- 田中
-
今まで「ひたすら読んでました」っていうのは
あったんですけど、
自分がまさかダラダラと何かを書くとは
夢にも思わなかったです。
- 糸井
-
今の言い方をどういうふうに、
自分が感じているんだろうっていうのを
頭の中で考えていたんですけど、田中さんは、
読み手として書いているタイプの人ですよね。
そういう表現を初めてしたのでわかんないけど、
自分にもちょっとそういうところがあって。
コピーライターって、書いてる人っていうより、
読んでる人として書いてる気がするんですよ。
- 田中
- はい、すごくわかります。
- 糸井
-
だから、うーん‥‥。
視線は読者に向かっているんじゃなくて、
自分が読者で、
自分が書いてくれるのを待っているみたいな。
- 田中
-
おっしゃるとおり。
いや、それすごく、すっごくわかります。
- 糸井
- 今初めて、それを言葉にできました(笑)。

- 田中
- すごい。
- 糸井
-
これ、お互い初めて言い合った話だね。
でも、説明するのは、むずかしいですね。
- 田中
-
むずかしいですね。
発信してるんじゃないんですよね。
- 糸井
- 受信してるんです。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
だけど、自分に言うことがない人間は書かない
って思っていたら大間違いで。
- 田中
- そうなんです。
- 糸井
-
読み手というか、
「受け手であるっていうことを、
思い切り伸び伸びと自由にこう、味わいたい!」
って思っていて、
「それを誰がやってくれるのかな」「俺だよ」っていう。
- 田中
- そうなんです。
- 糸井
- あぁ、なんて言っていいんだろう、これ。
- 田中
- なんでしょう。
- 糸井
- 今の言い方しかできないなぁ。
- 田中
-
そうですね。映画を観ても、
いろんな人がネットでも雑誌でも
評論をするじゃないですか。
そしたら「何でこの中にこの見方はないのか?」と思って。
それを探して見つかれば、
もう自分は書かなくていいんですけど、
「この見方なんでないの?じゃあ、今夜俺書くの?」
っていうことになるんですよね。
- 糸井
- それ、広告屋だったからですね。
- 田中
- そうですね。広告屋は、発信しないですもんね。
- 糸井
- しない。でも、受け手としては感性が絶対にあるわけで、
- 田中
- はい。
- 糸井
-
俺の受け取り方っていうのは、
発信しなくても個性なんですよね。
そこでピタッと来るものを探してたら、
人がなかなか書いてくれないから、
「え、俺がやるの?」っていう。
それが仕事になってたんですよね。
- 田中
- そうですね。
- 糸井
-
自分がやってることも今わかったわ。
僕ね、嫌いなんですよ、ものを書くのが。
前からそう言ってますけど(笑)。
- 田中
-
僕もすごく嫌(笑)。
古賀さんもすごく嫌って言っていたけど、
みんな嫌なんですよ、本当に。
- 糸井
-
たぶん僕もそうですし、田中さんも、
「お前って、じゃあ何も考えもないのかよ」
っていうふうに誰かに突きつけられたら、
「そんな人間いないでしょう」っていう一言ですよね。
何かを感じていて、どう表現しようかって
探しているから、日々生きてるわけでね。
- 田中
-
そうですね。
あの糸井さん、ご存じかどうかわからないけれども、
糸井重里botっていう、
糸井さんの言葉を再読するbotではなく、
糸井さんのように物事に感心するbotがあるんですよ。
だから、いろんなことに関して、
「いいなぁ、僕はこれいいと思うなぁ」とつぶやく(笑)
つまり、糸井さんの物事に感心する口調だけを
繰り返しているbotがあるんですよ(笑)。
「僕はこれは好きだなぁ」とか。
- 糸井
- そればっかりですよ、僕は。
- 田中
-
ですよね。
だから、そのbotはすごくよくできていて。
何に関しても、「僕はそれいいと思うなぁ」とつぶやく。
「好きだなぁ」とか。
でも、その時に何か世の中に対して、
たとえば「この水、このボトル、僕好きだなぁ」というのを
ちょっとだけ伝えたいじゃないですか。
相手に「僕はこれを心地よく思ってます」と。
- 糸井
-
そうですね。
他のボトルを見た時には思わなかったんですよ。
だけど、そのボトルを見た時に思ったから、これを選んだ。
これもまた、選んでいる側ですよね。
- 田中
- そうですね。
- 糸井
-
受け手の日々です。
そして、なんでいいかは、
僕は自分に宿題にしているんですよ。
「いずれわかったら、またその話をします」と。
これはね、雑誌の連載ではできないんですよ。
インターネットだから、
いずれわかった時にわかったように書けるんですよね。
- 田中
-
その日はとりあえず「これがいいなぁ」ってことは
伝えることができますよね。
- 糸井
- そうです、そうです。
- 田中
-
それは、あとで、
「ツラツラ考えたんだけど、前もちょっと話したけど、
何がいいかわかった」
って話ができることなんですよね。
- 糸井
-
そうです。だから、やりかけなんですよね、全部がね。
田中さんがやっているのも
だいたいパターンはそれですよね。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
おそらくこのことを、僕はずっと言いたかったんですよ。
それで、なんだろう。
自分がやっていることの癖だとか形式だとかっていうのが、
まぁ飽きるっていうのもあるし、
なかなかいいから応用しようっていうのもあるし、
ずっと探しているんだと思うんですね。

- 糸井
-
田中さんは、コピーライターとして
働いてきた年月が20何年分あり、
今、自分が名前で出していくっていう立場になって、
変わりますよね、結構。
- 田中
-
そうなんです。それがむずかしいところで。
今、青年として、「青年失業家」として岐路に立っているのは、
やっぱり会社でコピーライターをやっていて、
そのついでに何かを書いている人ではなくなりつつあるので、
じゃあ、どうしたらいいのかってことになっているんです。
- 糸井
-
2つ方向があって、
書いたりすることで食っていけるようにする
というのが、いわゆるプロの発想。
もう一つは、書いたりすることが、
食うことと関わりなく自由であることで書けるから、
そっちを目指すっていう方向。
2種類に分かれますよね。
- 田中
- そうですね。
- 糸井
-
僕もきっとそれについて
ずっと考えてきたんだと思うんですね。
で、僕はアマチュアなんですよ。
つまり、書いて食おうと思った時に、
僕は自分がいる立場が、つまんなくなるような気がして。
いつまで経っても旦那芸でありたいっていうか、
「お前、ずるいよ、それは」っていう場所に自分がいないと、
良い読み手の書き手にはなれないって思ったんで、
僕はそっちを選んだんですね。
田中さんはまだ答えはないですよね。
- 田中
- そうなんです。
- 糸井
- どうなるんだろうねぇ。
(つづきます)