彼方からの手紙
『WILD FANCY ALLIANCE』という アルバムを知っていますか? 1993年に発売されたスチャダラパーの 通算3枚目のアルバムです。 若い時代のあり余るほどのヒマと、 そのくせ妙に感じる切迫感と、 瞬間瞬間によぎる幸福感と、 バカバカしさと、せつなさと、濃さと、薄さと、 いろんなものがぎゅうと詰まった、 ちょっとすごい1枚です。 このアルバムを含む、長く入手困難となっていた ソニー時代のアルバムが再発されるということで、 『WILD FANCY ALLIANCE』が大好きな糸井重里と、 スチャダラパーのボーズさんに、 この奇跡みたいなアルバムについて たっぷりと語ってもらうことにしました。


糸井 これをつくっているときのことって
思い出せます?
ボーズ ええ。ものすごくたのしかったけど、
やっぱり、きつかったですね。
それは、まぁ、どのアルバムでも
そうかもしれないですけど。
糸井 たのしいけど、きつい。
ボーズ そうですね。
やっぱり、おもしろいことを考えるって、
すごい、しんどいことじゃないですか。
だから、つくってると、たのしいんだけど、
ボロボロになっていくんですよね。
体力的にも、精神的にも。
糸井 なるほど。
ボーズ それは、できたときにしか救われない。
完成しないつらさはね、もうほんとに。
どうしたらこれがうまくいくんだろう?
って、毎日、毎日、考えてやるんで。
でも、なんでやってるんだって言ったら、
自分たちがやりたいからやってるし。
これをつくったときは、そんな感じでしたね。
糸井 いまとは、違いますか。
ボーズ やっぱり、違いますね。
もしもいま、こんなふうにやるとしたら、
なんていうか、こういう気持ちになるまでに、
だいぶ、がんばんないといけない気がする。
糸井 なにが変わったんでしょう。
ボーズ 単純にその、こういうシチュエーションを
つくるのが難しくなってきてるというか。
まぁ、家庭があったりもするし。
わかりやすいところでいうと、
これをつくってるときって、
いつまでやっててもよかったんですよ。
糸井 ああーー。
ボーズ たとえば、夜9時ごろはじめて、
つぎの日の朝10時までずっとつくったり、
遊んだり、ゲームやったり。
それはもう、さすがにいまはできない。
もう、物理的に無理(笑)。
糸井 そうだねぇ(笑)。
ボーズ かけてる時間とか、
精神的なきつさみたいなものは
いまも変わらないんですけどね。
つくってる環境もそんなに変わってないし。
つくる場所も同じだし。
糸井 どういうところでつくってるんですか?
ボーズ 目黒に、以前、アニとシンコが住んでた
マンションがあるんですよ。
昔もいまもそこをスタジオみたいに
使ってるんですけど、
当時は、まだふたりが住んでたから、
ぼくが夜行って、ピンポンって鳴らして
‥‥‥‥あ、違うわ。
これを作ってたときは、まだ実家ですね。
糸井 実家?
ボーズ そう。アニんちの実家に、
ぼくが夜中に行くんですよ。
で、居間で、家族が寝ているところで、
こそこそ、こそこそ‥‥。
糸井 ほんとに(笑)?
ボーズ いや、ほんとに。
『ブギーバック』くらいまでは、
アニんちの実家でつくってました。
── へええーーー。
糸井 じゃあ、このアルバム全体、
夜中にこそこそと?
ボーズ そうです、はい。
糸井 「ケンちゃんポーズできめ!」とか
夜中にこそこそつくってるわけ?
ボーズ ははははは、そうです。
あの、これ、当時のノートなんですけど。
糸井 うわ、そうなんですか。
へーーー、これをつくったときの?
ボーズ そうです、当時の。
このノートを、こう広げて、
3人の真ん中に置いて、
こそこそ話して、書いて、見せて。
糸井 はーーー。
ボーズ あ、たとえば、このページは
『彼方からの手紙』ですね。
糸井 ああ、ほんとだ。
小さい字だね。びっしり。
こそこそ書いてたんだねぇ。
ボーズ こそこそ、こそこそ。
声の小ささと字が比例してると思う。
糸井 そうか(笑)。
ボーズ となりで家族が寝てて、
ちょっとうるさいとか言われてたり。
糸井 はーーー。
ちょっと、見て、いい?
ボーズ はい。
糸井 「そちらの様子はどうですか
 天気もよくみんな元気です」
あ、ちょっと変わってるんだね。
ボーズ あー、そのへん、途中のやつですね。
歌詞になってない部分とかは、
ちょっと恥ずかしいですけど(笑)。
たぶん、できあがったのが、
こっちに清書してある。
糸井 ああ、ほんとだ。はぁーーー。
いやぁ、これは、うれしくなっちゃうね。
ボーズ はははは。
糸井 だって、ほら、ぼくは、リスナーだからね、
とくにこのアルバムに関しては、
すごく、ファンだから。
ボーズ (笑)
糸井 ふーーーーん。
(ノートを慎重にめくりながら)
‥‥なんでこんなことはじめたんだろうね。
ボーズ はははははは、そうですねぇー。
糸井 他にもいろいろさぁ、あるじゃない。
この道じゃない道って
ものすごい多いじゃないですか。
ボーズ そりゃそうですね(笑)。
糸井 いや、それは誰に聞いてもきっと
そうなんでしょうけどね。
よりによって、この道、3人もろとも。
ボーズ そうなんですよねー。
糸井 すごいことですよね、思えば。
ボーズ そうですね。
このアルバムをつくってたときは、
ラップでアルバムをつくれるなんていうことが
世の中の状況として
あまり考えられなかったころなので、
「もしもラップのアルバムが
 つくれたらうれしいね」
っていう気持ちしかなかったですね。
糸井 ああ、ああ、なるほどね。
ボーズ アルバムができて、ライブとかできたら、
もうそれ以上、望むことはないっていうか。
そういう意味では、けっこう、気合というか、
これで最後と思いながら、やってましたね。
3人とも。
糸井 なるほどね。
あの、質問だけれど、
どうして、ラップだったんだろう?
ボーズ いや、なんか、
たまたまラップをやっただけみたいな気も
ありますけどね。
糸井 ああー。
ボーズ なんか、表現したかったことがあって、
ちょうど、ラップが好きで、
目の前にそれがあっただけで、
時代が少しでもちがえば
ぜんぜん違うことをしてたんじゃないかなぁ。
糸井 本田宗一郎だったらエンジン作ってたみたいな。
ボーズ ははははは、いや、さすがにエンジンは
作れなかったかもしれないですけど、
コントとかやってたかもしれないし、
マンガを描きたかったような気もするし。
糸井 なるほどね。
ボーズ なんか、だから、よく、
「スチャダラパーさんはラップの先駆者で」
とか言われたりするんですけど、
いまだに違和感がすごいあって。
糸井 ああー。
ボーズ べつに、ぼくらは、ほんとに、
真ん中にいた気はまったくないので。
糸井 なんだろう、スチャダラパーって、
たしかになにかをはじめたし、
リスペクトされて当然なんだけど、
なぜか、つくってきたはずの
ラップの世界から外れているというか、
すごくインディペンデントな
感じがするんですよ。
ボーズ ああ、はい。はい。
糸井 それは、当人たちがそういう姿勢だから、
ラップの様式に埋もれないのかもしれない。
ボーズ そうですね。
いまだに、なにかしら、
王道にあるものとは、ちょっずれたところで、
なにかをやりたい気分があるので。
糸井 うん。わかる。
いや、今日は、いろいろよくわかった。
どうもありがとうございます。
ボーズ はい、ありがとうございました。
糸井 おもしろかったーー。
ボーズ おもしろかったです。
あの、昔、このアルバムをつくったときは、
今日話したようなことなんて、
ぜんぜん訊いてくんなかったですよ、誰も。
糸井 ははははは。
当時はどんな扱いだったの?
ボーズ なんか、かわいい3人組、みたいな。
よくわからないアルバムを出したぞ、みたいな。
糸井 (笑)

(ボーズさんと糸井の対談は今回で終わりです。
 読んでいただき、どうもありがとうございました)

 

 

2010-08-31-TUE



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その人特有の型のようなものがある
クラッカーMC'S
境界は「甘え」の分量。
 



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