もくじ
第1回ずっと、書かない人でした。 2017-03-28-Tue
第2回2,3行が、7000字に。 2017-03-28-Tue
第3回読み手として、書く。 2017-03-28-Tue
第4回二人のブルーハーツ 2017-03-28-Tue
第5回釣りとインターネット 2017-03-28-Tue

座っているときは小さく見えるそうですが、実際は身長189㎝。
立ち上がると驚かれます。
北海道という広大な土地で、のびのび育ちました。

二人のブルーハーツ</br>田中泰延×糸井重里

二人のブルーハーツ
田中泰延×糸井重里

担当・那須野達也

第5回 釣りとインターネット

糸井
田中さんにとってのブルーハーツに当たるのが
僕には、釣りだったんですよ。
田中
釣り。
糸井
釣りって誰もが平等に争いごとをするんですよ。
その中で勝ったり負けたりする。血が沸くんですよね。
田中
この間はおかしかったです。
「始めた頃は、ちょっと水たまりを見ても、
魚がいるんじゃないか」っておっしゃっていて(笑)。
糸井
そうなんです。
だから、釣りを始めた頃は、
東京湾に、シーバスって呼ばれているスズキとかが
いるんだってことがわかっただけでもうれしいわけですよ。
さらには、開高健さんが
「ニューヨークにはニジマスが」「ハドソン川には」
と書いた記事を読んだ時に、
やっぱり、「おぉっ!」って思うわけですね。
同じように、レインボーブリッジの下に行って、
身をかがめながら埠頭に出て、ルアーを投げると、
シーバスが釣れる可能性がある。
それで、本当に初めて行った真冬の日に、
大きい魚がルアーを追いかけてきたのに、逃げたんですよ。

糸井
でね、うちのカミさんは、当時
俺が釣りに出掛ける時に「ご苦労様」とか
ちょっとなめたことを言ってたんですよ。
だけどね、帰って来たらバスタブに水が張ってあったんですよ。
つまり、生きた魚を釣って帰ってきた時に
そこに入れようと思ったんだね。だから、
田中
すごい!
糸井
すごいでしょう?
田中
すごい!
糸井
その、馬鹿にし方と、実際にこう水を貯めるという
アンバランスさっていうのが僕の家であったんですよ。
その時に「明らかに魚が追いかけてきた」って思ったことと、
「釣ってきた時にはここで見よう」って思っていたという
その喜びじゃなくて「見たい」っていう気持ちがあったわけで。
それはもう夢そのものじゃないですか。
その夢が僕の中にウワァーッと湧くわけですよ。

田中
はぁー。
糸井
普段見えていない生き物が竿の先に付いたラインの向こうで
ルアーをひったくりやがるわけです。ものすごい荒々しさで。
その実感が僕をワイルドにしちゃった。
その後、プロ野球のキャンプに行ったりすると、
それはそれで僕をワイルドにするものなんですけど、
キャンプ地の近くの
青島グランドホテルに向かうまでの道のりに
何回も水が見えて、
野球を観に行くはずなのに、水を見てるんです。
田中
水を見てる(笑)。
糸井
折りたたみできる竿を、
野球のキャンプの見物に行くのに持っているんです。
田中
持ってるんですね(笑)。
糸井
で、正月は正月で、家族旅行で温泉旅行かなんか行った時に、
まったく根拠なく、何か釣れないかと
海水浴やるようなビーチで、一生懸命投げてる。
それを妻と子どもが見てるんだ。
田中
(笑)なんか釣れましたか、その時は?
糸井
まったく釣れません。根拠のない釣りですから。
でも、根拠がなくても水があるんですよ。
いいでしょう?
でね、僕にとってのインターネットって水なんですよ。
田中
なるほど。
糸井
もう今初めて説明できたわ。
根拠はなくても水があるんです。
田中
根拠はなくても水がある。
糸井
水があれば、水たまりでも魚はいるんですね。
で、それが自分に火を点けたところがある。
だから、僕の「ブルーハーツ」は、水と魚です(笑)。
田中
水と魚、はぁー。
糸井
おもしろいんですよ。
その朝1人で誰もいない所で釣りをしてると、
初めて釣れる1匹っていうのが、朝日が明ける頃の
ただの静けさの田んぼの間の水路みたいな川で、
泥棒に遭ったかのようにルアーに食いついてきて、
ひったくられるんですよ。
で、「俺の大事な荷物が今盗まれた!」
っていう瞬間みたいに、パーッと引かれるんですよ。
その喜びがね、なんだろう。
俺を変えたんじゃないですかね。
田中
なるほど。
いや、その話が、まさかインターネットにつながるとは。
でも、言われてみたら、きっとそういうことですよね。
糸井
広告を辞めるとかっていう、
「ここから逃げ出したいな」っていう気持ちと同時に、
「水さえあれば、魚がいる」っていうような、
その期待する気持ちに、肉体が釣りでつなげたんでしょうね。
田中
なるほど。
糸井
うわぁ、素敵なお話ですね。
田中
いや、本当に(笑)。はぁー。

糸井
でも、大勢の人たちに、
わかってもらえるかどうかはむずかしいねぇ。
田中
その、今僕が思ったのは、
やっぱり肉体の重要性、すごい大事だなと思いまして。
だから、体を動かそうと思ってきました。
糸井
あぁ。そうでしょう。
釣りで、チャンピオンの話だとかが聞くんですけど。
すごい釣りのうまい人に、その人に向かって、
「坊主っていうのはないですか?
1匹も釣れなかった経験っていうのはないんですか?」って
僕が聞くわけですね。
もう坊主から逃げ出したいわけですから、僕は。
田中
うんうんうん。
糸井
むやみに水に向かって投げているだけですから。
その時に、プロの方が言ったのは、
「基本的に坊主ってないんじゃないでしょうか」。
「釣りがある程度わかっていれば、
基本的に坊主っていうのはないんじゃないでしょうか」
って他人事にように言ったんですよ。
うれしいじゃないですかぁ。
「えぇ?そんな魔法は、魔法じゃなくて科学だったんですか」
っていうお話になるわけだから。
で、インターネットでもそう思いますよね。
田中
なるほど。
糸井
というのを積み上げていって、今に至るわけで。
もしかしたら泰延さんは、それがバンドを組むことなのかも。
田中
バンドを組む(笑)
今朝、燃え殻さんが、「バンドやろうぜ」って言ったんですよ。
糸井
浅生鴨はベースを買ったんです。
田中
ベースを(笑)、やりはじめたって(笑)、ヤバい。
糸井
きっとベースが足りなくなるだろうって、初めから思ったって。
田中
(笑)やりたがる人いないから。
糸井
そう。
田中
いやぁ(笑)。
糸井
「これからどうなる?」なんてこと、
ここじゃ、まったく聞かないですけど。
田中
ええ。
糸井
聞かないんですけど、さっきの釣りのこう、
「当たり」みたいなおもしろさのところのは
たどり着いてみたいですねぇ。
田中
そうですね。今日はいい話、非常に聞きましたよ、本当に。
糸井
おもしろいんですよ。その魚がね、
生存をかけてひったくるわけじゃないですか。
田中
はい。
糸井
俺の罠を。あれはすごいですよ。
田中
さっきのね、「ご近所」の話もそうですし、
釣りの話もそうですけど、糸井重里さんにお会いして、
身体性の話に行くと思ってなかったから、
今日、もうそれがもうすごい、
何か僕のこれからやっぱり変わってくると思います。
糸井
「どうするんですか」話は
公な所じゃなくて、もっといびれるような所で。
田中
いじめてください、もう。

糸井
では、お疲れ様でした。どうもありがとうございます。
田中
ありがとうございました。

(これにて、対談は終了です。ありがとうございました。)