- 糸井
-
新人の頃は書いたものを直されたりするけど、
そういうやりとりはあったんですか。
- 燃え殻
- あ、ありました。
- 糸井
- それはどうでした?
- 燃え殻
-
女性の編集の方だったんで、
僕として、男としてはアリっていう表現に関しては
「女性は嫌悪感があります」ってバッサリ。
「男って本当はそうだよね」って思っても
女性が引くことに関しては信用したいというか。

- 燃え殻
-
例えばオープニングで、主人公の僕は、
時を隔てて同じホテルに違う女の子と泊まってるんです。
そのあと昔好きだった女の子を思い出して始まるんですけど
「20年ぐらい経って同じラブホテルに行ってる男、
引くんですけど」って、その編集者に言われて(笑)
- 糸井
- ああ、なるほど、なるほど。
- 燃え殻
- 「ちょっといいとことか行かないんですか」みたいな。
- 糸井
- でも、しょうがないじゃん、ねえ(笑)
- 燃え殻
-
「けっこう普通に行ったりすると思うんですけど」
「行かないでください。女性引きますから、そういうの」
って言われて、それで六本木のシティホテルみたいな
ラブホテルに行くって変えたりとか(笑)
- 糸井
-
ああ、そうか。
たぶん今、本を作るっていうのは「作品を出す」ことと
「商品を出す」ことの二重の意味があって。
だから、女性が引くなら好きに引けよっていうのが
「作品」じゃないですか。
- 燃え殻
- ああ。
- 糸井
-
「女性が引くんです」「そうですね。汚れて見えますもんね」
と言って「きれいにしましょう」って拭くのが
「商品」じゃないですか。
- 燃え殻
-
さっきの、言わなきゃよかった(笑)
すごい、すごいダメだったかもしれない。
わあ、いろんなところから怒られるかもしれない。
- 糸井
- わかんないけど……。
- 燃え殻
- 新潮社の人が来たらどうしよう(笑)

- 糸井
-
もっと言えば、推理小説で描かれる恋愛なんてものは、
ベースが推理小説である理由なんかなかったりするわけで。
推理小説には思えなくて興味なくなっちゃうと困るから、
殺しを要素として入れたりすることがあるわけでしょ?
それは商品性を高めてるじゃないですか。
だって、ドストエフスキーもそれこそ殺人とか交ぜて
「ドストエフスキーです! 来週どうなるんでしょう」と。
- 燃え殻
- 週刊少年ジャンプ的な終わり方。
- 糸井
-
だから、その商品性を丸々否定するわけにはいかないし、
「女性が引いちゃうんならやめとこうか」っていっても
そう書いて伝わるものが出したいんだったら、
それはバランスの問題だから。
- 燃え殻
-
そう。だから、ゴールデン街の朝だったりとか、
ラブホテルの朝か夜かわからなかったりの部分って
やっぱり僕としては書いててすごく気持ちよかった。
そういった部分を共有したいってなったとき、
他の部分は、共有したい部分を補強するものなんですよね。

- 燃え殻
-
その自分が書きたいことと
共有したい、読まれたいっていう思いが複雑で。
本が読まれない今、小説ってあまり売れないよっていう
前提のもと僕はやらなきゃいけなくて。
さらに無名だっていう二重苦。
売れてる小説家さんのものも
難しすぎて僕には参考にならないし、大変だし。
だから、ユーチューブだったり、まとめサイトだったり、
スマホ使用者がネットサーフィンに割いている時間を
どうにかして小説の方に引きずり込めないか、
取り込めないかと考えました。
そのひとつが、やっぱり言葉っていう部分。
本の栞を使わないで、サーッと読み進められないと
読んでくれないだろうなって。
- 糸井
- うん。
- 燃え殻
-
これは本当に小説家の方からしたら
「何言ってんの?」って話になるかもしれないですけど。
このリズムはよくないからセリフ変えちゃおう、
そうすればスッと読めるよねっていう方を選びました。
読んでるときのリズム感みたいなものって、
文章にはすごく大切だと思ってて。
そのリズム感のためなら言葉を変えてもいいと
僕は思ったんです。
ユーチューブで耳に心地よく聞き流す音楽と
この小説とが異種格闘技戦をしなければ、
おそらく読んでくれないという気持ちがありました。
- 糸井
-
「商品」を考えると当たり前なんじゃない?
それがまた楽しかったわけでしょ?
- 燃え殻
- 個人的には楽しかったですね。

- 糸井
-
「こういうことを書きたいんだよな」って思ったこと。
それに陰影つけたり、ちょっと補助線を引いたり、
消しちゃったりっていう作業。
それはみんなに聞かせる音楽を作る人が、メロディに対して
「あ、こうじゃないな」と修正を加えるのと同じだから。
それまで書いてたものとか資料を集めたりしてた時代とか、
あるいは自分しか読まないものを書いてた時代とか。
それらと今回の小説とが分かれたのは、
そこなんじゃないでしょうかね。
- 燃え殻
-
そうですね。
糸井さん、今日、何の話でしたっけ。大丈夫ですか。
やっぱり打ち合わせした方がよかったかな(笑)
- 糸井
- 手帳の話、大もとはね。
- 燃え殻
- 怒られちゃう(笑)
- 糸井
-
手帳が見える中でしゃべってるわけだから、大もとは手帳。
ムードとしては「なんか手帳の話を聞いたな」っていう。
- 燃え殻
- サブリミナルにして。
- 糸井
-
なると思いますよ。
それこそ『ドック・オブ・ベイ』がかかっていたみたいな
ことと同じです。
- 燃え殻
- ならないならない、違う違う。
- 糸井
-
いっぱいしゃべってる無口じゃない燃え殻さんを
味わえたと思います。
どうもありがとうございました。
(おわりです)
