糸井

電通に勤めたのは、何年間？

田中

24年です。

糸井

相当長いですよね。
仕事もたくさんして。

田中

はい。

糸井

僕はもともと田中さんのことを「なんか書く人」っていうふうに
認識してなかったんです。
で、最初に見たのが、東京コピーライターズクラブのリレーエッセイみたいな‥‥

田中

リレーコラムですね。

糸井

思えば僕もコピーライターズクラブの人間だったんで、
今はこんなことやってるのかって読み始めたら、おもしろくて。
「誰これ？」って思った。それが、まだせいぜい2年くらい前かな。

田中

たぶんそうですね。2015年の4月くらいに書きました。

糸井

それまで、田中泰延名義で、
ああやって個人の何かを書くことはなかったんですか？

田中

一切なかったんです。

糸井

ほぉ。
じゃあ、広告の仕事をしてる時は、
本当に広告人だったんですね。

田中

もう真面目な、ものすごく真面目な広告人。
実質20年くらい、テレビCMの企画ばっかりで。
もちろんテレビCMの最後には、何かコピーが載りますけど。

糸井

「来てね」とかね（笑）。

田中

「当たります」とかも（笑）。
だからツイッターができた時、
文字を打った瞬間に活字みたいなものになって、
人にばらまかれるっていうことに関して、
俺は飢えてたっていう感覚はありました。
溜まってましたね。

糸井

もう、性欲の‥‥

田中

溜めに溜まった何かが（笑）。

糸井

びっくりですね。

田中

はい。

糸井

っていうことは、筆下ろしは、コピーライターズクラブの。
あれ、600字くらいの感じかな。

田中

800字くらいじゃないですか。

糸井

で、そのうちの中身にあたるものはほとんどなくて。

田中

まったくないですね。

糸井

800字のうち600字くらいは、
どうでもいいことだけが書いてあるっていう文章。

田中

今でも全然変わらないですね、それ。

糸井

ねぇ。で、おもしろかったんですよ。

田中

ありがとうございます。

糸井

で、僕、27、8の若い人だと思って。
こういう子が出てくるんだなぁって（笑）。

田中

（笑）。

糸井

もっと書かないかな、この子がって思って。
いつ頃だろう、27、8じゃないってわかったのは‥‥

田中

46、7のオッサンだったっていう（笑）。

糸井

20歳ひらきがある（笑）。

田中

電通に入った当時の23歳のまま、今まで来ちゃってるから。
そんな人がようやく好き勝手に書くようになったのが、45、6歳ってことです。

糸井

つい2、3年前。ヒエェーッ。
で、映画評みたいなものが次ですか？

田中

はい。

糸井

もともと電通にいた西島知宏さんが、
自分のクリエイティブブティックみたいなメディアを起こされて。
田中さんは、西島さんより先輩？

田中

はい、7、8年先輩です。
ただ、彼も電通に一緒に在籍したのは知ってて、
辞めたのも知ってるんですけど、
なんの付き合いもなかったんですね。

糸井

えっ？そうなんですか。

田中

はい。
2015年の3月に突然大阪を訪ねて来られて、
「うちで連載してください」と。

糸井

はぁ。

田中

当時、ツイッターで「この映画のここがおもしろかった」って、
2～3行書いてたんですね。それを見て。
で、「分量はどれくらいですか？」って聞いたら、
「ツイッターと同じく2～3行でいいです」って。

糸井

（笑）。

田中

「2～3行書けば、仕事になる的な？」って聞いたら、
「そうです」って言うから、
次の週にとりあえず7,000字書いて送りました。

糸井

溜まった性欲が（笑）。

田中

そう。書いてみると、やっぱりね。

糸井

7,000字、多いですよね。

田中

多いですね（笑）。

糸井

うれしさで書いちゃったのかな？

田中

なんでしょう。
「これを明日ネットで流せば、絶対笑うやつがいるだろう」とかっていう想像をすると、取りつかれたようになったんですよね。

（つづきます）