もくじ
第1回つまんないものです、の意味。 2017-03-28-Tue
第2回誰かに相談したの、それは? 2017-03-28-Tue
第3回グルッと回って人気者。 2017-03-28-Tue
第4回「寝る前にちょっと」の人たち。 2017-03-28-Tue
第5回根拠はなくても水があるんです。 2017-03-28-Tue

ここ3年ほど、毎日飽きずにバタートーストに魅了されています。日本に住んで3年、どうやらそのことに関係があるらしい。ロサンゼルスから来ました。よろしくお願いします。

今、話題はピークだよ。

今、話題はピークだよ。

第4回 「寝る前にちょっと」の人たち。

糸井
「ご近所の人気者」というフレーズは、
『じみへん』で中崎タツヤさんが
書いた言葉なんですよね。
それをうちのカミさんが
「俺だ」って言ったんですよ。
田中
中崎タツヤさんのスタンスは、
素晴らしいですね。
糸井
凄味がありますね。
ひとつ永遠に忘れまいとしたのが…。
(漫画に)主人公の男が出てきて、
お母さんがやってることが
すごく馬鹿に見えるんですね。
庶民の家ですから。
そのことにものすごく腹が立って、
馬鹿さ、くだらなさ、弱さ、下品さみたいな、
下世話なものに対して、
そこの生まれの主人公の青年が
「母さんは、何かものを考えたことあるの?」
と怒りのようにぶつけるんですよ。
自分の血筋に対する怒りですよね。
田中
はい、はい。
糸井
そうするとお母さんが、
「あるよ。寝る前にちょっと」
って言うんですよ。

田中
(笑)
糸井
涙が出るほどうれしかったです、それは。
これを言葉にした人って…。
田中
素晴らしい。
糸井
でしょう?
一生忘れられないと思った。
僕は「寝る前にちょっと」を探す人なんで(笑)。
「寝る前にちょっと」の人たちと一緒に
遊びたい人なんで(笑)。
田中
その時間ね、若干活発になってこられますね(笑)。
糸井
そう(笑)。
そう言いながら自分に対して、
「お前も幸せになれよ」というメッセージを
投げかけ続けるというのが、
僕にとって、僕の生き方しかないんですよ。
田中
わかります(笑)。
糸井
「みんなこうしろ」とも言えない。
今の泰延さんの青年、青年…
田中
「青年失業家」。
糸井
失業家(笑)。
それを、ランニングの人の
横にいる自転車の人みたいな…
田中
伴走してる。
糸井
気持ちで見るわけです。
「どう、なの?」みたいな(笑)。
田中
本当ですね。
「青年」と勝手に名乗ってますけど…。
 
会社を辞めた理由の1つに、
人生すごく速く感じてきたなと思って、
20代の頃と40代だったら、
倍以上日が暮れるのも早くなるし。
 
うちの祖母さんが死ぬ前に言った
忘れられない一言があって。
80いくつで死んだ、うちの祖母がね、
「あぁ、この間18やと思ったのに、もう80や」って(笑)。

一同
(笑)
糸井
素晴らしい。
田中
その一言で60何年のこの時間をピョーンって、
そりゃあ速いわなぁっていう。
糸井
あいたたたた(笑)。
それですよ。
それは翻って、
「ご近所の人気者」の話なんですよね。
田中
そうですね。
糸井
ご近所のエリアが、
地理的なご近所と、
気持ちのご近所と、
両方あるのが今なんでしょうね。
田中
ネットを介したり、
印刷物介したりするけれど、
「ご近所」というのは、
フィジカルであることが
すごく大事だと思ってて。
ちょっと顔見に行くとか、
ちょっと会いに行く。
糸井
大事ですね。
…アマチュアであることとね、
「ご近所感」ってね、
結構隣り合わせなんですよ。
田中
うんうんうん。
糸井
アマチュアだってことは、
変形してないってことなんですね。
プロは、変形してる。
田中
変形?
糸井
これは吉本さんの受け売りで、
吉本さんはマルクスの受け売りなんですけど、
「自然に人間は働きかける。
働きかけた分だけ自然は変わる」。
田中
はい。
糸井
「作用と反作用で、
変わった分だけ
自分が変わっている」と。
「仕事、つまり、何かするというのは
そういうことで。
相手が変わった分だけ
自分が変わっているんだよ」と。
 
わかりやすく言うと、
「ずっと座り仕事で
ろくろを回してる職人さんがいたとしたら、
座りだこができているし、
指の形も変わっているかもしれないし。
散々茶碗をつくってきた分だけ、
腰は曲がっている。
反作用を受けてるんだよ」と。
「1日だけろくろを回している人には
それはないんです」って。

田中
そうですよね(笑)。
糸井
プロになるというのは
「10年あったらできるよ」
というのが励みでもあるし、
同時に「それだけあなたは、
もう自由ではあり得ないんだよ」
ということでもあって、
だから「生まれた」、「めとった」、
「産んだ」、「死んだ」みたいな人から
離れてしまう悲しみの中にいる。
田中
そうですね。
糸井
僕と泰延さんの「超受け手でありたい」
という気持ちも、
すでにそうなんですよ。
その意味では、
もうアマチュアには戻れないだけ
歪んじゃってるわけです。
田中
はい。
糸井
その歪みをどう維持できているか
というところに、
「ご近所の人気者」っていうのが。
田中
なるほど(笑)。
糸井
「何でもない人として生まれて死んだ」
というのが、
人間として一番尊いのかという価値観が、
僕の中にはどんどん強固になっていきますね。
 
たぶん泰延さんは、
生きていく手段として問われていることが
今山ほどあって…
田中
はい。
糸井
「何やって食っていくんですか?」、
「何やって自分の気持ちを維持するんですか?」って、
面倒くさい時期ですよね。
田中
そうですね。
みんなが質問するし、僕も時々、
どうやって生きていこう?と考えるし…。
 
糸井さんが40代の時に、
広告の仕事を一段落つけようと思った時に、
やっぱりそういうことに直面されたと?
糸井
まさしくそうです。
大冒険です。
でも、平気だったんですよ。
その理由の1つは、
やっぱり僕よりアマチュアなカミさんが
いたことはでかいんじゃないかな。
「こういうことになるけど、いい?」と
聞いた覚えもないし、
後で「あれは聞くべきだったかな」
みたいなことを聞いたら、
「いや、別に」と。
自分が働くつもりではいたんじゃないですかね。
田中
なるほど。
糸井
でも「働かない」って言っても、
案外平気だったような気がする。
田中
あぁ、なるほど。
 
糸井さんと初めて京都でお会いした時に、
タクシーの中で最初に聞いたことが
それだったんですよね。
糸井
あぁ。
田中
「ほぼ日という組織をつくられて、
その会社を回して、大きくしていって、
その中で好きなものを毎日書くという、
この状態にすごい興味があります」と言ったら、
糸井さんが「そこですか」っておっしゃったんですよ。
それが忘れられなくて。
糸井
辞めると思ってないから。
田中
あぁ。
糸井
「あれ?この人、電通の人なのに、
そんなこと興味あるのか」って、
「へぇーっ」と思いましたね。
田中
その時、僕も辞めるとはまったく思ってなくて。
糸井
去年4月ですよね。
田中
はい。
辞めようと思ったのが、11月の末ですね。
で、辞めたのが12月31日なんで、
1ヶ月しかなかったです。

糸井
素晴らしいね(笑)。
乗組員N
11月末に何かあったんですか?
田中
いや、なんか、これが本当に。
糸井
(笑)
田中
ちょっと昨日たまたま書いたんですけど
理由になってないような理由なんですけど…。
糸井
ブルーハーツ?
田中
ブルーハーツですよ。
50手前のオッサンになっても、
中身は20ウン歳のつもりだから、
ブルーハーツを聞いた時のことを思い出して、
「これはもう、このように生きなくちゃいけないな」って。
かと言って「熱い俺のメッセージを聞け」とかないんですよ。
相変わらず、見て聞いて、
「これはね」ってしゃべるだけの人なんですけど、
「ここは出なくちゃいけないな」
ってなったんですよね。
糸井
どうしてもやりたくないことっていうのが
世の中にはあって、
で、どうしてもやりたくないことの中に、
案外、人は人生費やしちゃうんですよ。
田中
はい。
糸井
僕は「やりたい」というよりは、
「やりたくない」ほうの気持ちが強くて、
そこからしょうがなく、
マッチもライターもないから、
木切れをこうやって
火を起こしはじめたようなことの
連続だったんで、
広告も、やりたくないことに似てきたんですよ。
田中
はい。
糸井
「プライド」という言葉に似てるけど、
違うんですよね。
 
うーん…。
 
無名の誰かであることはいいんだけど、
やっぱり過剰にないがしろにされる可能性みたいな…
魂が。
田中
とはいえ、糸井さんの
広告のお仕事見てても、
「この商品の良さを延々語りなさい」とか、
そのリクエストに応えたことはないですよね。
糸井
やっぱり「受け手として僕にはこう見えた、
これはいいぞ」って
思いつくまでは書けないわけで、
だから僕、結構金のかかるコピーライターで、
車の広告するごとに1台買ってましたからね。
田中
あぁ。
糸井
「いいぞ」って思えるまでが
ちょっと大変というか。
どこかで「受け手」であることに
ものすごく誠実にやったつもりではいるんです。
田中
はい。
糸井
広告の仕事を辞めることについては、
「『あいつ、もうだめですよね』
と言われながらなんで仕事やって
いかなきゃならないんだろう?」って、
なるんだろうな、と。
「あいつもうだめですよね」って、
みんなが言いたくてしょうがないわけですよ。
田中
はいはい。
糸井
「はぁーっ」と思って、
「こういう時代にそこにいるのはまずいな。絶対嫌だ」と思って。
僕にとってのブルーハーツに当たるのが
「釣り」だったんですよね。
 
誰もが平等に、
争いごとをするわけですよね。
その中で勝ったり負けたりっていうところで
血が沸くんですよ、やっぱりね。
田中
この間おかしかった(笑)、
「始めた頃は、ちょっと水たまりを見ても、
魚がいるんじゃないか」って(笑)。
糸井
そう。
始めたのが、12月だったと思うんですよ。
東京湾に「シーバス」と呼ばれてるスズキですね。
スズッコとか、
それがいることが
わかっただけでもう
うれしいわけですよ。
 
レインボーブリッジの下にコソコソっと行って、
車止めて、身をかがめながら埠頭に出て、
そこでルアーを投げると、
シーバスが釣れる可能性がある、と。
初めて行った真冬の日に、
大きい魚がルアーを追いかけてきたのに、
逃げたんですよ。
 
同時に、さっき言ったアマチュアの奥さんは、
僕が出掛ける時に、
「ご苦労様」と
ちょっとなめたことを言いながら…。
田中
(笑)
糸井
帰って来たら、
バスタブに水が張ってあったんですよ。
田中
はぁ。
糸井
生きた魚を釣ってきた時に、
そこに入れようと思ったんだね。
田中
すごい!
糸井
その、馬鹿にし方と、
実際にこう水を貯めてね。
田中
待ってる(笑)。
糸井
その時に「あれは明らかに魚が追いかけてきた」
と思ったことと、
「釣ってきた時に見よう」
という、喜びじゃなくて
「見たい」という気持ち。
夢そのものじゃないですか。
それが僕の中に、ウワァーッと湧くわけですよ。
 
生き物が僕の竿の先に付いた
ラインの向こうで
ひったくりやがるわけです、
ものすごい荒々しさで。

田中
うんうん。
糸井
その実感がもうワイルドにしちゃったんですよ、僕を。
田中
うんうんうん。
糸井
その後、プロ野球のキャンプに行って。
青島グランドホテルに向かうまでの道のりに
何回も水が見えて、
野球を観に行くはずなのに、
水を見てるんです。
田中
水を見てる(笑)。
糸井
折りたたみにできる竿とかを、
野球のキャンプの見物に行くのに、
持っているんです。
田中
持ってるんですね(笑)。
糸井
正月は正月で、
家族旅行で温泉に行った時に、
まったく根拠なく、
真冬のビーチで一生懸命投げてる。
田中
投げて(笑)。
糸井
それを妻と子どもが見てるんだ。
田中
(笑)
なんか釣れましたか、その時は?
糸井
まったく釣れません。
田中
(笑)
糸井
根拠のない釣りですから。
田中
(笑)
糸井
でも、根拠がなくても水があるんですよ。
一同
(笑)
糸井
いいでしょう?
僕にとってのインターネットって、水なんですよ。
田中
なるほど。
糸井
もう今初めて説明できたわ。

(つづきます)

第5回 根拠はなくても水があるんです。