燃え殻さん×糸井さん銀座ロフトでの対談
第2回 燃え殻さんが小説を書くということ
- 糸井
-
燃え殻さん、昔学級新聞書いてたんだって?
- 燃え殻
-
そうなんです。別に担任に言われたわけでもなく
読んでいる人もいなかったけれど
ただ発行してました(笑)
なんで書いていたんだろう。
どこかで気持ち悪いってことを承認してもらいたかったのかな。
- 糸井
-
気持ち悪いっていうけど、言われたの?
- 燃え殻
-
言われましたよ。
- 糸井
-
女に?
- 燃え殻
-
女って、なんで女なんですか(笑)
- 糸井
-
小林一茶の俳句でさ
「やせがえる まけるな一茶 ここにあり」ってあるじゃない。
カエルが痩せているとか太っているとか、
それって自分にしか分からないじゃない。
- 燃え殻
-
はいはい。
- 糸井
-
何かを書くって「書いてみる」という嬉しさと
自分の「やせがえる」を見つけた喜びがある、というか。
- 燃え殻
-
そうですね、僕だけが見ている景色を切り取れた喜びというか。
- 糸井
-
そうそう。
そして、これは俺しか思わないかもしれない、ということが
みんなからうなずかれた時、悔しいけれど嬉しいよね。

- 燃え殻
-
すごく嬉しいです。
- 糸井
-
燃え殻さんの小説の中の
「ゴールデン街で酒飲んで寝て起きた時の天気」なんて
経験していないけれど、うなずける人は結構いると思う。
- 燃え殻
-
経験していないけれど分かるよっていうところが嬉しいですね。
- 糸井
-
でもよく考えるとブルースミュージシャンが歌う歌詞って
それだよね。
- 燃え殻
-
聞いている方もちょっと自分ともシンクロしている部分を
見つけちゃう。
俺のことを歌っているな、という。
- 糸井
-
燃え殻さんの小説も結構そう。
燃え殻さんの小説を読んでて楽しかったのは
ページをめくるたびに
俺のことをいっているっていうのと
あとだるい挑発をしてくるんですよ。
- 一同
-
笑
- 燃え殻
-
ずるい感じですね。
- 糸井
-
もう、燃え殻さんがひじで枕して
「糸井さん、どおっすか〜?」みたいな。

- 燃え殻
-
いつもの感じですね。
- 糸井
-
そうそう。だからこっちも読みながら「そおね〜」なんつって
ちょっとだけよぎるものがあったりして
「俺と世代が違うから、違うかもしんないんだけどね」なんて
読みながら喋っちゃうわけですよ。
- 燃え殻
-
おお、それ一番いいですね。

- 燃え殻
-
ぼくが小説を書いた時、
今の時代は小説を読まない、売れない、さらには
ぼくは無名という三重苦だったので。
みなさんのスマホ時間をどうにか小説を読むことに
すり込みたいという思いがあった。
だからできるだけサーッと読める言葉にして、
どこかで自分を突き放してサービスしたいという思いも
ありましたね。
- 糸井
-
サービスね、うん。
- 燃え殻
-
あと大事にしていたのはリズム感。
そのために書いてあることを変えてもいいと思っていた。
このリズムだと良くないから、このセリフ変えちゃおう、とか。
Youtubeで流れる音楽に乗せて読めるようでなくちゃって。
一気読みさせたいなって思いがありました。
これは小説家の方からしたら「何言ってるの?」って
言われちゃうかもしれないんですが。

- 糸井
-
いやー、それはそれでいいんじゃないの?
それが楽しかったわけでしょ?
- 燃え殻
-
ぼくは楽しかったです。
- 糸井
-
書きたいって思ったことを書いているんだけれど
それに陰影をつけたり補助線を引いたり
一部消しちゃたり。
それは音楽をする人がメロディーを「ああこうじゃないな」と
編集することと同じだからいいんじゃないのかな。
自分や学級の人しか読まないものを書いていた時代と
分けたのはそこじゃないかね。
- 燃え殻
-
そうかもしれません。
- 糸井
-
編集のやりとりはあったの?
- 燃え殻
-
ありましたね。女性の編集の方と。
ぼくとしては男としてはありっていう表現を
女性としては引きますっていう部分はバッサリ切りました。
- 糸井
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今本を出すっていうと
「作品を出す」と「商品を出す」の二重の意味があるよね。
だから女子がひくならひけよっていうのが「作品」で
女子がひくならそうですよね、やめますねっていうのが「商品」だよね。
- 燃え殻
-
うわー。なんか、ダメだったかもしれない(笑)

- 糸井
-
いやいや(笑)
そこは商品性をまるまる否定するわけにはいかないし
バランスの問題だよね。
- 燃え殻
-
そうそう。
この小説は半分は自分が経験したことでもあるんですが
多くの人に読まれるのはこっちの道じゃないですか?
って提示されたら
じゃあそっちの方で考えます!ってしたんです。
書きたかったあの2箇所以外は。
- 糸井
-
だからどこに自分の軸をおくのかっていうね。
世の中は結局、作品と商品の間を揺れ動く
ハムレットの状態なんじゃないの。
- 燃え殻
-
はーなるほど。
- 糸井
-
両方ありますよね。
みんなに伝わるか、もしくは書いてて自分が気持ちいいかっていう。
- 燃え殻
-
バランスですよね。