糸井さんと清水ミチコさんの雑談ときどき真面目な話。
担当・たなべあきこ
第4回 矢沢さんにあって糸井さんにないもの
- 糸井
-
さっき話に出てたけど、永ちゃんって
超パンダなんだと思う。
桃井かおりも(笑)。
例えばさ、幼稚園に行く子どものいるお母さんが
自分の子どものハンカチに、クマとかウサギとか
目印代わりに描くじゃない。
その時に描かれるパンダだね。
- 清水
-
何それ(笑)。
- 糸井
-
目印に描くだけなんだけど、
パンダはものすごくパンダじゃない(笑)。
ウサギはまあ耳でわかるけど
ネコとクマと描いても案外わかんないじゃない。
- 清水
-
うんうん、なるほど。
- 糸井
-
でも、パンダは超パンダじゃない?
- 清水
-
人も集まるしね。
- 糸井
-
そう。
- 清水
-
そうか。だから、おかしいのかな。
- 糸井
-
だってさ、どう言ったらいいんだ。
永ちゃんの面白さって、とんでもないよ、やっぱり。
- 清水
-
面白さって、笑う方と深みがある方の二つあるけど、どっち?
- 糸井
-
結局それね、一つのものだよ。
- 清水
-
あ、そう?
- 糸井
-
うん。永ちゃんはね、二の線じゃないんだよ。
- 清水
-
ふーん。
- 糸井
-
ひょうきんな子だったらしいんだ。
- 清水
-
え、「成りあがり」読むと違うけど(笑)。
- 糸井
-
だから、ちょっとかいつまんでんだよ、あれは(笑)。
- 清水
-
書いた人が言うんだから間違いないか(笑)。
- 糸井
-
うん。あのね、今にして思えばやっぱり
ジョン・レノンもそうなんだ。
- 清水
-
ちょっと陽気なところがあるの?
- 糸井
-
面白いことやってニヤニヤしてるっていうところが
ジョン・レノンにはあってさ。
それが音楽にいったからビートルズになったわけで
セールスマンやってても
ちょっとおかしいことやってると思うよ、ジョン・レノンは。
で、永ちゃんは、なんかね、おかしい子なの。
ひょうきんな子なの。
ひょうきんな子が二の線もやれる……。
レパートリーに入ってるんだよ。
だから、できるんです。
- 清水
-
そうかな。じゃあ、笑っても全然平気?
- 糸井
-
いや、そこのあたりは、あまりにも本物なんで(笑)。
- 清水
-
(笑)
- 糸井
-
最近、また永ちゃんのことがさらに好きになる
出来事があったんだ。
暮れに急に電話があって。
その電話かけてきたきっかけが、
昔うちで作った「Say Hello!」っていう
ブイヨンの本があって
「それを今、ずっとあったんだけど見たら、
糸井、面白いことしてるねえ」って。
- 清水
-
(笑)。すごいうれしいですね。
- 糸井
-
「いいよ。そういうところがいいよ」って
何年前の本だよ(笑)。
もうさ、14、5年前の本を今見て
電話したくなったって(笑)。
- 清水
-
へぇー、少年っぽいですね。
- 糸井
-
あとは、
「思えばおまえのやってることはそういうことが多くて
俺にはそういう優しさとかってのがないのね」っていってた。
- 清水
-
そんなことないですよね、きっと。
- 糸井
-
そう。
だから
「それは違うよ。同じものをこっちから見てるか
あっちから見てるかだけで
俺は永ちゃんにそういうのをいっぱい感じるよ」って
伝えると「そうかな」って。
「うれしいよ、それは」って言ってた。
- 清水
-
ずいぶん……。
- 糸井
-
いいでしょ?
- 清水
-
うん。
- 糸井
-
だから、どう言えばいいんだろう。
永ちゃんは、ボスの役割と
それからときにはしもべの役割をしたり、
ただの劣等生の役割をしたりと
全部してるんです。
- 清水
-
そうか。
- 糸井
-
それを全部大体俺は見てるんで、
あの世界ではもうトップ中のトップみたいに
なっちゃったけど、全然今までと同じだなと思って。
また今年、じーっと見てようかなと思ってる。
- 清水
-
いくつぐらい、6つぐらい上ですか。
- 糸井
-
いや、あっちのほうが下だよ、1歳。
- 清水
-
あ、1歳年下?
- 糸井
-
1歳年下。
- 清水
-
何で知り合ったんですか、最初。
- 糸井
-
「成りあがり」って本を作るために知り合ったのが最初。
- 清水
-
あ、本ありきで?
- 糸井
-
ありきで知り合った。
- 清水
-
へぇー。で、どんどん好きになってったんだ。
- 糸井
-
キャロルとか見てたから、カッコいいなあと思ってて。
カッコいいと面白いは、当時から一緒だったのよ。
- 清水
-
ああいう不良が好きっていうブームって
本当は脈々とあるじゃないですか。。
今、さすがにないのかな。
- 糸井
-
ああいう脈々の不良の好きは、日本にはなかった。
- 清水
-
なかったの?
- 糸井
-
なかった。キャロルまでなかった。
- 清水
-
本当?
- 糸井
-
うん。
キャロルがあって
ダウン・タウン・ブギウギ・バンドが出てきた。
その後に「ツッパリHigh School Rock’n Roll」だとか。
- 清水
-
横浜銀蝿。
- 糸井
-
どんどんキャロルに上積みしていったものです。
- 清水
-
ふーん。
- 糸井
-
でも、世界的に見ると
若いビートルズはやってたわけ。
- 清水
-
でも、江戸時代に若くて不良っぽいのが
モテたみたいのもあったでしょう。
- 糸井
-
それは、若くて不良っぽいっていう人が
モテたのは脈々とあると思うよ。
サッカー部のほうが読書クラブよりはモテますよ。
- 清水
-
そうだね、そりゃ(笑)。
- 糸井
-
モテる人は、私につれないっていうのが
かえってよかったりしてね。
モテない人は、大サービスしてるのに
「しつこい」って言われたり(笑)。
- 清水
-
不条理よね(笑)。
永ちゃんにあって、糸井さんにないものって
いうと何だと思いますか?
- 糸井
-
永ちゃんにあって、うーん……責任感じゃないかな。
- 清水
-
へぇー。それこそ社長としても?
- 糸井
-
ぼくは。永ちゃんから学んでますよ(笑)。
生まれつきボスザルとして生まれたサルと
そうでもないサルといるんだよ。
- 清水
-
そうか。「成りあがり」そっちだったんだ(笑)。
- 糸井
-
そうでもないサルが、「ボス、すげえっすぅ!」
「ちょっと書いときます!」みたいな(笑)。
チンパンジーの戦争のドキュメンタリーっていうのがあって
ボス争いがあるんだよ。
クーデター起こそうとして失敗したやつが
結局追い払われて、隣の山からずーっと様子を見てたりとか。
- 清水
-
かわいそう!
- 糸井
-
そういうドキュメンタリーがあって、
そのボスっていうのを、何で決めるのかというと。
- 清水
-
うんうんうん。
- 糸井
-
喧嘩じゃないんだよ。
- 清水
-
喧嘩じゃないの?
- 糸井
-
喧嘩じゃないんだよ。
- 清水
-
喧嘩以外に何かあるの?
- 糸井
-
教えましょう。パフォーマンスなのよ。
- 清水
-
ウソ(笑)。
- 糸井
-
(笑)。
まず、「俺は、いずれ挑戦しますからね」みたいな目で
ボスを見るところから始まってて、
「おまえの最近のその目つきは目に余る」なんてなると
すごすごっと逃げたりを繰り返しするわけ。
そのクーデター前は。
で、あるとき、「ちょっと俺の仲間もいるんですよね」
って連れてきて。
「ボスといつまでも呼んでると思ったら大間違いですよ」
ってグッときて。
ボスが、「おい、目に物見せてやる!」って
バーンとかかっていくと
1回ふにゃふにゃっとなるんだけど
追いかけっこになるんだよ。
例えば川のそばに行くと、石とか持って、
川に向かってバッシャバシャ投げるんだ。
- 清水
-
関係ないのに。
- 糸井
-
何の関係もない(笑)。
- 清水
-
すごいね。
- 糸井
-
ボスのほうも、バシャバシャ投げるんだ(笑)。
- 清水
-
(笑)
- 糸井
-
ひっくり返ったり、もう水しぶきあげたり
もう自分が嵐になるわけ。
で、結局のところ、
すごすごと負けたほうが引き下がるの。
- 清水
-
へぇー。
- 糸井
-
つまり、殴られたパンチの強さとか関係ないんだよ。
- 清水
-
じゃなくて
やろうと思ったらこれだけできるよっていう。
- 糸井
-
パフォーマンス(笑)。
それを見てからますます、永ちゃんのステージを見てると
これは、もうできない。
芸能の世界だと、人数でいったら
この人はこれだけ集めるとかあるけど
やっぱり永ちゃんのそのボスザル感は、すごいよね。
- 清水
-
ユーミンさんが1回なんかのインタビューで
どうして矢沢永吉さんは
自分の毎日のようにやるパフォーマンスに
飽きてないのか知りたいっていってた。
皮肉じゃなくてね。
どうなさってると思います?
- 糸井
-
それは矢沢が真面目だから。
- 清水
-
(笑)
- 糸井
-
矢沢、手は抜かない。
- 清水
-
やめてもらっていいですか(笑)。
- 糸井
-
多分そういうことだと思うよ。
- 清水
-
好きなんですね。
- 糸井
-
手を抜けないんだよ、多分。
抜いたらどうなるか、矢沢じゃなくなるって。
だから、矢沢は矢沢を全うするんですよ。
- 清水
-
そうか。それはみんなのためでもあるし。
- 糸井
-
うん。さっき「責任」って言ったのはそういうようなこと。
それのちっちゃいものは、みんなが持ってるわけです。
例えば清水さんの最初の武道館って、大勢が集まって。
- 清水
-
あ、そうです、そうです。
- 糸井
-
あのときに、「私がぐずぐずしてらんない」って
いうのあったじゃないですか、
- 清水
-
そうそうそう(笑)。
- 糸井
-
ありますよね(笑)。
- 清水
-
それと糸井さんが
「お客さんって、けっこう1人を見たい」と言ってくれて。
そうかなと思って1人でやってみたら
やっぱりなんか、あ、これ、いただいたって感じがして(笑)。
- 糸井
-
すごかったでしょう?(笑)
- 清水
-
うん。快感でしたね。
- 糸井
-
やっぱり、何だろうな、ここを私がちゃんとしないと
いけないみたいなのは
やっぱりちょっとずつ、みんな持ってるんですよね。
- 清水
-
そうか。そういえばその武道館で
この間、森山良子さんと一緒にやったんですけど
リハーサルスタジオに行って
うちのスタッフがエレベーターに乗ったら
「何階?」って言ってくれたのが永ちゃんで
めっちゃビックリしたって言ってた(笑)。
やっぱりいい人なんですね。
でも、3階だけど言えない、押させられないです(笑)。
でも、そういう方なんですね、
- 糸井
-
そういう方なんです、うん。
だから、矢沢永吉としてできてる。
みんなが思ってるものを壊すのは
自分であってはいけないって気持ちがある。
- 清水
-
そうか。
- 糸井
-
分裂してるんですよ、ある意味ではね。
みんなが思ってる矢沢永吉像と自分というのは
やっぱり離れてると思うよ。
- 清水
-
そうでしょうね。
- 糸井
-
それはイチローでも何でもみんなそうですよ。
とんでもない人たちは。
- 清水
-
そうか、マウンドに出るときは。
- 糸井
-
うん。清水ミチコはどうなんですか(笑)。
- 清水
-
私、そのままかもしれない(笑)。
できるだけそのままでいようと思うしね。
- 糸井
-
プッて自分で言ったことでふく人は
そのままの人が多いね。
- 清水
-
そうかも。
- 糸井
-
清水ミチコと松本人志と……この2人はふくね、(笑)。
- 清水
-
幸せ(笑)。
- 糸井
-
それ興味ある部分なんですよね。
だから、ぼくは永ちゃんに対しては
ずっと絶対にぼくは下につこうって
もう決意のように持ってますね。
- 清水
-
下のほうが気持ちいいんでしょうね。
- 糸井
-
もうすごい楽しいの、ボスを見るのが。
そういうふうに思わせてくれる人って、
やっぱりそんなにいるもんじゃないんでね。
親しくすることもできるし
見上げることもできるしっていうのは、
ありがたいことだよね。
- 清水
-
そうですね。ちょいちょい電話かかってくるっていう
関係もいいですね、また。
- 糸井
-
ちょいちょいじゃなくて、何かの節目なんだよ。
それは、ずっと意識してるからだって
本人は説明するんだけど、謎だよね。
- 清水
-
矢沢さんとお電話でも対面しても
普通にしゃべることはできます?
- 糸井
-
それは普通。
- 清水
-
ビビらずに?
- 糸井
-
うん、それは普通。
- 清水
-
へぇー。
- 糸井
-
俺は永ちゃんには、もう負けてる場所に
いるからっていうのも言えるし。
そこは楽ですよね。
- 清水
-
そうか、立場をはっきりしとけば。
- 糸井
-
うん。若いときからだったっていうのが
よかったかもしれないですね。
- 清水
-
ああ、そうかそうか。
- 糸井
-
アッコちゃんと清水さんだって
普通でやれるじゃないですか。
- 清水
-
いや、そうでもないです、やっぱり(笑)。
- 糸井
-
本当?
- 清水
-
嫌われたくないっていうのがすごい強過ぎて。
よく噛む、本当に(笑)。
- 糸井
-
本当に?(笑)
- 清水
-
普段もっと面白いんですけどねえって思いながら、
自分を奮起させるんだけど、何も出てこない(笑)。
- 糸井
-
かといって、即席で舞台をやるわけにもいかないか。
- 清水
-
うんうん。