もくじ
第1回聞きたいことが、たくさんある。 2019-02-05-Tue
第2回誰かが笑ってくれると、幸せ。 2019-02-05-Tue
第3回ヘンな希望があるの。 2019-02-05-Tue
第4回永ちゃんは、すごい。 2019-02-05-Tue
第5回不幸になるような気がしない。 2019-02-05-Tue

「文章を書くこと」と「写真を撮ること」が好きです。コピーライターをしています。6月6日生まれのふたご座です。

世界はこんなふうに見えている。

世界はこんなふうに見えている。

担当・栗田真希

第4回 永ちゃんは、すごい。

糸井
永ちゃんの面白さって、とんでもないよ、やっぱり。
清水
そうなんだ。
面白さって、ふたつあるけど。
笑うほうと、深みがあるほうと、どっち?
糸井
結局それね、ひとつのものだよ。
清水
あ、そう?
糸井
うん。つまりね、永ちゃんね、
二枚目じゃないんだよ、おおもとは。
ひょうきんな子だったらしいんだ。
清水
え、むかし?
糸井
うん。
あのね、いまにして思えば、
やっぱりジョン・レノンもそうなんだ。
清水
ちょっと陽気なところがあるの?
糸井
面白いことやってニヤニヤしてるところが
ジョン・レノンにはあってさ。
音楽の方向に行ったからビートルズになったわけで、
セールスマンでも、
ちょっとおかしいことやってたと思うよ、彼は。
 
永ちゃんは、なんかね、
おかしい子なの。ひょうきんな子なの。
ひょうきんな子が二枚目もやれる……。
それがレパートリーに入ってるんだよ。
だから、できるんです。
清水
そうかな。じゃ、笑っても全然平気なの?
糸井
うん、いや、そこのあたりは、
あまりにも本物なんで(笑)。
清水
(笑)
糸井
俺ね、最近また永ちゃん、
もっとものすごく好きになったんだけど、
暮れに急に電話があって。
なんかひょいと、思い出したって、たまにかけてくれるんだ。
それで、このあいだの電話をくれたきっかけは、
むかしうちでつくった本なの。
その、犬が生まれてすくすく成長する時間をまとめた
『Say Hello!』っていう本について、
(ちょっと永ちゃんの口調で)
「ずっと持ってたんだけど、いま見たら、
 糸井、面白いことしてるねえ」って。
清水
(笑)。
すごいうれしいですね。
糸井
「いいよ。そういうところがいいよ」って。
もうさ、14、5年前の本をいま見て、
電話したくなったって(笑)。

清水
へぇー、少年っぽいですね。
糸井
その気持ちを素直に伝えてくれて、
「思えばおまえのやってることは、
 そういうことが多くて、おれには、
 そういうやさしさっていうのが、ないのね」って。
清水
そんなことないですよね、きっと。
糸井
そう。
「それはちがうよ。同じものを、
 こっちから見てるかあっちから見てるかだけで、
 おれは永ちゃんにそういうのをいっぱい感じるよ」
って言うと、
「そうかな。うれしいよ、それは」って。
清水
へぇー、ずいぶん……
糸井
いいでしょ?
清水
うん。
糸井
永ちゃんは、
ボスの役割をしてるボスのときと、
それから、ときにはしもべの役割をしたり、
ただの劣等生の役割をしたり、
ぜんぶしてるんです。
清水
そうか。
糸井
それをだいたい、おれはぜんぶ見てるんで、
あの世界ではもうトップ中のトップみたいに、
別格みたいになっちゃったけど、全然同じだなと思って。
また今年、じーっと見てようかなと。
清水
向こうが歳上ですか。
糸井
いや、あっちのほうが下だよ。
永ちゃんのほうが1個下。
清水
何で知り合ったんですか、最初。
糸井
最初は『成りあがり』っていう本を作るために知り合った。
清水
へぇー。で、どんどん好きになってったんだ。
糸井
永ちゃんがやってたキャロルってバンドも見てたから、
だから、かっこいいなあと思ってて。
かっこいいっていうのと、面白いなっていうのは、
当時から一緒だったのよ。
だって、いまさらハンブルク時代の、
ビートルズが下積みやってた頃の
コピーバンドやってるみたいに思えたから。
清水
あ、そうなんだ。あのロックンロールのスタイルが?
糸井
うん。
ロックンロールで、オリジナルの曲も
むかしのロックンロールを真似してる
みたいなことやってたなあ。
清水
永ちゃんにあって糸井さんにないものって、
なんだと思いますか。
三枚目の線って言ったら、また怒られる(笑)。
糸井
いや、三枚目のところでは、
ぼくは一緒にしてもいいと思ってますよ。
清水
(笑)
糸井
永ちゃんにはあって、ねえ。
うーん……量的にものすごく多いんだけど、
責任感じゃないかな。
清水
へぇー。
それこそ、社長としても。
糸井
ぼくは、永ちゃんから学んでますよ。
やれるかやれないかのときに、
どのくらい本気になれるかとか、
遮二無二走れるかとか、そういうのは……。
でもね、そこだけでいうと、
そういう人はいっぱいいるからなあ……。
 
あ、生まれつきっていうか、
ボスザルとして生まれたサルと、
そうでもないサルといるんだよ。
そうでもないおれみたいなサルが、
「ボス、すげえっすぅ!」みたいな(笑)。
清水
糸井さん、サル山にいそうですもんね(笑)。
糸井
「ちょっと『成りあがり』、書いときます!」
みたいな(笑)。
 
そうそう、前にチンパンジーの戦争の
ドキュメンタリーっていうのを見たんだけど、
ボス争いがあるんだよ。
クーデターに失敗したやつが結局追い払われて、
隣の山からずーっと様子を見てて。
清水
かわいそーう!
糸井
面白いだろ? 
メスたちは、ボスになった人のところのそばについて、
「毛づくろいしますよ」みたいな。
清水
いやー(笑)。
糸井
そのボスってなにで決めるんだろうって思わない?
喧嘩じゃないんだよ。
清水
喧嘩じゃないの?
糸井
喧嘩じゃないんだよ。
清水
喧嘩以外になにかあるの?
糸井
パフォーマンスなのよ。
清水
ウソー!(笑)。

糸井
まず、「おれは、ボス、いずれ挑戦しますからね」
みたいな目で睨みつけたりするとこから始まるんだ。
ボスが「おまえの最近のその目つきはなんだ」
みたいに威嚇すると、すごすごと逃げる
っていうのを繰り返しするわけ、クーデター前は。
 
それであるとき、仲間を連れてきて、
「ボスといつまでも呼んでると思ったら大間違いですよ」
みたいにグッと近づいていくんです。
するとボスが、「おい、目に物見せてやる!」
ってかかっていく。
だけど喧嘩にはならずに、追っかけっこになるんだよ。
で、たとえば川のそばに行くと、
石とか持って、川に向かってバッシャバシャ投げるんだ。
清水
関係ないのに。
糸井
なんの関係もない(笑)。
ボスのほうも、バシャバシャ投げるんだよ(笑)。
清水
すごいね(笑)。
糸井
で、今度は、木があると、木の枝につかまって、
ざわざわ! ってやるのよ。
清水
祭りだ(笑)。
糸井
そうね(笑)。
ひっくり返ったり、水しぶきあげたり、
もう自分が嵐になるわけ。
結局のところ、それですごすごと負けたほうが
引き下がるの。
清水
へぇー。
糸井
つまり、殴られたパンチの強さとか関係ないんだよ。
清水
パンチの強さじゃなくて、
やろうと思ったらこれだけできるよっていう。
糸井
パフォーマンス(笑)。
そのチンパンジーの映像を見てからますます、
永ちゃんのステージとか見てると……
これは、もう他の人にはできないって思う。
 
いっぱいいろんな、大勢の人がひれ伏すような
チンパンジーたちはいるよ、芸能の世界にだってね。
人数でいったらこの人はこれだけ集めるとか、あるよ。
でも、やっぱり永ちゃんのボスザル感は、すごいよね。
清水
ユーミンさんが1回、なにかのインタビューで、
「どうして矢沢永吉さんは毎日のようにやる
 自分のパフォーマンスに飽きてないのか知りたい」
みたいなことを……皮肉じゃなくてね、
本当に知りたいみたいなこと言ってたけど、
どうなさってると思います? 
いつもどこのライブ行っても、
必ず満員でワー! じゃないですか。
どういうバンドも、それにちょっと飽きる。
糸井
(永ちゃんの口調で)
「それは矢沢が真面目だから」。
清水
(笑)
糸井
「矢沢、手は抜かない」。
清水
モノマネ、やめてもらっていいですか(笑)。
糸井
たぶん、そういうことだと思うよ。
清水
好きなんですね。
糸井
手を抜けないんだよ、たぶん。
で、抜いたらどうなるか。
矢沢じゃなくなるって。
だから、矢沢は矢沢をまっとうするんですよ。
清水
そうか。それはみんなのためでもあるし。
糸井
うん。そういう方なんです、うん。
だから、矢沢永吉としてできてる、
みんなが思ってるものを壊すのは自分であってはいけない
っていう気持ちがあるっていうか。

清水
そうか。
糸井
分裂してるんですよ、ある意味ではね。
みんなが思ってる矢沢永吉像と自分というのは、
やっぱり離れてると思うよ。
清水
そうでしょうね。
糸井
それはイチローでも誰でもみんなそうですよ、
とんでもない人たちは。
清水
そうか、野球のマウンドに出るときは。
糸井
そこは、興味ある部分なんですよね。
だから、ぼくは永ちゃんに対しては、
ずっと絶対に下につこうって、
もう決意のように思ってますね。
清水
下のほうが気持ちいいんでしょうね。
糸井
もうすごい楽しいの、そのボスを見るのが。
ボスザルを見るのが。
そういうふうに思わせてくれる人って、
やっぱりそんなにいるもんじゃないんでね。
親しくすることもできるし、
見上げることもできるしっていうのは、
ありがたいことだよね。
清水
そうですね。
ちょいちょい電話かかってくるっていう関係も
いいですね、また。
糸井
ちょいちょいじゃないんだよ。何か節目なんだよ。
会う機会はあるんだけど。
これからアメリカ行くんだっていうときだとか、
そういうなにか、永ちゃんが「こうしようと思うんだ」
みたいなときに電話がかかってきて。
それは、ずっとおれのことを意識してるからだって
本人は説明するんだけど、謎だよね。
清水
永ちゃんと普通にしゃべることはできます? 
糸井さん、お電話でも対面しても。
糸井
それは普通。
清水
ビビらずに?
糸井
うん、それは普通。
清水
へぇー。
糸井
おれは永ちゃんには、
もう負けてる場所にいるからっていうのも言えるし。
だから、そこは楽ですよね。
清水
そうか、立場をはっきりしとけば。
糸井
若いときからだったっていうのが
よかったかもしれないですね。
清水
ああ、そうかそうか。

(つづきます)

第5回 不幸になるような気がしない。