もくじ
第1回野犬たちがいた風景 2019-02-26-Tue
第2回賢い女の子、チェリー 2019-02-26-Tue
第3回天寿を全うしたクー 2019-02-26-Tue
第4回ふたたび、その思いはどこから? 2019-02-26-Tue

フリーで書籍の編集とライターをしています。陽気な母との暮らしを満喫中。シーズンごとに急に体を動かしたくなって、ランニングをしたりトレッキングに行ったりします。趣味は合唱。昔とった杵柄です。

私の好きなもの</br>やっぱり、犬が好き

私の好きなもの
やっぱり、犬が好き

担当・さとうえみこ

第4回 ふたたび、その思いはどこから?

晩年、脚力が弱って歩けなくなったクーは、
認知症を発症したのか、
ある時期から昼夜関係なく鳴くようになった。
24時間体制の介護生活のはじまりだ。
誰が言い出したわけでもなく、
朝は母、昼間は父、夜間は私と分担が決まった。
鳴くと抱いて公園まで連れて行き、
自力で散歩をしていた頃と同じように、
公園をゆっくり1周しながら、
草や木のにおいをかがせ、おしっこを促した。

成犬時代は抱っこが好きではなかったのに、
今はおとなしく抱っこされていることが
不憫でもあり、うれしくもあった。
触れ合える時間が残りわずかなことは
誰の目にも明らかだったから。

最後は食べ物はおろか水も口にしなくなり、
それからきっかり1週間後の早朝、
クーは家族3人に見守られ旅立っていった。
荒い息がだんだんと静かになっていく。
やせ細った体をやさしくなでながら、みんなで声をかけた。
「ありがとう。よくがんばったね。ありがとうね」

それから10年以上が経ったある日、
認知症を患い始めた父が言った。
「また、犬を飼いたいな」
その願いを叶えてあげることのできないまま、
父もまた、その数年後に旅立った。

葬儀の準備を進める中、
兄と私で棺に入れる写真を見つくろっていたときだった。
チェリーとクーの写真を手に、兄が言った。
「お父さんに一番なついていたね」
「え? そうなの?」
たしかに父とクーは仲良しで、
ごろんと仰向けに寝転んだ父のお腹の上に、
クーが寝転がることがよくあった。
あぐらをかいた足にすっぽりおさまるのも、大好きだった。
でも、チェリーも? チェリーは一番年下の私に
なついてくれていたんじゃないの?
「覚えてないかな? チェリーは毎朝
お父さんを会社まで見送っていたんだよ」
(父が勤める会社は家のすぐそばにあった)
ああ……。と私は心の中で合点した。

「いつか、犬を飼うんだ」という思いは、
もしかしたら父から譲り受けたものかもしれない。
幼い頃に父からその言葉を聞いた記憶はないけれど、
父のその思いは、DNAとともに私に受け継がれた。
多分に父似の傾向があり、ときどき自分を持て余す私は、
父のDNAは勘弁だなあ、と思うことがままあるが、
この件に関しては、歓迎かも、と思ったりする。

最後まで読んでいただきまして、
ありがとうございました。

<おわりです>