- 糸井
-
昔、エレキを買って
練習してるときがあって。
そうしたら、まったく音楽も勉強も苦手なやつが、
「♪タンタカタンタン、タンタカタンタン」って、
ベンチャーズのフレーズを、
弾きはじめちゃったのを見て。
何だったんだ、俺はって思った(笑)。
- 清水
- あいつに俺、負けてんだっていう(笑)。
- 糸井
-
負けてるどころじゃなくて、
俺が登れない山を、
あいつは上で逆立ちしてるよと思った。
- 清水
- そう。価値観がもうひっくり返ったんだね。
- 糸井
-
そう。
「何でも基礎をしっかりしとけば
何とでもなるんだから」って
まわりの大人が言って、
俺、バイエルとか習ったんだから、一時は。
ピアノ教室も行ったよ。嫌でやめたけど。
- 清水
- (笑)
- 糸井
-
そういうことの延長線上に、
「ビートルズとか弾ける私」が作られると思ったら
大間違いで。
あいつは、ギターを
「ちょっと貸してみ?」つったんですよ。
で、急にミッシェルを歌ったんですよ。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
-
だから、夢って、
「自分が守る価値観の延長線上にある」
と思っていたら。
今日の明日叶えちゃってる人を見ちゃうわけで。
あれは今の自分に影響与えてますね。
- 清水
-
そうか。
自分は大したものじゃないんだって感じ。
- 糸井
-
うん。だから、清水さんでいえばさ、
モノマネの桜井長一郎さんに弟子入りしてさ(笑)。
- 清水
- 一から(笑)。
- 糸井
-
「おばあちゃん、こっちですよ」って言って(笑)。
それを15年ぐらいやって、やっと、一人前に。
- 清水
- 人前でできるように(笑)。
- 糸井
- と思ったら大間違いで(笑)。
- 清水
-
(笑)。
あ、習うものじゃないものは、
確かに芸能ってあるかもしれないですね。
なぜかできるって人、多いですもんね。
- 糸井
-
うん、でしょう?
で、もう一方では、ピアノ弾けてるんですよね。
その、「基礎や練習が必要だ」っていうのと、
「とにかくやりゃいいんだよ」っていうのと、
自分ではどう思ってる?
今日の明日じゃ、弾き語りモノマネはできないよね。
- 清水
-
ああ、そうかもね。
それはやっぱり私が、
10代の頃にすごい感銘受けたから。
悔しかったんでしょうね、きっと。
「私が矢野顕子になるはずだったのに」みたいな(笑)。
- 糸井
-
その心って大事かもね。
その、何ていうの、不遜な(笑)。
- 清水
- 何という自信なんですかね(笑)。
- 糸井
- (笑)
- 清水
-
でも、今でも、練習してて、
「もうちょっと頑張ったら、
矢野顕子になれるんじゃないか」
って思ってる自分がいるの。
- 糸井
- ああ。
- 清水
-
基本ができてないだけで、
もう少しやればとか、
そういう変な希望みたいのがあるんですよね。
- 糸井
-
矢野顕子にあって、
清水ミチコにないものは何なの?
- 清水
- あ、それは音感。
- 糸井
-
音感、ああ。
指の動きとかではなくて。
- 清水
-
あ、指ももちろん。
ピアノから何から。音楽性。
- 糸井
-
でも、同じ道で、矢野さん、
「振り向いたら後ろに清水がいた」
ぐらいの場所にいるわけだ。
- 清水
-
矢野さん?
いない、いない。
全然レベル違う、それは(笑)。
- 糸井
-
でも、遠くに見えるっていうぐらいには
清水さんいるんじゃない?(笑)
- 清水
- いないと思う、多分。
- 糸井
-
だって、ピアノ2台くっつけて
両方でやってたじゃないですか。
- 清水
-
あれも、矢野さんは
「一筆書きでササッと書いてる」んですよ。
私は、
「矢野さんがどういう一筆書きをやったか」
っていうのを綿密にコピーして頭の中入れて、
さも「今弾きました」
みたいなふりをしてるだけで。
それはやっぱりすぐわかりますよ。
全然違う。
- 糸井
-
それも瀬戸内寂聴さんをやるときと、同じともいえるね。
「あなたのやってることはこう見えてますよ」
っていうことだよね。
- 清水
-
あ、そうですね(笑)。
それだったらうれしいね。
(つづきます)