- 糸井
- 永ちゃんの面白さって、とんでもないよ、やっぱり。
- 清水
-
そうなんだ。
面白さって、ふたつあるけど。
笑うほうと、深みがあるほうと、どっち?
- 糸井
- 結局それね、ひとつのものだよ。
- 清水
- あ、そう?
- 糸井
-
うん。つまりね、永ちゃんね、
二枚目じゃないんだよ、おおもとは。
ひょうきんな子だったらしいんだ。
- 清水
- え、むかし?
- 糸井
-
うん。
あのね、いまにして思えば、
やっぱりジョン・レノンもそうなんだ。
- 清水
- ちょっと陽気なところがあるの?
- 糸井
-
面白いことやってニヤニヤしてるところが
ジョン・レノンにはあってさ。
音楽の方向に行ったからビートルズになったわけで、
セールスマンでも、
ちょっとおかしいことやってたと思うよ、彼は。
永ちゃんは、なんかね、
おかしい子なの。ひょうきんな子なの。
ひょうきんな子が二枚目もやれる……。
それがレパートリーに入ってるんだよ。
だから、できるんです。
- 清水
- そうかな。じゃ、笑っても全然平気なの?
- 糸井
-
うん、いや、そこのあたりは、
あまりにも本物なんで(笑)。
- 清水
- (笑)
- 糸井
-
俺ね、最近また永ちゃん、
もっとものすごく好きになったんだけど、
暮れに急に電話があって。
なんかひょいと、思い出したって、たまにかけてくれるんだ。
それで、このあいだの電話をくれたきっかけは、
むかしうちでつくった本なの。
その、犬が生まれてすくすく成長する時間をまとめた
『Say Hello!』っていう本について、
(ちょっと永ちゃんの口調で)
「ずっと持ってたんだけど、いま見たら、
糸井、面白いことしてるねえ」って。
- 清水
-
(笑)。
すごいうれしいですね。
- 糸井
-
「いいよ。そういうところがいいよ」って。
もうさ、14、5年前の本をいま見て、
電話したくなったって(笑)。
- 清水
- へぇー、少年っぽいですね。
- 糸井
-
その気持ちを素直に伝えてくれて、
「思えばおまえのやってることは、
そういうことが多くて、おれには、
そういうやさしさっていうのが、ないのね」って。
- 清水
- そんなことないですよね、きっと。
- 糸井
-
そう。
「それはちがうよ。同じものを、
こっちから見てるかあっちから見てるかだけで、
おれは永ちゃんにそういうのをいっぱい感じるよ」
って言うと、
「そうかな。うれしいよ、それは」って。
- 清水
- へぇー、ずいぶん……
- 糸井
- いいでしょ?
- 清水
- うん。
- 糸井
-
永ちゃんは、
ボスの役割をしてるボスのときと、
それから、ときにはしもべの役割をしたり、
ただの劣等生の役割をしたり、
ぜんぶしてるんです。
- 清水
- そうか。
- 糸井
-
それをだいたい、おれはぜんぶ見てるんで、
あの世界ではもうトップ中のトップみたいに、
別格みたいになっちゃったけど、全然同じだなと思って。
また今年、じーっと見てようかなと。
- 清水
- 向こうが歳上ですか。
- 糸井
-
いや、あっちのほうが下だよ。
永ちゃんのほうが1個下。
- 清水
- 何で知り合ったんですか、最初。
- 糸井
- 最初は『成りあがり』っていう本を作るために知り合った。
- 清水
- へぇー。で、どんどん好きになってったんだ。
- 糸井
-
永ちゃんがやってたキャロルってバンドも見てたから、
だから、かっこいいなあと思ってて。
かっこいいっていうのと、面白いなっていうのは、
当時から一緒だったのよ。
だって、いまさらハンブルク時代の、
ビートルズが下積みやってた頃の
コピーバンドやってるみたいに思えたから。
- 清水
- あ、そうなんだ。あのロックンロールのスタイルが?
- 糸井
-
うん。
ロックンロールで、オリジナルの曲も
むかしのロックンロールを真似してる
みたいなことやってたなあ。
- 清水
-
永ちゃんにあって糸井さんにないものって、
なんだと思いますか。
三枚目の線って言ったら、また怒られる(笑)。
- 糸井
-
いや、三枚目のところでは、
ぼくは一緒にしてもいいと思ってますよ。
- 清水
- (笑)
- 糸井
-
永ちゃんにはあって、ねえ。
うーん……量的にものすごく多いんだけど、
責任感じゃないかな。
- 清水
-
へぇー。
それこそ、社長としても。
- 糸井
-
ぼくは、永ちゃんから学んでますよ。
やれるかやれないかのときに、
どのくらい本気になれるかとか、
遮二無二走れるかとか、そういうのは……。
でもね、そこだけでいうと、
そういう人はいっぱいいるからなあ……。
あ、生まれつきっていうか、
ボスザルとして生まれたサルと、
そうでもないサルといるんだよ。
そうでもないおれみたいなサルが、
「ボス、すげえっすぅ!」みたいな(笑)。
- 清水
- 糸井さん、サル山にいそうですもんね(笑)。
- 糸井
-
「ちょっと『成りあがり』、書いときます!」
みたいな(笑)。
そうそう、前にチンパンジーの戦争の
ドキュメンタリーっていうのを見たんだけど、
ボス争いがあるんだよ。
クーデターに失敗したやつが結局追い払われて、
隣の山からずーっと様子を見てて。
- 清水
- かわいそーう!
- 糸井
-
面白いだろ?
メスたちは、ボスになった人のところのそばについて、
「毛づくろいしますよ」みたいな。
- 清水
- いやー(笑)。
- 糸井
-
そのボスってなにで決めるんだろうって思わない?
喧嘩じゃないんだよ。
- 清水
- 喧嘩じゃないの?
- 糸井
- 喧嘩じゃないんだよ。
- 清水
- 喧嘩以外になにかあるの?
- 糸井
- パフォーマンスなのよ。
- 清水
- ウソー!(笑)。
- 糸井
-
まず、「おれは、ボス、いずれ挑戦しますからね」
みたいな目で睨みつけたりするとこから始まるんだ。
ボスが「おまえの最近のその目つきはなんだ」
みたいに威嚇すると、すごすごと逃げる
っていうのを繰り返しするわけ、クーデター前は。
それであるとき、仲間を連れてきて、
「ボスといつまでも呼んでると思ったら大間違いですよ」
みたいにグッと近づいていくんです。
するとボスが、「おい、目に物見せてやる!」
ってかかっていく。
だけど喧嘩にはならずに、追っかけっこになるんだよ。
で、たとえば川のそばに行くと、
石とか持って、川に向かってバッシャバシャ投げるんだ。
- 清水
- 関係ないのに。
- 糸井
-
なんの関係もない(笑)。
ボスのほうも、バシャバシャ投げるんだよ(笑)。
- 清水
- すごいね(笑)。
- 糸井
-
で、今度は、木があると、木の枝につかまって、
ざわざわ! ってやるのよ。
- 清水
- 祭りだ(笑)。
- 糸井
-
そうね(笑)。
ひっくり返ったり、水しぶきあげたり、
もう自分が嵐になるわけ。
結局のところ、それですごすごと負けたほうが
引き下がるの。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- つまり、殴られたパンチの強さとか関係ないんだよ。
- 清水
-
パンチの強さじゃなくて、
やろうと思ったらこれだけできるよっていう。
- 糸井
-
パフォーマンス(笑)。
そのチンパンジーの映像を見てからますます、
永ちゃんのステージとか見てると……
これは、もう他の人にはできないって思う。
いっぱいいろんな、大勢の人がひれ伏すような
チンパンジーたちはいるよ、芸能の世界にだってね。
人数でいったらこの人はこれだけ集めるとか、あるよ。
でも、やっぱり永ちゃんのボスザル感は、すごいよね。
- 清水
-
ユーミンさんが1回、なにかのインタビューで、
「どうして矢沢永吉さんは毎日のようにやる
自分のパフォーマンスに飽きてないのか知りたい」
みたいなことを……皮肉じゃなくてね、
本当に知りたいみたいなこと言ってたけど、
どうなさってると思います?
いつもどこのライブ行っても、
必ず満員でワー! じゃないですか。
どういうバンドも、それにちょっと飽きる。
- 糸井
-
(永ちゃんの口調で)
「それは矢沢が真面目だから」。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- 「矢沢、手は抜かない」。
- 清水
- モノマネ、やめてもらっていいですか(笑)。
- 糸井
- たぶん、そういうことだと思うよ。
- 清水
- 好きなんですね。
- 糸井
-
手を抜けないんだよ、たぶん。
で、抜いたらどうなるか。
矢沢じゃなくなるって。
だから、矢沢は矢沢をまっとうするんですよ。
- 清水
- そうか。それはみんなのためでもあるし。
- 糸井
-
うん。そういう方なんです、うん。
だから、矢沢永吉としてできてる、
みんなが思ってるものを壊すのは自分であってはいけない
っていう気持ちがあるっていうか。
- 清水
- そうか。
- 糸井
-
分裂してるんですよ、ある意味ではね。
みんなが思ってる矢沢永吉像と自分というのは、
やっぱり離れてると思うよ。
- 清水
- そうでしょうね。
- 糸井
-
それはイチローでも誰でもみんなそうですよ、
とんでもない人たちは。
- 清水
- そうか、野球のマウンドに出るときは。
- 糸井
-
そこは、興味ある部分なんですよね。
だから、ぼくは永ちゃんに対しては、
ずっと絶対に下につこうって、
もう決意のように思ってますね。
- 清水
- 下のほうが気持ちいいんでしょうね。
- 糸井
-
もうすごい楽しいの、そのボスを見るのが。
ボスザルを見るのが。
そういうふうに思わせてくれる人って、
やっぱりそんなにいるもんじゃないんでね。
親しくすることもできるし、
見上げることもできるしっていうのは、
ありがたいことだよね。
- 清水
-
そうですね。
ちょいちょい電話かかってくるっていう関係も
いいですね、また。
- 糸井
-
ちょいちょいじゃないんだよ。何か節目なんだよ。
会う機会はあるんだけど。
これからアメリカ行くんだっていうときだとか、
そういうなにか、永ちゃんが「こうしようと思うんだ」
みたいなときに電話がかかってきて。
それは、ずっとおれのことを意識してるからだって
本人は説明するんだけど、謎だよね。
- 清水
-
永ちゃんと普通にしゃべることはできます?
糸井さん、お電話でも対面しても。
- 糸井
- それは普通。
- 清水
- ビビらずに?
- 糸井
- うん、それは普通。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
-
おれは永ちゃんには、
もう負けてる場所にいるからっていうのも言えるし。
だから、そこは楽ですよね。
- 清水
- そうか、立場をはっきりしとけば。
- 糸井
-
若いときからだったっていうのが
よかったかもしれないですね。
- 清水
- ああ、そうかそうか。
(つづきます)