もくじ
第1回手土産の美学。 2017-03-28-Tue
第2回書いたら、誰かが反応してくれる。 2017-03-28-Tue
第3回自分にあてて、書いている。 2017-03-28-Tue
第4回書くことの、その先。 2017-03-28-Tue
第5回プロとアマチュアを両立する、ということ。 2017-03-28-Tue

IT企業での勤務を経て、フリーのライターに転身。様々な媒体で執筆を経験したのち、現在はスタートアップ企業で活動中。

47歳の、進路相談。

47歳の、進路相談。

第2回 書いたら、誰かが反応してくれる。

糸井
田中さんにとって、電通関西支社は居心地が良かったんですよね。
田中
それは、もう。居心地良すぎて、24年間いました。
糸井
相当、長いですよね。
田中
はい。
糸井
広告の仕事をしている時は、本当の意味で広告人だったんですか?
田中
もう、真面目な、ものすごく真面目な広告人でした。
 
……これ、録音で伝わるかなぁ。ものすごく、真面目な広告人。
糸井
誰かのモノマネみたい(笑)。コピーライターとしてコピーを書く仕事と、プランナーもやっていたんですか。
田中
はい。テレビコマーシャルのプランナーをやってました。出版社とか新聞社は、全部東京にあるんで、関西には紙媒体の仕事がこないんですよ。だから、テレビCMの企画ばっかりでしたね。
糸井
うーん……、今、田中さんは広告の仕事を辞めて、文字を書いている。自分が考えたことを文字にする人だっていう認識そのものが、ずーっとなかったわけでしょう? それって、不思議な気がしますね。
 
文字を書くことが「好きだ」とか「嫌いだ」とかも、思わなかったんですか?
田中
読むのは好きでした。ひたすら読んでいることとかもありましたし。ですけど……、まさか自分が、読む側ではなく、ダラダラ文字を書く側になるとは夢にも思わなかったです。
糸井
僕がね、田中さんが文字を書く人だって認識したのは、東京コピーライターズクラブのリレーコラムかな。
田中
2015年くらいに書きました。
糸井
その名の通り、リレーみたいに書き手がまわってくるわけですよね。で、誰かが、田中さんのことを紹介していたんですけど、それがまた、なんか中途半端な紹介の仕方で。でも気になって、そのページをクリックして読んでみたら、びっくりですよ。「誰これ? 」って思ったのが最初ですね。あれ、600文字くらい?
田中
800文字くらいじゃないですか。
糸井
中身は、ほとんどない(笑)。
田中
まったくないですね。今も変わらないですけど……。
糸井
ねぇ。でも、おもしろかったんですよ。
田中
ありがとうございます。
糸井
僕はね、27、8歳くらいの若い子がでてきたなぁって思っていたという(笑)。もっと書かないかな、この子。って思ってましたから。
田中
フタを開けたら、40代後半のおっさんだったっていうオチです。
糸井
20歳の開きがある。
田中
いやはや。
糸井
それまで、田中泰延名義で、個人的なことを書いたことは、なかったんですか?
田中
一切なかったんです。
糸井
ふーん。そうかぁ。
田中
まぁ、あっても20文字程度のキャッチコピーとか、200文字のボディコピーとかくらい。
糸井
はいはい。
田中
それまで、一番長かったのは大学の卒論です。原稿用紙200枚くらい書いたかな。でも、人の本の丸写しですから、書いたうちに入らないですね。
糸井
それは、切ったり貼ったりしたの?
田中
切ったり貼ったり、切ったり貼ったり、です。担当教授にみせたら、「私は評価できません」って言われましたね。その時から、多少変だったんだと思います。
糸井
それしか書いていない?
 
ラブレターとか、こう、友達同士のメールのやり取りとか、そういう遊びもしていないんですか?
田中
そうなんですよ。もう、苦手で。卒論の後に書いたって言うと、2010年に出会ったTwitterですよね。文字を打った瞬間、活字みたいになって、人にばらまかれる。俺が飢えていたのは、この感じだっていう感触はありました。
糸井
すごい溜まりかたですね、それ。
田中
溜まってました。もう、すごいんですね、溜めに溜まった何かが、こう溢れでて(笑)。
糸井
びっくりですね。
田中
はい。
糸井
っということは、筆おろしは、例のコピーライターズクラブのコラムですか。
田中
はい。
糸井
で、次に書いたのが映画評?
田中
そうですね。でも、「どれくらい書けばいいですか?」って聞いたら、「Twitterみたいに2、3行で」っていわれたんですよ。
糸井
あはははははは。
田中
いやさすがに、何回か確認しましたよ。「それで仕事? いいの? 」って。でも「いい」っていうんで、次の週にとりあえず7000字書いて送りました。
糸井
2、3行のはずが、7000字。
田中
そう。書いたら止まらなかった。
糸井
……7000字って多いですよね。
田中
キーボードをたたきながら、「眠いのに、俺なにやってんだ?」って自問自答は、してました。
糸井
でも、止まらなかった。それって、書ける嬉しさ?
田中
うーん……。これが明日ネットに流れたら、笑うやつが絶対いるって想像したら、なんか取り憑かれたようになっちゃったんです。
糸井
あぁ、大道芸人が観客から歓声を浴びてるときの感じに近いのかな。
田中
うん、そうですね。
糸井
雑誌とかのメディアだと、文字数オーバーはできないし、インターネットでよかったですね。それは、すごく幸運だったと思いますよ。
田中
そのあと、嬉しいことに雑誌に寄稿をお願いされたこともあったんです。でも、印刷されて本屋に並んでも、なんかピンとこなくて。僕に直接「おもしろかった」とか、「読んだよ」とか反応がないのは、物足りないんです。
糸井
それは、インターネットネイティブの発想ですね。
田中
若くないのにね。
糸井
いや、でもその発想は、まさに今の25歳くらいの人たちが感じていることですよね。
田中
そうかもしれません。
糸井
そう思えたの、すごいことですよね。だって、酸いも甘いもある程度知ってるわけだから。曲がりなりにも40代ですからね。
田中
すごいシャイな青年が、ネットの世界にデビューした感じですね。

糸井
ちょっと話が戻るけど、コピーライターズクラブのコラムって、望んでいなくてもまわって来ちゃうから、多少ならずとも嫌々やる仕事だと思うんです。
田中
そうかもしれないですね。
糸井
田中さんは、嫌々書いてますっていう風にしていたけど、実のところ全然嫌じゃなかったんですか?
田中
そうなんですよね。なんか自由に文字を書いてるけど、明日には必ず誰かがみるんだ、って思ったらうれしくなったんです。
糸井
その感覚、新鮮だなぁ。
田中
糸井さん、それを18年間、休まずに毎日やってらっしゃるわけでしょう?
糸井
うーん……。でも、野球の選手は野球を毎日やってるし、おにぎり屋さんはおにぎりを毎日握ってる。それと同じですよね。あえて言うとすると、休まないって決めたことだけがポイントで、あとはなんでもないことですよね。
田中
なるほど。
糸井
田中さんは、今そういう境地なんだと思うんですよ。
田中
僕の中では相変わらず、「書く」イコール「お金」ではなくて、「おもしろい」とか「全部読んだよ」とか、そういう声が報酬なんです。まぁ、それが報酬って、家族はたまったもんじゃないでしょうけどね。

(「3」へ、つづきます)

第3回 自分にあてて、書いている。