- 糸井
- 清水さんを「面白がらせるもの」って、何だろう?
- 清水
-
私はやっぱり、耳で聞いたことを、
自分なりに「こういうふうに感じました」って
芸をすると、違っててもおかしいんだろうね、きっと。
- 糸井
-
今日、清水さんに会うんだなと思って、
何かひとつぐらい自分で、
「これを思ったんだよね」ってこと言いたくてさ。
発見したのが、
「『私はこう感じてます』っていうことを
してるんだね」ってことだったの。
- 清水
-
あ、本当?
あ、当たってます(笑)。
- 糸井
-
ねえ。で、なぜそう考えたかというと、
清水さんって批評してないんだよ、全然。
- 清水
- あ、うれしい。
- 糸井
-
つまり、いいだの悪いだの何も言ってなくて。
その真似してる対象の人が、
「私にはこう感じられちゃってますよ」っていう(笑)。
- 清水
-
(笑)。そうかも、うん。
さすが、うん。
- 糸井
- ねえ。それって芸になるっていうか(笑)。
- 清水
- (笑)。どうなんだろうね、うん。
- 糸井
- 通信販売をする瀬戸内寂聴さんとか、あるじゃないですか。
- 清水
- はい(笑)。
- 糸井
-
あのとおりしてないんだけど、
「私にはそう見えてますよ」っていうだけでしょう?
- 清水
- そうですね、うん。
- 糸井
-
で、いいとか悪いとか
ひとつも言ってないんですよ(笑)。
たとえば、ある芸能人がいるとして。
「その人がおおむね強気なことを言ってる」
っていうのは、みんなが感じてるとしてさ。
それを、
「あなたのことを、
『すごく強気なことを言ってる人』として
面白いなあって、見ちゃってますよ」っていう(笑)。
本人は悪気があるとかないとかを
全然言うつもりはないんですけど、
こう見えてるんですよね(笑)。
- 清水
- 確かに、うん。
- 糸井
-
そうするとお客さんが、
「そう見えてる、そう見えてる」って(笑)。
- 清水
-
「あるある」つって、そうそうそう(笑)。
共感の人が多いでしょうね。
- 糸井
-
共感、共感ですよね。
じゃあさ、「どうして声が似るの?」
っていうのは聞かれたことある?
- 清水
-
ああ、ない。
どうしてだろう(笑)。
- 糸井
- おかしいよね。声が似るってさ。
- 清水
-
本当だ。
しかもそれで生計立ててるってね(笑)。
- 糸井
-
(笑)。
つまり、「しゃべりの癖」が似る、はできるよ。
要するに、似せるんだろ?
で、「ここがこうなんだな」とかいうのを
耳コピしてるわけでしょ?
けど、「声の質」まで似るのは
どうしてなんだろう。
- 清水
- ああ、そうか、うーん。
- 糸井
-
うん。
だってユーミンと矢野顕子さんって、
お互い似てないじゃん。
- 清水
-
うん、似てないですね。
全然違う(笑)。
- 糸井
- どうして私が挟まると(笑)。
- 清水
-
(笑)。
ユーミンさんのモノマネして、
その後に矢野さんのモノマネしてだったら、
「あ、似てる」って錯覚しますよね。
だけど、私がユーミンさんをやって、
ここに本物のユーミンさんが来て一緒に歌ったら、
「全然違う」ってわかると思いますよ。
- 糸井
-
でも、近いことやったことあるでしょう。
矢野顕子さんとはやってますよね。
- 清水
-
うん。そうですね。
ユーミンさんとやったときも、
ちょっと似てるなと思った(笑)。
- 糸井
- あるよね。ほら。
- 清水
-
やっぱりすごく好きだと‥‥そうなのかな。
自分ではどうして声が似るのかはわかんないな。
- 糸井
- どうしてなんだろうね。
- 清水
-
うん。でも、
「私の歌を聞いて」
って気持ちに全然ならないけど、
「私が演じる誰かを聞いて」
っていう気持ちにはすごいなる。
- 糸井
- その人の代わりに歌ってる(笑)。
- 清水
-
「その人の代わりやるから、
こっち聞いて。面白がって」
っていうのは強いと思う、人より。
- 糸井
-
ああ。
だって、そうだ、井上陽水さんもやったよね。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
- 無理だろ、普通に考えたら(笑)。
- 清水
- 今考えたらそうだね(笑)。
- 糸井
-
忌野清志郎さんをなんとかしちゃったもんね。
清志郎さんの初期と今とでは、
圧倒的に今のほうが似てるよね。
- 清水
- あ、そうですかね。
- 糸井
-
うん。何それって、
改めて自分では考えたことはない?
- 清水
-
モノマネしてる人のレパートリーって、
10代のときに影響された人で止まってて。
30代、40代超えて増えたのは、
瀬戸内寂聴さんとか真矢みきさんぐらいで(笑)。
歌手ではもうほとんどいないかもしれない。
- 糸井
-
ということは、例えば仮に、
いま流行ってる西野カナさんのマネしなさいって言われたら、
清水さんには、西野さんは「聞こえてこない」んだね。
- 清水
- そうですね。よくわかりますね。
- 糸井
-
それってさ、例えば絵描きさんでね、
「水の中に氷が浮かんでます」っていう
のを描く人は、描けるじゃないですか。
それは「見えてる」から描けるわけですよね。
- 清水
- うん。
- 糸井
-
でも、ぼくらには、
その氷が浮かんでるものが「見えてない」んですよ。
- 清水
- そうね。
- 糸井
-
うん。解像度が低い。
だから、描きようがない。
- 清水
-
そうそうそう。
本当確かにそう。
だから、安室奈美恵さんがやめるっていうときに、
号泣した人たちの気持ちに、
1回なろうと思うんだけど、
やっぱりなれない(笑)。
- 糸井
-
10代のとき夢中になった人は
できるってことは、
そのときは受け止める側の脳細胞が、
バッチバッチに‥‥
- 清水
-
そうそうそう。
当時は感受性がもう、強くて。
歌で泣いたりとか、
一緒に喜んだりとかしてて。
もうやっぱりこの年になると、出ないんですよね、
そういう歌手の人ってね。
- 糸井
- 脳がついてってない(笑)。
- 清水
- 多分、うん、解像できない。
- 糸井
-
つまりそういうことで言って、
年とってからでも好きになった人はいる?
- 清水
- 瀬戸内寂聴さんとか、山根会長とか(笑)。
- 糸井
- 山根会長(笑)。
- 清水
-
ああいうなんか、面白がりましょうよっていう気持ちは
やっぱりあるから。
- 糸井
-
普通の人が意に介してないものを、
ちょっとピントを合わせて見てるんだよね、きっと。
- 清水
- あ、そうですね(笑)。
- 糸井
-
だから、商売にするには、
ちょっと、本当は足りないでしょうね。
- 清水
- ああ、そうですね。
- 糸井
- ユーミンと山根会長を比べると、完成度が(笑)。
- 清水
- 全然違う違う(笑)。
- 糸井
- でも、ちょっと混ぜるっていうぐらいでいいから(笑)。
- 清水
- そう。もう余生はそうやって暮らす(笑)。
- 糸井
-
でも、ベースになるユーミンは
今でも聞きたい人がいるわけだから。
案外、浮世に流れなかったんですよね。
モノマネの人ってけっこう難しくてさ、
大ヒットが出たりすると、
その人と共に消えるじゃないですか。
- 清水
- ああ、本当だ。
- 糸井
-
でも、あなたの場合は、なんやかんやいって、
編集し直すっていうか(笑)。
- 清水
- 編集(笑)。
- 糸井
-
ユーミンはユーミンなんだけど(笑)‥‥
もう1回、ここに置けば違って見えるとか(笑)。
- 清水
-
薄めて薄めて(笑)。
ごまかし、ごまかし。
- 糸井
- それで武道館ができちゃうんだから。
- 清水
-
本当だね。
私の好きな桃井かおりさんとか、矢野さんとか、
ユーミンさんの世代が、
キャラクターがまず強い、っていうのもありますよね。
みんな知ってるし。
- 糸井
- そうか、お客の「好き度」も濃いんだね。
- 清水
- そうそうそう。
- 糸井
-
「またユーミンやって!」って言いながら
来るわけだもんね。
- 清水
-
そうですね。
私の心を込めた歌はいいから、
ユーミンやってって(笑)。
(つづきます)