もくじ
第1回なんで思うだけじゃなくて、書きたいんだろう。 2017-10-17-Tue
第2回自分のためのものじゃない世界を書くということ。 2017-10-17-Tue
第3回“ウソ”が“気付き”になっていく体質。 2017-10-17-Tue
第4回リズム&ブルースの流れるジュークボックス 2017-10-17-Tue
第5回自分を「いったん置いとこうか」って思ったりしながら、生きていく。 2017-10-17-Tue

こどもの医療機関で広報・PR・Webサイト運営、ファンドレイジング(寄附あつめ)に従事しています。

ずっと終わらないリズム&ブルースの訳

ずっと終わらないリズム&ブルースの訳

担当・佐藤 徹

第3回 “ウソ”が“気付き”になっていく体質。

糸井
出版社だと書いた文章を直したりとかっていうのを新人にはするけど、そういうやりとりはあったんですか。
燃え殻
あ、ありました。
糸井
それはどうでした?
燃え殻
女性の編集の方だったんで、ぼくとしては、男としてはアリっていう表現を、「女性は読んだときに嫌悪感があります」っていうものに関しては、バッサリ捨てました。そこに関しては信用したいというか、「男は本当はそうだよね」って思ったとしても、「それだと女子引くから」っていうものは。
例えば一番最初のオープニングのところで、主人公のボクというのは、同じラブホテルで違う女の子と泊まってるんです。で、そのあとに昔好きだった女の子を思い出すというところで始まるんですけど、「20年ぐらい経って同じラブホテルに行ってる男、引くんですけど」って編集者に言われて(笑)。
糸井
ああ、なるほど、なるほど。
燃え殻
「ちょっといいとことか行かないんですか」みたいな。
糸井
でも、しょうがないじゃん、ねえ(笑)。
燃え殻
「いや、けっこう別に行ったりとかすると思うんですけど」「いや、行かないでください。女性引きますから、そういうの」って言われて、それで六本木のシティホテルみたいなラブホテルに行くって変えたりとか(笑)。
糸井
多分、今、本を作るっていうのは、“作品”を出すっていうことと“商品”を出すということと二重の意味があって。だから、「女子が引くなら引くで、引けよ」っていうのが“作品”じゃないですか(笑)。
燃え殻
ああ。
糸井
でも、「女子が引くんです」「あ、そうですね。それ汚れに見えますもんね」と言って、「きれいにしましょう」って拭くのが“商品”じゃないですか。
燃え殻
ああ。すげえ言わなきゃよかったみたいな(笑)。すごい、すごいダメだったかもしれない。わあ、いろんなところから怒られるかもしれない。
糸井
わかんないんだけど‥‥
燃え殻
新潮社の人が来たらどうしよう(笑)。
糸井
でも、いや、もっと言えば、推理小説の中で描いてる恋愛なんていうのは、推理小説である理由なんかなかったりするわけで、推理小説のようになってないと興味がなくなっちゃうと困るから、人を殺して入れたりするってことはあるわけでしょ? で、それは商品性を高めてるじゃないですか。
だって、ドストエフスキーだってそれこそ殺人とかまぜて、来週はどうなるんでしょうねって。「ドストエフスキーです! 来週はどうなるんでしょう」って(笑)
燃え殻
「ジャンプ」的な。
糸井
やってるわけだから、その商品性みたいなものというのを丸々否定するわけにはいかないし、そこのとこで女性引いちゃうのを、「引いちゃうんだったらこれはやめとこうか」っていっても伝わるものが出したいんだったら、それはもうバランスの問題だから。
燃え殻
そう。だから、やっぱりその最初に、このゴールデン街の朝だったりとか、ラブホテルのその朝か夜か分からないところだったりの部分ってぼくとしてはすごく気持ちよかったんで、なんかこう、いろんな人たちと共有したかったってなったときに、他の部分というのはそれを補強するものでしかないんですよね。
だとしたら、「多くの人に読まれる道っていうのはこっちなんじゃないですか?」と提示されたものに関しては、「じゃ、そっちの道で考えます」っていう形で、もうどんどんやっていったというのがすごくあったかな。
糸井
だから、何だろうな、観光会社のバスツアーで「ここのお寺を組み入れましょう」と言われたときに、「ああ、このお寺に来てくれる人が増えた、うれしいな」っていう場合は、「どうぞ」ということで、もう山道のわざと遠い道を来て、このお寺に来てくれた人が貴重なばっかりじゃないって考えはあると思うから。
ぼくはそれは、それで全部やめちゃうわけじゃないし、このあともいろんな表現をしていくわけだから、全然構わないとは思うんです。まあ、嫌だと思う人はいるかもしれないし、もっとやれって人もいるかもしれない。
燃え殻
まあ、そうですねえ。
糸井
あのラララ、ラララランド。
燃え殻
なんかスクラッチしちゃいましたけど(笑)。『ラ・ラ・ランド』。
糸井
ララ、『ラ・ラ・ランド』。(巻き舌で)ララランドの中で、主人公の男の子と親しかったんだけど、ヒットソング作れるようになっちゃった黒人の子が出てくるじゃない。
燃え殻
本当言いづらいけど、ぼく、観てない。
糸井
観てないのか。
燃え殻
観てない。
糸井
そうかそうか。もし何だったら観たら面白いと思うんですけど。つまり、音楽仲間なんだけど、ぼくはもう一つなんかこう、今の話でいうと、作品のところでなんか思い悩んで、ブレイクスルーできないんです。そしたら、こっち側に、ものすごく大勢の人が喜んでくれる曲を「俺は作れる!」ってもう自分に言い聞かせたかのように、もうパーンと盛り上げる曲を作れるようになっちゃったやつは大当たりしてるんです。
で、バッタリ会って、あいつ、いやなんだよなって主人公は思ってるんだけど、こっちはこいつのこと認めてるから、「俺のバンドに入れよ」って言うの。で、恋人との関係もあるから、金も必要だし、生活が安定しないとこれから作品どころじゃなくなっちゃうから、じゃ、このバンドでキーボード弾くわって入る――ていう逸話があってさ、エピソード。それはのちにまた大きな展開を作っていくんだけど……
アルバムとしてそのCDが出ると、彼がやってるバーンと盛り上げる曲も、主人公が弾いてる曲も、2人後ろに流れているだけの曲も、同じアルバムに入ってるわけ、サウンドトラックだから。
そうすると、「良いよな」みたいに主人公に思い入れしてた後に、彼の曲が流れてきたときに、「ちょっと嫌だ」って気持ちあるのよ。半分あるの。で、同時に、「悪くないんじゃないの?」って気持ちもある。で、「こっちとこっちとさあ」みたいな気持ちが、CDを順番に聞いてる人の中に毎回起こるのよ。
紙芝居みたいな映画なんだけど、人に典型的な何かを伝えてくれるんですよね。観たらいいよ。きっと喜ぶよ。
燃え殻
あ、観ます。
糸井
あれはあれで大人になれなかった人が大人になっちゃっちゃったみたいな話だから。いいよ、すごく。バカにする人はバカにするけど、俺はああいうファンタジーはあったほうがいいと思う。
その今のやりとりの話は、とても絵を描く人だとかも、画廊の人がさ、「今そのへん行くと古く見えるよね」とか言うだろうし、ぼくなんかにしてみれば、「会社ってそういうことを人は望んでないだろう」とか。例えば、「糸井さん、成長ってことどう思うんですか」みたいな話をされて、成長っていうと何かこう、株が上がりますよみたいな話をされても、それが目的じゃなかったみたいなところで、でも、成長、嫌じゃないんですよって言わなきゃならないし、本当に思ってたみたいなところで、どこに自分の軸を置くのかっていうのはやっぱりアリで。やっぱり世の中の物事は、“作品”と“商品”の間を揺れ動くハムレットなんじゃないの? だって結婚は愛じゃないとか言う人っているじゃないですか。
燃え殻
いますね。
糸井
事業だとかさ。で、「そういう人とは一緒になんないほうがいいわよ」って忠告するのは、“商品”として完成しなさいって人の話じゃない。片や、恋愛のまま突き進んでいって失敗する人というのは、つまり“作品”が売れなくなって大変な思いをするって人で。両方ありますよね。
燃え殻
ありますねえ。
糸井
だから、聞いてる人の中でも、その“作品”と“商品”の、あるいはみんなに伝わるか、自分が気持ちいいかみたいなもののバランスは、あるんじゃないでしょうかね。
燃え殻
ああ、ありますね、絶対。それがバランス、難しいですけど、難しいですけど、バランスがいいと、うれしいなぐらいですよね。
糸井
そうですね。
燃え殻
うれしいなぐらい分からなくなってくるんですよね。
糸井
バランスを良くする方法というのを一生懸命コツがあるかと思って探すと、実はバランスを壊すんだと思う。
燃え殻
ああ、そうだと思う。
糸井
だから、近くを見てると倒れるというか。
燃え殻
はいはいはい。
糸井
オートバイ乗ります?
燃え殻
乗らない。
糸井
オートバイの練習で、一本道というのがあるんです。その一本道をずーっとオートバイで行って、トンと普通に下りればいいだけなんだけど、脱輪するんですよ。それは何かというと、脱輪しないように車輪の先を見てる人は必ず脱輪するんです。
で、一本道は、車輪なんか見ずにまっすぐ前を見ればいいんです。すると、自然にまっすぐ行くの。で、それ、けっこうぼく、オートバイの練習してるときに、なんて良いことを教わったんだろうと思って。とにかく近くでいっぱい一生懸命考えれば脱輪しないかってこと絶対ないんで。前見るんですよね。
それが一つと、それからあとは、バランスをちゃんと取るためには、バランスのことじゃなくて、入れ物の大きさを変えちゃうというか。何でも放り込めば、自然にバランスを取らざるを得ないんで。
1個しかない玉だとバランス取れないけど、百個入ると籠は安定するじゃないですか。みたいなことを考えるようになった。何でもありって、本当にみんな受け入れちゃえば良いんだよ。なんかこう、年上の人からのお話みたいな。
燃え殻
いやいや、年上じゃないですか(笑)。いや、すごいためになる。そうですね。
糸井
いや、これはね、でも、答えはそこじゃなくて、そっちかーみたいなところがあってさ。
で、若い人にいくら言っても、コツにしか聞こえないんで。コツじゃなくて、だから、今いっぱい取材受けてるなんていうのも、ウソばっかりついてるのも含めて、1個ずつの重みなんで。
トータルにしたら、あそこでああいうことを言えたからいいかとか、あの人と会って、あのあとでまた違う話をしたとか、結局そこで90年代の空気をっていうのを読んだ人が、もうちょっと良いことを何かまたかぶせてくれるとか。
燃え殻
そうですね。あと、そのウソがだんだん自分の中で板についてくるというのもあって、それは“ウソ”って簡単に言っちゃうけど、もしかしてそれは“気づき”なのかもしれないし、「ああ、それか、そういうことを求められてたのか」って、ぼくは受注体質なので、仕事が。
糸井
受注体質(笑)。
燃え殻
だから、「あ、そうお客さんが思うんだったら、そうしたいな、そういうものを作りたいな」って思って、ああ、そういうものが作れたんだったら、それで良いじゃないかって思うんですよね。で、その感想もそうだとしたら、それで良いじゃないっていうふうに思うんですね。で、今、ほぼ日さんで感想を送る‥‥
糸井
あ、あれ面白いねえ。
燃え殻
面白くて(笑)。
糸井
答えを返すのは偉い。
燃え殻
いえいえ、だから‥‥
糸井
ちゃんと向き合ってて。
燃え殻
いや、なんかその一つ一つを見るとやっぱり、その糸井さんのさっきのお話じゃないですけれど、途中から自分の話になったりとか、最終的に悩み相談みたいになって、ほかのメディアでやってることみたいな(笑)、答えようかなと。なんか、何ていうんだろう、そういうものを発動するっていうのは、とっても、ああ、よかったと思って。
ぼく自身が大好きな小説とか、映画とかすごい少ないんですよ。で、テレビの番組とかも言っても少なかったんですけど、その中に共通してることって、やっぱりそのあとに自分語りをしたくなる。
ぼく、糸井さんに初めてあったときに、「糸井さんにはいっぱい代表作もあるし、代表曲もあるし、あるけど、ぼくは『イトイ式』という番組で糸井さんのことが大好きになりました」って言いましたけど、あの『イトイ式』っていう番組がすごかったのは、やっぱり糸井さんが答え出さなかったという。深夜に。2か月に1回。
で、そうすると、終わったあとに、あのときぼく、夜中に1人で見てましたけど、「糸井重里はこういったけど、俺、こう思うんだよな」とか、やっぱりそういう自分語りをしたくなるようなものというのが小説でも映画でもやっぱりぼくはすごい好きで、そういったものが自分としてもできたのならば、とてもうれしいというか。
糸井
できてますよね。
燃え殻
だとうれしいです。
糸井
うん、だから、ぼくはよく言うのは、自分が一番好きなのは場を作ること。だから、いろんな人がそこに来ると自分らしくなれる、あるいは、人の話がどんどん聞けるようになるとか、そういう場ができるのが一番、ぼくにとって喜びなので。何か諍いがあったりしたら、ないほうがいいなと思うし、あるいは押しつけるようなこととか、抑え込むようなことがあると、そういうことすると場がなくなっちゃうから、やめようという。
多分それは、それこそ「キャッチャー・イン・ザ・ライ」って言葉そのもので、子どもたちが遊んでて落ちないように支えてる大人の役という、その思考はぼくの中には多分あって。だから、ぼく自身が何か作ったものが褒められるというのは、瞬間的にはうれしいんだけど、それよりは、作った場で出てきた人が褒められてるほうがうれしいんですよね(笑)。
燃え殻
あ、それはすごいわかります。大槻ケンヂさんに会ったときに、「大槻ケンヂさんが小説を書いていたあと、ぼくは小説を書きました」みたいな、「面倒くさいファン」だみたいなこと言ったんです。で、大槻ケンヂさんが、「それはうれしいよ。面倒くさいけどうれしい」と言ってくれて、そういうものであれってぼくは念じてますけどね、今。
そういうことが一つでもできたら、あ、なんかよくやったなみたいな、自分、よくやったなって思いますけどね。
(つづきます)
第4回 リズム&ブルースの流れるジュークボックス