代官山シネマトーク「映画生活のたのしみ」編
第3回 映画館ならではのときめき
- ――
-
吉川さんは「映画は絶対に上映で観る」って
決めていらっしゃるんですよね。
- 吉川
-
うん。
初めて「映画は絶対に上映で観たい」って思ったのは
『男はつらいよ』を観た時だった。1作目かな?
寅さんがコケて、ずるっと縁側に落ちるところ。
観ていた俺は最前列で、もうゲラゲラ笑いました。
でね、そしたらその後一拍遅れて、
後ろからワァァって、笑い声が襲ってきたのよ。
- ――
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わぁ~。
- 吉川
-
「映画館で皆で笑うとこんなに違うんだ。」
「ああ、いいなあこの一体感」って思ったね。
映画館の中でみんな一緒になって
拍手したことなんて、ないでしょう。
- ――
-
ないです。
今の映画館ではなかなかできないですよね。
あったとしても、静かに泣いたり笑ったり。
- 吉川
-
うん。あとはイベント上映で騒いだり、
上映が終わった後の拍手ならあるけども、
映画を観ていて一番面白いのって、
作品の途中で起こった拍手だと思う。
- ――
-
ええ!そんな経験一度もないですよ!
上映中につい感動して拍手しちゃった
・・・・ってことですよね?
- 吉川
-
そうそう。最近でも4DⅩとか爆音上映とか、
アトラクションみたいな上映はあるけれど、
ああやって誰かが仕掛けたわけじゃないのよ。
本当の拍手っていうのは。
- ――
-
本当の拍手。
- 吉川
-
そう。あの映画館特有の
「騒いじゃいけない」っていう空気の中で、
喝采の拍手が起こるのがいいんだよなあ。
たしか日本映画ではね、周防正行監督の
『シコふんじゃった』でそういう拍手が起こったのよ。
あとは『E.T.』の自転車が空を飛ぶシーンでも、
自然発生のように、ワーっと拍手が起こった。
- ――
-
「うわ~頑張った!」って!
- 吉川
-
そうそう(笑)
おとなしい日本人がのめりこんで思わず
「すごい!」って拍手してしまうような力が、
当時の映画館にあったわけだよね。
あれはあの時の映画館特有で、面白かったねえ。
- ――
-
うわあ~。想像するだけで幸せですね。
そんな経験ができるなら、
「絶対映画館で観たい」って思いますよね。
- 吉川
-
うん思う。
まあその時その時で違う映画の楽しみ方があるから、
これからも違う楽しみ方が出てくるとは思うよ。
- ――
-
ありますかね?楽しいこと。
- 吉川
-
それがね、あったのよ!
俺ね、この間60歳になったんだけど・・・・
- ――
-
・・・・(笑)
- 吉川
-
久しぶりに名画座に行ってね、
俺は初めてシニア料金で映画を観た。
で、これは自分でも不思議なんだけど
上映前にね、ものすごくドキドキしたの。
- ――
-
えっ、ドキドキですか?
- 吉川
-
そう。
で、「このドキドキ感いつぶりかなあ?」と思ったら、
中学生のときに、はじめて名画座という
大人の世界にもぐりこんだときの、
あの期待と不安が混ざったワクワクドキドキと
ちょっと似てるのね。
- ――
-
もう、何回上映観てきたんですか!(笑)
- 吉川
-
いやぁ~、年取るのもわるくないね(笑)
あったでしょ?
初めて自分で選んだ映画を観に行って
ドキドキワクワクしたこと。
- ――
-
私はひとり映画歴が浅いので、
今も行くたびドキドキしちゃいますね・・・・
ちなみに、吉川さんがはじめて自分で
映画を観に行ったのはいつでしたか?
- 吉川
-
俺はねえ、小学校6年生のとき。
当時の俺は映画の料金と交通費だけ握りしめて、
一人で歌舞伎町の正月映画を観に行きました。
そこでね、映画が値上がりしてることに気づいた。
映画の料金払うと、帰れないんだよ。
だからしばらくね、グーっと考えて。
- ――
-
いや、迷っちゃダメです(笑)
- 吉川
-
でもね、観たの。俺は映画を観ました(笑)
帰りは2時間半かけて歩いて帰りました。
線路沿いをずーっと行けば帰れるだろ!って。
- ――
-
(笑)
- 吉川
-
何食わぬ顔して「ただいま」って帰ったら
「あら、ずいぶん遅かったじゃない」
「うーん、ちょっと映画観てた」なんつって(笑)
- ――
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いや、ちょっとじゃないです!
- 吉川
-
だって俺に内緒で、
映画館が上映料金上げるんだもん!
という少年時代を過ごしてきました(笑)