そうやって、どこかで「花嫁の手紙」を気にしつつ、
月日は経って、気付けば結婚して丸3年が過ぎました。
猫のように、容易く喧嘩が始まるので、
ここ数年は15分を目安に切ってしまう母との電話。
「花嫁の手紙」で自分の気持ちを伝えた気になって、
晴れ晴れと結婚生活を送っていたけれど、
これまでの感謝や複雑な気持ちが小さな喧嘩にまみれて
ちゃんと伝わっていなかったら、すごく嫌だな。
そして、そろそろ、喧嘩しないで、
ちゃんと話したいとも思いました。
一度、じっくり話してみよう。
ちゃんと伝えられるよう、話したかったことを
事前にノートに整理して、写真を撮って送りました。
今日は、電話を勝手に切り上げようとしない。
母が話していることを遮らない。
自分のことを感情的にぶつけない。
3つを決めて、よーし、と通話ボタンを押しました。
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- わたし
- 事前に送ったノートみた?
- はは
-
みた。
あんたが、どう捉えているか、よくわかった。
親子というか、対抗相手みたいに見てるんだね。
- わたし
-
え?全然違うよ、なんでそう捉えるの?
もういい。
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なんということでしょう。
早速、ケンカ開始の合図です。
いつもなら、臨戦態勢に入ってしまうのだけれど
電話前に考えたことを慌てて思い出して、もう一度。
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- わたし
-
ほぼ日の最後の課題、家族について書こうと思ったのね。
私自身、これを機に、ちゃんと家族について知りたくて。
- はは
-
十分じゃない?
家族のことなんて、十分知っていると思うよ、
言葉にできないだけで。
- わたし
-
まあまあ、改めて色々聞いてみたいと思ったの。
私と母さん、電話してるとすぐ喧嘩になっちゃうけどさ。
- はは
- そんなイメージ、私はないけどね。
- わたし
-
うそーー!
15分以上電話すると必ず喧嘩するイメージだよ!
- はは
-
ぜーんぜん。
母さん、譲歩してるもん、大人だから。
- わたし
- ひえー、これでも、そうなのね。
- はは
-
私は特に色々家族に役割がある時代に育ったから、
立場を考えて物事を言うけれど、あんたは違う。
苦労無しで来てる上に、若い頃からいい給料もらって、
いいポストついて、ずっと勢いがついたまま来てる。
そういう意味で、人への思いやりや自分の立ち位置を
考えていないな、この子って思うときがある。
- わたし
- そうなのかあ。
- はは
-
だから、なつみ(筆者のこと)にものを言えるのは
私しかいないと思ってるよ。
父親もいないし、兄弟もいないし。
でも会社にいけば、最近は部下なんているみたい。
そんなあんたに誰も嫌なこと言わないでしょ。
- わたし
- 何か、すごい本質を突かれた気がする。
- はは
-
結婚したら苦労してちょっと学ぶかな、と思ったら、
いいおうちに嫁いで、ありがたいことに、
そのまま苦労知らずで。
- わたし
- それは本当にそうだね。
- はは
-
ある意味、キャラクタ―で許されちゃうから、
ちゃんと指摘されない。
だから私が役割として、ちゃんと言う。
それを喧嘩と捉えられるのは残念と言えば、残念だよ。
- わたし
-
なんかすごい発見・・・喧嘩じゃなかったのか。
ちなみにさ、「役割」って言葉がすごく出るけれど、
母さんが過ごした、その家族の「役割」ってどんなもの?
- はは
-
じいちゃんとばあちゃん(母の両親)は取締役。
じいちゃんはその中でも代表取締役。
- わたし
- そこ、会社で例えるんだ(笑)。
- はは
-
うん。しっくりくる。
直接、ああしなさい、こうしなさいなんて言わない。
でも威圧感はあって、どこかからか私の状況も掴んでる。
だから結果、従っているけれど、自分なりの道を歩いてる。
20代早々でテレビ局を辞めて、地元の名古屋も離れて
長野のスキー場で働きだした時、
他人には、勿体ないとか色々言われたけれど、
じじばばは、何も言わなかったな。
じいちゃんは手紙よこしたけど。
- わたし
- どんな内容??
- はは
-
あなたが元気にスキー場を駆け回る姿が目に浮かびます、
って。
- わたし
-
わはは(笑)。
私が大学時代に京都で一人暮らしした時、じいちゃんから、
同じ手紙来たわ(笑)。
ねえ、お姉さんとお兄さんの役割は?
- はは
-
きよこ(姉)と昭一(兄)はそれこそ、直属の上司。
タイプは違うけれど。
きよこは、あれこれ世話焼きタイプ。
昭一は、一番、側にいたけれど、とやかく言わない。
でも、大事なときに大事なことを言う。
- わたし
-
あー、会社で例えると確かにわかりやすいね。
でも私、自分に置き換えたときに、母さんの役割を
うまくあてはめられないや。
- はは
-
それにさ、家族以外にもいっぱい怒られたよ。
中高生の時、アクセサリーをつけていて、
そんなの早い!って、きよこの友達に叱られたり。
おじいちゃんの家、豆腐屋だったから、若い時に
夜遊びして帰ると、もう職人さんたちが働いていて
ほどほどにな、って一言だけ言われたりね。
- わたし
-
ああ、常に誰かが見てくれてる環境だったんだね。
その状況、実は私がすごく憧れていた形かもしれない。
豆腐屋時代とか、小さい時に少ししか見てないのにね。
- はは
-
たくさんの人と関わってほしいと思っていたし、
そのために色んな役割を同時に何役もしながら、
伝えてきたつもりだよ。
家族は少なかったけれど、ちゃんとあんたの中に、
たくさんの「ひと」がいると思う。
ちゃんと感じてほしいなと思うよ。
- わたし
-
うん。
話せてよかった。ありがとう。
たっぷり2時間話して、電話を切った時の高揚感は、
不思議なものでした。
初めて、穏やかにちゃんと話せた気がする。
私が喧嘩だと思っていたことは喧嘩じゃなかった。
自分とは全く違うのに、何となく憧れてきた家族の形は、
母から聞く、母が過ごしてきた家族の在り方でした。
(つづきます)
