もくじ
第1回手土産コミュニケーション 2017-03-28-Tue
第2回梁山泊でのお花見大問題 2017-03-28-Tue
第3回発信じゃない。受信です。 2017-03-28-Tue
第4回超アマチュアでいたい 2017-03-28-Tue
第5回それぞれのリンダリンダ 2017-03-28-Tue

三重県生まれ。新卒で大手電気メーカーに入社するが、編集の仕事に挑戦したいと上京。出版社にて編集、Web制作会社にて編集・Web制作ディレクターを経て、2016年からフリーランス。
Web制作半分・メディア半分。カメラと旅行とお酒が好き。

手土産論からはじまる、
はじめてのコピー・広告談義。
田中 泰延 × 糸井 重里 の
ツイッターの外での話。

第5回 それぞれのリンダリンダ

田中
会社を辞めようと思ったのが、11月の末ですね。
で、辞めたのが12月31なんで、1ヶ月しかなかったです。
理由になってないような理由なんですけど、やっぱり‥‥
糸井
(笑)。ブルーハーツ?
田中
ブルーハーツですよ。50手前のオッサンになっても、
おっしゃったように中身は20うん歳のつもりだから、
それを聞いた時のことがこう、思い出して、
「あ、なんかもう、このように生きなくちゃいけないな」って。
かと言って、何か伝えたいこととか、
「熱い俺のメッセージを聞け」とかないんですよ。
相変わらず、なんか見て聞いて、「これはね」って
しゃべるだけの人なんですけど、でも、なんか、
「ここは出なくちゃいけないな」ってなった
んですよね。
糸井
どうしてもやりたくないことっていうのが世の中にはあって、
そこを僕は本当に逃げてきた人なんです。
で、逃げたというよりは捨ててきた。
で、どうしてもやりたくないことの中に、
なんか案外、人は人生費やしちゃう
んですよ。
広告も、なんかどうしてもやりたくないことに似てきたんです。
 
で、「これ、いや、まずいなぁ」、
プライドっていう言葉に似てるけど、違うんですよね。
で、うーん‥‥、無名の誰かであることはいいんだけど、
やっぱり過剰にないがしろにされる可能性みたいな、魂が。
田中
とはいえ、糸井さんの広告のお仕事見てても、
「この商品について、この商品の良さを延々語りなさい」とか、
そのリクエストに応えたことはないですよね、最初から。
糸井
やっぱり、「受け手として僕にはこう見えた、これはいいぞ」
って思いつくまでは書けない
わけで。
「プレゼンの勝率が落ちたら、もうだめだな」とは思ってて、
だから、「こういう時代にそこにいるのはまずいな」と。
で、僕にとってのブルーハーツが釣りだったんですよね。
 
だから、始めたのが、12月だったと思うんですよ。
で、東京湾に、シーバスって呼ばれてるスズキがいるんだ
ってことがわかっただけでもうれしいわけですよ。
  
家族旅行を正月、温泉旅行かなんか行った時に、
まったく根拠なく、砂浜で一生懸命、何か釣れるのを、
真冬に、海水浴やるようなビーチで、一生懸命投げてる。
田中
(笑)なんか釣れましたか、その時は?

糸井
まったく釣れません。
田中
(笑)
糸井
でもいいでしょう?
僕にとってのインターネットって、水なんですよ。
今初めて説明できたわ。
田中
はぁ。
糸井
根拠はなくても水があるんです。
田中
根拠はなくても水がある。
糸井
水があれば、水たまりでも魚はいるんですね。
で、それが自分に火を点けたところがある。
だから、僕の「リンダリンダ」は、水と魚です(笑)
田中
水と魚、はぁ。
糸井
おもしろいんですよ。
その朝1人で誰もいない所で釣りをしてると、
初めて釣れる1匹っていうのが、朝日が明ける頃に、
何の気配もない、静かな田んぼの間の水路みたいな川で、
泥棒に遭ったかのようにひったくられるんですよ。その喜び。
これがね、なんだろう、俺を変えたんじゃないですかね。
田中
なるほど。いや、その話が、まさかインターネットにつながるとは。
糸井
広告を辞めるとかっていう、
「ここから逃げ出したいな」っていう気持ちと同時に、
「水さえあれば、魚がいる」っていうような、
その期待する気持ちに、肉体が釣りでつなげたんでしょうね。

* * * * *

こうして対談は終了。

この記事を書いているこの瞬間だって、
Twitterのタイムラインには@hironobutnk と、@itoi_shigesato
仲睦まじい(?)絡みを見ることができます。

二人の対談に、わたしが四苦八苦している間にも、
なんだか楽しそうじゃないですか‥‥。
対談がご本人自身にとってどれほど面白かったかは、
田中さんのツイッターからもだだ漏れしています。

ものを書くのが嫌いな、ことばを扱う二人の話はここまで。
インターネットという水の中に潜れば、
きっとふたりが泳ぐ姿が見えるのでしょう。

(終わり)