もくじ
第1回何かを訴えなきゃ書いちゃだめ? 2017-10-17-Tue
第2回自分しか見えない景色を書く 2017-10-17-Tue
第3回音楽が背景に流れている 2017-10-17-Tue
第4回誰かのために書くということ 2017-10-17-Tue
第5回捨てられない、という個性 2017-10-17-Tue

めずらしい名字、手書き文字、言語学やコメディーに興味があります。
お菓子づくりも好きです。

ぼくだけが見える景色

ぼくだけが見える景色

第4回 誰かのために書くということ

燃え殻
ぼくすごいわかります。
そういうのでいうと、
小説を読まないという前提が時代的にいまあって、
小説ってあまり売れないよっていう前提のもとに
ぼくは書かなくてはいけなくて。
糸井
うん。
燃え殻
で、さらに無名だっていうところでもう
二重苦っていうところがあったんです。
売れてる小説家さんのものを
読んだとしても、これはぼくには参考にならないし、
難し過ぎるから、インターネットだったり
YouTubeだったりとか、そういったスマホを
利用するの皆さんが使っている時間をどうにか
小説のほうに引きずり込みたいなぁ
っていうのがあったんですね。
糸井
はい、はい。
燃え殻
で、その1つはやっぱり言葉っていう部分で、
できる限りこの栞を使わないで、
すべてこうサーッと読める言葉と、
やっぱりどこかで、えー、
少し自分を突き放して
サービスしたいっていう・・・・
糸井
サービスしたい、うんうん。
燃え殻
そんな気持ちじゃないと読んでくれないだろうなっていう。
で、この読んでるときのリズム感みたいなのって文章って
すごくあると思ってて。
糸井
あるね。
燃え殻
リズム感のために書いてあること
を変えてもいいとぼくは思ったんです。
これは本当に小説家の方からしたら、
「何言ってんの? おまえ」って話に
なっちゃうかもしれないですけど、
スッと読めるようなリズムを選んだんです。
どちらかといえばYouTubeで聞いてる音楽と
この小説と異種格闘技戦をしなければ、
多分読んでくれないなあっていう気持ちがありました。

糸井
それは、でも、当たり前なんじゃない? 
それがまた楽しかったわけでしょ?
燃え殻
ぼくは個人的には楽しかったですね。
糸井
だから、こういうことを書きたいんだよなって
思ったことを書いてるんだけど、
それに陰影をつけたり、
ちょっと補助線を引いたり、
一部消しちゃったりっていうのは、
そこで初めて売り物になるというか。
燃え殻
ああー。
糸井
それまでの資料を集めたりしてた時代とか、
あるいは自分しか読まないものを書いてた時代
といまを分けたのはそこなんじゃないでしょうかね。
燃え殻
あ、そうですね。
糸井
直されたりとかっていうのを新人のときに経験するけど、
そういうやりとりはあったんですか。
燃え殻
あ、ありました。
糸井
それはどうでした?
燃え殻
えっとー、女性の編集の方だったんで、
ぼくとしては、男としてはありだな
っていう表現でも、
「女性は読んだときに嫌悪感があります」
っていうものに関しては、バッサリ捨てました。
糸井
へぇー。
燃え殻
そこに関しては信用したいというか。
男は本当はそうだよねって思ったとしても、
それだと女子引くからっていうものは、捨てたんです。
 
例えば一番最初のオープニングのところで、
主人公のぼくというのは、いつもと同じラブホテルで
違う女の子と泊まってるんですよ。
で、そのあとに昔好きだった女の子を思い出すというところで
始まるんですけど、
「20年ぐらい経って同じラブホテルに行ってる男、
引くんですけど」って編集者に言われて(笑)。
糸井
ああ、なるほど、なるほど。
燃え殻
「ちょっといいとことか行かないんですか」みたいな。

糸井
でも、しょうがないじゃん、ねぇ(笑)。
燃え殻
それで六本木のシティホテルみたいな
ラブホテルに行くって変えたりとか(笑)。
糸井
ああ、そうか。うん、多分、本を作るっていうのは、
作品を出すということと商品を出すということの
二重の意味があるかもね。
だから、女子が引くなら引くで、
引けよっていう作品もありじゃないですか(笑)。
燃え殻
ああ。
糸井
でも、「女子が引くんです」。
「あっ、そうですね。それ汚れに見えますもんね」と言って、
「きれいにしましょう」って拭くのが商品じゃないですか。
燃え殻
ああ。すげえ言わなきゃよかったかもしれない(笑)
わあ、いろんなところから怒られるかもしれない。
糸井
わかんないんだけど・・・・
燃え殻
新潮社の人が来たらどうしよう(笑)
糸井
でも、いや、もっと言えば、
推理小説の中で描いてる恋愛なんていうのは、
推理小説である理由なんかなかったりするわけで、
推理小説のようになってないと興味がなくなっちゃう
と困るから、人を殺して入れたりする
ってことはあるわけでしょ? 
燃え殻
はあー、なるほど。
糸井
で、それは商品性を高めてるじゃないですか。
その商品性みたいなものというのを
丸々否定するわけにはいかないし、
そこのとこで女性が引いちゃうんだったら
やめとこうかってなっても
伝わるものが出したいんだったら、
バランスの問題だから。
燃え殻
そう、だから、やっぱりその最初に、
このゴールデン街の朝だったりとか、
ラブホテルのその朝か夜かわからないところって
ぼくとしては書いててすごく気持ちよかったんです。
糸井
うん。
燃え殻
だから、いろんな人たちと共有したかった
ってなったときに、ほかの部分というのは
それを補強するものなんですよね。
だとしたら、「多くの人に読まれる道っていうのは
こっちなんじゃないですか?」
って指摘されたものに関しては、
「じゃ、そっちの道で考えます」っていう形で
どんどんやっていったというのはすごく正しいのかな。

糸井
「そういう人とは一緒になんないほうがいいわよ」
って忠告するのは、商品として完成しなさい
って話じゃないですか。
燃え殻
そうですねえ。
糸井
だから、その作品と商品の、あるいは
みんなに伝わるか、自分が気持ちいいかみたいな、
そんな境目でゆれることは
あるんじゃないでしょうかね。
燃え殻
ああ、ありますね、絶対。
バランス、難しいですけど、
できたらうれしいな、みたいな。
糸井
バランスをよくする方法というのを
一生懸命コツがあるかと思って探すと、
実はバランスを壊すんだと思う。
燃え殻
ああ、そうだと思う。うん。
糸井
だから、近くを見てると倒れるというか。
燃え殻
はいはいはい。
糸井
オートバイ乗ります?
燃え殻
いえ。
糸井
あ、乗らない。オートバイの練習で、
一本道というのがあるんです。
その一本道をずーっとオートバイで行って、
普通に下りればいいだけなんだけど
脱輪しないように車輪の先だけを見てる人は
必ず脱輪するんです。一本道は、
車輪なんか見ずにまっすぐ前を見ればいいんです。
すると、自然にまっすぐ行くの。
燃え殻
ああ。
糸井
それがひとつと、それからあとは、バランスをちゃんと
とるためには、バランスのことじゃなくて、
入れ物の大きさを変えちゃうとか。何でも放り込めば、
自然にバランスをとらざるを得ないんで。
燃え殻
なるほど。
糸井
1個しかない玉だとバランス取れないけど、
100個入るとかごのなかで安定するじゃないですか。
みたいなことを考えるようになった。
・・・・なんかこう、年上の人からのお話みたいな。
燃え殻
いやいや、年上じゃないですか(笑)。
会場
(笑)
燃え殻
いや、すごいためになる。そうですね。

(つづきます)

第5回 捨てられない、という個性