- 糸井
- 田中さんにとって、電通関西支社は居心地が良かったんですよね。
- 田中
- それは、もう。居心地良すぎて、24年間いました。
- 糸井
- 相当、長いですよね。
- 田中
- はい。
- 糸井
- 広告の仕事をしている時は、本当の意味で広告人だったんですか?
- 田中
-
もう、真面目な、ものすごく真面目な広告人でした。
……これ、録音で伝わるかなぁ。ものすごく、真面目な広告人。
- 糸井
- 誰かのモノマネみたい(笑)。コピーライターとしてコピーを書く仕事と、プランナーもやっていたんですか。
- 田中
- はい。テレビコマーシャルのプランナーをやってました。出版社とか新聞社は、全部東京にあるんで、関西には紙媒体の仕事がこないんですよ。だから、テレビCMの企画ばっかりでしたね。
- 糸井
-
うーん……、今、田中さんは広告の仕事を辞めて、文字を書いている。自分が考えたことを文字にする人だっていう認識そのものが、ずーっとなかったわけでしょう? それって、不思議な気がしますね。
文字を書くことが「好きだ」とか「嫌いだ」とかも、思わなかったんですか?
- 田中
- 読むのは好きでした。ひたすら読んでいることとかもありましたし。ですけど……、まさか自分が、読む側ではなく、ダラダラ文字を書く側になるとは夢にも思わなかったです。
- 糸井
- 僕がね、田中さんが文字を書く人だって認識したのは、東京コピーライターズクラブのリレーコラムかな。
- 田中
- 2015年くらいに書きました。
- 糸井
- その名の通り、リレーみたいに書き手がまわってくるわけですよね。で、誰かが、田中さんのことを紹介していたんですけど、それがまた、なんか中途半端な紹介の仕方で。でも気になって、そのページをクリックして読んでみたら、びっくりですよ。「誰これ? 」って思ったのが最初ですね。あれ、600文字くらい?
- 田中
- 800文字くらいじゃないですか。
- 糸井
- 中身は、ほとんどない(笑)。
- 田中
- まったくないですね。今も変わらないですけど……。
- 糸井
- ねぇ。でも、おもしろかったんですよ。
- 田中
- ありがとうございます。
- 糸井
- 僕はね、27、8歳くらいの若い子がでてきたなぁって思っていたという(笑)。もっと書かないかな、この子。って思ってましたから。
- 田中
- フタを開けたら、40代後半のおっさんだったっていうオチです。
- 糸井
- 20歳の開きがある。
- 田中
- いやはや。
- 糸井
- それまで、田中泰延名義で、個人的なことを書いたことは、なかったんですか?
- 田中
- 一切なかったんです。
- 糸井
- ふーん。そうかぁ。
- 田中
- まぁ、あっても20文字程度のキャッチコピーとか、200文字のボディコピーとかくらい。
- 糸井
- はいはい。
- 田中
- それまで、一番長かったのは大学の卒論です。原稿用紙200枚くらい書いたかな。でも、人の本の丸写しですから、書いたうちに入らないですね。
- 糸井
- それは、切ったり貼ったりしたの?
- 田中
- 切ったり貼ったり、切ったり貼ったり、です。担当教授にみせたら、「私は評価できません」って言われましたね。その時から、多少変だったんだと思います。
- 糸井
-
それしか書いていない?
ラブレターとか、こう、友達同士のメールのやり取りとか、そういう遊びもしていないんですか?
- 田中
- そうなんですよ。もう、苦手で。卒論の後に書いたって言うと、2010年に出会ったTwitterですよね。文字を打った瞬間、活字みたいになって、人にばらまかれる。俺が飢えていたのは、この感じだっていう感触はありました。
- 糸井
- すごい溜まりかたですね、それ。
- 田中
- 溜まってました。もう、すごいんですね、溜めに溜まった何かが、こう溢れでて(笑)。
- 糸井
- びっくりですね。
- 田中
- はい。
- 糸井
- っということは、筆おろしは、例のコピーライターズクラブのコラムですか。
- 田中
- はい。
- 糸井
- で、次に書いたのが映画評?
- 田中
- そうですね。でも、「どれくらい書けばいいですか?」って聞いたら、「Twitterみたいに2、3行で」っていわれたんですよ。
- 糸井
- あはははははは。
- 田中
- いやさすがに、何回か確認しましたよ。「それで仕事? いいの? 」って。でも「いい」っていうんで、次の週にとりあえず7000字書いて送りました。
- 糸井
- 2、3行のはずが、7000字。
- 田中
- そう。書いたら止まらなかった。
- 糸井
- ……7000字って多いですよね。
- 田中
- キーボードをたたきながら、「眠いのに、俺なにやってんだ?」って自問自答は、してました。
- 糸井
- でも、止まらなかった。それって、書ける嬉しさ?
- 田中
- うーん……。これが明日ネットに流れたら、笑うやつが絶対いるって想像したら、なんか取り憑かれたようになっちゃったんです。
- 糸井
- あぁ、大道芸人が観客から歓声を浴びてるときの感じに近いのかな。
- 田中
- うん、そうですね。
- 糸井
- 雑誌とかのメディアだと、文字数オーバーはできないし、インターネットでよかったですね。それは、すごく幸運だったと思いますよ。
- 田中
- そのあと、嬉しいことに雑誌に寄稿をお願いされたこともあったんです。でも、印刷されて本屋に並んでも、なんかピンとこなくて。僕に直接「おもしろかった」とか、「読んだよ」とか反応がないのは、物足りないんです。
- 糸井
- それは、インターネットネイティブの発想ですね。
- 田中
- 若くないのにね。
- 糸井
- いや、でもその発想は、まさに今の25歳くらいの人たちが感じていることですよね。
- 田中
- そうかもしれません。
- 糸井
- そう思えたの、すごいことですよね。だって、酸いも甘いもある程度知ってるわけだから。曲がりなりにも40代ですからね。
- 田中
- すごいシャイな青年が、ネットの世界にデビューした感じですね。

- 糸井
- ちょっと話が戻るけど、コピーライターズクラブのコラムって、望んでいなくてもまわって来ちゃうから、多少ならずとも嫌々やる仕事だと思うんです。
- 田中
- そうかもしれないですね。
- 糸井
- 田中さんは、嫌々書いてますっていう風にしていたけど、実のところ全然嫌じゃなかったんですか?
- 田中
- そうなんですよね。なんか自由に文字を書いてるけど、明日には必ず誰かがみるんだ、って思ったらうれしくなったんです。
- 糸井
- その感覚、新鮮だなぁ。
- 田中
- 糸井さん、それを18年間、休まずに毎日やってらっしゃるわけでしょう?
- 糸井
- うーん……。でも、野球の選手は野球を毎日やってるし、おにぎり屋さんはおにぎりを毎日握ってる。それと同じですよね。あえて言うとすると、休まないって決めたことだけがポイントで、あとはなんでもないことですよね。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
- 田中さんは、今そういう境地なんだと思うんですよ。
- 田中
- 僕の中では相変わらず、「書く」イコール「お金」ではなくて、「おもしろい」とか「全部読んだよ」とか、そういう声が報酬なんです。まぁ、それが報酬って、家族はたまったもんじゃないでしょうけどね。
(「3」へ、つづきます)
