ほぼ日刊イトイ新聞 マーク・レイさんとの、とくに結論のない対話。ほぼ日刊イトイ新聞 マーク・レイさんとの、とくに結論のない対話。

マーク・レイさんのプロフィール

ニューヨークのモデルで、俳優で、カメラマンでもあるマーク・レイさんは誰にも黙って、何年も、あるアパートの屋上に暮らしていました。最初は、お金に困っていない有名人が、気まぐれに、趣味か何かで(?)、そんな生活をしているのかと思いました。実際は、ちがいました。マークさんと話をしてみたくなったので、昨秋、ご本人が日本にいらしたとき、数十分ほど、お話させていただきました。休日の朝、滞在先のシェアハウスで。答えや結論などのない、とりとめのない対話で恐縮ですが、こころに残ったやりとりを、公開します。担当は「ほぼ日」奥野です。ニューヨークのモデルで、俳優で、カメラマンでもあるマーク・レイさんは誰にも黙って、何年も、あるアパートの屋上に暮らしていました。最初は、お金に困っていない有名人が、気まぐれに、趣味か何かで(?)、そんな生活をしているのかと思いました。実際は、ちがいました。マークさんと話をしてみたくなったので、昨秋、ご本人が日本にいらしたとき、数十分ほど、お話させていただきました。休日の朝、滞在先のシェアハウスで。答えや結論などのない、とりとめのない対話で恐縮ですが、こころに残ったやりとりを、公開します。担当は「ほぼ日」奥野です。

マーク・レイさんのプロフィール

第1回 放浪の日々 2017.01.26第1回 放浪の日々 2017.01.26

──
マークさんのドキュメンタリーを拝見して、
おもしろかったです。
マーク
よかった。楽しんでくださって。

──
最初、マークさんのことを知ったときは、
こう思ったんです。
昔、有名なファッション誌に出ていた
モデルさんで、
現在は主にカメラマンだということは、
お金持ちが物好きか何かで、
ホームレス生活をしているのかな」と。
マーク
ええ。
──
でも、映画を観たら、そうじゃなかった。
マークさんが、

ご自分の人生と真剣に格闘している姿が、
映し出されていました。
マーク
はい。
──
俳優とかエキストラの仕事を探したり、
後半では、夕暮れの屋上で、
誰も愛してくれないって涙を流したり。
その姿を見て、なんて言うんでしょう、
有名な映画にも出演経験のある
マークさんですけど、
これは自分と同じひとりの人の話、
自分と全然ちがう人の話じゃないなと。
マーク
ええ。
──
ようするに、
共感する部分が多かったんです、観てて。
なので今日は、
マーク・レイさんってどういう人なのか、
知りたくて、少しおじゃましました。
マーク
わかりました。

──
たとえば、どんなところに生まれ育って、
子どものころは
誰と、どんな遊びをしていて‥‥とか。
マーク
OK。まず、わたしが生まれたのは、
いわゆるニューヨークの郊外にあたる地域で、
家族は5人でした。
両親と、兄がいて、姉がいて。あと犬が一匹。
──
犬の、お名前は?
マーク
ヤンキー。5歳までそこにいたんですが、
6歳のとき、
ニュージャージーへ引っ越しました。
このあたりのことは、
ぼくのドキュメンタリーにも出てきますけど。
──
ええ、あの白い家ですね。
マーク
そう。1770年代に建てられた‥‥。
──
え、そんな、240年以上も前の家?
マーク
隣の家まで5キロくらい離れていたから、
ちいさい子どものころは、
ひとり遊びをするしかありませんでした。
──
ひとり遊びというと、具体的には?
マーク
野原で走り回ったり、とかね。
たまに、兄や友人が遊んでくれるときには、
アメリカの男の子なら誰でもやる、
カウボーイごっこや、おまわりさんごっこ。
──
ええ。
マーク
だから、本当にひとりだったときには、
ひとり遊び‥‥じゃなくて、
ひとりで時間を過ごしてた」って言い方が、
正しいのかもしれないけど。

──
読書をしたり、とかですか?
マーク
いや、いつも野原を走り回っていたかな。
そうやってひとりの時間を過ごしていた。

本は、まぁ、ときどきね。
──
お好きなのかなと思ったので、本とか。
マーク
それよりスポーツが好きで、得意だった。
──
たしか大学へは、
スカラーシップで行かれたんですよね。
マーク
バスケットボール・プレイヤー。
──
背、大きいですものね。
マーク
クラブでは自分がいちばん背が高かった。
ごぞんじのように、
バスケットボールというスポーツでは、
背が高いということだけで、
とても大きなアドバンテージになるんだ。
──
はい。
マーク
もちろん、下手ではなかったと思うけど、
奨学金でカレッジに入ったら、
ルームメイトが2メートル以上の大男で。
──
わあ(笑)。ちなみに、マークさんは?
マーク
190センチ弱。
自分自身、運動神経は良いほうだったし、
マラソンも2時間50分台で走ったけど。
──
いわゆる「サブスリーランナー」ですか。
それは、すごいですね。
マーク
でも、チームの仲間と
バスケットボールをプレイしていたら、
自分は彼らほど上手くないってことに、
だんだん、気づいていったんだ。

──
そうなんですか。
マーク
ガッカリしたってわけでもないんだけど、
なんて言うんだろう‥‥
自分の実力は、
それほど大したことなかったんだなって。
──
思って。
マーク
そう、それからは勉強を一生懸命やった。
自分の将来にとって、
学校の勉強がどれだけ大事かってことに、
バスケットで、気づかされたから。
──
専攻は?
マーク
経営、ビジネス。
──
それは、何かなりたいものがあって?
マーク
アド、宣伝広告の業界に入りたかった。
──
でも、大学を出たあとは、
たしか、バックパッカーとして‥‥。
マーク
3ヶ月間、ヨーロッパ各地を放浪していたよ。
──
それは、なぜですか。
マーク
そうだね‥‥放浪した動機は
ただ、やってみたかっただけ」なんだけど、
結局、そのときの放浪がきっかけで、
2年後にモデルをはじめることになったんだ。
──
と言うと?
マーク
ベルギーに
とっても親しくしてくれる家族ができて、
そこの娘さんが、
モデルエージェンシーを紹介してくれて。
モデル業は、そこからスタートしたんだ。

──
では、自分はモデルで有名になるんだと
強く思っていたわけでもないのに、
その後、
フランス版『VOGUE』に載るまでに。
マーク
まあ、ジャンニ・ヴェルサーチや
モスキーノ、
ミッソーニなんかのランウェイも歩いたけど、
それで食べていけるほど、
お金をたくさん稼げたわけでもないから。
──
そうなんですか。
マーク
むしろ、いつもギリギリの生活をしていた。

でも、その当時の自分は、
ヨーロッパで暮らしたいって強く思ってた。
そのためには、収入が必要だった。
だから、モデル業というのも、
大きく言えば広告業界の仕事なわけだから、
やってみたというだけなんだ。
──
まだ若かったし。
マーク
うん、自分が大学を出たあとに、
最初に受けた就職面接もCIAだったしね。
──
え、CIA!?
これまた全然まったくちがう方向ですけど、
いったいどんなお仕事を‥‥。
マーク
わからない(笑)。
とにかく海外に住むとか、旅行に行くとか、
国際的なことに興味があったので、
何をするかもわからないまま、
面接もひとつの経験になるかなと思ってね。
──
アート方面にも、興味があったんですか?
現在はカメラマンをやってますし。
マーク
いや、自分はアーティストではないから。
いわゆる、アーティストとしての才能は、
ないと思っている。

──
そうなんですか?
マーク
うん、演技のクラスにも通ったし、
2003年からは、カメラをやりはじめたけど、
自分のなかにそういう才能は‥‥
ただ、人生を通じて、
そういう感性を磨きたいと思っていたことは、
たしかだけど。
──
磨きたい‥‥というのは、
ご自分のなかに「ない」と思うものだから?
マーク
でも、そういう自分の性格が、
ある意味では、何かを邪魔した気もしている。
いろんなことに興味を感じて、
これもやりたい、あれもおもしろそうだ‥‥
それって逆に言えば、
何かに専心して
突き詰めていくこととは正反対のことだから。
──
そうかもしれませんが。
マーク
だから‥‥何か、ひとつのことに集中して
突き詰めることができたら、
また違った人生が、あったのかもしれない。

(つづきます)

  • 第1回 放浪の日々。 2017-01-26-THU
  • 第2回 自由の感覚。 2017-01-27-FRI
  • 第3回 独立心。 2017-01-28-SAT

3年間、マーク・レイさんに密着した
ドキュメンタリーが公開されます。

ニューヨークにあるアパートの屋上から
映画やファッションなど、
華やかな世界へと出かけてゆく
マークさんの数年間が、
ドキュメンタリー映画になりました。

タイトルは『ホームレス』。

その言葉から受ける感じとは裏腹に、
高級そうなスーツを身につけた
ハンサムなマークさんは、
カメラの前で、
明るくユーモラスに振る舞っていました。

でも、ときには
「どうしてこうなってしまったんだろう」
とつぶやいたり、
夕暮れの屋上で涙を流す場面なども。

モデルでカメラマンで、ホームレス」
と聞くと、
いかにもセンセーショナルですが、
マークさんという「ひとりの人」の人生が
じんわりと心に残る、どちらかというと
静かな雰囲気の作品だなあと思いました。

ほぼ日・奥野)

HOMME LESS ホームレス ニューヨークと寝た男

ドキュメンタリー映画

『ホームレス ニューヨークと寝た男』

2017年1月28日(土)より、
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか
全国順次ロードショー。

劇場情報など、
詳しいことは公式サイトでご確認ください。