もくじ
第1回何かを訴えなきゃ書いちゃだめ? 2017-10-17-Tue
第2回自分しか見えない景色を書く 2017-10-17-Tue
第3回音楽が背景に流れている 2017-10-17-Tue
第4回誰かのために書くということ 2017-10-17-Tue
第5回捨てられない、という個性 2017-10-17-Tue

めずらしい名字、手書き文字、言語学やコメディーに興味があります。
お菓子づくりも好きです。

ぼくだけが見える景色

ぼくだけが見える景色

第5回 捨てられない、という個性

糸井
では最後に、質問を受けるというのを
やっちゃおうか。
燃え殻
ああ、いいですよ。
そういうのやりますか、はい。
糸井
怖いな。えーと、質問を受ける
っていうのをやります。
・・・・いないですか。
あ、ちょっと今、逃げ腰だったかな(笑)。
燃え殻
いや、これ手挙げるの大変ですよねえ。
糸井
大変。じゃ、気さくに。誰も見てませんから。
手を挙げてみてください。あ、だめだ。
ちょっと追い詰めちゃったね。
今、テレビカメラ回ってます。
燃え殻
とどめですね(笑)。
糸井
じゃ、みんな1回、目をつぶってください。
そして、質問のある方、手を挙げてみてください。
・・・・いないですね。
うん、じゃ、もうベストセラー作家に振るしかないね。
お願いします。『嫌われる勇気』の古賀さんです。
会場
(拍手)
糸井
必ずね、この役引き受けてくれるの。
燃え殻
ぼく、古賀さん、一番尊敬してます。
糸井
もうね、神かってぐらいね。
燃え殻
神です。

古賀
あの、燃え殻さんのその21の手帳というのは、
それは捨てようと思ったりとか、もうこれ要らないや、
って引越しのたびに捨てる機会はなかったですか。
燃え殻
ああー。
古賀
ぼくは同じように手帳とかノートとか書き溜めて、
引越しのたびに捨てちゃうんですよ。
なんか、リセットしたくなって。
そういう気持ち、どうなんだろうなって思いました。
燃え殻
ぼく、物捨てることとか、人と縁が切れることが
ものすごい下手なんです。この小説のなかでも、
付き合ってた人とは縁が切れてるんですけど、
自分の中では終わってないんですよね、気持ちが。
ぼくそういうこと言ってるから、いろんなとこで
気持ち悪いとか言われるんですけど(笑)。
 
で、さっき言ったようなチラシだったりとか
ファイルみたいなもずっと取ってたんですよね。
で、それは、何だろう。
自分ですらガラクタだと思うんですよ。
糸井
うーん。
燃え殻
ガラクタだと思うんですけど、こういうものを
自分の手元に置いて、何度も読み返していないと
安心しないんですよね。
そういうのをリセットすると
今までの自分と離れちゃう気がして、
荷物がなくなった気がして、
一歩前に出るのが怖くなっちゃう。
だから、いろいろな人がいると思うんですけど、
荷物が多少あったほうがぼくは進めるというか、
荷物が重くないとぼくはだめなんですよ。
糸井
はい、はい。
燃え殻
「あいつはこう言ってたな。どうにかしていつか
見返してやろう」とか、
「いつか口が利ける人間になろう」とか、
そういうものを持ってないと多分、
ぼくは前に進めないから、
絶対一生捨てないと思う。
糸井
それは個性なんですかね。
そういう個性なんですかね。
燃え殻
そうかもしれない。

糸井
タイトルも、捨てられないって書いてありますよね。
『ボクたちはみんな大人になれなかった』。
子どもを捨てないと大人になれないじゃないですか。
だから、ずーっとそういうお父さんとかもいますよね。
燃え殻
いますね。
糸井
ぼくなんか、だから、捨てるゲームの痛みが
好きなんですよね。好みなんです。
で、捨てられたときに、
「ああ、捨てちゃったけど、まあ大丈夫だったな」
みたいなことを涙と共に味わうのが好きですね。
それはぼくの個性ですね。
燃え殻
へぇー。じゃ、けっこう捨てるんですね。
糸井
捨てますよ。捨てますし、捨てざるを得ないから
捨てるのと、それから、やけになって、
これとこれを捨てるとか言ってないで、
部屋ごと捨てるとか。
燃え殻
えっ?
糸井
本とか、本棚3つか4つ全部捨てたりします。
燃え殻
えぇーっ?
糸井
何回もやってます、それは。
「これは取っとく」とかやるともうダメだから。
燃え殻
全部捨てて、で、また買ったりもするけど・・・・
糸井
また買って、同じことになる。
燃え殻
へぇー。
糸井
で、今は、カミさんが、どうも捨てそうだなって
いうものを別のとこに出しておいて、しばらく
燃え殻
避難させる(笑)
糸井
そう。それで、しばらく捨てられそうなものの
ある通りができるんです。で、そこをぼくは
行ったり来たりお風呂に行くたびに通るんだけど、
そこで、「捨てちゃ困るのがあったら、
中に入れといてね」って言われる。
でも、1回も救ったことないです。
全部もう見ないで通ります。
そうすると捨てられます。
で、何の差し支えもないです。
燃え殻
本当は何の差し支えもないとぼくもわかってるんです。
糸井
あるとしたら寂しさです。
燃え殻
ああ。
糸井
ものすごく寂しいという時代があって。
本とかモノとかは、よっぽどじゃないと
実は結果的には要らなかった
っていうことにわりとあります。
だから、燃え殻さんみたいな人がいると、
ますますぼくは男らしくなっちゃって、
「捨てなさい」とか言いますね。
でも、根は同じです。
燃え殻
ああ・・・・寂しさを感じちゃう?
糸井
そうそう。でもその寂しさが好きなんだと思うんだよね。
そのキュンとしてるときの自分のこう、実在感?
燃え殻
「生きてるー」みたいな。
糸井
うん。俺、昨日、永田君にさ、
インタビューされてさ、ビートルズの、
今度ビートルズの手帳が‥‥
燃え殻
あ、ありますね。
糸井
発売されるのに合わせて、ビートルズについて取材をされて。
その話をしてる最中に、
やっぱりビートルズの話をすると若いときの話をするから、
どういうふうに自分がモテなくてフラれたかという話を
もう軽い気持ちでし始めたら、悲しくなっちゃって。
その受け入れられなかった自分が不憫になっちゃって。
燃え殻
ちょっと涙が?
糸井
ちょっとにじんじゃって(笑)
「ごめん、ちょっと待って」みたいな。
会場
(笑)
燃え殻
大人になれてないじゃないですか(笑)
糸井
だから、それは捨てても残ってるんです、
やっぱり。つまり、おれ、何ていうの、
でこぼこ理論なんで、
型があって、そこに嵌まってる粘土が
自分だと思うので。つまり、型に
粘土をぎゅぎゅっとやってぽんっと
取ると形になった粘土が自分、という。
燃え殻
はい。
糸井
粘土をぎゅっとやれば必ずその人は同じ形ができる
って型は、自分じゃないけど、いくらでも
自分のを作れるものですよね。
それが世界です。ぼくがいなくなっちゃっても、
ここにぼくがいるってみんなが思ってれば
ぼくはいるんです。
 
そういう理論なんで、つまり周りのものが
全部そろってると、おれはいるんだ、
という思いになりやすいわけです。
捨てちゃうと、俺じゃなくなっちゃうなって。
そういう気持ちになるから子どもは、
捨てたくないんです。

燃え殻
ああ、じゃ、ぼく、それだ。
糸井
それだと思う。だから、大人になれなかったって
言ってるじゃないですか。
燃え殻
はい。発売までして(笑)。
糸井
ね(笑)。今日はいっぱい
しゃべってる燃え殻さんが味わえたと思います。
どうもありがとうございました。

(おわります)