もくじ
第1回あさ かこ 2019-02-26-Tue
第2回ひる いま 2019-02-26-Tue
第3回よる みらい 2019-02-26-Tue

子育て系メディアの編集者。コラム・エッセイの執筆も。
元療育指導員。2歳の娘と陽気な夫の3人家族。

『みんみ』~こどもの時間~

『みんみ』~こどもの時間~

担当・瀧波 和賀

第3回 よる みらい

――みんみの夜はあまい。

娘は2歳にして、すでに夜更かしっこだ。
早朝からあそんでいるのに、寝かしつけに2時間かかることもザラである。

布団のなか、電気を消した薄闇で、まだまだ元気なおしゃべりをきく。

「ママ、みんみのこと、しゅきー??」

これは娘がかならず尋ねる、おきまりの入眠儀式だ。

「好きだよ~!大好きだよ~~!!」
ギューッと抱きしめ、私は答える。

「しゅきかー。しゅきなんかーーー。」

ちょっとオッサンぽく、食い気味に娘がかえす。
こちらもニヤッと、あやしい顔でわらってしまう。

毎日くりかえしてきた、夜のやりとり。

母親に「好きだ」といわれることが、わかっている娘。
その幸福を与えられていることに、安堵する。
じぶんを肯定できているから『みんみ』なんてあだ名もある。

いったいいつまで、あと何回、こうして甘えてくれるのだろうか。
このあまい時間に、終わりがあると思うと、せつない。

思う存分惜しめるように、
いっそ、残数カウンターをつけてほしいくらいだ。

「きょうは、こーえん、いったね。
 みんみ、おみじゅ、ポイしちゃったのぉ。」

ミネラルウォーターを土に還した件を、娘なりに気にしているのか。
昼間は「いま」だった出来事を、
夜は「かこ」として、ふりかえったようだ。
その健気さに、またニヤリ。

「そうだね。
 お砂場であそぶのは水道のお水で、水筒は飲むお水だね。
 みんちゃんはわかってるもんね。ちょっと間違えちゃったんだよね。」

「ママも、じてんちゃのかぎ、さしちゃったでしょ。」

ギクリ。めざとい。
確かにそのとおりなので、素直に認める。
こども時代に「親も間違えることがある」を知ることは重要だ。

「たのちかったねぇ。また、いこーね?」

娘が、未来の話をする。
こんど、また、あした、いつか、おおきくなったら。

いまのじぶんが大事にしているものは、そのままに。
まだ見ぬ時間をすごすのだと、信じている。

だけど本当は、いつまでも、親と公園には行きたがらない。

公園より魅力的な場所をたくさん知り
お砂場あそびより夢中になれるものを見つけ
親より一緒にいたい人を求める日が、くる。

その日は必ず、やってくる。

「みんみ、ママんこと、いーっぱい、しゅきなのー!
 ママと、くっちゅいて、ねんねすんのぉー。」

私の腕にすっぽりおさまり、ようやく細く寝息を立てる娘。
もちもちの頬と長いまつ毛に、やはりニヤついてしまう。
半開きのくち。大の字にひらいた足。
すべてのフォルムが、美しい。

手足がのびて、シャープな輪郭になった、未来の娘を想像する。

私が『みんちゃん』と呼ばなくなっても、言霊になど頼らなくても、
じぶん自身を「お気に入り」でいてくれるだろうか。

毎日バタバタすごしているあいだにも、
少しずつだが確実に、「みらい」の扉をあけていく娘。

くつ下をひとりではいて
地雷原がおだやかな原っぱになり
添い寝も必要なくなるだろう。

子育ては不思議だ。
この手から離すために、惜しみない愛を注いで、守り抜く。

ぼんやりとしかイメージできない、いまより大人びた娘。
彼女はきっと、覚えていない。
明日も明後日も、ずっとママといたいと願った日々を。

だから私は覚えていたい。
この拙さを、いじらしさを、圧倒的な愛しさを。

いつか『みんみ』と言わなくなった少女の横で、
過去をなつかしみ、やさしく涙を流したい。

娘が自信を失い、じぶんを大事におもえないときは、
こんなにも、ずっとずっと特別だったと、伝えたい。

みんちゃん、「みらい」のキミが、ママはたまらなく、大好きだよ。

かこもいまもみらいも全部、まるっとキミが、大好きなんだ。

こどもは「いま」しか生きていないのに、
そばで育てる親たちに、「3つの時間」を与えてくれる。

まえより成長したな、いつこれができるようになるかな。

こどもの「かこ」と「みらい」に想いをはせるとき。
目の前の我が子のほかに、姿のみえない大事なこどもを抱きしめている。

特別な「かこ」が増えるように、楽しみな「みらい」が続くように。
「いま」の娘を必死になって、大切にしたい。

親の苦労や願いなど、なにも知らずに、その無邪気さを失わないで。
ふふっと笑って、ぬおー!と焦り、ニヤニヤしながら、そばにいたい。

でももしも、ひとつワガママが言えるなら、心の隅で祈らせて。
どうか明日も、あたりまえのように、聞かせてほしい。

花が咲くような笑顔と、あまくてふわふわな、その声で。

        『みんみ』