- 糸井
-
たぶん今、泰延さんは、
生きていく手段として問われていることが山ほどあり、
- 田中
- はい
- 糸井
-
「何やって食っていくんですか?」、
「何やって自分の気持ちを維持するんですか?」と言われる。
面倒くさい時期ですよね。
- 田中
-
そうですね。
今まで担保されていたものがなくなったので、
みんなが質問するし、僕もまぁ時々、
どうやって生きていこう?ってこと考えるし。

- 田中
-
それで、今日僕がお伺いしたかったのが、
糸井さんが、40代の時に、
広告の仕事を一段落つけようと思った時のことなんです。
- 糸井
- はい。
- 田中
-
糸井さんと初めて京都でお会いした時に、
タクシーの中で最初に聞いたことがそれでした。
「ほぼ日という組織をつくられて、
その会社を回して、大きくしていって、
その中で好きなものを毎日書くっていう
状態にすごく興味があります」って言ったら、
糸井さんが「そこですか」っておっしゃったんですよ。
それが忘れられない。
- 糸井
-
辞めると思っていないからね。
電通の人だと思ってるから。
「そこですか」って思いますよ。
「あれ?この人、電通の人なのにそんなこと興味あるのか」
「えぇーっ」と思いましたね。
- 田中
-
その時、僕も辞めるとはまったく思っていなかったですしね。
この間、燃え殻さん、永田さん、古賀さんと
みんなで雑談したじゃないですか。
あれ、9月?
- 糸井
- 9月。
- 田中
- あの時点でも、まったく辞めると思ってなかったですから。
- 糸井
- 素晴らしいね。
- 田中
-
辞めようと思ったのが、11月の末ですね。
辞めたのが12月31日なんで、1ヶ月しかなかったです。
こうやって話すとよく
「11月末に何かあったんですか?」とか聞かれるのですが、
いや、なんか、これが本当にね‥‥
理由になってないような理由なんですけど、やっぱり、
- 糸井
- ブルーハーツ?
- 田中
-
ブルーハーツですね。
だから、まだこんなね、50手前にオッサンになっても、
おっしゃるように中身は20うん歳のつもりだから、
ブルーハーツを聞いた当時のことを思い出して、
「会社を出なくちゃいけないな」
ってなったんですよね。
- 糸井
-
どうしてもやりたくないことっていうのが世の中にはあって、
僕は、やりたくないことから、本当に逃げてきた人なんです。
逃げたというよりは捨ててきた。
だけど、人は、どうしてもやりたくないことの中に、
案外、人生費やしちゃうんですよ。

- 田中
- はい。
- 糸井
-
僕は、何かをやりたいというよりは、
やりたくないことをやりたくない気持ちの方が強い。
だから、しょうがなくマッチもライターもないから、
木切れをこすって火を起こしはじめたみたいなことが
自分のこれまでの人生の連続だったと思っているんです。
それで広告も、
どうしてもやりたくないことに似てきたんですよ。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
そう気がついたときには、「これ、まずいなぁ」と思い。
つまり「プライド」という言葉に似てるけど、違うんですよね。
どうしてもやりたくないことに近い。
で、うーん‥‥、無名の誰かであることはいいんだけど、
やっぱり過剰にないがしろにされる可能性みたいなものあって。
魂がないがしろにされるようなね。
そういうのは嫌ですよね。
- 田中
-
とはいえ、糸井さんのお仕事、
その、広告時代って言うとおかしいけれども、
広告のお仕事を見ていても、
「この商品について、この商品の良さを延々語りなさい」とか、
そんなリクエストに応えたことはないですよね。
- 糸井
-
うん。何なんだろう、
だから、やっぱりさっきの、
「受け手として僕にはこう見えた、これはいいぞ」
って思いつくまでは書けなかったんですよね。
だから、僕、結構金のかかるコピーライターだったんですね。
車の広告をつくるごとに、車を1台買ってましたからね。
- 田中
- あぁ。
- 糸井
-
だから、それはおまじないでもあるんだけど、
「いいぞ」って思えるまでがやっぱりちょっと大変で。
どこかでやっぱり受け手であることに
ものすごく誠実にやったつもりではいるんです。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
それで、広告の仕事を辞めるっていうのは、
「『あいつ、もうだめですよね』って言われながら、
なんで仕事をやらないといけないんだろう?」っていうふうに
たぶんなるんだろうなと思っていて。
「あいつもうだめですよね」って、
僕についてはみんなが言いたくてしょうがないわけですよ。
それを、何回も経験してきてるんで、
「プレゼンの勝率が落ちたら、もうだめだな」
というのは自分でも感じていました。
そんな時に、「ご注進、ご注進」みたいに、
「みんなが、『糸井さんは広告から逃げた』とか言ってますよ」
みたいなことを告げに来るうるさい人とかもいたりして。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
だから「はぁーっ」と思って、
もう広告の世界にいるのは「絶対嫌だ」と思って。
それで、田中さんにとってのブルーハーツに当たるのが
僕には、釣りだったんです。
(つづきます)