- 糸井
-
手帳に書いてあることに、
自然と乗っかっちゃうのが音楽でしょう。
実際に書いてはないけど、音楽は流れてますよね。
- 燃え殻
-
うん、そうですね、流れてる。
音楽も景色と同じく、誰かに共有できるじゃないですか。
だから小説のところどころに音楽を挟んでいったんですよ。
- 糸井
- 入れてますよね。
- 燃え殻
-
「この音楽がかかってたら嬉しいな」っていうのと
「そこで、この音楽がかかってたらマヌケだな」っていう、
その両方で音楽は必要だったんで。
すると、読んでくれている人が共鳴してくれたりとか、
共感してくれるんじゃないかなって思ったんですよね。
- 糸井
-
極論、耳ってふさげないから、
音楽はある種暴力的に流れてくるじゃないですか。
たとえ聞きたくなくても。
- 燃え殻
- はいはいはい。

- 糸井
-
そこまで含めて思い出っていうことは、
あとで考えると嬉しいですよね。
- 燃え殻
- そうなんですよ。
- 糸井
- 景色みたいなものだね。
- 燃え殻
-
そうですね。
景色に重ねていく度に、共感度とか深度が深まる気がして。
この小説では同僚と別れるシーンがあるんですけど、
映画とかドラマなら、やっぱり悲しい音楽が流れていてほしいじゃないですか。
そこでAKBの新曲を流したかったんです。
- 糸井
- いいミスマッチですよね。
- 燃え殻
-
その二人が「俺たち、もう会わないな」って薄々考えている。
でも、口にしないで「お前は生きてろ」みたいなことを言う。
そんな熱いことを言い合ってるときに、
AKBの新曲がのんきに流れてること、あるんだよなって(笑)
- 糸井
-
大いにある。
登場人物にとって、この世の中という舞台の主役が
自分じゃないっていう疎外感を表すのに、
外れた音楽を流すというのはすごくいいですね。

- 糸井
-
そのミスマッチを技術として取り入れたこと、
僕ハッキリ覚えていて。
矢野顕子の『ただいま』っていう曲に
「ただいま」って言うために階段を駆け上がってくるとき
「テレビの角力の音とか聞きながらね」っていう言葉がある。
- 燃え殻
- へぇー。
- 糸井
-
なんで俺、角力の音なんだろうって思ったんですよ(笑)
テレビの角力の音は自分のためのものじゃないんですよね、
若い男女にとって。
なんか自分のためじゃない場所にいさせてもらってる感じ。
- 燃え殻
-
ああ、今思いました。
なんであの場面でAKB入れたんだろうって。
- 糸井
-
燃え殻さんの小説の中にいっぱい出てくるのはそれですよね。
俺のためにあるわけじゃない町に紛れ込んでみたり(笑)
- 燃え殻
-
はいはい。
外れた音楽じゃないですけど、僕はずっと生きてきて
「所在なし」みたいな場所にいるような気がします。
最初に原宿とか、こういう銀座とかに来たときも、
すげえみんな洒落てて、いると落ち着かない。
便秘になります(笑)

- 燃え殻
-
何ていうのかな、どこにも居場所がない感じで生きている
っていう意識をもつ、共通言語のある人と会いたい。
- 糸井
-
会いたいよね(笑)
それは、みんなあるんじゃないですか?
- 燃え殻
- みんな感じてるんですかね。
- 糸井
-
たぶん、どこかで。
さっきの「90年代の空気を書きたかった」っていう
燃え殻さんの執筆理由みたいに、
とりあえずこの言葉で納得しとこうって場所に自分を置いて。
今日は考えないようにしようと、
なんとなく生きてるんじゃないですか。
それよりも、この商品を明日どう売るかとか。
- 燃え殻
- ああ、優先順位的にそっちを。
- 糸井
-
忙しいことに、生きていてけっこう課題があるから。
「これやんないと怒られるよな」ってことを先にしますから。
- 燃え殻
- そうですね。

- 糸井
-
今の音楽のくだりで共感の話が出ていたけれど、
やっぱり燃え殻さんの小説を読んでいて楽しかったのは、
俺のことも言っていい? ってページめくるごとに思うこと。
あと、だるい挑発。
「喧嘩しよう」とかじゃなくて、すでに片肘つきながら
「糸井さん、どうですかぁ?」みたいに言ってる感じ。
- 燃え殻
- (笑)
- 糸井
-
だから「そうねえ」なんつって返して。
ちょっとだけ頭をよぎるものがあったりしたら
「俺と世代が違うからなんだけどね」なんて
喋ってるわけです、読みながら。
黙読してるとき声帯が動いてるっていう話もあるけど、
同じように、読んでるときって書いてもいるんですよね。
もしかしたら内容をまとめた言葉にしてるかもしれないし、
「ああ、こういう愛はあるよな」みたいなことを
つぶやいてるかもしれないし。
- 燃え殻
- ああ、一番いい。嬉しいです。
(つづきます)
