- 糸井
- なんかこう、今、27の人と話していますね。

- 田中
- はい、そうですね(笑)。
- 糸井
-
うんそうだねぇ。
誰かに悩みは相談したのかい?(笑)
- 田中
- ハハハハ!もはや若者のお悩み相談!
- 糸井
-
27の子がついに独立したってことで‥‥。
もう誰かに相談はしたかい?
奥さん、なんて言ってるんだい?(笑)
- 田中
-
そんな感じなんですよ。
だから、すごいと言いますか(笑)。
- 糸井
- 愉快だなぁ。
- 田中
-
僕の中ではあいかわらず、何かを書いた報酬は
「おもしろい」とか「全部読んだよ」とか、
「この結論は納得した」だとか、そういった声です。
家族は、そんなことでどうするんだと
思っているでしょうけれども。
- 糸井
-
自分が文字を書く人であるとか、
考えたことを文字に直す人だという認識が
そもそもない時間。それが、20年以上もあって。
不思議だなぁ、「好き」とか「嫌い」とか、
そういう感情はなかったんですか?
- 田中
- 読むのが、好きで。
- 糸井
- ああ。
- 田中
-
「ひたすら読んでいました」というのは
何度もあったんですけれども、
まさか自分がダラダラ書くことになるとは、夢にも思わず。
- 糸井
-
今こうして話していることを、
どういうふうにして自分が感じているんだろうというのを
頭の中でちょこっと考えていたんですけれども。
読み手として書いている、ってことなのかなぁ。
自分にもそういうところはあって、
コピーライターは「書いている人」というよりも
「読んでいる人として書いている」気がするんです。
- 田中
- ああ、それはすごくわかります。
- 糸井
-
うん、だから、視線は読者に向かってるんじゃなくて、
まずは自分が読者なんだよ。
自分が書いてくれるのを待っている、みたいな。
- 田中
-
おっしゃる通りです。
それです、ほんとうに。

- 糸井
- はじめて今それに気づいた、というか。
- 田中
- これは、うん、すごい。
- 糸井
- 説明するのが、難しい。
- 田中
-
難しい。
でも発信しているんじゃあ、ないですよね。
- 糸井
- 受信しているんです。
- 田中
- はい、受信です。
- 糸井
-
それで、自分に言うことがない人間は書かない、
って思ったら大間違いになってしまう。
- 田中
- そうなんですよ。
- 糸井
-
読み手、受け手であることを、
思い切りのびのび、自由に味わいたい!って思ったら、
じゃあそれは誰がやるの?俺だよ!って。
- 田中
- 自分なんです、全部。
- 糸井
-
うわあ、なんて言えばいいんだろう。
これ以上にいい言葉が、説明が出てこない。
- 田中
-
この言い方しかできないんですよね。
映画を見ても、今はいろいろな人がネットでも雑誌でも
評価を書くじゃないですか。
「じゃあこの見方はないのか?」って思ったときに、
探してもなかったら
「なんでないの?じゃあ、この見方は今夜自分で書くの?」
っていうことになりますから。
- 糸井
-
なんであんなにおもしろいんだろう、というのと、
書かないで済んでいた時代、というのと。
その2つがやっとわかった。広告屋だったからだ。
- 田中
- そうですね、広告屋は発信しないですから。
- 糸井
- しない。でも受け手には、絶対に感性があるわけで。
- 田中
- そうそう。
- 糸井
-
僕の受け取り方っていうのは、発信しなくても
個性になっていたんですね。
ぴったりはまるものを探してもないから、
「あ、自分で書くの?」っていうのが仕事になっていた。
自分がやっていること、今わかったわ。
- 田中
- (笑)

- 糸井
-
前から言っていますけど、
僕はものを書くのがものすごく苦手です。
- 田中
-
同じですね。僕もすっごい嫌です。
みんな嫌なんですよ。ほんとうに。
- 糸井
-
たまにいますけれどね。
たまにこう、嫌じゃないって人が。
- 田中
- ごくまれにね。ちょっと怪しい人が。
- 糸井
-
そういう人についてはまあ、
いろいろと聞いてみたいことはありますけれども。
「『自分』ってないの?」という問いは、
何年もずっとしてきたと思うんですよ。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
たぶん僕もそうですし、田中さんもそうだろうなぁと
思うんですけれども、「お前は何も考えないのかよ」って
言われたら「それは違う」って言えるじゃないですか。
「そんな人間いないでしょう」って。
そこを探して、日々生きているわけで。
- 田中
-
あの、ご存じかどうかはわからないですけれども、
ツイッターに糸井重里botっていうのがあるんです。
糸井さんの言葉を再読するようなbotではなくて、
糸井さんっぽく物事に感心するような内容なんです。
いろんなことに関して、
「いいなぁ。僕はこれ、いいと思うなぁ」。
- 糸井
- ハハハハ。
- 田中
-
糸井さんのあの、
物事に感心する口調だけを繰り返しているだけのbot。
で、「僕はこれ好きだなぁ」。
- 糸井
- そればっかりです、僕はもう。
- 田中
-
だからそのbot、すごくよくできていて。
何に関しても「それはいいと思うなぁ」。
- 糸井
- だいたいそうですから。
- 田中
-
「好きだなぁ」。世の中に対して何かを、
ちょっとだけ伝えたいときってあるじゃないですか。
例えばこの水に対して、
「僕ちょっと、このボトル、好きだなぁ」とか。
ちょっとだけ、今、僕は心地よく思っていますと。

- 糸井
-
そうですね。
それは他のボトルでは思わなかったことですから。
- 田中
- ですよね。
- 糸井
-
そのボトルを見て思ったから、選んだ。
また、選んでいる側です。受信です。
- 田中
- 今はこれがいいなぁと伝えておいて。
- 糸井
-
あえてこれの「なにがいいか」というのは、
自分への宿題にしちゃう。
いずれわかったら、その話をしますよ。
インターネットだからできることだけれど、
わかったときに、わかったように書ける。
- 田中
-
「つらつら考えたけど、前に少し話したあれ、
何がいいのかわかったよ」って。
(つづきます)