- 田中
-
2015年の3月。
西島さんが突然大阪を訪ねて来られて、
僕の所に「明日会いましょう」と連絡してきたんです。
待ち合わせ場所が大阪のヒルトンホテルで、
すごいいい和食が用意してありました。
料金表見たら、1人前6,000円くらいの「いろは」。
「うわぁ、高い!食べていいのかな」と思ったんですけど、
まぁ、食べたんですね。
そうしたら、西島さんが「食べましたね。食べましたね、今。
つきましてはお願いがあります」と。
西島さんは、糸井さんが見られたのと同じ、
東京コピーライターズクラブのリレーコラムと、
ツイッターで時々つぶやいていた
「昨日見た映画、ここがおもしろかった」
って2,3行書いていたのを見て、
「うちで連載してください」と言ってきたんです。
- 糸井
- はい。
- 田中
-
それで「文量はどれくらいでいいですか?」って言ったら、
「ツイッターで2、3行で映画評をしていることもあるので、
2、3行でいいです」と。
- 田中
-
「いいの?2、3行で?」
「映画観て、2、3行書けば、なんか仕事的な?」
と言ったら、「そうです」って言ったので、映画を観て。
次の週にとりあえず7,000字書いて送りました。

- 糸井
- 2、3行が(笑)。
- 田中
- 2、3行のはずが7,000字になってたんですよね。
- 糸井
- 7,000字、多いですよね。
- 田中
- 多いですね(笑)。
- 糸井
- 書き始めたら7000字なっちゃったんですか?
- 田中
- なっちゃったんです。
- 糸井
- 最初はなんの映画はだったんですか?
- 田中
-
『フォックスキャッチャー』っていう、映画です。
オリンピックのコーチが、オリンピック選手を
自分の所で育てるという話。
そのコーチと選手が男性間の愛憎の乱れみたいになってしまうっていう
実話をもとにした映画です。
アカデミー賞候補にもなっていて、それを観て、
2、3行書こうかなと思っていたんですけど。
気がついたら無駄話が止まらないという経験をしたんですよね。
キーボードに向かっていて、
「俺は何をやっているんだ、眠いのに」っていう。
- 糸井
- うれしさ?
- 田中
-
なんでしょう?
「これを明日ネットで流せば、絶対笑うやつがいるだろう」
と想像すると、取り付かれたようになりました。
- 糸井
- ある種のこう、大道芸人の喜びみたいな感じですねぇ。
- 田中
- あぁ、そうですね。
- 糸井
-
もし雑誌のメディアとかだったら、
打ち合わせがどうだとかなんとかで、
そんな急に7,000字って、ないですよね。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
頼んだほうも頼んだほうだし、
メディアもインターネットだったし。
そこの幸運はすごいねぇ。
- 田中
-
その後、雑誌に頼まれて寄稿というのもあったんですけど、
雑誌は、やっぱり反響がない。
つまり、印刷されてから、それに対して僕に直接、
「おもしろかった」とか、「読んだよ」とかないので、
いくら印刷されて本屋に置いてあっても、
なんかピンと来ないんですよね。
- 糸井
-
はぁ、インターネットネイティブの発想ですね。
若くないのに、そんな発想を。
- 田中
- 45歳にして(笑)。
- 糸井
-
いや、でもその「反応がないな」とかは、
25歳の人とかが感じていることですよね。
- 田中
- そうですね。
- 糸井
-
おもしろい。
すごいことですね。
だって、酸いも甘いも、40いくつだから、
一応知らないわけじゃないのに。
- 田中
-
すごくシャイな少年みたいに、
ネットの世界に入った感じですね。
- 糸井
-
ねぇ。
コピーライターズクラブの
ちょっとした文章って、あれは何回書いていますかね。
- 田中
- 2015年と2016年に、合わせて10回書いていますね。
- 糸井
- あぁ、それしか出せるところがなかったわけだ。
- 田中
- はい。あれだけが、はけ口だったんですけど(笑)
- 糸井
- コラムを書くのは、全然嫌じゃなかったんですか?
- 田中
-
「なんか自由に文字書いて、必ず明日には誰かが見るんだ」
と思うと、うれしくなったんですよね。
- 糸井
-
新鮮ですねぇ。
それはうれしいなぁ。

- 田中
-
糸井さんはそれを18年
ずっと毎日やってらっしゃるわけでしょう?
休まずに。
- 糸井
-
うーん‥‥。
でも、まぁお互いにやっているから言えることだけど、
たとえば、松本人志さんがずっとお笑いを
やっているのと同じことだから、「大変ですね」って言われても、
「いや、うん、大変?みんな大変なんじゃない?」って(笑)。
- 田中
- 「みんな大変だろう」って(笑)。
- 糸井
-
野球選手は野球をやってるし。
あえて言えば、休まないって決めたことだけがコツですね。
あとは、なんでもないことですよね。仕事だからね。
おにぎり屋さんはおにぎり握ってるしね。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
- たぶん田中さんは今そうだと思うんですよね。
- 田中
-
大してね、食えないんですよ。これが。
でも、これからの時代、コンテンツとか、文章っていうものを
お金を出して読もうという人がどんどん減るから。
だから、何を書いても儲からないし、
現に儲かっていないし、生活の足しにはならないし。
前は大きい会社の社員で、
夜中に仕事終わった後に書いていましたけど、
今はそれを書いても生活の足しにならないから、
じゃあ、どうするんだ?っていうフェイズには入っています。
- 糸井
- 27歳の人と、今話していますね。(笑)
- 田中
- そうですね。
- 糸井
- 「誰かに相談したの、それは(笑)」?
- 田中
- (笑)すごい、悩み相談、若者の(笑)。
- 糸井
-
27歳の子が独立したということで、
「それは誰かに相談したの?奥さんはなんて言ってるの?」
- 田中
- そんな感じですね(笑)。
- 糸井
- 愉快だわ(笑)。

- 田中
-
ただ、僕の中では相変わらず、
何かを書いたらお金ではなく「おもしろい」とか、
「全部読んだよ」とか、「この結論は納得した」とかっていう
その声が報酬になってますね。
家族はたまったもんじゃないでしょうけど。
- 糸井
-
なるほど。
自分が、文字を書く人だとか、
考えたことを文字に直す人だ
っていう認識そのものがなかった時代が
20年以上あるっていうのは不思議ですよね。
「嫌いだ」とか「好きだ」とかは思ってなかったんですか?
- 田中
- 読むのが好きで。
- 糸井
- あぁ。
(つづきます)