なんで、書きたいんだろう。糸井重里・燃え殻

糸井: 大変。じゃ、気さくに。
誰も見てませんから、手を挙げてみてください。
　
あ、ダメだ。ちょっと追い詰めちゃったね。
今、テレビカメラ回ってます。

糸井: じゃ、みんな１回、目をつぶってください。
そして、質問のある方、手を挙げてみてください。
いないですねえ。
　
じゃ、もうベストセラー作家に振るしかないね。
お願いします。『嫌われる勇気』の古賀さんです。
必ずね、この役引き受けてくれるの。

古賀: 燃え殻さんは21冊の手帳を、捨てようとか、もうこれ要らねえやとか、そう思う機会はなかったですか。
ぼくは同じように手帳とかノートとか書き溜めて、
引越しのたびに捨てちゃうんですよ。
なんかリセットしたくなって。
そういう気持ち、どうなんだろうなって思いました。

燃え殻: ぼく、物捨てることとか、人と縁が切れることがものすごい下手なんですよ。
この小説もそうなんですけど、付き合ってた人と縁が切れてるのに、自分の中では終わってないんですよね、気持ちが。
そういうこと言ってるからいろんなとこで怒られるんですけど。気持ち悪いとか（笑）。
　
そこに展示してあるチラシとかファイルみたいなものとかもそうなんですけど、ずっと取ってたんですよね。自分ですらガラクタだと思うんですよ。
思うんですけど、そういうものを自分の手元に置いて何度も読み返していないと安心しないというか、そういうのをリセットすると今までの自分と離れちゃった気がして。
荷物がなくなった気がして、一歩前に出るのが怖くなっちゃう。
　
だから、荷物が多少あったほうがぼくは進めるというか。
「荷物はもう軽いほうがいいよ」みたいな人もいると思うんですけど、荷物が重くないとぼくダメなんですよ。
「あいつはこう言ってたな。どうにかしていつか見返してやろう」とか、「いつか口が利ける人間になろう」とか、そういうものを持ってないと多分、ぼくは前に進めないから、絶対一生捨てないと思う。

糸井: ブチの犬がいたり、白い犬がいたりするみたいに。
　
タイトルも、捨てられない、って書いてありますよね。『ボクたちはみんな大人になれなかった』。子どもを「捨て」ないと大人になれないじゃないですか。
ずーっとそういうひともいますよね。
　
でもぼくなんかは、捨てる痛みが好きなんですよね。
「ああ、捨てちゃったけど、とくに大丈夫だったな」みたいなことを涙と共に味わうのが好きですね。それはぼくの個性です。

糸井: 今はカミさんが、どうも捨てそうだな、っていうものを別のとこに出しておいて、しばらく「捨てられそうなもののある通り」ができるんです。
で、そこをぼくは行ったり来たり、お風呂に行くたびに通る。「捨てちゃ困るのがあったら、中に入れといてね」って言われるんだけど、１回も救ったことないです。もう全部見ないで通ります。
そうすると捨てられます。で、何の差し支えもないです。

糸井: あるとしたら、それは寂しさです。
　
さすがに家とかは「え、もうちょっといるつもりだった」ってことがあるかもしれないけど、
本とかモノとかは、よっぽどじゃないと結果的には要らなかったっていうことになりますよね。
　
だから、燃え殻さんみたいな人がいると、ますますぼくは男らしくなっちゃって、「捨てなさい」とか言いますね。でも、根は同じです。

糸井: これのことで、ビートルズについて取材をされて。
で、やっぱりビートルズの話をすると若いときの話になるから、
どういうふうに自分がモテなくてフラれたかという話を軽い気持ちでし始めたら、もう悲しくなっちゃって。
受け入れられなかった自分が、不憫になっちゃって。

　　　　（おわります）