もくじ
第1回ずるいお土産。 2017-03-28-Tue
第2回文章の拡散性に、飢えていた。 2017-03-28-Tue
第3回みんな、大変なんじゃないかなぁ。 2017-03-28-Tue
第4回読んでいる人として書いている。 2017-03-28-Tue
第5回27歳、青年失業家。 2017-03-28-Tue

東京に住んでいる、年中花粉症の18歳。先日高校生を終えました。最近の悩みは、もらった卒業アルバムの個人写真の写りが、なぜか私だけすごく悪く見えることです。たぶん、みんなそれぞれ、自分の写りが悪いと思っています。

27歳のヒロくん。</br>田中泰延×糸井重里

第3回 みんな、大変なんじゃないかなぁ。

田中
自分よりも先に電通を辞めていらした西島知宏さんから、
突然2015年の3月に連絡が入ったんですよ。
現在「街角のクリエイテイブ」の編集長をしていますね。
それまで全然、付き合いはなかったんですけれども。
糸井
あ、そうなんですか。同じ会社に勤めていたのに。
田中
在籍していたのも、辞めたのも知ってはいました。
ほんとうに、突然大阪を訪ねてこられて、
僕のところへ来て「会いましょう」ということで。
大阪のヒルトンホテルに
すごくいい和食が用意してあって、
「まあ座ってください」と言われるんです。
料金表見たら一人前が6000円。
「うわぁ!高い!いいのかな」と思っていたら、
「食べましたね。今、食べましたよね。
お願いがあります。うちで連載してください!」
って言われて。
糸井
うん、うん。
田中
東京コピーライターズクラブで書いたものだったり、
ツイッターだったりを見て来てくれて。
「昨日見た映画のここがおもしろかった」というのを
2、3行程度書いているものなんですけれども。
分量を聞いてみたら、ツイッターと同じように
2、3行でいいですって。

糸井
ええー!(笑)
田中
「いいの?2、3行でいいの?」
「映画見て、2、3行書けば仕事になる?」
って聞いたら「そうです」って言われたので、
映画を見て次の週に
とりあえず7000字書いて出しました。
糸井
溜まりに溜まって(笑)。
田中
そう。書いてみると、やっぱり、どんどん。
糸井
2、3行のはずが?
田中
そのはずが、7000字に。
糸井
7000字。多いですよね。
田中
多いですね。
糸井
原稿用紙の400字に直すと‥‥。
田中
大体、15枚くらい。
糸井
15枚くらいか。
書き始めたら、そうなっちゃったんですか?
田中
なっちゃったんです。
糸井
それは、なんの映画ですか?
田中
『フォックスキャッチャー』です。
実話を元にしていて、オリンピックの選手とコーチの、
男性間の愛憎を描いた作品で、
アカデミー賞にもノミネートされていたんですよ。
それを観て、2、3行書くつもりだったのに、
いつの間にか無駄話が止まらない状態になっていました。
糸井
あぁ‥‥。
田中
深夜遅くにキーボードに向かって、
「一体全体、何をやっているんだ。眠いのに。」と。
糸井
うれしさ、ですか?
田中
うれしい?うーん、なんでしょう。
「これを明日、ネットで流せば、
絶対笑うヤツがいる!」と想像すると、
何かに取り憑かれたようになったんですよね。
そんな体験が初めてだった。

糸井
もしそれが雑誌のようなメディアだったら、
打ち合わせでああだこうだ言って、
急に「じゃあ7000字お願いします」なんて
まずないですからね。
田中
はい。
糸井
そのメディアがインターネットで、よかった。
田中
のちに雑誌に頼まれて寄稿する、ということも
ありましたけれど、反響がないんです。
つまり、印刷されてから直接何か
「おもしろかった」とか、「読んだよ」とかが、
目に見えないからあまりピンと来ない。
糸井
インターネットネイティブの発想ですね。
田中
反応がない、ということが。
糸井
若くないのに、その。
田中
45歳にして。
糸井
逆に言ってしまえば、25歳くらいの人が
感じていることをその年で感じている、
ってことですから。
おもしろいなぁ、酸いも甘いも40歳を越えているから、
知らないわけではないのに。
田中
すごくシャイな少年みたいに、ネットの世界へと
入った感じなんですかね。
で、糸井さんは毎日書くというのを、
18年やっていらっしゃる。それも毎日ですよ。

糸井
(笑)
田中
すごいなぁ。
僕のコピーライターズクラブの文章だと、
ある週の月曜から金曜に1つづつ書く、というのを
2014年と2015年にやったから、合わせても10回分。
対して、「翌日に誰かが見るんだ」というのを、18年も毎日。
糸井
(笑)
田中
休まずに。
糸井
うーん、でも、うん。
お互いやっているから言えることではあるんだけれども、
例えばダウンタウンの松本人志さんが
ずっとお笑いをやっているのと同じことでしょう?
それに対して「大変ですね」って言うのも、
おかしなことではないかもしれないけれども、
「大変?うーん、みんな大変なんじゃない?」って(笑)。
田中
「みんな大変だろうよ」って?(笑)
糸井
それこそ仕事だから、野球の選手は野球をやるし、
おにぎり屋さんはおにぎりを握るのと、
同じなんじゃないかなぁ。
あえてコツを言うのなら、休まないと決めたところだけ。
田中
なるほどなぁ。
糸井
たぶん、田中さんはそこの境で
考えているんじゃないかなって。
田中
これからの時代だと、
文章に、コンテンツにお金を出して読もうって言う人が
どんどんと減っていくんです。
今書いているものでは、儲かっていないし
生活の足しにもならない。
糸井
ならないね。
田中
前は大きな会社の社員で、仕事が終わったあと、
夜中に書いていましたけれど、今はそれで生活ができない。
それじゃあ、どうするの?ってところに来ていますね。

(つづきます)

第4回 読んでいる人として書いている。