糸井さんと清水ミチコさんの雑談ときどき真面目な話。
担当・たなべあきこ
第2回 清水ミチコさんがパッとしたときのお話
- 清水
-
ところで、ここって社長室なの?
- 糸井
-
うん。でも、ほとんどミーティングルームだね。
- 清水
-
あ、そうなってるんだ。ふーん。
- 糸井
-
ぼくの入ったミーティングはここで行われることが多い。
- 清水
-
ふーん。
- 糸井
-
で、行く場所がないときはここにいれば。
- 清水
-
なんとか(笑)
- 糸井
-
うん。でも、それを知ってて誰か訪ねてくることも(笑)。
- 清水
-
いいね、重厚感がなくて(笑)。
- 糸井
-
(笑)
- 清水
-
風通しよさそう。
- 糸井
-
今考えてるのは、ここに一つぬいぐるみを置く棚を
作ろうと思ってる(笑)。
- 清水
-
(笑)。もうぬいぐるみが待機してる。
あれは「おれ、ゴリラ」じゃないですか。
※「おれ、ゴリラ」とは「明治ミルクチョコレート」のキャンペーンで1972年に登場したゴリラのキャラクター
- 糸井
-
「おれ、ゴリラ」の復刻版ですね。
- 清水
-
ああ、へぇー。
- 糸井
-
チョコレートを買って申し込んで。
- 清水
-
私、あれ持ってて、めっちゃかわいがった。大事にしてた。
- 糸井
-
え、持ってたんですか、当時のあれを。
- 清水
-
持ってたの。なんでかっていうと
親が清水屋商店という商売をしてたので
特別なルートで。
- 糸井
-
そうでしょう。あれ持ってるのはエリートですよ。
- 清水
-
オッホッホッホッホ(笑)。
- 糸井
-
いや、本当に(笑)。
多分あのときも
抽選でぬいぐるみが当たるキャンペーンだった。
「おれ、ゴリラ。おれ、景品。」っていう
キャッチコピーで。
- 清水
-
おれ何?
- 糸井
-
「おれ、景品」って書くんですよ。
- 清水
-
あ、そうでしたっけ。
- 糸井
-
その当時はね、歌奴、今は落語家の名前として
違う名前「圓歌」(三代目三遊亭圓歌)が
声を担当してた。
- 清水
-
いい声だもんね。
- 糸井
-
うん。「おれ、けいしん」って言ってたんです(笑)。
- 清水
-
あ、江戸っ子(笑)。
- 糸井
-
で、そのコピーを書いたのが
誰であろう土屋耕一さんという…….
- 清水
-
あ、そう、すでに。
- 糸井
-
ぼくの憧れの人です。
そのコピーとゴリラをプレゼントするって
なんて面白いことしてるんだろうと思って。
ぼくにとって、そのゴリラも憧れで
当時、石坂浩二さんにもらったの。
- 清水
-
え、なんで?
- 糸井
-
石坂さんちに行ったらあって。
- 清水
-
え、糸井さんまだ学生ぐらいでしょ?
- 糸井
-
学生ぐらい。
二十歳ちょっとぐらいだったんだけど
もう仕事してたんで。
- 清水
-
へぇー。
- 糸井
-
で、ポルシェのオープンカーでさ
「じゃ、原宿のあの交差点とこで待ってろよ」とか言って
石坂浩二が「やあ!」ってパジャマの上にコート着て現れるの。
- 清水
-
へぇー。できないね、それは。
- 糸井
-
で、俺を乗せて、マンションに行って
そこでご飯は作ってくれるし
どこか痛いって言うとマッサージしてくれるし。
- 清水
-
なんでそんなかわいがられたの?
- 糸井
-
いい人なのよ、あの人。
- 清水
-
確かに、本当にいい方ですよね。
- 糸井
-
いい人なの。
- 清水
-
私と光浦さんが4、5年前にサイン会か何かやったときに
「あれ石坂浩二さんじゃない?」ってなって見たら
普通にお客さんとして立ってた(笑)。
- 糸井
-
(笑)
- 清水
-
なんてフットワーク軽いんだと思って
ビックリしちゃった。
- 糸井
-
うん。俺知ってる中でも「いい人番付」に絶対いる人だよ。
彼からしてみれば、自分が遊び相手を探してるときに
ちょっと若いやつで遊び相手になってくれるやつがいたから
「迎えに行って当たり前だよ」みたいなつもりでいるんだ。
- 清水
-
そうなんだ(笑)。すごい。
その頃の糸井さんの仕事って何?
- 糸井
-
コピーライターだったの。
- 清水
-
ていう言葉は?
- 糸井
-
もうあるある。
- 清水
-
もうとっくにある?
- 糸井
-
もうあるある。それで、養成講座から出たばっかりで就職して。
逆に俺、インタビューされてるじゃない(笑)。
- 清水
-
でも知りたい(笑)。
- 糸井
-
で、ちっちゃい会社に入ったら、
そこがたまたまとった少し大きめの仕事があって
ぼくしかそれやる人いなかったからやってたら
なんか石坂さんと馬が合ったというか面白がってもらって。
- 清水
-
へぇー、ラッキーでしたね。
- 糸井
-
うん。俺、確か、手持ちのお金がないっていうときに
「じゃ、ぼく、買っとくから」と言って
「あとで返すから」って返してもらってないのがあるよ
多分。
- 清水
-
あっちは覚えてるよ、きっと。
- 糸井
-
覚えてないと思う。
- 清水
-
そうかな。
- 糸井
-
うん。でも、それの何倍ものお世話になってますからね。
- 清水
-
あ、ごめん、お金貸したのは?
- 糸井
-
お金貸したのぼくなの。
- 清水
-
あ、じゃあ、覚えてない、覚えてない(笑)。
- 糸井
-
2000円ぐらい(笑)。
- 清水
-
不思議ね。ちっちゃいお金でも覚えてるんだね(笑)。
- 糸井
-
何ていうんだろう。
「そんなのしていいのかな」みたいな気持ちがあったんで
覚えてるの。
- 清水
-
ふーん。
- 糸井
-
あと、「スターってお金持ってないんだ」と思った(笑)。
- 清水
-
そんなわけない(笑)。
- 糸井
-
いらないんだよ、多分。
マネージャーとかといることが多いから。
- 清水
-
あ、そうかそうか。お財布なんかいらないのかもね。
- 糸井
-
うん。で、まあ、なんせ屈託のない人だったんで
俺はすごく楽で。
で、そのときに明治製菓のコマーシャルに
石坂さんが出てたからぬいぐるみを持ってて
「そんなに気に入ったんだったら、持っていっていいよ」って
言ってもらったから、抱いて帰ってきた。
- 清水
-
二十歳過ぎた人がぬいぐるみもらったんだ(笑)。
- 糸井
-
ぬいぐるみは、なんか好きでさ。
- 清水
-
へぇー。意外とメルヘンっぽいとこ
ありますもんね、糸井さん。
女の子っぽいというか(笑)。
- 糸井
-
女の子っぽいと言われてることを
男もしちゃいけないのかなって気持ちがある。
- 清水
-
そうだ、今の風潮だ(笑)。
- 糸井
-
そうか?
- 清水
-
そうでしょう。
- 糸井
-
以前に「ダ・ヴィンチ」の編集長だった
横里さんという人がいてその人と一緒に本を選ぶ仕事を
毎月やってたんですよ。
そうするとね、彼はね、オシャレなものを選ぶんだよ。
- 清水
-
うんうん。
- 糸井
-
その彼に「それ、なんで選んだの?」って聞くと、
「いや、かわいいなと思って」って言うの(笑)。
- 清水
-
正直だね(笑)。
- 糸井
-
うん。で、その正直さがすごく気持ちいいわけ。
選んだ説明で、こういうこういうことで
「なんか女の子っていいなと思って」って言うんです。
- 清水
-
羨ましいんだ(笑)。
- 糸井
-
それを素直に言える横里さんに対して
俺はすごく尊敬して
あのくらいのところまでいこうと思ったの(笑)。
- 清水
-
ほう。そんな日があったんだ。
- 糸井
-
うん。
そう、この間よその人と話をしてて、
「ほぼ日の人たちは、相手の人がちょっと何かいいこと言うと、
『え、それどうやるの? 教えて』ってすごく素直に聞く」
って言うわけ。
- 清水
-
へぇー。
- 糸井
-
「なかなかないんですよ、普通の会社は。
うちのほうがすごいって言いたいから」
とも言われて。
- 清水
-
ああ、そうかも。
- 糸井
-
それを聞いて、俺もそうだし「教えて」ってタイプだから
だからそういうのが会社に乗り移ってるのは
いいことだなと思ってさ。
- 清水
-
似てくるんですよね、人間って不思議と。
- 糸井
-
似てくるんだろうね。
- 清水
-
うん。じゃ、ほぼ日の男の人も
かわいいものが好きな人が多いかも。
- 糸井
-
ああ、そうかもしれないね。
逆に言うと女性写真も、
「ラグビーに行こうぜ」と言ったら、スッと乗るしね。
- 清水
-
へぇー。好奇心が強いのかな。
- 糸井
-
何なんだろうね。
男女の色分けがないんじゃないかな。
- 清水
-
へぇー。
- 清水
-
このあいだテレビ見てたら
平成になった人たちの若い人の生き方として
シェアハウスのような共同の暮らしを特集してて。
糸井さん、そんなことできそうですね。
私は絶対無理だけど。
- 糸井
-
今ではできるかもしれないけど
できる人に対して偏見を持ってたね、もっと。
「ダメだ、できちゃ」って思ってたね(笑)。
- 清水
-
恥ずかしがれよって(笑)。
- 糸井
-
うん。
- 清水
-
あ、そうかも。
- 糸井
-
だって俺、男子高だもん。
- 清水
-
男子高っていうのは……。
- 糸井
-
男だけがいる高校だもん。
- 清水
-
やっぱり10代の3年間って
そんなに関係する?
- 糸井
-
うん、するよ。
女の人はもう何というか
神様だもん。
- 清水
-
憧れなんだ。
- 糸井
-
憧れだもん。
- 糸井
-
これすごいな。全部俺聞かれてるな。
- 清水
-
でも私、もっと聞きたいこといっぱいある、もともと。
- 糸井
-
え、そう?
- 清水
-
いつも仕事で流れていっちゃうからね。
- 糸井
-
でもぼくも、清水さんについては
言ったり聞いたりしてみたかったのよ。
- 清水
-
うんうん。
- 糸井
-
大学の勉強は頑張った方?
- 清水
-
うん。家政科で。
うちの田舎って短大とか大学行く以上は、
教師免状を取るのが当たり前みたいな常識があったの。
だから、それを取るまではちゃんと勉強しましたね。
- 糸井
-
へっちゃらなんだ、そういうの。
- 清水
-
へっちゃらってことはないですけど。
でも、料理は好きだし、面白かった。
- 糸井
-
ドロップアウトをしてないんですよね、つまりね。
- 清水
-
うん、してないです。親に心配かけるようなことはしてない。
- 糸井
-
なのに、やってることは、ずーっと(笑)。
- 清水
-
もう本当。とにかくうちの両親は
森山良子さんの「ざわわ」をやめろやめろって(笑)。
- 糸井
-
(笑)
- 清水
-
「まあまあ、もう今年でやめますから」って
30年もやってる(笑)。
- 糸井
-
森山良子さんを見てるとき
清水ミチコを思い浮かべるように(笑)。
- 清水
-
なっちゃうじゃないか(笑)。
- 糸井
-
なってしまう(笑)。
- 清水
-
そうそう、私のひいおじいちゃんが
「エイザブロウっ」て名前なんだけど
「嘘つきエイザ」って呼ばれてて(笑)。
- 糸井
-
うん(笑)。
- 清水
-
自分の名誉のためとかお金のための嘘じゃなくて
本当に自分の楽しみのためにだけ嘘ついてて。
例えば、お坊さんのところに行って
「田中んちのじいちゃんが死んだから、すぐ行け」とか
真顔で言うと飛んで行くでしょう?
それを見て、1人ですっごい笑ってんだって。
「飛んでった、飛んでった」って(笑)。
- 糸井
-
単純な嘘だね(笑)。
- 清水
-
そう。それを何回も繰り返して
1人で笑ってたって人が私の祖先なの(笑)。
飛騨高山で。
- 糸井
-
飛騨高山ってさ、崖からクマが落ちてたりするでしょう?
- 清水
-
あ、します(笑)。
- 糸井
-
おじいちゃんは嘘つきかもしれないけど、
「私」は、ちゃんといい子だったんですか。
- 清水
-
うん。
私は、いい子でもなく悪い子でもなく、
パッとしないような子だった。
でも糸井さんの「ヘンタイよいこ新聞」とかを
高校のときに読んだり
「オールナイトニッポン」を聞いたりとかして
だんだんそういうお笑いの世界みたいなのに……。
- 糸井
-
パッとしていったわけ?
- 清水
-
自分の中ではね。パッとしていったけど
ほかの人はみんな恋愛してる中で
自分だけが「ビックリハウス」載ったとか
ラジオで投稿読まれたとか
幸せの度合いがちょっと違う感じだった。
- 糸井
-
だけど、ラジオで選ばれたり
「ビックリハウス」載ったりするのって
実はけっこう難しいことだよね。
- 清水
-
そうかな。
- 糸井
-
うん。今やれよと言われて、載る自信、俺ないよ。
- 清水
-
本当ですか。
- 糸井
-
うん。
- 清水
-
へぇー。
- 糸井
-
でも、それができちゃったわけでしょう?
- 清水
-
そんなことばっかり考えてたからね
青春時代ずっと(笑)。
- 糸井
-
ハガキ職人ですよね、いわば。
- 清水
-
そうそう。ハガキ職人って
けっこう幸せっていうか、夢ありましたよね。
- 糸井
-
そうだよね。ぼくはそういうお笑いが
絡むようなものはできなくて。
明治チョコレートでポエムを読んで
チョコレートをくれるみたいな番組があったんだよ。
それで、俺もやってみたら、もらったことがあって。
でももし「ビックリハウス」みたいなことだったら
俺は無理だったと思う。
お笑いじゃない人だったから、俺。二の線だった。
- 清水
-
自分で言った(笑)。そして、社員が笑っている(笑)。
- 糸井
-
昔は二だったんだ。
- 清水
-
(笑)
- 糸井
-
今でもハガキ職人はできる?
- 清水
-
今はもう、無理かもしれないですね、
そういう試されるときがないから。
もう思いついたらネタにしてる。
- 糸井
-
松本人志さんが、共通一次みたいな形式で
面白いことのテストを作ったことがあったんですよね。
ぼくもやったんだけど、ちっとも面白くないの、自分が。
- 清水
-
へぇー。
- 糸井
-
中でも、もうくっきり覚えてるんだけど、
「一番ごっつ濃い鉛筆は何ですか」っていうのがあって。
つまり4Hから4Bまであるんだけど
それを超える濃い鉛筆は何ですかって。
- 清水
-
いい質問ですね。
何て書いた?
- 糸井
-
提出するわけでもないんだけど
「俺できないよ」みたいになった。
あとで見たら模範解答が、「鬼B」。
- 清水
-
(笑)。悔しい(笑)。
- 糸井
-
悔しいだろ?(笑)
- 清水
-
なんか悔しい(笑)。
でも、ああいうのって
バカリズムさんが、謎かけができない人の気持ちが
わからないって言ってたけど
あるんでしょうね、きっと個性が。
- 糸井
-
できないんだよ、俺(笑)。
- 清水
-
普通できないんじゃない?
やっぱり(笑)。
- 糸井
-
でも、「IPPON」みたいな番組があるじゃないですか。
めちゃくちゃ面白いじゃないですか(笑)。
- 清水
-
すごいよね。
- 糸井
-
もしゲストで呼ばれたらどうですか、清水さん。
- 清水
-
いや、全然無理、全然無理です。
- 糸井
-
写真で一言みたいな何か(笑)。
- 清水
-
(笑)
- 糸井
-
矢野顕子、意外とうまいんだよな。
- 清水
-
Twitterでね。
- 糸井
-
うん。お笑いにいくんじゃなくて
ちょうどいいの書くんだよね。
- 清水
-
ちょうどいいですよね。
- 糸井
-
そうなの、そうなの。
- 清水
-
狙ってない感じでね。
- 糸井
-
そうそうそう。
え、清水さんはできないですか。
- 清水
-
できない。全然できない(笑)。