燃え殻×糸井重里対談キラキラの100円玉でありたい。
担当・上條

第5回 富山の女子高生を喜ばせたい
- 糸井
-
燃え殻さんは、これだけ本が売れても、
会社は辞めないんですか。
- 燃え殻
-
それはよく聞かれるんですけど、絶対辞めないです。
- 糸井
-
絶対辞めないですか(笑)。
- 燃え殻
-
はい、絶対に。
今、自分がいろいろなところで取材を受けたり、
メディアに出たりしていることを、
うちの社員とか、若手の子とかが見てくれてる。
それが本当にうれしいんですよね。
- 糸井
-
ああ。
- 燃え殻
-
ぼく自身は、エクレア工場で働いてた頃から
「自分が社会の数に入っていない」みたいな感覚が
猛烈にあって、
それがさっきの似顔絵とかに
つながっていくんですけど。
今の会社に就職しても、
今度はテレビ局とか制作会社の人たちから、
「おまえのところは数に入っていない」ってことを、
いろんな言葉で言われるわけですよ。
だから、社長と一緒に、
この会社を世の中で認めてもらえるには
どうしたらいいだろうって、
そればっかり考えながら、必死にやってきました。
- 糸井
-
ええ。
- 燃え殻
-
だから、小説を書いて、
やっと社会に認めてもらえたような気がして。
そしたら仲間がすごく喜んでくれた。
- 糸井
-
うんうん。
- 燃え殻
-
社長なんて、ある意味、親より喜んでくれて。
それが一番うれしかったなあ。
だから、会社は辞めません。

- 糸井
-
その答えはすごくいいですね。耳にいいですね。
じゃあ、何か書くってこともやめないんですか。
- 燃え殻
-
やめないつもりではいます。
- 糸井
-
次の作品については何か考えてるんですか。
- 燃え殻
-
いえ。
ぼくは、受注があったことに対して
全力で取り組むっていうことをずっとやってきました。
それが小説だろうが、美術制作のフリップ1枚だろうが、
本当に一緒で、全力で取り組んで、
できれば喜んでもらいたいって思ってます。
- 糸井
-
はい。
- 燃え殻
-
だから、自分がこれから
小説でこういうことを訴えたいとか、
正直ないんです。
取材とかでは、
まず「何をこの作品で言いたかったんですか」
って聞かれるんですけど、ないんですね。
でも何か言わなきゃいけない、
と思っていろいろ言ってたんですけど。
やっぱり実際は、
どうしたら共感してもらえるのか、
どうしたらおもしろいと思ってもらえるのか、
みたいなことばっかり考えてました。
- 糸井
-
ああ。
子どもがまだ小さい頃、
寝かしつけるときに
デタラメな物語をつくって聞かせていたことがあって。
で、主人公を子ども本人にしてあげたりして、
子どもが喜ぶように、
でまかせにいろんなこと言ってるとウケるんですよね。
なんか似てますよね。
- 燃え殻
-
似てる。
- 糸井
-
ね(笑)。
誰かが喜んで聞いてくれているんだったら、
さあ、その喜んでる人に向かって
何かしてあげようって。
そういうこと、あるよね。
- 燃え殻
-
ぼくはもう、それだけですね。
多くの人に喜んでもらえるのは何なんだろう、
みたいなことを探すのが楽しかった。
自分の作品だったら、
やろうと思えばどんなに残酷にもできるじゃないですか。
でも相手を驚かせるとか、悲しませるのって
ある意味簡単というか、狂気的なことをすればいいんですよね。
それより、相手を面白がらせるって
けっこう大変だぞって思ってます。
- 糸井
-
そうだよね。
- 燃え殻
-
あと、安心させるとかね。
- 糸井
-
人って案外、普段は浮かない気持ちでいるもんね。
それを浮かせる、ウキウキさせるっていうのは、
実は力仕事ですよね。
- 燃え殻
-
そうですね。
その人が今どんな状態かってわからないじゃないですか。
- 糸井
-
わかんない。そうだ。
- 燃え殻
-
でも、まあ、自分自身がそんな明るい人間じゃないんで、
ぼくを基準にして、ぼくがこれぐらい喜べることだったら、
ほとんどの人にとっては、
たぶんもっと喜べることなんじゃないかなって思って。
自分のハードルが低いのが、
実はモノを作るのには向いてるんじゃないかな
って思ってるんですよね。
- 糸井
-
それを、小学校で壁新聞つくってたときから
ずーっとやってきたんですもんね。
- 燃え殻
-
そうですね。
似顔絵も、ラジオの投稿も全部そうです。
- 糸井
-
ずっとやってきたことは確かだよね。
それは確かだ。
- 燃え殻
-
小説もそうです。
できれば喜んでもらいたい。
たとえば、ぜんぜん知らない、
富山の女子高生とかにも喜んでほしいなって
そんなことばっかり考えて書いてます。
