ずっと終わらないリズム＆ブルースの訳

糸井: 質問を受けるというのをやっちゃおうか。

燃え殻: ああ、いいですよ。そういうのやりますか、はい。

糸井: じゃ、みんな１回、目をつぶってください。そして、質問のある方、手を挙げてみてください。いないですね。じゃ、もうベストセラー作家に振るしかないね。お願いします。『嫌われる勇気』の古賀さんです。必ずね、この役引き受けてくれるの。

燃え殻: ぼく、古賀さん、一番尊敬してます。

糸井: もうね、神かってぐらいね。

古賀: 燃え殻さんのその20ひとつの手帳というのは、それは捨てようと思ったりとか、もうこれ要らねえやって引越しのたびにとか、そういう機会はなかったですか。ぼくは同じように手帳とかノートとか書き溜めて、引越しのたびに捨てちゃうんですよ。なんかリセットしたくなって。そういう気持ち、どうなんだろうなって思いました。

燃え殻: ぼく、物捨てることとか、人と縁が切れることがものすごい下手なんです。この小説もそうなんですけど、その付き合ってた人とは縁が切れてるんですけど、自分の中では終わってないんですよね、気持ちが。そういうこと言ってるから、いろんなとこで怒られるんですけど。気持ち悪いとか（笑）。で、そこで展示してあるチラシだったりとかファイルみたいなものとかもそうなんですけど、ずっと取ってたんですよね。
で、それは、何だろう。自分ですらガラクタだと思うんですよ。ガラクタだと思うんですけど、こういうものを自分の手元に置いて、何度も何度も読み返していないと安心しないというか、そういうのをリセットすると今までの自分と離れちゃった気がして、荷物がなくなった気がして、一歩前に出るのが怖くなっちゃう。だから、荷物が多少あったほうがぼくは進めるというか、「荷物はもう軽いほうが良いよ」みたいないろいろな人がいると思うんですけど、荷物が重くないとぼくダメなんですよ。誰かから言われることもそうかもしれないし、任されることもそうかもしれないし、何かこう、言われないとだったり、思ってないと、「あいつはこう言ってたな。どうにかしていつか見返してやろう」とか、「いつか口が利ける人間になろう」とか、そういうものを持ってないと多分、ぼくは前に進めないから、絶対一生捨てないと思う。

糸井: それは個性なんですかね。そういう個性なんですかね。

燃え殻: そうかもしれない。

糸井: ブチの犬がいたり、白い犬がいたりするみたいに。タイトルも、捨てられないって書いてありますよね。『ボクたちはみんな大人になれなかった』。子どもを捨てないと大人になれないじゃないですか。だから、ずーっとそういうお父さんとかもいますよね。ぼくなんか、だから、捨てるゲームの痛みが好きなんですよね。好みなんです。だから、捨てたくない。ずっと捨てるっていう目にも遭いたくない。で、ズルズルズルズル引きずりたいって自分が、捨てざるを得なくなって捨てるときに、見なかったこと――注射するときに刺さってるのを見ないタイプですか。

燃え殻: あ、ぼく見ない。

糸井: ぼくもそうなんで。で、その間に捨てられたときに、「ああ、捨てちゃったけど、とくに大丈夫だったな」みたいなことを涙と共に味わうのが好きですね。それはぼくの個性ですね。

燃え殻: へぇー。じゃ、けっこう捨てるんですね。

糸井: 捨てますよ。捨てますし、捨てざるを得ないから捨てるのと、それから、やけになって、これとこれを捨てるとか言ってないで、部屋ごと捨てるとか。
今は、カミさんが、どうも捨てそうだなっていうものを別のとこに出しておいて、しばらく捨てられそうなもののある通りができるんです。で、そこをぼくは行ったり来たりお風呂に行くたびに通るんだけど、そこで、「捨てちゃ困るのがあったら、放り出しといていいから、中に入れといてね」って言われたら、１回も救ったことないです。全部もう見ないで通ります。そうすると捨てられます。で、何の差し支えもないです。

燃え殻: 本当は何の差し支えもないと、ぼくも分かってるんです。

糸井: それは、あるとしたら寂しさです。ものすごく寂しいという時代があって。だから、さすがに、例えば「あの家、もういいよね」って引っ越すみたいなときは、「え、もうちょっといるつもりだった」ってあるかもしれないけど、本とかモノとかは、よっぽどじゃないと実は結果的には要らなかったっていうことに割となります。だから、燃え殻さんみたいな人がいると、ますますぼくは男らしくなっちゃって、「捨てなさい」とか言いますね。でも、根は同じです。

燃え殻: 寂しさを感じちゃう？

糸井: で、その寂しさが好きなんだと思うんだよね。そのキュンとしてるときの自分のこう、実在感？

燃え殻: 「生きてるー」みたいな。

糸井: うん。俺、昨日、永田君にさ、インタビューされてさ、ビートルズのほぼ日手帳が‥‥

燃え殻: あ、ありますね。

糸井: これのことで、ビートルズについて取材をされて。で、その話をしてる最中に、やっぱりビートルズの話をすると若いときの話をするから、どういうふうに自分がモテなくてフラれたかという話をもう軽い気持ちでし始めたら、悲しくなっちゃって。その受け入れられなかった自分が不憫になっちゃって。

燃え殻: ちょっと涙が？

糸井: ちょっとにじんじゃって（笑）、「ごめん、ちょっと待って」みたいな。

燃え殻: 大人になれてないじゃないですか（笑）。

糸井: だから、それは捨てても残ってるんです、やっぱり。つまり、俺、何ていうの、でこぼこ理論なんで、型があって、そこに嵌まってる粘土が自分だと思うので。つまり、何ていうの、ジャイアンツのマークがあるとして、ジャイアンツのマークがへこんでる型があったとして、そこに粘土をギュギュギュとやってポンと取るとジャイアンツのマークができるっていうときに、出てきたものが自分なんですけど、粘土をギュッとやれば必ずその人はジャイアンツのマークができるって型は、自分じゃないけど、いくらでも自分の作れるものですよね。
それが世界です。
ぼくがいなくなっちゃっても、ここにぼくがいるってみんなが思ってればぼくはいるんです――という理論なんで、つまり周りのものが全部で、「俺はいるんだ」という思いになりやすいわけです。捨てちゃうと、そこのところで、「あそこを捨てちゃったら、俺じゃなくなっちゃうな」って。そういう気持ちになるから、子どもは捨てたくないんです。

燃え殻: ああ、じゃ、ぼく、それだ。

糸井: それだと思う。だから、大人になれなかったって言ってるじゃないですか。

燃え殻: はい。発売までして（笑）。

糸井: 他にございませんか。はい、真ん中の、あ、あなたです。

男性: 燃え殻さんはけっこう印象的なツイッターやツイートをされてると思ってて、いつも楽しく読んでます。

燃え殻: あ、すみません、ありがとうございます。

男性: あれは、どういう思いで、きっかけで書こうかなって思われてるんですか？　けっこう日々書かれてるじゃないですか。でも、こういうときは書こうかなとかって、何かあるんですか。

燃え殻: まったく別にないんですけど、何だろう‥‥ぼく、下書きとかしたこともないし、何だろうなあ、何もないときに書いてますね。それこそ習慣づいてて、ちょっとこれはヤバいなって、最近はもうちょっといい加減にしようと思ってるんですけど。
‥‥なんかすごい、これ、ツイッターとかでリツイートとか「ふぁぼ」みたいのがつくと、それがいっぱいつくとうれしいって。別にお金儲かんないじゃないですか。お金儲かんないのに、なんか嬉しいみたいな気持ち、そういう期というのがあったんですけど、みんな、リツイートしちゃう年頃ってあるじゃないですか。若い子とか。で、なんか「ふぁぼ」しちゃう年頃みたいな、別にもう、別に意味なんかないです。
でも、それを受けてるほうは、ものすごい人気があるんじゃないかって思い始めちゃって、これヤバい、ヤバいというか気持ち悪いなと。ぼくは、それ期です。

糸井: 今、そのウケちゃって気持ち悪いなって。

燃え殻: そういうのは勘違いしてはいけないと。何だろう、ツイッターとかで例えばフォロワーが多い人が何かイベントをやります、っていうときの危うさって（笑）、ありませんか。

糸井: だから、自分を支持してくれる人を集めるっていうのを繰り返すと、仕事になるんですね。で、そこで止まるんですよね。

燃え殻: 止まる、止まるじゃないですか。

糸井: うん、止まるのがいやだから、したくない。

燃え殻: ぼくもそれがすっごい嫌なんです。すっごい嫌で、その同じ人から何度もお金を取るみたいな、同じ人から何度も気持ちを取るみたいなことを‥‥

糸井: 「気持ちを取る」ね、うんうん。

燃え殻: やりがちなんですよ、ああいうものが。ぼくはツイート集みたいなのを出しませんかって言われたら絶対嫌だなって思ったのは、そんなツイート集を買ってくれる人が何千とかいたらいいなぐらいの話で、もっといないかもしれない。その人たちから金をもう１回取るみたいな、そういう、何ていうんだろう‥‥なんかすごい小さい‥‥

糸井: 狭い感じね。

燃え殻: 狭い感じで。本当に思うんです、ぼく。

糸井: それは、そう思ってる人はなんないです。絶対なんないですよ。で、それは、気づいちゃってる人はしないんですよ。大丈夫です。燃え殻さんはなんない。で、武者修行は好きですよね。怖い人に会うとかって。

燃え殻: あ、そうそう、それは大好きなんですけど、それが怖い人に会うって、もうぼく、糸井さんに会うの超怖かったんですよ。そりゃ怖いじゃないですか。糸井さんに会うって怖いですよ。今２回言いましたけど（笑）。

糸井: 言われてる本人としては、ああ、そうですかって。

燃え殻: で、怖い人にしかこの夏、会ってないんですよ、ぼく。もう本当に怖くて。

糸井: ああ、いいですね、うん。

燃え殻: もうずっと肝試しみたいな。だって大槻ケンヂさんとか、会田誠さんとか、大根さんとか、そんなの毎週会ってるんですよ。

糸井: ちょっと無頼な匂いしますね、ぼく以外は。

燃え殻: いや、糸井さんも無頼ですよ。でも、そうすると、でも、ちょっと違う人が見ると、「このミーハーめ」と。

糸井: ああ、なるほど、なるほど。

燃え殻: でも、その人たちとぼく、１回飲みたいぐらい好きで。そうじゃなくて、これは、何ていうんだろう、プロレス好きなんですけど、新人レスラーがすげえ、すごい強い選手と夏のシリーズとかで７番勝負とかさせられるんです。で、バカみたいにやられるの。でも、やられてる様を見て、「頑張れよ」みたいな、客が声援を送るっていうプレイがあるんです。で、もうそれに近くて。

糸井: プロ中のプロのやっぱりトップクラスの人がどういうふうに恐ろしいか、みたいな。そこのところで、ちょっと組手やらせてもらってありがとうございましたっていうのって。

燃え殻: いや、もう本当に、だから、組手ですよ。で、それぞれ宗派が違うんですよね。会田さんとか大槻さんとか。

糸井: 全部違うよね。

燃え殻: 違うんですよ。で、それで、ことごとくやられるわけですよ。だから、勉強になるんです、いろいろ。
本当に勉強になったし、みんな、いい人でしたよ。いい人でしたけど、ただ、そういうことにいろんな組手をして、そうすると分かるんですよ。自分がいかに何でもないかが分かるし、その今、自分が置かれてる立場とかが、x軸、y軸で分かるんです。そうすると、すっげえ持ち上げる人がいたとしても、もう分かるっていうか。

糸井: 自分が思ってて気づいてなくて、あなたはすごいですよっていう、はっきりあるものがあって。それは、あのとんでもない角度からいろいろ質問受けてる人生相談。あの答えてる燃え殻さんは、すっごく同じ場所に立ってて、一生懸命考えてて、エッセイでも何でもないんだけど、ものすごい発見もあって、全部面白い。

燃え殻: えー、ありがたい。

糸井: 谷川俊太郎さんの人生相談の本をうちで出してるんだけど、『谷川俊太郎質問箱』っていうので‥‥

燃え殻: はい、ぼく、持ってます。

糸井: あれぐらい面白い。

燃え殻: え？

糸井: 本当にそう思う。

燃え殻: ああ、ありがとうございます。

糸井: 本当にあれ一生懸命やってますよね。

燃え殻: もう一生懸命やるしかないし‥‥

糸井: そうですよね。

燃え殻: あと、ぼくはそのすごい人たちとそうやって組手もしましたけど、でも、ぼくが雑誌だったりとか本だったりとかテレビで見てた糸井さんとか、堀江さんとか会田さんとかは、「わっすごいな、全然かなわねえ」って思って当たり前なんですけど。かなわないって思ったけど、会ったら、「あ、人間じゃん」って思ったんですよ。失礼なんですけど。
で、何十パーセントかは多分、みんな一緒やんって思って。だから、人生相談みたいのを文春オンラインでぼくやってるんですけど、来たときに、どこかぼくの人生の中のどこかで、「まったく同じことはないけど、そういう気持ちに俺もなったことあるよ」っていうことばかりなんですよ。性別が違かったとしても、年代が違かったとしても、生きてた場所だったり職業が違かったとしても、「ああ、俺は全然違うけど、その気持ちに近い気持ちに小学校のときになったな」みたいな。
で、その人と握手したいというか。「俺は、直接そうじゃないかもしれないけど、こういうことであなたと同じような気持ちになった。で、この話なんだけど、もしかしてこうなんじゃないかな。もし、ぼくがあなたの立場だったらこう思う。違ったらごめんなさい」ぐらいまで入れるっていう感じですよね。

糸井: そうですね。何よりも良いのは、その燃え殻さんの、良い意味での気の弱さがあるおかげで、その相談してきた人に嫌な思いしてほしくないっていうところなんですよ。

燃え殻: ああ、それ思います。

糸井: 本当に回答するっていうのを一番効率的だったり、一番真実に近いところで回答するんだったら、その人を１回傷つけてでも、これは答えた方が良いんじゃないかってことはあるわけで、で、それは、良い答えはいっぱい今までの人生相談なんかでもそういうのあるんですよね。ぼくもそれはよくやるんです。それも、今は悲しいかもしれないけど絶対この方が良いからっていうのは、ぼくは言うことはあるんです。だけど、燃え殻さんは、その人が嫌な目をしませんようにっていうのを前提にしながら、こういうおじさんがいたんだけどとか（笑）。

燃え殻: いや、もうそうです。悩み相談で、あれガチしてもらってるんですよ。だからもう、拙くてもそのまま載せてくださいにしてるんですよね。そうじゃないとつまらないんで、ぼくもやる気起きないんで。で、そうすると、なんか、レスキューじゃないですか。自分が悩みがあって、さらにそれをネットにメールするって、熱量の落ちなさが半端ないというか、相当悩んでる、もしくは、まあ、自分としても答えが欲しいというか、それくらい真剣なんで、ということはそれぐらいもう傷ついたり、それぐらい悩んだんで、もういいじゃないかってぼくは半分思ってて。もうそこまで悩んだら、半分良いよ。それを投げ出さなかったという時点ですごいなあみたいな。

糸井: だから、あれは人生相談に答えてるというよりは、その人と隣り合わせで慰めてるんですよね。

燃え殻: ああ、そうです。そう思ってました、ぼくは。
傷がかさぶたになって、それが取れて、きれいになりましたってすごく素晴らしいですけど、そんなことばっかじゃないから。

糸井: そうそうそう。

燃え殻: そのかさぶたでも良いし、血を止血しながらでも生きていかなきゃいけないじゃないですか。

糸井: そうそうそう。

燃え殻: そういうこと、まあ、悩みで言えば、「一旦保留にしようぜ」って言う人生相談ってなんでなかったんだろうって。

糸井: いや、あれがやってますよね。

燃え殻: ぼく、一旦保留にしたんですよ。で、一旦保留にして生きてこれたというのがたくさんあって、その手帳もそうかもしれないですけど、手帳を見ると解決してないことばっかなんですよ。それが全部解消して線が引けて「はい、これだけ俺、成長した」っていう優越感のもとに手帳なんか見てる訳じゃなくて、「うわー、俺、昔の方がちゃんと考えてる」とか。

糸井: あるあるある。

燃え殻: でも、それを見られるのもすごく良くて、それぐらい保留にしたりとか、自分でも忘れられる、保留にしたことによって。それでいったん置いといて、将来の自分が解決してくれたり、将来の自分を「もう一回置いとこうか」って思ったりしながら生きていくとぼくは思うんですよね。そういう方が、何ていうんだろう、リアルなような気がして。

糸井: グシャグシャしたことでも、語ってるうちに泣いちゃって大声出しちゃったりして。その内忘れて、泣き止むかどうかになりますよね（笑）。

燃え殻: 分かります、分かります。

糸井: 子どもとかでも、取りっこしてたとか引っ掻いたとかって話で、ウワーッて泣くと、ウッウッ、止まると終わるじゃないですか。あの、なんか泣いてるだけって状態に対する手を差し伸べるのがなんか、「あんた、もう一生の仕事にしなさい、それを」って。
本当、だから、あなた、モテるんですよ。分かるでしょう、だってこの人モテるの。

燃え殻: モテない、モテない（笑）。

糸井: いや、いっぱいしゃべってる、無口じゃない燃え殻さんが味わえたと思います。どうもありがとうございました。

ずっと終わらないリズム＆ブルースの訳

担当・佐藤徹

第５回自分を「いったん置いとこうか」って思ったりしながら、生きていく。

ずっと終わらないリズム＆ブルースの訳

担当・佐藤 徹

第５回 自分を「いったん置いとこうか」って思ったりしながら、生きていく。

担当・佐藤徹

第５回自分を「いったん置いとこうか」って思ったりしながら、生きていく。