もくじ
第1回言葉にできない「何か」をさがしに。 2019-03-19-Tue
第2回感覚をとぎすましていく 2019-03-19-Tue
第3回その人らしく生きるステージづくり 2019-03-19-Tue
第4回ぼくらが共有しているもの 2019-03-19-Tue
第5回言葉にしなくてもいい 2019-03-19-Tue

フリーランスのライター・編集者。ひとの人生に触れるインタビューが好き。琵琶湖の近くと生まれ育った首都圏、二つの拠点を行ったり来たり。

言葉をあなたに届けたくて

言葉をあなたに届けたくて

担当・菊池百合子

第5回 言葉にしなくてもいい

「覚悟」「背負う」と言うと重たいし、
きっと「責任」を持っていらっしゃるだろうけれど
その言葉に対して彼らはあまりにかろやかで
こんなにも笑みがこぼれる文字起こしは初めてだったし、
「待つ」にしても待っているだけじゃないし、
主語は常に自分にあるのだから
子どもたちに「期待する」もしっくりこない。

外から見てみると、高齢化のいちじるしい過疎地域で
子どもたちの未来のために活動している彼らは、
尋常ではない「覚悟」を背負いながら
それでも地域を「盛り上げる」ために
日々一生懸命活動しているのだ、と
ラベルを貼りたくなるかもしれません。

さらに、彼らがいつも見ている奥多摩湖の底には
彼らのお父さんお母さんの生まれ故郷が眠っています。
東京都の水道水を供給するためにつくられた
小河内ダムによって、日々暮らしが営まれていた場所は
青く深い水に飲み込まれていきました。
そんな人間の業、歴史をすべて引き受けて、
彼らは生きているように私には見えるのです。

それでも、彼らは誰かに与えられた言葉で
自分たちを語ることを、好まないように思えます。

その意志を示すかのように、インタビューで
2人からたくさん出てきた言葉は
「よくわからない」。

自分をごまかさず、違和感を見逃さず、
そのままの自分でいることを大切にしている彼らは
わからないことをわかったように語りません。

小河内に戻ってきて住んでいる理由も、
OBCがコンテンツをつくり続ける目的も、
これから目指そうとしている未来も、
「よくわからない」。

こんなに「わからない」が連発されたインタビューは
初めてだったように思います。

でも言葉に頼りすぎない彼らはきっと、
とっても大切な「何か」を共有しているような気がして。

そのひとつとして、わたしがようやく
たぐり寄せた言葉は、
「託す」
の一言でした。

もちろん、お二人に話したら
「どうなんだろう、よくわからない」と
言われてしまうかもしれません。

OBCが活動することで、小河内地区の抱えている
課題がすべて解決するかと言ったら、
もちろんそんな簡単なことではありません。
じゃあ、人口が減っていく現状に対して
このまま何もしないのか、というと
彼らは決してそれを選びません。

それは、なぜなのか。

OBCの「自分たちがやりたいことをやる」が
なぜこんなにも人の心を惹きつけているのか。

なぜ彼らは、クオリティーを上げることに
こだわり続けているのか。

それは、彼らの「自分が」は
「自分が」が原点にありながら
「自分が」から派生した何かが
含まれているからではないかと。
そう思うようになりました。

「自分が小河内にいることで、
誰かが来るきっかけになったらうれしい」
と話していた酒井さん。

「OBCをきっかけに、小河内で何かを
やってみようと思う人があらわれるなら、
自分はその踏み台になる」
と言っていたかん先生。

すぐにすべて変わるわけではないし、
自分たちがすべてを変えられるわけでもない。

だからこそ。

今一緒に踊っている子どもたち、
いつか小河内にやって来るかもしれない誰か、
自分たちが描きたいと思っている未来。
そして、一緒に走り続けてきた相方。

そのままの自分で、そのままのあなたに「託す」。

託された人が何を選ぶのかは、その人が決めること。
でも、自分の行動の先には託したい人たちがいるから、
今動くことを選び続ける。腹をくくれる。

自分が信じて託したい人と未来のことを
常に忘れずに想っていられる。信じ続けられる。

そういうことなのかもしれないな、と
この原稿を書き終えようとしている今は思っています。

ひとつだけ言えることは、小河内に通ったことで
「ほぼ日の塾」で気づかせてもらった
「この文章を読んでくださっている読者の方と
信頼関係を築いていくこと」の意味に
少しだけ近づけたように思うのです。

ああ、今までわたしは、いまこの瞬間の
自分の100%だけを信じていたんだろうな。
目の前にいる相手のことを、文章を読んでくれる人のことを、
じつは信じられていなかった。

「小河内には大切なものがあるような気がする」
と直感した理由は、ここにあったのかもしれません。

受け取ってくれる相手のことを、
そして未来にいる自分のことを
少しだけ信じてみて、
「受け取ってもらえるはずだ」と託すこと。
自分に「託していいよ」と言えるようになること。

長い長い思考の旅路が、いま終わろうとしています。
または、これからもずっと続いていくのかもしれません。

それは、この文章を読んでくださっているあなたに、
そして未来のわたしに、託したいと思います。

読んでくださって、ありがとうございました。

写真提供:Ogouchi Banban Company
取材補佐:谷木諒
取材協力:Ogouchi Banban Company
     奥多摩町地域おこし協力隊
     小河内地区のみなさま

さいごに、よくわからないこの試みとわたしに対して
OBCを表現することを託してくださった、
酒井さんとかん先生へ。

「何もしていないよ」と
おっしゃるかもしれないけれど、本当に、
心から、ありがとうございました。

こんどはライブ、行きますね。

(おわりです)