もくじ
第1回ずるいお土産。 2017-03-28-Tue
第2回文章の拡散性に、飢えていた。 2017-03-28-Tue
第3回みんな、大変なんじゃないかなぁ。 2017-03-28-Tue
第4回読んでいる人として書いている。 2017-03-28-Tue
第5回27歳、青年失業家。 2017-03-28-Tue

東京に住んでいる、年中花粉症の18歳。先日高校生を終えました。最近の悩みは、もらった卒業アルバムの個人写真の写りが、なぜか私だけすごく悪く見えることです。たぶん、みんなそれぞれ、自分の写りが悪いと思っています。

27歳のヒロくん。</br>田中泰延×糸井重里

第5回 27歳、青年失業家。

糸井
そうそう、中崎タツヤさんの『じみへん』っていう
作品の中で、もう永遠に忘れまいと思ったのが、
主人公の男と母親の会話ですね。
庶民の家ですから、男は母親のやっていることが
すごくばかみたいに見えてくるんです。
そのことになんだか、ものすごく腹が立ってきて、
自分もそこの生まれの人間なのに、
「母さんは、何かものを考えたことがあるのか」と
聞くんですよ。自分の血筋に対する怒りのようにぶつけて。
田中
はい、はい。

糸井
すると母親は、「あるよ」って。
それも、「寝る前に、ちょっと」って。
田中
(笑)
糸井
もう、涙が出るほど嬉しかったですよ。
田中
いや、素晴らしい。
糸井
これを言葉にした人って、いないでしょう?
その「寝る前に、ちょっと」をマンガにした人がいて。
田中
凄味ですよ、それは。
糸井
でしょ?で、僕は、その、
「寝る前にちょっと」を探す人なんです(笑)。
それで、同じく「寝る前にちょっと」の人たちと
一緒に遊びたい人なんです。
田中
その時間、ね。
深夜のちょっと活発になる時間帯に、ね。
糸井
そう(笑)。だからそれ言いながら、自分に対して
「お前も幸せになれよ」ってメッセージを投げかけ続ける。
これはもう、僕にとっての僕の生き方。
田中
わかります。
糸井
「みんなこうしろ」とは言えないよ。
僕はそれを、探したんだもん(笑)。
田中
で、僕はこの年で「青年失業家」として
岐路に立っているので。
糸井
青年失業家(笑)。青年失業家かぁ‥‥。
田中
勝手に青年と名乗りましたけれども。
糸井
27歳ですから。
田中
27ですよ。27のままです、心は。
ただ、会社を辞めた理由のひとつには、
人生すごく速く感じてきたなと思って。
たぶんこれ、みんな思うと思うんですよ。
20代の頃と40代の頃とだったら、
日が暮れるのも倍以上速いんです。
祖母が死ぬ前に言った、僕これ、忘れられない一言で。
80いくつで死んだうちの祖母が、こう言ったんです。
「ああ、この間18やと思ったのに、もう80や」って。
糸井
ハハハハ!
田中
その一言で、ものすごい時間を一気に(笑)。

糸井
素晴らしい!
田中
60年近くを、一気にぴょーんって。
そりゃあ、速いわなあ、っていう。
糸井
それ、田中さんが言うよりも、
僕はもうちょっと深くわかりますね。
田中
僕、まだ実感ないですもん。
「この間18やと思ったのに、もう80や」って、
その言葉だけでね。それは速いよ!(笑)
糸井
速い速い。
田中
あ、そうそう。今朝、燃え殻さんから
「バンドやろうぜ!」とお誘いを受けまして。
糸井
浅生鴨さんはベースを買ったようです。
田中
ベース(笑)。ベースをやり始めたのはヤバい。
糸井
きっとベースが足りなくなるだろうって、
はじめから思ったって。
田中
やりたがる人が少ないから。
まあ僕も、俺が俺がの人間なので、高校時代のバンドの名前は
「ヒロノブ&ジ・アザーズ」でした。
糸井
それ、本当だったんだ(笑)。
田中
「&ジ・アザーズ」ですから。これはひどいでしょう。
糸井
すごいねぇ。
田中
それでもう、よしとしてしまうメンバーも素晴らしい。
糸井
そのメンバーは、OKしたわけでしょう?
田中
はい。「これは誰が聞いてもひどいと思うから、
ひどい中で不機嫌に弾いてるお前たちは、最高だ!って
言われると思うよ」って言って。
糸井
それはもう、すごい。
田中
で、「ヒロノブ&ジ・アザーズです」って僕が言うと、
みんな、「チッ」って言いながら演奏をはじめる。
決まっていたんです、「チッ」って、嫌そうにやる(笑)。
糸井
その発想、一度やったことがあるんです。
イッセー尾形さんの会社が、「株式会社ら」って名前で。
田中
ら?
糸井
僕が付けたんですけれど、「イッセー尾形ら」。
田中
ああ、そのほかの人たちなんだ。それはひどい。
糸井
そう、そのほかの人たち。
「イッセー尾形ら 株式会社」なんです。
あれは全部一人芝居だから、イッセー尾形さんが前に出る。
「それでどう?」って聞いたら、「最高」って。
田中
すごいじゃないですか、それは。
糸井
アザーズどころじゃないという。
あとは「等」とかが残っていますね。
「他」とか。

田中
「他」(笑)
糸井
「他」はねぇ、ちょっとまたこれ僕いろいろあって。
木更津の、氣志團のテレビデビューの番組を見てた時。
流行が終わりすぎたライマブレスレットを、彼らがしてて。
誇らしげだったから、なんかこういいなぁ、すごいなぁと。
田中
そのチョイスがまた絶妙ですね。
糸井
僕はその頃、まだここまで辿り着いていないと思って
慌ててライマブレスレットを買った(笑)。
田中
(笑)
糸井
氣志團に対する敬意としてね、買いました。
で、カミさんの分も。
田中
それはいらない(笑)。
糸井
それを持ってたカミさんが、実家でお義母さんに
「それ、ちょっと欲しい」って言われて。
誕生日も近かったものだからね、それが欲しいと。
田中
おお、おお。
糸井
それでサイズを聞いていたら、
お義父さんまで「欲しい」って。
氣志團からライマブレスレットが4個になって。
「じゃあFAXで送るよ」ってなって、
その後お義父さんからFAXが届いて。
「私、L。他、S」って書いてある。
田中
うわあ(笑)。
糸井
もともとはお義母さんの誕生日プレゼントなのに。
田中
「他」に変わってる。「他」に。
糸井
お義母さんのはずが「他」に変わってる。
田中
しかしまあ、ひどいですねぇ。
糸井
いいでしょう?
ライマブレスレット、氣志團、他。
アザーズどころではない。
田中
アハハハ、「他」って。
糸井
「これから田中泰延は、どうなるんですか」なんてこと
まったく聞かないのに、こんなにおもしろい話を。
田中
ええ。
糸井
それはもっと、いびれるようなところで。
青年失業家の、ね。
田中
いじめてください(笑)。
糸井
ハハハハ、どうもありがとうございました。
田中
ありがとうございました。

(おわり)