なんで、書きたいんだろう。糸井重里・燃え殻
担当・いるか
第3回 AKBという、リアリティ。
- 糸井
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手帳に書いてある出来事の中に、書いてないけど、自然に乗っかっちゃうのが音楽でしょ。これとこれのときに、この音楽みたいな。

- 燃え殻
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はいはい。
- 糸井
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それ、書いてないけど実は流れてますよね。
- 燃え殻
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うん、そうですね。流れてる。
で、多分音楽って共有できることじゃないですか。だから、小説を書いたときに、そのところどころに音楽を挟んでいったんですよ。
- 糸井
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入れてますよね。
- 燃え殻
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それは、自分自身がそこでこの音楽がかかってたらうれしいな、っていうのと、ここでこの音楽がかかってたらマヌケだなっていう、その両方で音楽は必要だったんです。
そうすると、読んでくれている人が共鳴してくれたり共有してくれたりとか、共感してくれるんじゃないかなって思ったんですよね。
- 糸井
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音楽って、ある種暴力的に流れてくるじゃないですか。
耳ってふさげないから。
- 燃え殻
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はいはいはい。
- 糸井
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聞きたくなくても。
- 燃え殻
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そう。
- 糸井
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でも、そこまで含めて思い出だ、みたいなことっていうのは、あとで考えると嬉しいですよね。
- 燃え殻
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そうなんですよ。
- 糸井
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何だろうね。
- 燃え殻
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何なんだろう。
- 糸井
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景色みたいなものだね。
- 燃え殻
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そうですね。
景色に風景に、ひとつ足されていって。
共感度とか深度が深まるような気がして。
この小説でいうと、同僚と最後別れるっていうシーンがあるんですけど、そこって映画だったりドラマだったりしたら、やっぱり悲しい音楽が流れてほしいじゃないですか。
そこでAKBの新曲が流れる、っていうところをぼくは入れたかったんですよ。

- 糸井
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いいミスマッチですよね。
- 燃え殻
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そう。
もう俺たち会わないな、っていうのはわかる。
わかるけど、それは言わないで、「おまえは生きてろ」みたいなことを言う。で、言ってるときに、AKBの新曲がのんきに流れてるって、ある、あるよなって‥‥
- 糸井
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あるある。
- 燃え殻
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思いませんか。
- 糸井
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大いにある。
だから、自分の主役の舞台じゃないのが世の中だっていうのを表すのに、外れた音楽を流すというのはすごく、いいですね。
ぼくはそれ、技術として書いてはっきり覚えてることがある。
知らないと思うんだけど、
『ただいま』っていう矢野顕子のアルバムがあって。
「ただいま」って言うために階段を駆け上がってくるときに、
「テレビの相撲の音とか聞きながらね」っていう言葉がある。
- 燃え殻
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へぇー。
- 糸井
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昔はテレビの相撲の音とかがよそのアパートから流れてくる。でもテレビの相撲の音って、自分のためのものじゃないんですよね、若い男女にとって。
男の子と別れた女の子が歌う歌の中に、なんで俺、相撲の音とかって書くんだろうって、書きながら思ったんですよ(笑)。
自分のためのものじゃない世の中に、いさせてもらってる感じを出した(笑)。
- 燃え殻
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ああ、今思いました。
- 糸井
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ですよね(笑)。
- 燃え殻
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今思いました。なんでAKB入れたんだろうって。
- 糸井
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燃え殻さんの小説の中にいっぱい出てくるのはそれですよね。
俺のためにあるんじゃない町に紛れ込んでみたり(笑)。

- 燃え殻
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そうですね。
- 糸井
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俺のためのパーティじゃないところにいたり(笑)。
- 燃え殻
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はいはい。
なんかこう、そこに所在無し、みたいなとこにぼくはずっと生きてるような気がします。
(つづきます)