- 糸井
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2、3行でもいいと頼まれたところを7,000字書いてしまうような人なのに、自分が、文字を書く人だとか、考えたことを文章にする人だっていう認識がなかった時代が20年以上あるっていうのが、不思議ですよね。
書くことが「嫌いだ」とか「好きだ」とかは思ってなかったんですか?
- 田中
- 読むのはずっと好きで、ひたすら読んではいましたね。でも自分がなにかを書くとは夢にも思わず。
- 糸井
- あの、いままで聞いていて受けた印象について、ちょっと考えていたんですけど‥‥。なんというか、コピーライターって、書いてる人っていうより、読んでる人として書いている、気がするんですよ。「読み手」として書いている。
- 田中
- ああ、はい、すごくわかります。
- 糸井
- こういう表現を初めてしたのでよくわかんないんだけれど‥‥。自分にもちょっとそういうところがあって。まず自分が読者で、自分が書いてくれるのを待ってるみたいなところがある?
- 田中
- おっしゃるとおり‥‥! いやそれすごく、すっごく、わかります。
- 糸井
-
コピーライターってそういうものなのかもしれない。それで20何年書かずにいた時代があったわけか。発信はしなくても、受け手としての感性があるから、書くことがある。
‥‥この話、お互いに初めてする話だね。

- 田中
- すごい。これ説明するのむずかしいですけど、発信してるんじゃないんですよね。受信してる。
- 糸井
- そうなんです。これを読みたいなと思って、それを誰がやってくれるのかなって思っていると‥‥「俺だよ」っていう。
- 田中
- はい。それです! 映画を観たら、いろんなことを感じたり考えたりする。いまはいろんな人がネットで評論をするじゃないですか。
- 糸井
- うん。
- 田中
- そういうのを見ながら、自分が考えたことと比べて「あれ、なんで、この見方を書いてる人がいないんだ?」っていうのが出てきて。世の中で誰かが書いてくれてたらもう自分が書く必要ないんですけど、どうも探してもないとなると、「この見方、なんでないの? え、じゃあ、今夜俺書くの?」っていうことになるんですよね。
- 糸井
- そうなんだよ。それなんだよね。「俺の受け取り方」っていうのは、発信しなくても個性なんですよね。で、そこでピタッと来るものを探していたら、他人がなかなか書いてくれないから、「‥‥え、俺がやるの?」っていう、それが仕事になってたんですよね。ああ‥‥自分がやってることについてもなにかわかった気がする。

- 田中
- 映画評とかを書いていると、今度は「じゃあ、田中さん、そろそろ小説書きましょうよ」と最近よく言われるんです。
- 糸井
- 誰かが必ず言うでしょうね。
- 田中
- それは、ぼくが書いたものを読みたいと思ってくださっているというのもあるだろうし、あと、商売になるって思っている人もいる。
- 糸井
- うん。
- 田中
- だけど、やっぱり別にないんですよ。心の中に、「これが言いたくて俺は文章を書く!」っていうものはなくて。つねに、(机をさわりながら)「あ、これいいですね」、「あ、これ木ですか?」、「あぁ、木っちゅうのはですね‥‥」っていう(笑)、ここから話がしたいんですよね、いつも。
- 糸井
- お話がしたいんですね。
- 田中
- そうなんです。
- 糸井
- インターネットの媒体だったら、その場で「なぜ、これをいいと思うか」がわからないことでも「いずれわかったら、またこの話をします」とだけ言って、少し話してみることができるんだよね。それで、後になってわかったことがあったり言えることが出てきたら、「このあいだのあれなんだけど‥‥」って続きを話せる。これは雑誌の連載だとできないだろうなあ。
- 田中
- 「いいなぁ」ということだけでも、まず伝えることができるんですよね。そして、いずれ「前もちょっと話したあれだけど。つらつら考えたんだけど、なにがいいかわかった」って話ができるんですね。
- 糸井
- そうそう。ただただ「これいいなぁ」って言いたい。なんだろう‥‥、「これいいなぁ業」?
- 田中
- はい、「これいいなぁ」ですよ、本当に。

- 糸井
- でも、フリーになられて、自分の名前で出していくっていう立場になって、これは少し変わりますよね。
- 田中
- そこですよね。本当にむずかしい。会社でコピーライターをやっていてついでに何かを書いている人、ではなくなっているので、じゃあ、どうしたらいいのかっていうことは。
- 糸井
- フリーで書くというのには2つ方向性があって。ひとつは、書くことで食っていけるようにするっていうのが、いわゆるプロの発想。それから、もうひとつは、生活していくことと関わりがないことで自由に書けるから、そっちを目指すっていう方向性。この2種類に分かれますよね。
- 田中
- そうですね。それでいうとぼくが興味を持っている糸井さんっていうのは、後者の、そういう、お金をもらう仕事としてではなく、いわば旦那芸として書きつづけるために、ほぼ日という組織を作り、みんなが食べていかれるようにして、物販もしたり、そうやってその立場を作るっていう、壮大な取り組みをされている、ということなんです。
- 糸井
- 電通関西のお花見のときのタクシーで訊かれたのがまさにそのことで。
- 田中
- 自分のクライアントは自分、っていう立場を作り上げたってことですよね。
- 糸井
- そうですね。場を育てたり、誰かに譲ったり、そこで商売する人に屋台を貸したり、みたいなことがぼくの仕事で。ぼくの本職は、管理人じゃないかと思うんですよ。
- 田中
- 管理人。
- 糸井
- 田中さんもその素質があると思います。
- 田中
- 実際、いま書いているようなものでは全然儲かっていないし、食えないんですよね。しかもこれからの時代、コンテンツ、文章というものをお金を出して読もうっていう人がどんどん減るから‥‥。
- 糸井
- そうですね。
- 田中
- 前は大きな会社の社員で、仕事が終わった後の夜中に書いてましたけれど、いまはフリーになって、書いても生活の足しにはならない。じゃあ、どうするんだ? っていう段階に入っています。
- 糸井
- ‥‥なんか、27歳の人と話してますね、これは。
- 田中
- 若者の悩み相談(笑)。
- 糸井
- 「独立するって、誰かに相談したの、それは? 奥さんはなんて言ってるの?」みたいな。
- 田中
- ほんとうに(笑)。
- 糸井
- いやあ、愉快だわ。
(つづきます。)