気仙沼の、あの人。 気仙沼の、あの人。
「ほぼ日刊イトイ新聞」の支社、
「気仙沼のほぼ日」がオープンしたのは、
2011年11月1日のことでした。
あれから時が経ち、
2019年の11月1日に、この場所は「お開き」となります。

「気仙沼のほぼ日」は、地元のみなさんが
優しく受け入れてくださったおかげで続いてきた場所です。
お世話になったあの人は、
いまどんなふうに過ごしているのでしょう?
これからどんなことをしていきたいのでしょう?
あらためて、お話をうかがっていきます。
インタビュアーは、沼のハナヨメ、
「気仙沼のほぼ日」のサユミがはりきってつとめます!
第3回 根岸えまさん 鶴亀の湯&鶴亀食堂 店長
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震災直後の気仙沼には、
ほんとうにたくさんの方々が
ボランティアに訪れてくれました。
そんななか、気仙沼で漁師さんたちと出会い、
気仙沼への移住を決めた若者たちがいました。
彼ら・彼女らは、日々試行錯誤しながら、
新しい活動を生み出しています。



今回ご紹介する、根岸えまさんも、
そんな移住してきた若者のひとり。
気仙沼のおかみさん会「気仙沼つばき会」に所属し、
そこで出会ったおかみさんたちと一緒に、
気仙沼に寄港した船の漁師さんが立ち寄る「銭湯」と、
お風呂上がりに朝食が食べられる「食堂」を
つくっています。
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▲オープン間近の鶴亀の湯。
銭湯の名前は、「鶴亀の湯」。
食堂の名は、「鶴亀食堂」。



現場の様子はFacebookをご覧ください。



オープンは、2019年7月26日。
その様子を「ほぼ日」からレポートしていますので、
あわせてこちらのページもお読みください。
サユミ
えまちゃんが、気仙沼にはじめて来たのは
震災の年だったよね。
えま
うん。2011年の10月に19歳のとき。
最初は、宿泊場所が「つなかん」でした。
サユミ
19歳? 学生だったんだ。
えま
そうなんです。
ボランティアでやってきました。
サユミ
そうなんだぁ。
ちなみに聞くんだけど、
ミニスカサンタ(※)をしてたのはえまちゃん?
※ミニスカサンタとは、
仮設住宅でのクリスマスに
ボランティアの学生たちが
可愛いミニスカサンタの格好で現れ、
たいへんよろこばれて
みんなが元気になった、というエピソード。
『ぽてんしゃる。』(糸井重里著)にも掲載。
えま
そうなんですけど、
私はミニスカサンタじゃなくて‥‥
トナカイでした。
サユミ
あ、そうなの? 
他の移住者の子からも
まったく同じ話を聞いたことがあるわ。
つまり、あのミニスカサンタで
トナカイ役をやってたふたりが、
ボランティアから気仙沼に移住した子なんだね。
えま
そうそう。
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サユミ
実際に唐桑に住もうと思った
きっかけはなんだったの?
えま
やっさん(一代さんの旦那さん)と
一代さんと、
漁師のかずまるさんに出会ったことですね。
「この人たちと一緒に働きたい!」って思って。
サユミ
それは唐桑の最高のメンバーだ。
かずまるさんも、かっこいいよねぇ。
えま
うん。
「海は俺の恋人だ」って言うんですよ。
それがかっこよくて。
サユミ
うんうん。
ちょっと詳しく聞きたいなー。
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▲漁師の「かずまる」さんと、移住者の若い女子チーム。
えま
「おまえたち、付き合ってる彼女がいたら、
毎日会いたいべ?」って。
サユミ
うん。
えま
「今日はどんな服着てるかな?
怒ってるかな? どんなパンツ履いてんのかな? 
って思うのと同じで、
今日の海、どんな色してるかな? 
どんな魚いるかな? と、おれは毎日思う」って。
サユミ
海がすっごい「好き」ってことだ。
えま
「だから、毎日海に会いたい」って言うんですよ。
サユミ
それを仕事にしてるんだもんね。
かっこいいなぁ。
それって、震災の後に聞いた話だよね。
えま
そうです。
そのとき、私は東京の大学を
休学してたんですけど、
当時、先に東京で友だちが就職して、
飛び込み営業とかをしてるって話を聞いて、
「私にそんなことできなそう」
と思ったのも大きくて。
サユミ
たしかに、東京での働き方と
漁師さんの働き方はぜんぜん違うね。
でも、気仙沼でのえまちゃんの働き方は
フリーランスみたいな感じじゃない?
そういう働き方の難しさもある気がする。
えま
そうですか?
サユミ
たとえば、東京で、
普通に就職して大手企業に属するってなると、
収入とかは安定するじゃない?
そういうは不安はなかった?
えま
唐桑にいれば
食いっぱぐれることはないって思ったんですよ。
困ったら唐桑に「ローソン」があったから。
サユミ
「ローソン」があるから!
えま
お金なくなったら「ローソン」で
バイトしようって思ってたんですよ。
サユミ
そうか‥‥力強いね。
本当にその通りだ。
で、移住してきたメンバーで、
自分たちにできる仕事をはじめたんだ。
えま
社会人になるまでは、
唐桑の若い人たちと他の移住者で、
いろんな楽しい企画をやっていたんですけど、
社会人になって最初は
「漁師体験プログラム」の運営を始めました。
サユミ
それ、漁師さんと
仲良くないとできないことだねー。
えま
漁師さんは飲み友だちだったんで。
サユミ
さすが!
えま
いや、もうあの頃は
「わーい! ごちそうさまでーす!」って。
いろんなお家にお邪魔して、
毎日のようにご飯をいただいてたんですよ。
サユミ
えっ? 家にお邪魔して?
えま
唐桑はお店があんまりないからそうなりますね。
1年で9キロ太ったかな。
唐桑のお家で、お酒の飲み方も覚えました。
焼酎の作り方とか、日本酒の飲み方とか。
サユミ
いい話だなぁ。
若い人にお酒を教えたい人たちの
ニーズにあってる気がする。
えま
ねえ(笑)。
サユミ
えまちゃんがインスタとかで
「ここにいられて幸せ」みたいに、
素直に言えていることがすばらしいと思う。
えま
サユミさんは
すっごい褒めてくれる(笑)。
サユミ
あれを見たら
ご飯をご馳走していた方々はうれしいと思うよ。
えま
ありがたいですよ。
どっから来たかもわからない子が、
なんにもしてないのに、
ご飯をご馳走になったり、
お酒いただいたりして。
サユミ
気仙沼に溶け込むスピードが早いんだよね。
「気仙沼つばき会」(※)には、いつ入ったの?
※気仙沼つばき会とは、
斉吉商店の和枝さんや、アンカーコーヒーの紀子さんなど、
気仙沼のおかみさんたちが集まる会。
さまざまな形で「街への歓迎」をプロデュースしたり、
イベントを開催したり、精力的に活動を行っています。
えま
2016年に加入しました。
それまではずっと唐桑にいたんですけど。
「街」に出てくるようになって。
サユミ
「街」っていうのは、気仙沼の市街地のことだね。
えまちゃんは東京の子だから
そもそも街から来てるのに(笑)。
その「気仙沼つばき会」の中で、
「鶴亀の湯」と「鶴亀食堂」の話が出たんだね。
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▲「気仙沼つばき会」のメンバー。えまちゃん含め、
若いメンバーが増えています。
えま
唐桑では基本的に自給自足の生活だけど、
「気仙沼つばき会」に入って、
気仙沼で商売とか事業をやっている人たちのことを
知りました。
紀子さん(気仙沼つばき会メンバー、
アンカーコーヒーの小野寺紀子さん)
にも出会って、
仲良くなって、ある時、
「トレーラーハウスで居酒屋やらない?」
って言われたんです。
サユミ
白羽の矢が!
えま
でも私、朝は強いんですけど、
夜はすぐ眠くなってしまうんですよ。
だから「朝ごはん出すお店ならやりたいですけど」
って言ったら、
「あ、朝ごはんのお店もやろうと思ってた」
って言われて。
その時すでに、銭湯と食堂を
やることが決まってたんですね。
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▲「鶴亀食堂」プレオープンの様子。
銭湯のとなりにあり、ここでおいしい朝ごはんが食べられます。
サユミ
朝ごはんのお店は、私もずっと欲しかった!
気仙沼に、なかなかないんだよね。
銭湯と食堂は、何時から営業するの?
えま
6時です。
サユミ
はやっ!
えま
いや、漁師さんに言われたんですよ。
「遅くても6時オープンだろ」って。
サユミ
はあ~~~~~。
えま
大好きな漁師さんが来てくれるなら、
いくら朝早くても! ですよ。
「みしおね横丁」へようこそ! です。
サユミ
銭湯と食堂が入る新しい場所が、
「みしおね横丁」っていう名前なんだよね。
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▲朝も夜も楽しめる場所になりそう。
サユミ
じゃあ、あらためて聞くけど、
漁師さんのかっこよさって?
えま
え! それは! もう!
サユミ
輝いたね。目が(笑)。
えま
弱さに負けずに、120パーセントの力で
仕事に向き合ってるところですね。
すこし体調が悪いくらいでは、
絶対に休まない。
自分が仕事に向き合った分だけ魚がとれるから。
サユミ
全力で向き合っている。
えま
うん。
だから、やらされてる感がないし、
人のせいにしないんです。
全力で自然と向き合ってる姿が、もう‥‥
ロープワークしてる姿見ただけで
きゅんとするんですよ。
サユミ
うんうん。
想いが力強く伝わってきた(笑)。
えま
いま、彼氏が遠洋漁業の漁師なんです。
サユミ
おお。それは言っていいことなの?
えま
はい。
サユミ
どれくらい付き合ってるんですか?
えま
えーと、2航海目だから‥‥
次帰ってきたら二年‥‥?
サユミ
独特の数え方だね(笑)。
えま
そうですね(笑)。
相手は遠洋漁業中なので、
実際に会ってる回数で言ったら
10回とかですけど。
将来、もし結婚したとしても、
お互いにやりたいことを続けられたらなって。
サユミ
いやぁ、しっかりしてる。
いろんな意味で「夢に近づいてる」と思うよ。
移住者のみなさんは、気仙沼の宝だね。
応援してます!
写真
この取材が終わってから、
「鶴亀の湯」と「鶴亀食堂」のオープンに向け、
えまちゃんはますます忙しくなっていきました。
クラウドファンディングでお金を集め、
保健所の許可を取り、
お店の内装やメニューを考え、
さまざまな道のりを経て、
いよいよオープン日が‥‥。



「漁師さんが好き」を原動力に
東京から気仙沼への移住を決め、
自分の力で仕事を作ってきた彼女。
ついにその熱意は、
「漁師さんのための場所を作る」
という形として実を結びました。
「よく分からない自分のような子を
受け入れてくれたことに感謝してる」
と、謙遜するえまちゃんですが、
すでに「かっこいいおかみさんのひとり」
として輝いていて、眩しかったです。

(サユミ)
2019-07-25-THU
気仙沼のほぼ日