- 糸井
-
では最後に、質問を受けるというのを
やっちゃおうか。
- 燃え殻
-
ああ、いいですよ。
そういうのやりますか、はい。
- 糸井
-
怖いな。えーと、質問を受ける
っていうのをやります。
・・・・いないですか。
あ、ちょっと今、逃げ腰だったかな(笑)。
- 燃え殻
- いや、これ手挙げるの大変ですよねえ。
- 糸井
-
大変。じゃ、気さくに。誰も見てませんから。
手を挙げてみてください。あ、だめだ。
ちょっと追い詰めちゃったね。
今、テレビカメラ回ってます。
- 燃え殻
- とどめですね(笑)。
- 糸井
-
じゃ、みんな1回、目をつぶってください。
そして、質問のある方、手を挙げてみてください。
・・・・いないですね。
うん、じゃ、もうベストセラー作家に振るしかないね。
お願いします。『嫌われる勇気』の古賀さんです。
- 会場
- (拍手)
- 糸井
- 必ずね、この役引き受けてくれるの。
- 燃え殻
- ぼく、古賀さん、一番尊敬してます。
- 糸井
- もうね、神かってぐらいね。
- 燃え殻
- 神です。

- 古賀
-
あの、燃え殻さんのその21の手帳というのは、
それは捨てようと思ったりとか、もうこれ要らないや、
って引越しのたびに捨てる機会はなかったですか。
- 燃え殻
- ああー。
- 古賀
-
ぼくは同じように手帳とかノートとか書き溜めて、
引越しのたびに捨てちゃうんですよ。
なんか、リセットしたくなって。
そういう気持ち、どうなんだろうなって思いました。
- 燃え殻
-
ぼく、物捨てることとか、人と縁が切れることが
ものすごい下手なんです。この小説のなかでも、
付き合ってた人とは縁が切れてるんですけど、
自分の中では終わってないんですよね、気持ちが。
ぼくそういうこと言ってるから、いろんなとこで
気持ち悪いとか言われるんですけど(笑)。
で、さっき言ったようなチラシだったりとか
ファイルみたいなもずっと取ってたんですよね。
で、それは、何だろう。
自分ですらガラクタだと思うんですよ。
- 糸井
- うーん。
- 燃え殻
-
ガラクタだと思うんですけど、こういうものを
自分の手元に置いて、何度も読み返していないと
安心しないんですよね。
そういうのをリセットすると
今までの自分と離れちゃう気がして、
荷物がなくなった気がして、
一歩前に出るのが怖くなっちゃう。
だから、いろいろな人がいると思うんですけど、
荷物が多少あったほうがぼくは進めるというか、
荷物が重くないとぼくはだめなんですよ。
- 糸井
- はい、はい。
- 燃え殻
-
「あいつはこう言ってたな。どうにかしていつか
見返してやろう」とか、
「いつか口が利ける人間になろう」とか、
そういうものを持ってないと多分、
ぼくは前に進めないから、
絶対一生捨てないと思う。
- 糸井
-
それは個性なんですかね。
そういう個性なんですかね。
- 燃え殻
- そうかもしれない。

- 糸井
-
タイトルも、捨てられないって書いてありますよね。
『ボクたちはみんな大人になれなかった』。
子どもを捨てないと大人になれないじゃないですか。
だから、ずーっとそういうお父さんとかもいますよね。
- 燃え殻
- いますね。
- 糸井
-
ぼくなんか、だから、捨てるゲームの痛みが
好きなんですよね。好みなんです。
で、捨てられたときに、
「ああ、捨てちゃったけど、まあ大丈夫だったな」
みたいなことを涙と共に味わうのが好きですね。
それはぼくの個性ですね。
- 燃え殻
- へぇー。じゃ、けっこう捨てるんですね。
- 糸井
-
捨てますよ。捨てますし、捨てざるを得ないから
捨てるのと、それから、やけになって、
これとこれを捨てるとか言ってないで、
部屋ごと捨てるとか。
- 燃え殻
- えっ?
- 糸井
- 本とか、本棚3つか4つ全部捨てたりします。
- 燃え殻
- えぇーっ?
- 糸井
-
何回もやってます、それは。
「これは取っとく」とかやるともうダメだから。
- 燃え殻
- 全部捨てて、で、また買ったりもするけど・・・・
- 糸井
- また買って、同じことになる。
- 燃え殻
- へぇー。
- 糸井
-
で、今は、カミさんが、どうも捨てそうだなって
いうものを別のとこに出しておいて、しばらく
- 燃え殻
- 避難させる(笑)
- 糸井
-
そう。それで、しばらく捨てられそうなものの
ある通りができるんです。で、そこをぼくは
行ったり来たりお風呂に行くたびに通るんだけど、
そこで、「捨てちゃ困るのがあったら、
中に入れといてね」って言われる。
でも、1回も救ったことないです。
全部もう見ないで通ります。
そうすると捨てられます。
で、何の差し支えもないです。
- 燃え殻
- 本当は何の差し支えもないとぼくもわかってるんです。
- 糸井
- あるとしたら寂しさです。
- 燃え殻
- ああ。
- 糸井
-
ものすごく寂しいという時代があって。
本とかモノとかは、よっぽどじゃないと
実は結果的には要らなかった
っていうことにわりとあります。
だから、燃え殻さんみたいな人がいると、
ますますぼくは男らしくなっちゃって、
「捨てなさい」とか言いますね。
でも、根は同じです。
- 燃え殻
- ああ・・・・寂しさを感じちゃう?
- 糸井
-
そうそう。でもその寂しさが好きなんだと思うんだよね。
そのキュンとしてるときの自分のこう、実在感?
- 燃え殻
- 「生きてるー」みたいな。
- 糸井
-
うん。俺、昨日、永田君にさ、
インタビューされてさ、ビートルズの、
今度ビートルズの手帳が‥‥
- 燃え殻
- あ、ありますね。
- 糸井
-
発売されるのに合わせて、ビートルズについて取材をされて。
その話をしてる最中に、
やっぱりビートルズの話をすると若いときの話をするから、
どういうふうに自分がモテなくてフラれたかという話を
もう軽い気持ちでし始めたら、悲しくなっちゃって。
その受け入れられなかった自分が不憫になっちゃって。
- 燃え殻
- ちょっと涙が?
- 糸井
-
ちょっとにじんじゃって(笑)
「ごめん、ちょっと待って」みたいな。
- 会場
- (笑)
- 燃え殻
- 大人になれてないじゃないですか(笑)
- 糸井
-
だから、それは捨てても残ってるんです、
やっぱり。つまり、おれ、何ていうの、
でこぼこ理論なんで、
型があって、そこに嵌まってる粘土が
自分だと思うので。つまり、型に
粘土をぎゅぎゅっとやってぽんっと
取ると形になった粘土が自分、という。
- 燃え殻
- はい。
- 糸井
-
粘土をぎゅっとやれば必ずその人は同じ形ができる
って型は、自分じゃないけど、いくらでも
自分のを作れるものですよね。
それが世界です。ぼくがいなくなっちゃっても、
ここにぼくがいるってみんなが思ってれば
ぼくはいるんです。
そういう理論なんで、つまり周りのものが
全部そろってると、おれはいるんだ、
という思いになりやすいわけです。
捨てちゃうと、俺じゃなくなっちゃうなって。
そういう気持ちになるから子どもは、
捨てたくないんです。

- 燃え殻
- ああ、じゃ、ぼく、それだ。
- 糸井
-
それだと思う。だから、大人になれなかったって
言ってるじゃないですか。
- 燃え殻
- はい。発売までして(笑)。
- 糸井
-
ね(笑)。今日はいっぱい
しゃべってる燃え殻さんが味わえたと思います。
どうもありがとうございました。
(おわります)