- 糸井
-
僕ね、ずっと感じていたことがあるんです。
なんていうか、書き手に対して、人はある種のカリスマ性を要求している……とおもうんです。書き手なら、トランプ大統領よりも、ボブ・ディランがえらい、みたいな。
- 田中
- わかります。
- 糸井
- その目は、どうしても変わらない。でも僕は、その順列からも、自由でありたいんです。だから、超アマチュアで一生が終われば、僕はそれで満足なんです。
- 田中
- そういう軽みを維持するのも、難しいわけですよ。糸井さんは、ずっとその戦いだったと思うんですね。
- 糸井
- それと同時に、その軽さはコンプレックスでもあったんです。「俺は、逃げちゃいけないと思って勝負している人たちとは、違う生き方をしてるな」って。
- 田中
- わかる。めっちゃ、わかる。
- 糸井
-
人を斬って相手が倒れても、また生き返って斬りつけてくるかもしれない。だから、もう一回両手で刀を突き立てて、心臓にとどめを刺す。それでも、まだ心配だから踏みつけて「死んだかな」って確かめて、最後は心臓をえぐりだして、ハァハァ言いながら、やっと勝ったって思う人たちと、同じことをしてない後ろめたさ、みたいな。
僕の場合、生き返ってきたら、「うわ、えらいな」って思うようなところがあるんです。
- 田中
- それでいくと、書くようになって、たった2年ですけど、書くことの落とし穴を、すでに感じているんです。つまり、自分はこう考える、ということを毎日毎日書いていくうちに、だんだん独善的になっていくな、と。
- 糸井
- なっていきますね。
- 田中
- なった果ては、9割くらい右か左に寄ってしまうんですよね。心の揺れを、うまいことキャッチして書いているなって思っていた書き手でも、10年くらい放っておくと、右か左に振り切ってるってことが、いっぱいあるんです。

- 糸井
-
世界像を安定させたくなるんじゃないのかな。
でも、うーん……。世界像を安定させると、夜中に手を動かしている時に感じる全能感みたいなものが、朝がきても、ご飯を食べているときも、追いかけてくるんですね、たぶん。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
- そうなっちゃうと、読み手としては拍手するけど、人としてはつまんないかなって思うんです。
- 田中
- 恐ろしいですね、それは。僕は、別に世の中をひがむとか、何か政治的主張があるとかはないんです。ずっと、読み手だから。だけど、いろいろ書いていると、いわれるわけですよ。「田中さん、小説書きましょうよ」って。
- 糸井
- 必ず、言いますよね。
- 田中
- 読みたいっていうのもあるだろうし、商売になるって思っている人もいる。だけど、「これが言いたくて、俺は文章を書く」っていうのが心の中にないんです。つねに、「あ、これは木ですか?」「あぁ、木っちゅうのはですね」っていうのを続けていたいんです。
- 糸井
- お話がしたいんですね。
- 田中
- そうなんです。
- 糸井
- そうかぁ。それって永遠の課題なのかもしれない。僕も、ずっと考えていることですよね。なんていうのかな、「表現者」に対する拍手が、ちょっとでかすぎる風潮があるような気がしているんです。
- 田中
- ふんふん。
- 糸井
- もっとしょうもないものでも、同じくらいの拍手をもらってもいいはずだと思うんですね。でも、人に伝わりづらいから、拍手が小さいのかな……。そこは、しょうがないんですかね。わかんないな。なんだろう……大きい拍手をしてもらうような表現者になりたくないというか。まぁ、僕は自分の仕事を、自分らしくやろうって思うんです。

- 田中
- バランスとるために、僕のような、しょうもない戯言いってる人間に、夜中に絡むわけですか(笑)。
- 糸井
- だいたい「www」でかえされますけどね。
- 田中
- 「もう3時半なのに、またなんかきたよ」って。
- 糸井
- 下手したら、一眠りしてから、また絡んだりしてる。
- 田中
-
あはははは。
一回寝て起きてから、またやる。でも、永遠に馬鹿馬鹿しいことをやるって、一種体力が必要ですよね。
- 糸井
- そうですね。
- 田中
- でも、馬鹿馬鹿しいことを、馬鹿馬鹿しいって思ってやらなくなった瞬間、えらそうな人になっちゃう。
- 糸井
- そうなんですよ。でね、ぐるっと回って結論は? って考えると、「ご近所の人気者」っていうところにたどり着くんです。
- 田中
- ご近所の人気者?
- 糸井
- うん。一番近いところで、僕のことを「人」として把握している人たちが「ええな。今日も、機嫌よくやってるな」って、別に強く絡むわけではなくて、ただ思ってくれている感じ。
- 田中
- はいはい。
- 糸井
- そこにね、やっぱり落ち着きたくなっちゃう。ありがたいことに、地理的なご近所と、気持ちのご近所と両方そろってるのが、今の状況なんです。
(「5」へつづきます。最終回です。)
