なんで、書きたいんだろう。糸井重里・燃え殻

燃え殻: その一つ一つを見ると途中から自分の話になったりとか、最終的に悩み相談みたいになってる。
そういうものを発動できたっていうのが、とってもよかったと思って。
　
ぼく自身が大好きな小説とか映画とかテレビ番組とかってすごい少ないんですよ。
その中に共通してることって、やっぱりそのあとに自分語りをしたくなるということなんです。
　
ぼく、糸井さんに初めて会ったときに、
「糸井さんにはいっぱい代表作もあるし、代表曲もある。
あるけど、ぼくは『イトイ式』という番組で糸井さんのことが大好きになりました」
って言いましたけど、あの『イトイ式』っていう番組がすごかったのは、やっぱり糸井さんが答え出さなかったところかなって。
　
そうすると、あのときぼく夜中に１人で見てましたけど、終わったあとに、糸井重里はこういったけど俺、こう思うんだよなあとか。
やっぱりそういう自分語りをしたくなるようなものっていうのが、小説でも映画でもやっぱりぼくはすごく好きで。
　
そういったものが自分としてもできたのならば、とてもうれしいというか。

糸井: うん。
　
ぼくがよく言うのは、自分が一番好きなのは場を作ること。
いろんな人がそこに来ると自分らしくなれる、
あるいは、人の話がどんどん聞けるようになるとか、
そういう場ができるのが一番、ぼくにとって喜びなので。
　

　
何か諍いがあったりしたら、ないほうがいいなと思うし、押しつけるようなこととか、抑え込むようなことがあると、そういうことすると場がなくなっちゃうから、やめようよって。
　
多分それは、それこそ「キャッチャー・イン・ザ・ライ」って言葉そのもので、子どもたちが遊んでて落ちないように支えてる大人の役という、その思考はぼくの中には多分あって。
　
だから、ぼく自身が何か作ったものが褒められるというのは、瞬間的にはうれしいんだけど、
それよりは、作った場で出てきた人が褒められてるほうがうれしいんですよね（笑）。

燃え殻: あ、それはすごいわかります。
　
大槻ケンヂさんに会ったときに、「大槻ケンヂさんが小説を書いていたので、ぼくは小説を書きました」みたいな、「面倒くさいファン」だみたいなこと言ったんです。
で、大槻ケンヂさんが、「それはうれしいよ。面倒くさいけどうれしい」と言ってくれて。
　
そういうものであれってぼくは念じてますけどね、今。
そういうことが一つでもできたら、
自分、よくやったなって思いますけどね。

糸井: ずっと読者が集まって何かをするって場を作るのは、
ぼくはわりともう趣味であり、仕事でありみたいな。
それは稼ぎにはなんないんだけど、ものすごく大好きで。
　
例えば80年代のはじめぐらいにやってた連載の中に、
「ヘンタイよいこ新聞」というのがあって。
「かわいいものとは何か」ってお題に対して、
「お父さんが股引で家の中を歩いてるのは妖精のようでかわいいと思います」
というのがあった。
お父さんの股引に「かわいい」を持ってくる人がこの場にいるってだけで、ちょっとジーンと来ます。

糸井: うん。
で、何でも今の若い子は「かわいい」で済ませちゃってる、っていう批判があったときに、「かわいい」の中にはそこまで含まれるんだってことをぼくは知ってるから、
「かわいい」で表現する人たちに対して、ものすごくぼくは温かいんです。

糸井: そうでしょう？　
コロッケの表面のバラつきというか（笑）、あれがないと落としたら食えないですよね。
だから、「みたらし団子」ってお題で、「落としても食える」つったら、「おまえ、それ好きなんだろ？」ってなる。
コロッケは大丈夫ですね。拾いたくなる何かがあって。で、食うっていうときに、食いたいからこそって感じが、落ちてるとこから拾う運動の中に全部入ってるじゃないですか。
これはもう永遠にぼくの頭の中に‥‥

糸井: 核の持ち込みがどうのこうのっていうのと同じように、３秒以内はOKだって。あれも、なんとか拾う側の弁護人になりたかったからですよね。
ああいう人間をぼくは、増やしていきたい（笑）。