代官山シネマトーク「映画生活のたのしみ」編
第2回 どうやって映画を観てますか?
- ――
-
ビデオのことといい、映画のことといい、
吉川さんの映画知識はすごいなあと常々思います。
お店でも「あの、なんでも知ってる人いませんか?」
と尋ねられることがありますが、
それもだいたい吉川さんのことです(笑)
- 吉川
-
まあまあね。
初めのお店でも当時の店長がさ
「うちには吉川というプロがいますから!」
って言ってくれた時があったの。
「あ、俺のことか」って(笑)
- ――
-
おお~!
若いころから「詳しい人」だったんですね。
じゃあもう、この業界に入った時から
「誰よりも詳しくなるぞ」って思っていたんですか?
それとも、楽しみとして映画を観ているうちに
自然と詳しくなっていったのでしょうか?
- 吉川
-
うーんとねえ。
ビデオ業界に入ってすぐは、結構勉強した。

映画に興味を持ちはじめた中学生のときにも
「一年間でどれだけ詰め込んだんだろう」
っていうくらい勉強したんだけど、
それをもう一回したのはその時だった。
- ――
-
そうですよね。本当に詳しい。
何かを調べること自体は、
もともとお好きだったんですか?
- 吉川
-
えーと調べるっていうよりかは、
映画に興味があるから、必然的に知りたくなる。
歴史だとか仕組みが色々わかってくると、
映画の観方もずいぶんと変わるから。
- ――
-
たしかに。映画って知れば知るほど
どんどん観方が変わっていくのが面白いです。
ちなみに、当時はどんなことを勉強していましたか?
- 吉川
-
業界に入ってまず一番最初にしたことは、
「映画がビデオになってるのかなってないのか」
「なってたとしたらどこの発売元なのか」
っていうのを覚えた。
あとは、ただ調べて覚えるんじゃなくて
「好きな監督が影響を受けた監督・・・・」
って言う風に好きを深堀りしてみたり、
好きな映画の本を読んでいると、
必ずどこかで繋がっていくから、
それはやっておいた方が楽しいかもしれないね。
- ――
-
なるほど。うわ~、頑張ろう。
ただ好きなものを辿ってみるだけでも、
映画史を避けては通れないですもんね。
さらに自分の好きなジャンルも知れると。
- 吉川
-
そうそう。
昔の映画って、今でも十分面白いじゃない。
「映画って全然進歩してねえじゃん」
「その応用が繰り返されてるだけじゃん」
ってことがわかってからが面白いよね。
あとはビデオが登場してからの歴史も面白いんだよなあ。
- ――
-
映画を家で観られるようになってからの歴史。
- 吉川
-
そう。ビデオが普及したごろから、
「家で観られるなら映画館に行く必要ないじゃん!」
って言われ始めた。それを受けてハリウッドが
「映画館で観るべき映画」を作り始めたのね。
それが80年代。この転換がなかったら、
ハリウッドは今頃、生き残ってなかったかもしれない。
- ――
-
ほお~。何とか映画館で観てもらうために
映画作りそのものにも変化があったんですね。
- 吉川
-
そうそう。
「あ、これ映画館で観た方がいいなあ」
っていう感覚、わかるでしょ。
- ――
-
わかります、わかります!
上映で観ていない作品でも、DVDを観ているときに
「ああ~映画館で観れたらいいのにな~」
と思うことは、もっとたくさんありますね。
- 吉川
-
で、そうやって「上映を観てほしい」って
仕向けて作った最初の作品は『ダイ・ハード』だと思う。
- ――
-
へぇ~!
『ダイ・ハード』のどこがそう思わせてるんですか?
作品として「映画館で観た方がいい理由」って
なんだったのでしょうか。
- 吉川
-
それは観てみりゃわかる(笑)
- ――
-
あ~、まだ観てないよ~!観たいよ~!
- 吉川
-
観てないのか!あれは男の映画だからね。
まあ、観たらわかるけどさ、
あれには映画館で観るべき構図ってものがあるのよ。
- ――
-
ほう。構図。
- 吉川
-
今のアクション映画って、
小さなテレビモニターでもちゃんとわかるように
作られていることが多いのね。
肝心のアクションシーンも、
スクリーンの手前でドンパチがあるだけなのさ。
- ――
-
なるほど。
- 吉川
-
けどあの『ダイ・ハード』は、
映画館の大きな画面に合わせて作られていて
「うわぁ~こんなロングショット撮るかあ」
「いいねえ~」ってシーンがあるから。
そうやって観てみたら面白いよ。
- ――
-
えぇ~観たい!
ほかにも映画館での観るときに
こだわっていることはありますか?
音とか、場所とか、大きさとか。
- 吉川
-
ああ、俺はね、映像も音も普通で良いんだ。
とにかく画面がでかけりゃいい。
あとは、前だね、前で観る。
- ――
-
へぇ~!前っていうのは、最前列?
- 吉川
-
今だと、前から5列目ぐらいかな?
後ろだとフレームの端っこが視界に入るから、
切り取った絵だけ見せられるじゃない。
それが嫌だから、枠が見えない前列で観たい。
だから基本的に、前へ前へ。だね。
- ――
-
わたしずっと後ろの方で観てました。
オーケストラの特等席ぐらいの位置で。
- 吉川
-
あ、前で観るようになったのはねえ、
中学生のころ『十戒』を観たときだなあ。
それまでは俺、後ろの席で観てたのかもしれない。
その『十戒』を観た日はものすごく混んでてさ、
前しか空いてる席がないんだよ。
初めは「前の席か~、嫌だなあ」
と思いながら観始めたんだけど、
最後の、あのモーセが海を割るシーン。
前の席で観るとさ、海がもう目の前に来るでしょ。
それがブワァーって広がった。
そこでもう感動しちゃって!
「うわあ、こりゃ映画は前で観るもんだ!」と。
- ――
-
うわぁ~!いいですねえ!
もうそれ以来はずっと前の方で。
- 吉川
-
そうそう、ひたすら前。
だから『スター・ウォーズ』の封切りも、
大きな映画館の、一番前で観た。
一番前で観るとね、もう視界いっぱい宇宙。
「ああ、こりゃプラネタリウムだよ」って。
そんな衝撃を受けた感覚が、ずっとありますね。
- ――
-
わぁ~!一回真似してみよう。絶対前で観よう。
- 吉川
-
あと、どこに座るかっていうと、端っこ。
あのね、昔洋画の字幕って、
下じゃなくて右に出てたんだよ。
で、それをずっと観ていた吉川少年は、
こうスクリーンに対して、

だんだんと、右に寄っていく(笑)
- ――
-
ってことは、当時は観てる人が
一斉に右に寄っていたんですか?
- 吉川
-
いや、人によっては左にずれる。
左か右か、どっちの視界に字幕を入れるかの違いだね。
俺は右目で字幕を観て、
左目でちゃんとした映像を観たい派だった。
あと、今のシネコンって前から後ろにかけて
傾斜になってるじゃない。後ろが高い。
けど昔は席じゃなくて、スクリーンの位置が高かった。
だから上にある画面を皆で見上げて観てたのさ。
しかも、いすといすとの間が狭かったから、
前に人がいないときは、背もたれに足を引っ掛けて・・・・
- ――
-
ああ、それは真似できないですね・・・・。