燃え殻×糸井重里対談キラキラの100円玉でありたい。
担当・上條

第2回 求められている答え
- 燃え殻
-
人前で話すことに慣れなくちゃいけないな、と思っていて。
だから最近トークショーとかやらせてもらっているのは、
新人レスラーの夏のカーニバルみたいな(笑)。
あるじゃないですか、8試合連続で先輩に当たるみたいな。
それをやってるつもりなんです。
でもやっぱり、人前で話すのは苦手ですね。
- 糸井
-
苦手かどうかで言えば、それはぼくも本当に同じですよ。
- 燃え殻
-
ああ、そうですか?
- 糸井
-
うん、ぼくは毎週の社内ミーティングで、
1人でしゃべりまくってますけど、
得意かっていったら、得意じゃないね。
苦手だね。
- 燃え殻
-
今でも苦手だなと思います?
- 糸井
-
思います、思います。
- 燃え殻
-
でも、それ毎週やってて、
その日の朝とかちょっとは緊張するんですか。
- 糸井
-
そのとき、心の中に矢沢永吉が出てくるわけですよ。
永ちゃんが出てきて、
「矢沢、楽しめ」って俺に声かけるんですよ(笑)。
- 燃え殻
-
糸井さん、心の中に矢沢永吉を飼ってる(笑)?
- 糸井
-
飼ってる。
明らかに俺の心の中は永ちゃんがいる。

- 燃え殻
-
そういうピンチのときに、
どうやって助けてくれるんですか?
永ちゃんが語りかけてくれる?
- 糸井
-
たとえば、今の話で言うと、
心の中の永ちゃんが、
「俺もステージの前はドキドキする」
って話を真面目にしてくれるわけよ(笑)。
- 燃え殻
-
へぇー。
- 糸井
-
で、「それは当たり前だよ」とか言ってくれて。
あるいは、「がんばれ、矢沢」とか
「おまえならやれる」って励ましてくれる。
その中でも一番効くのが、「矢沢、楽しめ」って言葉。
ぼくは、多いときだと8万人とかの前で
しゃべらなくちゃいけないことがあります。
そのときに、「楽しめ」って言葉の力って、ものすごくてさ。
そうか、楽しみに来てくれてる人たちがいるんだから、
俺も一緒になって楽しめばいいんだって。
それでステージに出られる。
- 燃え殻
-
おお、なるほど。
- 糸井
-
今でも人前で話すのは、苦手です。
でも、その「楽しめ」のおかげで、どれだけしのいだか。
- 燃え殻
-
「楽しめ」かあ。
ぼくは「嫌だ嫌だ」って言ってたんです。
この前、またトークショーみたいなのがあって。
始まる前に、編集の人に「ああ、嫌だ」
みたいなことを言ったら、
その人が、「いいんですよ。
あなたが動いてるの見たいだけなんですから」って。
- 糸井
-
ああ。
- 燃え殻
-
また別のときは、
映画監督の大根仁さんが対談相手だったんですけど、
「いいこと言わなくていいよ」って言ってくれたんです。
で、実際に話してて、
確かにこのままでいいじゃないか
っていう気持ちになったんですよね。
それまでは、なんか1段上がったとこで話すし、
マイクもついてるし、っていうんで、
なんかこう、何か1つでもいいことを言わないと
いけないんじゃないかなって思ってたんです。
- 糸井
-
うん、よくわかります。
- 燃え殻
-
でも、「そんなことは誰も期待していない」
って言われて上がってみたら、
それで成立したんですよね。
- 糸井
-
特に対談は、相手がなんとかしてくれる
ってことは大いにあるから。
だから、何でもいいのよ。
特に新人の立場で対談だったら、相手に任せればいい。
ただ、相手が「いいこと言わなきゃタイプ」
の人だったりすると、面倒くさいから断ればいい。
- 燃え殻
-
ああ、なるほど。
- 糸井
-
たとえば、自分の本の宣伝が目的で出てくるような人とかね。
つまり、商業活動として対談しに来る人は、
舞台でいいことを言って自分を売り込むのが仕事だから。
そういうのは断って、
ただ「会って話そう」って言う人がいい(笑)。
- 燃え殻
-
そういう方がおもしろいって、糸井さんは思ってるんですよね。
だって、この間の銀座ロフトでの対談のときも
「10分前に来てくれ」だったじゃないですか。
- 糸井
-
うんうん。
- 燃え殻
-
それでもう打ち合わせも何もなく、
ドーン、行こう、じゃないですか。
- 糸井
-
うん。「このことだけは伝えなきゃ」みたいなことは
1つもないから。
それがあると、ぼくはできなくなっちゃうんです。
- 燃え殻
-
「これだけは言ってくださいね」みたいな。
- 糸井
-
そう、ギクシャクしちゃう。
- 燃え殻
-
わかります。
ぼくもこの間、テレビに出たんです。
そしたら、「途中でこれを言ってください」
っていう質問が1個用意されてて。
「でも、1個だけなんで。あとはこっちで全部巻き取るんで、
これだけ言ってくださいね」って言われて。
それがすごい気になっちゃって。
- 糸井
-
大変だよね、うん。
- 燃え殻
-
それが1個あることによって、
全部ダメになっちゃうんです。
ずーっとそれのこと考えてるんですよ。

- 糸井
-
わかる。
俺もまったくそう。
テレビは今もう、それの山になっちゃってて。
この話でまとめる、みたいなのを先に決めちゃって、
その前提でやる。
だから、もうやる前からできてるんですよね。
それで、確実なおもしろさが担保できるわけですよ。
でも一方で、そこで失われるものもありますよね。
- 燃え殻
-
もう、求めてる答えがあるんですよね。
- 糸井
-
ある。
- 燃え殻
-
ぼく、今回どうしてスマホで小説を書いたのかってことを
何度か取材で聞かれたんですけど、
向こうが先に答えを用意していることがあったんですよね。
事前にシートが来て、
それにぼくの「答え」が書いてあったんです。
「スマホで書いたことによって、
スマホ世代の人たちに読まれる小説になりました」って(笑)。
- 糸井
-
ああ‥‥。
- 燃え殻
-
「違うことを言ってもいいですけど、
一応答えは用意しました」って言われて。
でも話してると、それがやっぱり……。
- 糸井
-
引っかかる(笑)。
- 燃え殻
-
引っかかる(笑)。
実際は、なぜスマホで書いたかと言うと、
普段はサラリーマンとして仕事をしていて、
移動時間とかに書いていたので、
スマホを使うのが効率がよかった、
というのが大きいんですよね。
- 糸井
-
うんうん、実は(笑)。
- 燃え殻
-
でも、用意された答えを見てからインタビューを受けると、
ちょっと「スマホ世代の人たちを意識して書きました」
っていうフレーバーを入れて
話してしまう自分がいて……(笑)。
- 糸井
-
マーケティングだよね(笑)。
- 燃え殻
-
うっすらとその答えに沿わせたんですよ。
それがまた仕上がってくると、
けっこうその部分が強調されてたりして。
- 糸井
-
ありますねえ。
一方で、相手の答えに乗っかって
「それでいいや」ってときもありますけどね。
たとえば、ぼくの肩書きって、
今だったら「ほぼ日主宰」とか「ほぼ日社長」
になるのかなと思う。
でも地方の新聞なんかに出るときには、
「ほぼ日主宰」とか書いてあるよりは、
「コピーライター」って書いた方が、
なんか落ち着きがいいと思うんですよね。
- 燃え殻
-
ああ。わかる気がします。
- 糸井
-
だから、「コピーライター」って書かれても
もうそれでいいやって。
もう最近は、「樋口可南子の旦那です」って言ったり(笑)。
- 燃え殻
-
それでいいんですか(笑)
- 糸井
-
うん。もうね、攻めてくの。
鶴瓶さんから学んだよ、それ。
鶴瓶さんも、街中で声かけられそうだなと思ったら、
自分から「鶴瓶でございます」って(笑)。
- 燃え殻
-
逆に攻めてく。
- 糸井
-
鶴瓶さんは攻めてく。
俺、一緒に歩いたことあるんだ、大阪を。
攻める攻める。攻める(笑)。
遠くからこっち見てる人がいるなって気づいただけで、
「どこ行くん」って聞いちゃう。
- 燃え殻
-
あ、質問すらする?
- 糸井
-
そう。いつも主体は自分なんですよね。