- 糸井
-
田中さんにとってのブルーハーツに当たるのが
僕には、釣りだったんですよ。
- 田中
- 釣り。
- 糸井
-
釣りって誰もが平等に争いごとをするんですよ。
その中で勝ったり負けたりする。血が沸くんですよね。
- 田中
-
この間はおかしかったです。
「始めた頃は、ちょっと水たまりを見ても、
魚がいるんじゃないか」っておっしゃっていて(笑)。
- 糸井
-
そうなんです。
だから、釣りを始めた頃は、
東京湾に、シーバスって呼ばれているスズキとかが
いるんだってことがわかっただけでもうれしいわけですよ。
さらには、開高健さんが
「ニューヨークにはニジマスが」「ハドソン川には」
と書いた記事を読んだ時に、
やっぱり、「おぉっ!」って思うわけですね。
同じように、レインボーブリッジの下に行って、
身をかがめながら埠頭に出て、ルアーを投げると、
シーバスが釣れる可能性がある。
それで、本当に初めて行った真冬の日に、
大きい魚がルアーを追いかけてきたのに、逃げたんですよ。

- 糸井
-
でね、うちのカミさんは、当時
俺が釣りに出掛ける時に「ご苦労様」とか
ちょっとなめたことを言ってたんですよ。
だけどね、帰って来たらバスタブに水が張ってあったんですよ。
つまり、生きた魚を釣って帰ってきた時に
そこに入れようと思ったんだね。だから、
- 田中
- すごい!
- 糸井
- すごいでしょう?
- 田中
- すごい!
- 糸井
-
その、馬鹿にし方と、実際にこう水を貯めるという
アンバランスさっていうのが僕の家であったんですよ。
その時に「明らかに魚が追いかけてきた」って思ったことと、
「釣ってきた時にはここで見よう」って思っていたという
その喜びじゃなくて「見たい」っていう気持ちがあったわけで。
それはもう夢そのものじゃないですか。
その夢が僕の中にウワァーッと湧くわけですよ。

- 田中
- はぁー。
- 糸井
-
普段見えていない生き物が竿の先に付いたラインの向こうで
ルアーをひったくりやがるわけです。ものすごい荒々しさで。
その実感が僕をワイルドにしちゃった。
その後、プロ野球のキャンプに行ったりすると、
それはそれで僕をワイルドにするものなんですけど、
キャンプ地の近くの
青島グランドホテルに向かうまでの道のりに
何回も水が見えて、
野球を観に行くはずなのに、水を見てるんです。
- 田中
- 水を見てる(笑)。
- 糸井
-
折りたたみできる竿を、
野球のキャンプの見物に行くのに持っているんです。
- 田中
- 持ってるんですね(笑)。
- 糸井
-
で、正月は正月で、家族旅行で温泉旅行かなんか行った時に、
まったく根拠なく、何か釣れないかと
海水浴やるようなビーチで、一生懸命投げてる。
それを妻と子どもが見てるんだ。
- 田中
- (笑)なんか釣れましたか、その時は?
- 糸井
-
まったく釣れません。根拠のない釣りですから。
でも、根拠がなくても水があるんですよ。
いいでしょう?
でね、僕にとってのインターネットって水なんですよ。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
もう今初めて説明できたわ。
根拠はなくても水があるんです。
- 田中
- 根拠はなくても水がある。
- 糸井
-
水があれば、水たまりでも魚はいるんですね。
で、それが自分に火を点けたところがある。
だから、僕の「ブルーハーツ」は、水と魚です(笑)。
- 田中
- 水と魚、はぁー。
- 糸井
-
おもしろいんですよ。
その朝1人で誰もいない所で釣りをしてると、
初めて釣れる1匹っていうのが、朝日が明ける頃の
ただの静けさの田んぼの間の水路みたいな川で、
泥棒に遭ったかのようにルアーに食いついてきて、
ひったくられるんですよ。
で、「俺の大事な荷物が今盗まれた!」
っていう瞬間みたいに、パーッと引かれるんですよ。
その喜びがね、なんだろう。
俺を変えたんじゃないですかね。
- 田中
-
なるほど。
いや、その話が、まさかインターネットにつながるとは。
でも、言われてみたら、きっとそういうことですよね。
- 糸井
-
広告を辞めるとかっていう、
「ここから逃げ出したいな」っていう気持ちと同時に、
「水さえあれば、魚がいる」っていうような、
その期待する気持ちに、肉体が釣りでつなげたんでしょうね。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
- うわぁ、素敵なお話ですね。
- 田中
- いや、本当に(笑)。はぁー。

- 糸井
-
でも、大勢の人たちに、
わかってもらえるかどうかはむずかしいねぇ。
- 田中
-
その、今僕が思ったのは、
やっぱり肉体の重要性、すごい大事だなと思いまして。
だから、体を動かそうと思ってきました。
- 糸井
-
あぁ。そうでしょう。
釣りで、チャンピオンの話だとかが聞くんですけど。
すごい釣りのうまい人に、その人に向かって、
「坊主っていうのはないですか?
1匹も釣れなかった経験っていうのはないんですか?」って
僕が聞くわけですね。
もう坊主から逃げ出したいわけですから、僕は。
- 田中
- うんうんうん。
- 糸井
-
むやみに水に向かって投げているだけですから。
その時に、プロの方が言ったのは、
「基本的に坊主ってないんじゃないでしょうか」。
「釣りがある程度わかっていれば、
基本的に坊主っていうのはないんじゃないでしょうか」
って他人事にように言ったんですよ。
うれしいじゃないですかぁ。
「えぇ?そんな魔法は、魔法じゃなくて科学だったんですか」
っていうお話になるわけだから。
で、インターネットでもそう思いますよね。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
というのを積み上げていって、今に至るわけで。
もしかしたら泰延さんは、それがバンドを組むことなのかも。
- 田中
-
バンドを組む(笑)
今朝、燃え殻さんが、「バンドやろうぜ」って言ったんですよ。
- 糸井
- 浅生鴨はベースを買ったんです。
- 田中
- ベースを(笑)、やりはじめたって(笑)、ヤバい。
- 糸井
- きっとベースが足りなくなるだろうって、初めから思ったって。
- 田中
- (笑)やりたがる人いないから。
- 糸井
- そう。
- 田中
- いやぁ(笑)。
- 糸井
-
「これからどうなる?」なんてこと、
ここじゃ、まったく聞かないですけど。
- 田中
- ええ。
- 糸井
-
聞かないんですけど、さっきの釣りのこう、
「当たり」みたいなおもしろさのところのは
たどり着いてみたいですねぇ。
- 田中
- そうですね。今日はいい話、非常に聞きましたよ、本当に。
- 糸井
-
おもしろいんですよ。その魚がね、
生存をかけてひったくるわけじゃないですか。
- 田中
- はい。
- 糸井
- 俺の罠を。あれはすごいですよ。
- 田中
-
さっきのね、「ご近所」の話もそうですし、
釣りの話もそうですけど、糸井重里さんにお会いして、
身体性の話に行くと思ってなかったから、
今日、もうそれがもうすごい、
何か僕のこれからやっぱり変わってくると思います。
- 糸井
-
「どうするんですか」話は
公な所じゃなくて、もっといびれるような所で。
- 田中
- いじめてください、もう。

- 糸井
- では、お疲れ様でした。どうもありがとうございます。
- 田中
- ありがとうございました。
(これにて、対談は終了です。ありがとうございました。)