井
思いの乗った歌を聴くという機会って、
なかなかないからね。
シャンソンの会って、
詩の朗読なんかにも近い感じがあるよね。
──
美輪明宏さんの「老女優は去りゆく」とか、
「ボン・ボォワアヤージュ」とか、
「詩の朗読」とも、
「演劇」とも括ることが出来ない、
唯一無二のパフォーマンスになってますし。
笹尾
だからシャンソンと言っても、
やっぱり、一言では言えないんでしょうね。
──
シャンソン歌手のソワレさんがやっている
「新春シャンソンショウ」には、
主にシャンソン歌手以外の人が出てきます。
ROLLYさんが
きらめきのエレキギターを弾いたり
はるな愛さんが「愛の讃歌」を歌ったり。
笹尾
何でもありなんだね。「歌」ならば。
──
他方、日本のシャンソンの総本山というか、
本物のシャンソン歌手のみなさんが
勢ぞろいして1曲ずつ歌っていく会が
「パリ祭」なんですけど、
そこにも、
長渕剛さんの奥さまの志穂美悦子さんが
「鬼無里(きなさ)まり」というお名前で
シャンソンを歌っていたり。
笹尾
へえ。
──
あと、俳優の工藤夕貴さんって、
ぼくは
相米慎二監督の『台風クラブ』の印象が
すごく強いんですけど、
あの方が出てきて、
ド迫力の歌唱力で聴かせてくださって、
度肝を抜かれたりしました。
だから、本当に何でもありなんだなと。
シャンソンって
敷居が高いイメージがあったんですが。
笹尾
おもしろいなあ。
──
シャンソンは「歌」っていう意味だから、
「本来、自由なんです」
「好きなように歌えばいいんです」とは、
取材した人たち、みんなが言いますし。
笹尾
ぼくはね、その「自由」という言葉が、
いちばんピンとくるんですよ。
「ほぼ日」がやるシャンソンのコンサート、
それってどんなのかなと考えたときに、
やっぱり「自由にやろうよ」が、いいなと。
糸井
いいじゃない。自由なシャンソンの会。
そのうち「平等・博愛」も加えてね(笑)。
神野さんがシャンソンを歌っている時点で、
だいぶ「自由」なわけだから。

──
はい。笹尾さんが神野さんの歌った
「オー・シャンゼリゼ」に
とっても感動したところからはじまって、
あとから
「オー・シャンゼリゼ」は
じつはシャンソンじゃなかった‥‥って
知って驚くところまでふくめて。
糸井
最高(笑)。
でも、それでいいんだよ。「自由」だから。
王道の「パリ祭」があって、
また別の趣旨の会もたくさんあるとしても、
ぼくらはぼくらで
ぼくららしい会をやればいいと思います。
──
はい。今回の「はじめてのシャンソン」は
「シャンソンとは」というところからの
チャレンジな企画なんですけど、
笹尾さんのおっしゃる「自由」だとか、
糸井さんの
「ほぼ日らしくやろう」という言葉で、
だいぶ軸足がしっかりするなあと思います。
糸井
神野さんご自身だって、
きっと楽しくうれしくやってるんでしょ?
──
はい。先日インタビューしてきましたが、
知らない自分に出会えると思うと言って、
ワクワクしてらっしゃいました。
たしか、20歳くらいのときの、
デビュー曲が売れて
睡眠時間が数時間みたいな忙しい時期に、
演歌の仕事が終えたあと、
たったひとりで
シャンソニエに通っていたそうです。
それくらい好きだったシャンソンを
歌ってほしいと頼まれたのははじめてで、
そのこともうれしいと言ってました。
糸井
いいね。
笹尾
古いしきたりも、ドレスコードもない、
自由な気持ちで「歌」を楽しむ会。
自由って言葉がひとつ、ポンとあるだけ。
それだけで十分ですよ。
そういうシャンソンの会にしましょうよ。

(つづきます)

2025-10-21-TUE

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