もくじ
第1回僕は、訴えたいんじゃない。 2017-10-17-Tue
第2回僕だけの景色を切り取って、書く。 2017-10-17-Tue
第3回音楽のミスマッチ、それも技術。 2017-10-17-Tue
第4回燃え殻さんの、リズム&ブルースの正体。 2017-10-17-Tue
第5回「作品」として、「商品」としての文章。 2017-10-17-Tue

書く人。
ウェブコラムや広告記事の他に、趣味で「付き合って5年目の彼氏と別れた後悔」を前向きに綴っています。

思うだけじゃなく、書きたいことって?</br>燃え殻 × 糸井重里

思うだけじゃなく、書きたいことって?
燃え殻 × 糸井重里

担当・花輪えみ

第3回 音楽のミスマッチ、それも技術。

糸井
手帳に書いてあることに、
自然と乗っかっちゃうのが音楽でしょう。
 
実際に書いてはないけど、音楽は流れてますよね。
燃え殻
うん、そうですね、流れてる。
 
音楽も景色と同じく、誰かに共有できるじゃないですか。
だから小説のところどころに音楽を挟んでいったんですよ。
糸井
入れてますよね。
燃え殻
「この音楽がかかってたら嬉しいな」っていうのと
「そこで、この音楽がかかってたらマヌケだな」っていう、
その両方で音楽は必要だったんで。
 
すると、読んでくれている人が共鳴してくれたりとか、
共感してくれるんじゃないかなって思ったんですよね。
糸井
極論、耳ってふさげないから、
音楽はある種暴力的に流れてくるじゃないですか。
たとえ聞きたくなくても。
燃え殻
はいはいはい。

糸井
そこまで含めて思い出っていうことは、
あとで考えると嬉しいですよね。
燃え殻
そうなんですよ。
糸井
景色みたいなものだね。
燃え殻
そうですね。
景色に重ねていく度に、共感度とか深度が深まる気がして。
 
この小説では同僚と別れるシーンがあるんですけど、
映画とかドラマなら、やっぱり悲しい音楽が流れていてほしいじゃないですか。
 
そこでAKBの新曲を流したかったんです。
糸井
いいミスマッチですよね。
燃え殻
その二人が「俺たち、もう会わないな」って薄々考えている。
でも、口にしないで「お前は生きてろ」みたいなことを言う。
 
そんな熱いことを言い合ってるときに、
AKBの新曲がのんきに流れてること、あるんだよなって(笑)
糸井
大いにある。
登場人物にとって、この世の中という舞台の主役が
自分じゃないっていう疎外感を表すのに、
外れた音楽を流すというのはすごくいいですね。

糸井
そのミスマッチを技術として取り入れたこと、
僕ハッキリ覚えていて。
 
矢野顕子の『ただいま』っていう曲に
「ただいま」って言うために階段を駆け上がってくるとき
「テレビの角力の音とか聞きながらね」っていう言葉がある。
燃え殻
へぇー。
糸井
なんで俺、角力の音なんだろうって思ったんですよ(笑)
テレビの角力の音は自分のためのものじゃないんですよね、
若い男女にとって。
 
なんか自分のためじゃない場所にいさせてもらってる感じ。
燃え殻
ああ、今思いました。
なんであの場面でAKB入れたんだろうって。
糸井
燃え殻さんの小説の中にいっぱい出てくるのはそれですよね。
俺のためにあるわけじゃない町に紛れ込んでみたり(笑)
燃え殻
はいはい。
 
外れた音楽じゃないですけど、僕はずっと生きてきて
「所在なし」みたいな場所にいるような気がします。
 
最初に原宿とか、こういう銀座とかに来たときも、
すげえみんな洒落てて、いると落ち着かない。
便秘になります(笑)

燃え殻
何ていうのかな、どこにも居場所がない感じで生きている
っていう意識をもつ、共通言語のある人と会いたい。
糸井
会いたいよね(笑)
それは、みんなあるんじゃないですか?
燃え殻
みんな感じてるんですかね。
糸井
たぶん、どこかで。
 
さっきの「90年代の空気を書きたかった」っていう
燃え殻さんの執筆理由みたいに、
とりあえずこの言葉で納得しとこうって場所に自分を置いて。
 
今日は考えないようにしようと、
なんとなく生きてるんじゃないですか。
それよりも、この商品を明日どう売るかとか。
燃え殻
ああ、優先順位的にそっちを。
糸井
忙しいことに、生きていてけっこう課題があるから。
「これやんないと怒られるよな」ってことを先にしますから。
燃え殻
そうですね。

糸井
今の音楽のくだりで共感の話が出ていたけれど、
やっぱり燃え殻さんの小説を読んでいて楽しかったのは、
俺のことも言っていい? ってページめくるごとに思うこと。
 
あと、だるい挑発。
「喧嘩しよう」とかじゃなくて、すでに片肘つきながら
「糸井さん、どうですかぁ?」みたいに言ってる感じ。
燃え殻
(笑)
糸井
だから「そうねえ」なんつって返して。
 
ちょっとだけ頭をよぎるものがあったりしたら
「俺と世代が違うからなんだけどね」なんて
喋ってるわけです、読みながら。
 
黙読してるとき声帯が動いてるっていう話もあるけど、
同じように、読んでるときって書いてもいるんですよね。
 
もしかしたら内容をまとめた言葉にしてるかもしれないし、
「ああ、こういう愛はあるよな」みたいなことを
つぶやいてるかもしれないし。
燃え殻
ああ、一番いい。嬉しいです。

(つづきます)

第4回 燃え殻さんの、リズム&ブルースの正体。