もくじ
第1回ずっと、書かない人でした。 2017-03-28-Tue
第2回2,3行が、7000字に。 2017-03-28-Tue
第3回読み手として、書く。 2017-03-28-Tue
第4回二人のブルーハーツ 2017-03-28-Tue
第5回釣りとインターネット 2017-03-28-Tue

座っているときは小さく見えるそうですが、実際は身長189㎝。
立ち上がると驚かれます。
北海道という広大な土地で、のびのび育ちました。

二人のブルーハーツ</br>田中泰延×糸井重里

二人のブルーハーツ
田中泰延×糸井重里

担当・那須野達也

第2回 2,3行が、7000字に。

田中
2015年の3月。
西島さんが突然大阪を訪ねて来られて、
僕の所に「明日会いましょう」と連絡してきたんです。
待ち合わせ場所が大阪のヒルトンホテルで、
すごいいい和食が用意してありました。
料金表見たら、1人前6,000円くらいの「いろは」。
「うわぁ、高い!食べていいのかな」と思ったんですけど、
まぁ、食べたんですね。
そうしたら、西島さんが「食べましたね。食べましたね、今。
つきましてはお願いがあります」と。
西島さんは、糸井さんが見られたのと同じ、
東京コピーライターズクラブのリレーコラムと、
ツイッターで時々つぶやいていた
「昨日見た映画、ここがおもしろかった」
って2,3行書いていたのを見て、
「うちで連載してください」と言ってきたんです。
糸井
はい。
田中
それで「文量はどれくらいでいいですか?」って言ったら、
「ツイッターで2、3行で映画評をしていることもあるので、
2、3行でいいです」と。
田中
「いいの?2、3行で?」
「映画観て、2、3行書けば、なんか仕事的な?」
と言ったら、「そうです」って言ったので、映画を観て。
次の週にとりあえず7,000字書いて送りました。

糸井
2、3行が(笑)。
田中
2、3行のはずが7,000字になってたんですよね。
糸井
7,000字、多いですよね。
田中
多いですね(笑)。
糸井
書き始めたら7000字なっちゃったんですか?
田中
なっちゃったんです。
糸井
最初はなんの映画はだったんですか?
田中
『フォックスキャッチャー』っていう、映画です。
オリンピックのコーチが、オリンピック選手を
自分の所で育てるという話。
そのコーチと選手が男性間の愛憎の乱れみたいになってしまうっていう
実話をもとにした映画です。
アカデミー賞候補にもなっていて、それを観て、
2、3行書こうかなと思っていたんですけど。
気がついたら無駄話が止まらないという経験をしたんですよね。
キーボードに向かっていて、
「俺は何をやっているんだ、眠いのに」っていう。
糸井
うれしさ?
田中
なんでしょう?
「これを明日ネットで流せば、絶対笑うやつがいるだろう」
と想像すると、取り付かれたようになりました。
糸井
ある種のこう、大道芸人の喜びみたいな感じですねぇ。
田中
あぁ、そうですね。
糸井
もし雑誌のメディアとかだったら、
打ち合わせがどうだとかなんとかで、
そんな急に7,000字って、ないですよね。
田中
はい。
糸井
頼んだほうも頼んだほうだし、
メディアもインターネットだったし。
そこの幸運はすごいねぇ。
田中
その後、雑誌に頼まれて寄稿というのもあったんですけど、
雑誌は、やっぱり反響がない。
つまり、印刷されてから、それに対して僕に直接、
「おもしろかった」とか、「読んだよ」とかないので、
いくら印刷されて本屋に置いてあっても、
なんかピンと来ないんですよね。
糸井
はぁ、インターネットネイティブの発想ですね。
若くないのに、そんな発想を。
田中
45歳にして(笑)。
糸井
いや、でもその「反応がないな」とかは、
25歳の人とかが感じていることですよね。
田中
そうですね。
糸井
おもしろい。
すごいことですね。
だって、酸いも甘いも、40いくつだから、
一応知らないわけじゃないのに。
田中
すごくシャイな少年みたいに、
ネットの世界に入った感じですね。
糸井
ねぇ。
コピーライターズクラブの
ちょっとした文章って、あれは何回書いていますかね。
田中
2015年と2016年に、合わせて10回書いていますね。
糸井
あぁ、それしか出せるところがなかったわけだ。
田中
はい。あれだけが、はけ口だったんですけど(笑)
糸井
コラムを書くのは、全然嫌じゃなかったんですか?
田中
「なんか自由に文字書いて、必ず明日には誰かが見るんだ」
と思うと、うれしくなったんですよね。
糸井
新鮮ですねぇ。
それはうれしいなぁ。

田中
糸井さんはそれを18年
ずっと毎日やってらっしゃるわけでしょう?
休まずに。
糸井
うーん‥‥。
でも、まぁお互いにやっているから言えることだけど、
たとえば、松本人志さんがずっとお笑いを
やっているのと同じことだから、「大変ですね」って言われても、
「いや、うん、大変?みんな大変なんじゃない?」って(笑)。
田中
「みんな大変だろう」って(笑)。
糸井
野球選手は野球をやってるし。
あえて言えば、休まないって決めたことだけがコツですね。
あとは、なんでもないことですよね。仕事だからね。
おにぎり屋さんはおにぎり握ってるしね。
田中
なるほど。
糸井
たぶん田中さんは今そうだと思うんですよね。
田中
大してね、食えないんですよ。これが。
でも、これからの時代、コンテンツとか、文章っていうものを
お金を出して読もうという人がどんどん減るから。
だから、何を書いても儲からないし、
現に儲かっていないし、生活の足しにはならないし。
前は大きい会社の社員で、
夜中に仕事終わった後に書いていましたけど、
今はそれを書いても生活の足しにならないから、
じゃあ、どうするんだ?っていうフェイズには入っています。
糸井
27歳の人と、今話していますね。(笑)
田中
そうですね。
糸井
「誰かに相談したの、それは(笑)」?
田中
(笑)すごい、悩み相談、若者の(笑)。
糸井
27歳の子が独立したということで、
「それは誰かに相談したの?奥さんはなんて言ってるの?」
田中
そんな感じですね(笑)。
糸井
愉快だわ(笑)。

田中
ただ、僕の中では相変わらず、
何かを書いたらお金ではなく「おもしろい」とか、
「全部読んだよ」とか、「この結論は納得した」とかっていう
その声が報酬になってますね。
家族はたまったもんじゃないでしょうけど。
糸井
なるほど。
自分が、文字を書く人だとか、
考えたことを文字に直す人だ
っていう認識そのものがなかった時代が
20年以上あるっていうのは不思議ですよね。
「嫌いだ」とか「好きだ」とかは思ってなかったんですか?
田中
読むのが好きで。
糸井
あぁ。

(つづきます)

第3回 読み手として、書く。