- 田中
-
会社を辞めようと思ったのが、11月の末ですね。
で、辞めたのが12月31なんで、1ヶ月しかなかったです。
理由になってないような理由なんですけど、やっぱり‥‥
- 糸井
- (笑)。ブルーハーツ?
- 田中
-
ブルーハーツですよ。50手前のオッサンになっても、
おっしゃったように中身は20うん歳のつもりだから、
それを聞いた時のことがこう、思い出して、
「あ、なんかもう、このように生きなくちゃいけないな」って。
かと言って、何か伝えたいこととか、
「熱い俺のメッセージを聞け」とかないんですよ。
相変わらず、なんか見て聞いて、「これはね」って
しゃべるだけの人なんですけど、でも、なんか、
「ここは出なくちゃいけないな」ってなったんですよね。
- 糸井
-
どうしてもやりたくないことっていうのが世の中にはあって、
そこを僕は本当に逃げてきた人なんです。
で、逃げたというよりは捨ててきた。
で、どうしてもやりたくないことの中に、
なんか案外、人は人生費やしちゃうんですよ。
広告も、なんかどうしてもやりたくないことに似てきたんです。
で、「これ、いや、まずいなぁ」、
プライドっていう言葉に似てるけど、違うんですよね。
で、うーん‥‥、無名の誰かであることはいいんだけど、
やっぱり過剰にないがしろにされる可能性みたいな、魂が。
- 田中
-
とはいえ、糸井さんの広告のお仕事見てても、
「この商品について、この商品の良さを延々語りなさい」とか、
そのリクエストに応えたことはないですよね、最初から。
- 糸井
-
やっぱり、「受け手として僕にはこう見えた、これはいいぞ」
って思いつくまでは書けないわけで。
「プレゼンの勝率が落ちたら、もうだめだな」とは思ってて、
だから、「こういう時代にそこにいるのはまずいな」と。
で、僕にとってのブルーハーツが釣りだったんですよね。
だから、始めたのが、12月だったと思うんですよ。
で、東京湾に、シーバスって呼ばれてるスズキがいるんだ
ってことがわかっただけでもうれしいわけですよ。
家族旅行を正月、温泉旅行かなんか行った時に、
まったく根拠なく、砂浜で一生懸命、何か釣れるのを、
真冬に、海水浴やるようなビーチで、一生懸命投げてる。
- 田中
- (笑)なんか釣れましたか、その時は?

- 糸井
- まったく釣れません。
- 田中
- (笑)
- 糸井
-
でもいいでしょう?
僕にとってのインターネットって、水なんですよ。
今初めて説明できたわ。
- 田中
- はぁ。
- 糸井
- 根拠はなくても水があるんです。
- 田中
- 根拠はなくても水がある。
- 糸井
-
水があれば、水たまりでも魚はいるんですね。
で、それが自分に火を点けたところがある。
だから、僕の「リンダリンダ」は、水と魚です(笑)。
- 田中
- 水と魚、はぁ。
- 糸井
-
おもしろいんですよ。
その朝1人で誰もいない所で釣りをしてると、
初めて釣れる1匹っていうのが、朝日が明ける頃に、
何の気配もない、静かな田んぼの間の水路みたいな川で、
泥棒に遭ったかのようにひったくられるんですよ。その喜び。
これがね、なんだろう、俺を変えたんじゃないですかね。
- 田中
- なるほど。いや、その話が、まさかインターネットにつながるとは。
- 糸井
-
広告を辞めるとかっていう、
「ここから逃げ出したいな」っていう気持ちと同時に、
「水さえあれば、魚がいる」っていうような、
その期待する気持ちに、肉体が釣りでつなげたんでしょうね。

* * * * *
こうして対談は終了。
この記事を書いているこの瞬間だって、
Twitterのタイムラインには@hironobutnk と、@itoi_shigesatoの
仲睦まじい(?)絡みを見ることができます。
ばかばかばかばか! https://t.co/zvLIRteCHB
— 糸井 重里 (@itoi_shigesato) March 11, 2017
それはいいから、履いて。 https://t.co/HOk0x7COF1
— 糸井 重里 (@itoi_shigesato) March 11, 2017
二人の対談に、わたしが四苦八苦している間にも、
なんだか楽しそうじゃないですか‥‥。
対談がご本人自身にとってどれほど面白かったかは、
田中さんのツイッターからもだだ漏れしています。
笑いすぎて何度も呼吸困難になりました。みんな独り夜中に黙って書く日々だから、こんな時間が本当に大切で。ほんとうにありがとうございました。よー喋ったwww@itoi_shigesato @aso_kamo @Pirate_Radio_ @1101_nagata @fumiken pic.twitter.com/a1qn3I92nI
— 田中泰延 (@hironobutnk) February 13, 2017
ものを書くのが嫌いな、ことばを扱う二人の話はここまで。
インターネットという水の中に潜れば、
きっとふたりが泳ぐ姿が見えるのでしょう。

(終わり)
