もくじ
第1回聞きたいことが、たくさんある。 2019-02-05-Tue
第2回誰かが笑ってくれると、幸せ。 2019-02-05-Tue
第3回ヘンな希望があるの。 2019-02-05-Tue
第4回永ちゃんは、すごい。 2019-02-05-Tue
第5回不幸になるような気がしない。 2019-02-05-Tue

「文章を書くこと」と「写真を撮ること」が好きです。コピーライターをしています。6月6日生まれのふたご座です。

世界はこんなふうに見えている。

世界はこんなふうに見えている。

担当・栗田真希

第5回 不幸になるような気がしない。

糸井
大むかしに、清水さんにさ、
何かの映画の試写会みたいな場所で
ぼくが、筋トレに誘ったことあったよね。
「ちょっと来ない?」程度のことだったんだけど。
清水
ああ、あれ、どうなったの? 
もうやめた?
糸井
サボってるんだよ、ずっと(笑)。
清水
あ、そう(笑)。
糸井
面白くてのめり込んで筋トレやってた時期だったから、
話をして、「ほら、ほら」って言って胸とかを突き出したら、
清水さんが言ったんだよ。
 
「誰も糸井さんにそんなこと望んでない」。
清水
ひどいねえ。でも私、言いそう(笑)。
糸井
その一言が、なんて当たってるんだろうって(笑)。
その後、清水さん自分でトレーニングしてるよね。
清水
そう、ジムでね。
糸井
それは何か理由があってはじめたんですか。
誰もそんなこと望んでないのに(笑)。
清水
(笑)。
私は、単なる体力維持かな。
糸井
持ちをよくするため。
清水
そう。
あと、意外とストレス発散になるってことが
よくわかった。
糸井
それは効果があるんですか、やっぱり。
清水
うん、そう思った。
帰り道の人はみんな
「スッキリしたー」って顔してます、やっぱ。
糸井
ああ。
清水
糸井さん、なんでやめたのかなと思って。
糸井
おれはやっぱり、社長になったからだよ。
清水
へぇー。
糸井
なんていうの、
ある時間ここに拘束されてれば、ここは自由です、
みたいには、なってないから。
清水
ずっと忙しいってこと?
糸井
ずっと気は休まらないよね。
やっぱり嫌なものだよ。
清水
えぇー。
私、今日、最終的に聞きたいと思ったのは、
糸井さん、死にたくないだろうなってことなの。

糸井
死にたくないよ、そりゃ。
清水
当たり前か(笑)。
糸井
死んだらしょうがないとも思うし。
清水
うんうん。でも、私のイメージの中では、
少年が、貧乏生活もしてきて、
孤独とか知りながら、
いつの間にか社員70人を超える会社の
社長になったわけじゃん?
すごいサクセスストーリーっていうか。
 
そういう人が一番怖いのって、
やっぱり健康じゃなくなることとか、
死ぬことかなって思ったの。
糸井
いや、それは別に怖いとかじゃなくて、
さっきの永ちゃんのちっちゃいサイズだよ。
つまり責任があるんだよ。それだけのことだよ。
だから、忙しいんだよ。
清水
「もうやめたい!」ってならない?
糸井
やめたいって言っちゃいけないじゃん。
清水
ああ、そうだねえ。
糸井
そんなことを思ってるだけでも、
ちょっとストレスだよね、きっと。
清水
そうね。
糸井
清水さんは「モノマネをやめたい」だなんてこと、
思う必要がないわけだよね。
でも、あなたのおかげで食べてる周りの人っていうのは、
それはそれでいるじゃない。
清水ミチコ事業という体系があるよ、やっぱり。
だから、「私は倒れちゃいけない」っていうぐらいには
きっと思ってるでしょう?
清水
本番で倒れちゃいけないとは思うけど、
でも、私はやっぱり糸井さんとは全然違います、
スタンスは。
糸井
そうか、うん。
でも、その色、形、大きさは違うけども、
そこはみんなあるわけで。
大人はあるわけで、子どもだったときには、
それはないふりをして生きてるわけじゃない。
清水
そうだね。
糸井
大人になっちゃってからは責任感があるから、
そこはもうしょうがないよね。
それにやっぱり、
まんざらでもないみたいなとこあるじゃないですか。
「皆さん、お元気ですか」って言ったら、
「元気でーす!」って返ってくるみたいな。
その「元気でーす!」って声も含めて、
おれじゃないですか、もう。
清水
そうか、うん。
糸井
武道館でずっこければ、みんながワーッて湧く、
みたいなのも含めて私じゃないですか。
そうなるから、やれるうちはやろうっていうのを。
ただ、いまは引退の準備をしながら、
一生懸命やってるみたいな状況ですよ、もう。
清水
あ、本当?
糸井
うん。
それは、しがみつく人になったら、やっぱり悪いからさ。
清水
次の世代に?
糸井
うん。
得意で社長やってるわけじゃないから、おれ。
もっと社長得意な人がやったほうがいいのかもしれないし、
わかんない、それは。
それに、本当の金儲けの種をもっとぼくにやらせるには、
早く社長をやめさせてあげたほうが儲かると思うんだよ。
清水
なるほど。使ったほうが。
糸井
うん。で、ちょっとほったらかしにしておいて、
「いいのができたんだよ」って考えたなかの
5個に1個ぐらいが当たったりするほうが、
おれに社長をやらせてるよりは、
なんか、いいような気はしてるのよ。
清水
そうかもね。
糸井
まあ、年取ったら、よしたほうがいいなと思って。
清水
あ、そう?
糸井
ずっとしゃがんでたあとで立ち上がったときに、
ひざが痛いもん。
清水
なるほどね(笑)。
糸井
清水さんは、この先どうするみたいなこと考えるの?
清水
先をどうするは考えないけど、
占いの人のところに行ったことがあって(笑)。
糸井
自分で考えたくないんだ(笑)。
清水
人に頼った(笑)。
そしたら、車椅子に乗って演芸やってるって。
糸井
ああ。
でも、その姿を拍手で迎える人がいる限りは、
それはOKですよね。
清水
そうかもね、お客さんの前に出るかもね。
糸井
だから、関係なんだと思うよ。
自分としては嫌だって言っても、
そんなに喜んでくれるんだったら、
車椅子に両側に、龍をつけてね。
清水
凄みが、凄みが(笑)。
糸井
雷様みたく、雷鳴と共に登場。
清水
笑えないです(笑)。
糸井
そういうのもありだし。
あ、じゃ、考えたくないのはあるんだね。
清水
うん、そうですね。
でも、
私、不幸になるような気がしない。
糸井
ああ。それがすべてだと思うね。
その「運悪くないし」みたいなね。
清水
うん、そうね。人様のありがたみを知った。

糸井
おれ、孫ができたじゃん。
見てるともうね、うらやましいの、やっぱり。
清水
あ、楽観性が?
糸井
そう。
清水
子どもって、とくにそうなんですよね。
糸井
あなたは母親やってたから知ってると思うけど、
ひとりでは生きていけないのに、
一切心配しないで「フャーッ」とか言ってるっていう(笑)。
清水
(笑)。
そうね。それで、さも
自分で大きくなりましたって顔するからね、みんな。
糸井
うん。だから、それがないと、
やっぱり生きものってダメでさ。
ぼくなんか、ちょっと余計に考えすぎるほうでさ。
自分がふたりいて、リレーをやってるんです、いつも。
ものすごく考える私と、なにも考えない私が。
 
ものすごい考える私っていうのが、
「本当大変なんですよ」って言ってるのに、
さあ、本番だっていうと、
考えない私のとこにバトンが行くんです(笑)。
そのおかげでなんとかなった。
清水
へぇー。
糸井
そうなんです。
 
……今日はしゃべったなあ。
清水さんのサクセスストーリーを語るような
企画にはならなかったけれども(笑)。
だけどさ、おれ、3年か4年前に、
武道館の最初やったぐらいのときに、
ああ、清水さんもボスになったんだと思ったよ。
清水
え、本当?
糸井
うん。
つまり、立候補しないのにボスになった人って
いちばんいいなと思ったよ。
清水
ああ、武道館? うーん。
糸井
何ていうんだろう、利害関係なく集まってるじゃん。
清水
ああ、そう、そう。
よくわかりますね(笑)。
糸井
べつに、清水プロダクションに入ったわけでも
なんでもないのに集まってて、
なんとなく、そこにひとつ、
「こうやったほうがいいかな」て言ったら、
「そうじゃない?」って返すやつがいたとかさ、
みたいになってるでしょ、どうせ(笑)。
清水
うん、えらいもんで、そうですね(笑)。
糸井
その場所に立つのって、
なかなか大変なことでさ。
清水
目指したらね、きっと大変だと思う。
糸井
目指したら大変なのに。
清水
うん、運もよかった。
糸井
「私は人の世話をしてきたんですよ」
なんて思ってないでしょう。
清水
ああ、お世話してない。
でも、若い頃はしたいと思ってたの。
私も永六輔さんみたいになって、
新人のライブを見に行って、「こうしたほうがいいよ」とか
背中を押してあげるようなおばさんに
なれたらいいなと思ったけど。
やっぱり、自分の今日とか明日のことで
いっぱいいっぱいなのよね。
だから、人の背中を押してあげるって人は
たいしたものなんだなと思うようになった、
この年になったら。
糸井
つまり、してないって。
清水
してなーい。
これからもしなーい(笑)。

糸井
でも、「こんなんでもいいんだよね」は見せてるよね。
清水
うん、そうだね。
「こんなんでも大丈夫ですよ」って(笑)。
糸井
というのは見せてるね。
それから、あんまり、ツッパってないよね(笑)。
たとえば清水ミチコが番組のゲストで、
結局ふた言ぐらいしかしゃべんなくても、
お笑いの本職の人だとわりと気にするんだけど、
清水さんは全然……
清水
しょうがないじゃん、って(笑)。
糸井
出番が来なかった(笑)。
清水
もう終わった(笑)。
糸井
そのときには、まあ、ピアノも弾くしみたいな。
清水
なにかありゃ。
糸井
あの、だから、
ぜんぶアリですよねっていうのは、
ちょっといいですよね。
清水
うーん。
はじめて客観的に自分を見たような気がした。
糸井
意識はしてないよね。
清水
うん、してない(笑)。
糸井
来る仕事であまり嫌じゃないのは、
ぜんぶ引き受けますよってことしてるんですよね。
清水
うん、そうですね、うん。
糸井
本当に、今日はこっちがインタビューされて……
清水
そんなことないよ(笑)。
糸井
みなさんから、なにか質問があれば、どうぞ。
――
清水さんがからだを鍛えてた糸井に
「あんたにそれは望んでない」と言った話をもう少し……
清水
あ、私、その頃ね、ちょうど知り合いに、
「これ食べたら太るかな」
って聞いたことがあって。そしたら、
「清水さんが太って困る人、どこにいるんですか」
って言われて。
しまった、自分だけが自分の美にこだわってたなと(笑)。
――
同じことを言われたんですね(笑)。
清水
同じこと言われた(笑)。
糸井さんに言ったのは、
その前後だったかもしれない。
糸井
ああ。そのへんって、いい、いいね。
俺はね、それは感動したんですよ、実は。
――
何度も言ってますよね、それは。
糸井
あれを、あれを、
どうしてみんな気づいてないんだ、って(笑)。
清水
(笑)
――
あれを親しい人にもちゃんと言えるというのは、
ある種のプロデュースでもあるなと思って。
糸井
うん、そうだよね。
清水
本当?(笑)
糸井
あ。
別にいい話で対談を終わらせたいわけではないんだけど、
清水さんも、いい気にならないモードを保っていられるのは、
いい気になっちゃいけないと思ってるからですか。
清水
いや、そんな立場にないからだよ(笑)。

糸井
ああ……ああ。
役割としてさ、
多少偉ぶってくれないと困るんですよねって場面に
呼ばれることはないですか。
清水
あ、審査員とかね? 
うんうん。あるある。
糸井
そのときは、役目としてなにかこう、
しますよね、当然ね。
清水
うん、そうですね。
やっぱりちょっと偉そうなほうが、
その場合いいんですよね、おさまりが。
糸井
おさまり、おさまり。
で、それを経験していくと、
そういう人にどんどんなっていっちゃうじゃないですか、
けっこう大勢の方々が(笑)。
清水
そう、こればっかりは。これ本当キャリアあると、
こんな面倒くさいことあるかね、
っていう思いになりますよね。
糸井さんもそう、やっぱり?
糸井
うん。
だって俺、だいたいどこ行っても
もう年上になってるしさ。
清水
ああ、そうかそうか。
糸井
あるよね。
で、それは自分はいい気にたぶんなってない
と思うんです。なってないのは、
ならないようにしようとしてるからだと思ったんですよ。
で、清水さんとかもなってないのは、
なんでかなっていうことで。
ひとつはさ、ならない理由のひとつはやっぱり、
失われるものが大きすぎるからだよね。
清水
ああ、そうかもね、うん。
糸井
そうなっちゃったらこれできない、
あれできないが、あるよね。
清水
うん。しかも、モノマネしてる人間が(笑)
糸井
だからやっぱり、
つらかった人ほど、なりがちなのかな。
清水
あ、そうかな。
糸井
うん。やっぱりそうしないと、
守るものの大きさもあるから
やんなきゃいけないのかもしれないけど、
誰でもいい気には、なれるじゃない?
28、9の歳だって。
清水
うんうんうん。
糸井
それを何回も機会があったろうに、
逃げてきた人はちゃんと逃げてるし。
清水
ああ、そうね。
でも、気がつかずになってた、かもしれないけどね。
糸井
奪われるもののほうが多いよっていうのは、
ちょっとなんかね、気づくね。
清水
うん。
糸井
大損ですよね。
清水
そうね、うん。
あとやっぱりほら、
自分を客観的に見てナンボの商売だから、
私たちは。
糸井
ああ、そうかそうか。
「こう見えてるよ」が仕事だからだ。
清水
そうそう。それもあると思う。
糸井
そうだ、そうだ。なるほどね。
「こう見えてるよ」っていうの、
実はプロデュースの原点だね。
清水
あ、そうかね、うん。
糸井
モノマネがプロデュースの原点です。
ほら、対談が終わった。
清水
やめてよ、ちょっと。軽薄(笑)。
糸井
やめてよ、軽薄、までで(笑)。
いやあ、面白かった。
清水
面白かった。あっという間。
糸井
ああ、うらやましいなあ。
清水ミチコになってみたいよ。
清水
あ、本当? 初めて言われた(笑)。
糸井
うんうん。
清水
穴場。
糸井
穴場っていうか(笑)。
いいよね。

(おわります)